国連フォーラム関西支部 特別企画 「『人』の視点で見るシリア~シリア紛争と人間の安全保障~」
2018年12月22日実施
2018年12月22日(土)に、関西学院大学梅田キャンパスにて、特別企画「『人』の視点で見るシリア~シリア紛争と人間の安全保障~」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。
【イベント概要】
《企画背景と目的》
当勉強会は、国連フォーラム関西として、これまで開発分野、特にSDGsをテーマとした議論を中心に扱ってきたことを踏まえ、安全保障問題に関する議論に対する機運が高まっていたことを背景に発案されました。その中でも、日本の視点からは、「今世紀最大の人道危機」とされながらも、国際社会の一員として当事者意識を感じにくい「シリア紛争」をテーマとして取り上げています。
当イベントは、「多角的にシリア紛争について考える機会を提供することにより、一人ひとりが当事者意識と共に意見形成することを促し、更には、議論に参画する等、シリア市民のためになる行動を促進させること」を目的としました。
《イベントプログラム》
【第1部】
◆講演
概要:研究者から活動家まで、シリアを知り尽くした登壇者を予定しています。人道危機の現状や、それを取り巻く背景。支援の現実や、今、私たちにできることまで、様々な観点での議論をしていただきました。
【第2部】
◆パネルディスカッション
概要:イベントの最後には、登壇者が会場の質問に答える形でのパネルディスカッションをしました。講演を通して気になった点や、もっと知りたいポイントを事前配布の質問票に記入していただき、それをもとに、登壇者によるディスカッションを行いました。
《ゲスト》
- 独立行政法人国際協力機構 JICA研究所主任研究員 武藤亜子氏
- 特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan) 小田隆子氏
- シリア支援団体「サダーカ」田村雅文氏
- シリア支援団体 Piece of Syria 代表 中野貴行氏
【開催報告】
《第1部 講演》
1.「人間の安全保障」(JICA研究所 武藤 亜子 氏)
タイトル:「人間の安全保障とシリア紛争」
第一部初めの講演では、武藤氏より以下3点についてお話しいただきました。
- 「人間の安全保障」の歴史的経緯
- 「人間の安全保障」とはどのような概念か
- シリア紛争にみる「人間の安全保障」の現状と課題
2.「シリア難民支援」(AAR Japan小田 隆子 氏)
タイトル:「シリアにおける人道危機の現状―トルコにおける難民支援から見えることー」
日本の難民支援NGOのなかでも特に有名なAARより、小田氏から以下3点についてお話しいただきました。
- AAR Japan「難民を助ける会」について
- トルコにおけるシリア難民の概況
- AARトルコにおける活動のあゆみ
3.「シリア市民」(難民支援団体サダーカ田村 雅文 氏)
タイトル:「なぜ 紛争を止めなければならないのか―シリアの人たちの声を聴き続けて-」
最後に、田村氏より、紛争が起こる前後の写真の提示とシリア紛争の当事者の家庭訪問をした経験をもとに紛争が起こす個々人への影響についてお話しいただきました。
《第2部 パネルディスカッション》
〇パネリスト
- 武藤亜子氏(武)
- 小田隆子氏(小)
- 田村雅文氏(田)
- 中野氏(Piece of Syria)(中)
〇モデレーター
- 久木田純氏(久)
〇質問:シリア紛争の原因に気候変動があるという議論はいかなるものか?
田:紛争前、2005年、2008年、2010年、干ばつが発生。
ダマスカス郊外に違法入国、定住化。テントの数が増加。水や電気など、インフラを無許可に使用されること。
〇質問:アイデンティティの問題。アイデンティティの差異を際立たせることによって、紛争の火種を蒔くという論点に関していかなるものか?
武:アイデンティティの細分化・差異を認識するようになった。紛争勃発の経緯に、「水平的不平等」がある。同一のエスニシティ内での差異(教育機会や雇用機会)が争いの引き金になるという論がある。
〇質問:シリア支援(トルコ)において、「言語」はどのような役割を果たすのか?「トルコ語が話せる/話せない」場合、中東支援に携わることができないのか?
