第131回 福谷潤さん 国連警備隊

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プロフィール

福谷潤(ふくたに・じゅん):犯罪学を学ぶために大学3年目からインディアナ州立大学に通う。John Jay刑事司法大学大学院にて修士号を取得。大学院在学中よりニューヨーク市警でパトロールなどのボランディアに参加し、その後2年間の保安要員業務等を経て国連に採用される。

Q. 大学で犯罪学を学ばれたとのことですが、興味を持たれたきっかけは?

犯罪学に興味を持ったのは、姉が大学で心理学の勉強をしていた為、犯罪心理学の本がたまたま家にあり、高校の時によく読んでいたことがきっかけです。大学時代、初めの2年間はウェスト・バージニアの大学に通っていたのですが、犯罪学を学ぶため、インディアナ州立大学へ3年時に編入しました。編入先のインディアナ州立大学は、インターンの受け入れ先が豊富な学校として有名ですし、学校があるテレホートの町には、連邦刑務所や郡刑務所など、犯罪学を学ぶにはうってつけの施設が多く揃っている点に惹かれ選びました。実際、大学時代、保安官事務所と郡刑務所でインターンをさせてもらう事が出来ました。

Q. 大学、そしてその後進まれたJohn Jay刑事司法大学の大学院時代に経験されたボランティア、インターンシップについて教えてください。

ニューヨーク市警(NYPD)のボランティア (Auxiliary Police Program)を大学院時代から始め、国連で勤務するようになってからもしばらく続けていました。これは、一般市民がNYPDのユニフォームを着て、街でパトロールをするというもので、前々からニューヨーク市が犯罪を減らす為に行ってきました。NYPDでのボランティアを通じて、NYPDとのつながりが生まれ、現役の警察官から色々な話をきくことができたりと、とても良い経験になりました。

日本人にはあまり馴染みのないプロセス・サーバーも経験したことがあります。プロセス・サーバーとは、訴訟に関する手紙を被告に届ける仕事です。被告がどこにいるか判らない際には、探偵のように被告を探し出したりもします。届ける方法は色々で、バラの花束の中に書類を見えないように入れ、プレゼントを宅配するかのように任務をこなすプロセス・サーバーもいると聞きます。私の場合は、ニューヨークという土地柄を生かし、観光客に扮して書類を被告に渡したりしていました。

本来、警察の仕事をするには、アメリカも日本同様、市民権が必要なため、外国人がその職に就くことはできず、インターンシップの機会もほとんどありません。ただテレホートは、外国人があまり多くない街だったため、そういった事情に詳しくなかった保安官事務所で、運良くインターンシップをさせてもらうことができました。インターン中には、わいせつ現場で逮捕のお手伝いをしたこともあります。わいせつは現行犯でないと逮捕ができないため、深夜の公園を身体がそれほど大きくない私がオトリとなって歩き、犯人が現れたら茂みなどに隠れて見ている保安官達が逮捕するという計画でした。残念なことに、私のインターン中、犯人が現れることはありませんでしたが、実際にわいせつ犯逮捕の計画に参加したことは、とても面白い経験でした。

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Q.国連で勤務することになったきっかけ、そして国連で働きたいと思った理由は何でしょう?

国連で働くことになったきっかけは、John Jay Collegeで勉強していた頃参加したジョブフェアに、国連の担当者が来ていたことです。国連のセキュリティ・オフィサーとして働くには、2年間の軍隊、警察、もしくは保安の経験が必要だったため、大学院を卒業後、大学のセキュリティ等の仕事に2年程就いた後、国連に応募しました。

国連に興味を持った理由は、警察関連の仕事を日本ではなく外国でやりたいと思ったからです。ハリウッド映画の影響でアメリカの警察は「かっこいい」というイメージがありましたから。

ちなみにアメリカには法執行に関わる組織がたくさんありますが、国連警備隊と国際刑事機構(Interpol)以外は、勤務するのに米国市民権が必要になります。また、国連警備隊はあくまでセキュリティで警察とは違うのですが、外部からは警察機関として扱われているのもポイントでした。

国連のセキュリティ・オフィサーのほとんどが外国人で、その中でも特に、ルーマニア人、ジャマイカ人、トリニダード人、そしてアジアではフィリピン人が多く、アメリカ人はわずかです。

