第35回 山田 昂弘さん 名古屋大学大学院国際開発研究科 開発アジェンダ策定の公的プロセスに多様な人々・そしてユースの声を
プロフィール
山田 昂弘(やまだ たかひろ)さん
愛知県名古屋市出身。2010年中央大学卒、2013年名古屋大学大学院国際開発研究科修了(開発経済学専攻)、ベトナム地方部における道路インフラストラクチャープロジェクトの社会経済効果に関する実証研究(応用ミクロ計量経済分析)にて修士号取得。在学中、日本ベトナム学生会議(JVSC)設立期メンバー・2期代表、国際移住機関(IOM)ラオス事務所労働移住・リサーチユニットインターンとして6ヶ月間労働搾取・人身売買防止プロジェクトのデータ分析・ドナー向け報告書の執筆等を担当、UNDPソウル政策センター・UNESCAP北東アジア地域事務所等共催の「北東アジアユース会議:私達の望む世界」において、北東アジアユース代表・日本チーム代表。
はじめに
「私の提言:ポスト2015」シリーズの1つとして、今回「北東アジアユース会議:私たちの望む世界」の紹介をさせて頂きます。以下では、まず会議全体の概要について説明した後、「MDGsからの教訓」に関して北東アジアユースによる議論のハイライトを一部紹介し、提言に移ります。提言においては今回の会議の特徴でもある「多様性」と「ユース」の2つをキーワードとして焦点を当て、世界的な開発アジェンダ策定の公的プロセスの中で、多様な人々・ユースの声をさらに反映すべきという内容になっています。
1.「北東アジアユース会議:私たちの望む世界」概要
「北東アジアユース会議:私たちの望む世界」は、国連ポスト2015開発目標策定に先駆け、世界のユースの声を反映させるプロジェクトの一環としてUNDPソウル政策センター・UNESCAP北東アジア地域事務所等により共催され、北東アジア地域のユース代表によって纏められた提言書は国連ポスト2015開発目標策定ハイレベル・パネルの一員である韓国外通商部長官に直接提出されました。同会議には日中韓モンゴル4ヶ国から非常に多様な背景をもつユースが集まり、日本からは国内外で開発の諸問題を学ぶ大学院生、自らも視覚障がいを持ちつつ障がい者支援に携わる国際NGO(INGO)職員、UNHCRの支援で家族とともに難民として来日した学生、人権問題に取り組むINGOインターンの合計9名が参加しました。また、中国、モンゴルからは大学院生に加えて、過酷な労働環境下にあるスマートフォンの製造工場で働く者、セクシャルマイノリティーの人権を訴える人権活動家、農村部から都市部へ出稼ぎとして働いている者等も参加し、各自の実体験をも踏まえた活発な議論が取り交わされました。
提言書では今後望む世界の理想像として、1. 安全で平和な世界、2. 安定した人間開発が行われる世界、3. 差別がなく人権が尊重された世界、4. 持続可能な開発が行われる世界、5. グッド・ガバナンスが確立された世界、6. 安定した経済成長が実現される世界の6点に最終的に集約されました。また、日本と北東アジアが共有する今後の課題の一つとして、雇用問題・少子高齢化等が挙げられ、日本チームは「世界で起きている政治・経済・人口構造の大きな変化に対応できる社会開発を」と強く要請しました。上記6点の実現のため、各レベルの政策立案者に対しグローバルおよび地域間の協力体制の強化、市民社会の更なる参加、民間企業のCSR活動の強化や社会身分による待遇の差別を改善するよう求めています。作成された提言書は参加国のユース代表によって翻訳され、現在、日本語・英語・中国語・韓国語の4言語で利用可能となっています。詳細は、UNESCAP北東アジア地域事務所のウェブページ[1]を参照して頂ければ幸甚です。
2.MDGsからの教訓:地域・国ごとの多様性、多様な利害関係者を考慮した開発指標設定の必要性