小:トルコ国内においても、言語的多様性がある。家庭内でクルド語、アラビア語を話すなど。しかし、言語文化を超えると、コミュニケーションが困難。現在、スタッフの雇用に際して、シリア人の雇用に重点を置く。アラビア語以外にも、クルド語、英語などの言語が話せる人を採用、さらに現在、トルコ語教育を行っている。トルコ語学校に就学するシリア人の学費の支援(言語の支援自体は政府の規制により困難であるため)。
〇質問:中野さんの活動について紹介
中:「Piece of Syria」という名は、「欠片」になってしまったシリアを、「平和(Peace)」のシリアにしたいという思いから。
-活動内容:
- 現在と過去のシリアを伝える(写真や動画で)
- 難民を訪問することで、難民の暮らしの現状を聞き取り
- 反政府組織がコントロールする地域の教育・幼児教育施設のサポート(政府の許可がないとシリア国内でのサポートができないが、個人での支援が受け入れられるため。毎年100人の子どもたちが通えるように)
久:「シリアの人達の顔が輝くのは、故郷の話をするとき」とありましたが、実際にそうでしたか?
中:昔のシリアを知っているということで、シリアの人々に一気に受け入れてもらえる。
〇質問:なぜ彼らは故郷を離れなければならなかったのか?彼らの目線にたって、なぜ紛争が起こったのか?
武:気候変動、干ばつが発生し、紛争の1つの原因となった(干ばつと都市への流入)
2011年にデモが発生したのは、アサド政権を倒すためではなく、「生活の改善」を求めていたという説もある。
- デモを政権が弾圧したことで、人々からの反発が高まった
- 2011年3月に海外から人々が流入し、人々を煽っていったという説
- 平和的なデモに対して、様々な外的圧力がかかった (紛争のルート・cause)
- prolong cause:欧米諸国が介入しなければ、ここまで長期化しなかった
中:シリア紛争に対して、様々な見方がある。そのため、紛争の原因を特定するような発言をしてこなかった。Wiki leaksが、シリアの市民デモの結果、市民よりも軍隊や警察の死者が多かったなどの報道もある。本当に市民だったのか?そのため、「こうに違いない」という断言は非常に危険だと考える。
〇質問:ISが非人道的な行為を行ってきた。ISは実際、どうだったのか?
中:マンベジに駐在。ISの占領下におかれる。ISから、保釈金を支払えば、人質が解放されるという話があったものの、保釈されなかった。ISによって、教育が浸食されていた(教育が重要であるが、そこでどんな教育が行われるかが重要)。
久:カザフスタン駐在経験、カザフスタンからも多くの人々がISに賛同。暴力を直接目の当たりに、取り残されてきた子どもや女性たちのケアが重要
〇質問:これから平和になるために、何が必要か、
田:一番重要なのは、対話の場を作っていくこと。家族同士でも考え方の相違、友人同士の関係が崩れている現状。「シリアに帰って、やっていけるだろうか」という不安と、「今までやってきただろうか」という揺らぎ。これまで、殺戮や暴力を見てきた人々が成長していく。→敵同士であった元兵士たちがとにかく話をする、共に生きていくための対話のプロセスが必要。しかし、難しいのは、「人」に焦点を当てる場合、「どの人に焦点を当てるか」が重要。例えば、反体制派、家族を守る人(家族を守るために、元通りの生活がしたい)*丁寧にナラティブを立ち上げる必要。
武:アメリカが撤退し、アサド政権が優位である現状は揺らがない。政権優位が揺らがないことを見通した上で、いかに人々が平和づくりに参加できるようにするのか?市民社会や政府が支えていくのか?しかし、現状の構造において一番困難な問題である。
小:反政府と見なされてきた人がシリアに帰国した際に、どのような扱いを受けるのか?それぞれの人々が相互理解・他者理解、1つの事象について見方が様々にあること
中:足元から変えていくために教育支援が重要であると考える。100人というまとまりで見ることと、一人ひとりの固有名詞で捉えること。一人ひとりの成長を支えることが、不可欠
《参加者の声》
本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。
- 普段調べたり学んだりするとき、「民族」や「派閥」など一括りで考えがちですが、「人」がどのような思いを持っているかというのに触れられてよかったです。多角的な視野を増やせるようもっと学ぼうと思えました。
- 多くについて知り、考える機会になり参加して良かったと思った。 同時に、自分に何ができるのかも考えさせられた。自分のフィールドとの交わりを、もっと学んでいきたいと思わされた。
- 普段の関心分野とは違う分野であったので、非常に有意義でした。
この度「国連フォーラム関西主催『特別企画「『人』の視点で見るシリア~シリア紛争と人間の安全保障~」』にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。
国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。
最後に、多くの方のご協力で、今回のイベントを開催することが出来ました。ご協力してくださったゲストの方、参加者の方に厚く御礼をお申し上げます。