Q.国連での普段の業務について、また今までで印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

今は深夜勤務なので、夜中の12時から朝の8時までのほとんど人がいない時間帯に、国連施設の見回りやアクセスコントロールをしています。配置される場所は毎日違いますが、夜なので不審者が時々入ってくる程度で、大きなことは通常起きません。国連本部には現在400人のセキュリティ・オフィサーがおり3交代制のシフトが組まれています。わずかですが、女性もいます。男性の仕事というイメージが強いセキュリティですが男女平等を訴えるため、少し前には、新たに採用されたセキュリティ・オフィサー全員が女性だったこともありました。女性の場合は、後々他の部署(デスクワーク中心の仕事)に移る人が多いですね。ルーマニアやフィリピンの女性が多く、大抵の人が警察機関から来るようです。

印象に残っているのは、国連総会中にSecret Service(財務省秘密検察部)と一緒に仕事をしたことですね。それから昨年ユニセフがグッチと共同でイベントを行いましたが、その際メインゲートに配置され、いつも映画で見ているハリウッドスターを沢山間近で見ることができ、時には声をかけてもらえた事が思い出に残っています。

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Q. 逆に今までで一番大変だった仕事は何でしょう?

どの仕事にも大変な部分はあるので一概には言えませんが、国連の仕事で一番苦労しているのは人間関係です。特にセキュリティ・オフィサー以外の人たちへの対応が大変ですね。国連職員の中には、私たちの言葉に耳を貸さない人が、驚くほど沢山いますから。

セキュリティ・オフィサーという立場上、ルールを守ってもらわないといけないのですが、同時に、相手は各国を代表してきている人も多く、そういった方々に、恥をかかせることができないので、とても難しい仕事です。各国の代表には、代表なのだからこそルールを守ってもらいたいといつも良く思います。ちなみに日本の大使は親切で礼儀正しく、セキュリティ・オフィサー達の間で大変評判がいいです。それは日本人として誇りですし、必ずルールを守ってくれることは嬉しいです。ただ日本みたいな国ばかりではないですし、国によって色々評判はあります。

Q.今後はどのような分野・お仕事にチャレンジされていきたいと思いますか?

私はまだ5年目で新人の部類なので、要人警護などの花形の仕事はさせてもらっていませんが、いずれは国連事務総長の警護などに就きたいと思っています。事務総長は治安が安定していない地域や最近だとハイチなどの被災地にも行きますから、危険な仕事ではあると思うのですが、その分絶対にやりがいがあると思うんですよね。

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ただ、悲しいことに、セキュリティの中には出身国による派閥があり、現在自分を含めて2人しかいない日本人が良いポジションを得るのは、なかなか難しいのが現状です。しかし、何年かかるかわかりませんが、チャンスがあればぜひ挑戦したいと思っています。

少ないチャンスですが、いずれチャンスが来た際、物にできるよう、訓練は日頃から行っています。国連でも訓練はありますが、それだけでは十分でない為、私は個人で外部の訓練機関に週末や休みの日をまとめて使って、自己出費で受けに行ったりもしています。一般では受けられない訓練なども、国連警備隊に勤めていることで、特別に受けさせてもらえる事も少ないので、そういう際には国連警備隊に勤めて良かったと思いますね。

Q. 週末や休暇はどのように過ごされていますか?

様々な訓練を受けに行ったりするほかに、旅行に行くのが好きです。主に近場に行くことが多いですが、自然があるところに行ったり、古い街を見に行ったりします。運転が好きなので、車で3、4時間のところならぱっと行ってしまいます。国連に勤務して、色々な国の人と交流するうちに、色々な国の食文化にも強く興味を持つようになって、食べた事のない国のレストランを探して食べて行ったりするのも好きです。

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Q.最後にグローバル・イシューに取り組む人たちにメッセージをお願いします。

もっと多くの日本人が国連でセキュリティの仕事に就いてくれると嬉しいです。そうすれば、確実に国連のセキュリティの質が上がります。日本人には、日本人がセキュリティの仕事をしているというイメージがそもそもないようです。国連に来る日本人観光客の方に、英語で話しかけられることもよくありますよ。日本語で返答しても英語で返されます。その後遠くから、「あの人何人なんだろうね。」と話しているのが聞こえてきたりします(笑)。

その国その国に文化があり、いいところや悪いところ、そして仕事に向く部分と向かない部分があります。例えば勤勉で従順なアジアの人はセキュリティに向いていると思います。

英語の能力に関しては、普通に会話ができれば自然に慣れてくると思います。相手に失礼でない態度さえ取れて、上を敬う気持ちがあれば、英語ができなくてもカバーできます。日本人は失礼な態度を取りませんから向いていると思うのです。英語に多少難があっても全然問題ありません。日本人が増えれば、私も働きやすくなります。

2010年2月12日、ニューヨークにて
聞き手:由尾奈美
写真:川守久栄
プロジェクト・マネージャ:富田玲菜
ウェブ掲載:斉藤亮