会議ではまず、数多くのMDGs関連文献を事前に読み込んだ後、参加者全員でMDGsの教訓について議論をしました。その結果、MDGs最大の貢献として世界的な賛同を取り付け(193の国連加盟国、23の国際機関)、数値化された8つの開発指標を策定したことで、国際的な協調の下、世界の開発課題に取り組む土台と気運が醸成されたという共通認識が得られました。
また、開発課題は各地域・国・国内地域ごとの発展段階や各々の社会文化的背景によって非常に様々で、その様々な差異を考慮した包括的かつ(もしくは)それぞれの多様性を反映した開発指標の策定にMDGsは成功したとは言えないという認識も共有されました。地域間の差異に関して例を挙げると、同様のポスト2015開発アジェンダ策定に向けたアフリカのユースの議論ではドラッグやHIV/AIDSの蔓延に対する危惧が主張された一方で、北東アジアのユースの問題意識の中心としてアフリカでは主として取り上げられなかった領有権問題・域内協調、少子高齢化、女性の登用・社会進出、Decent Workに関する点が挙がったことにも現れています。
一方で、"Millennium Development Goals: 2012 Progress Chart"[2]で既に示されているように、各指標の達成度合いは地域・国ごとに大きく異なり、「既に達成されている・達成することが予期される」ものの割合は約41%(=59/144) に留まっています。ここから判断できることは、MDGsでは極端に挑戦的な目標設定をしたというよりも、おそらく各開発途上地域の実態の把握、各指標の目標値設定の両面において課題があり、現実的な目標値設定ができなかったのではないかということです。
現在では世銀のLSMS(Living Standards Measurement Study)に代表されるように多くの開発途上国において全国レベルの家計調査等の統計データが整備されてきており、人々の現状をミクロレベルから一定程度精緻に把握することが可能になってきています。これにより、今後の開発アジェンダにおいては各地域・国の実態を一定程度精緻に反映した実現可能な目標策定が可能となっていくことが更に期待されます。一方、統計データで捕捉できないが重要な政策的に介入すべき現実、開発対象として決して見過ごしてはならないマイノリティーの声等を把握するための更なる努力が必要となってくると思います。
3. 提言: 開発アジェンダ策定の公的プロセスに多様な人々・そしてユースの声を
それでは、前述2.MDGsの教訓を踏まえて今後どうしていくべきなのか。今回の提言として、私は開発アジェンダ策定の公的プロセスにさらに多様な人々・ユースの声を反映すべきだと考えています。「北東アジアユース会議:私たちの望む世界」の最大の貢献は、世界的な開発アジェンダ策定の公的なプロセスの一環として多様な背景をもつユースの声を反映させることに成功し、そのモデルケースを世界に提示したことだと考えています。 また、世界的な開発アジェンダ策定の公的プロセスの中にユースが重要な利害関係者として選出された事実自体が大きな貢献ではないでしょうか。
51名の北東アジアユース代表の多様性に象徴されるように、世界中に横たわる多種多様な開発課題の解決/緩和には、これまで開発援助の主な主体とされてきた介入者としての先進地域のバイ・マルチドナーだけではなく、客体である多様な裨益者が開発アジェンダ策定の公的プロセスに更に参加し、彼/彼女らの声がさらに反映されることでこれまで数字ですくい上げることができなかった実態を一層浮き彫りにしていく必要があります。勿論、多様な利害関係者の声を開発アジェンダ策定のプロセスに反映させるには、莫大な人手、時間、予算が必要ですし、喫緊の開発課題を前にスピードを優先し、開発アジェンダとして最終的に集約させる過程で全ての声を反映させることが適切ではない場合もあるかと思います。しかし、可能な限り多くの多様な人々の声を拾い上げ、それを開発政策の立案に反映させていく姿勢と努力は続けられるべきだと思います。
そして次世代を担うユースを今回のような世界的にも歴史的にも重要な開発アジェンダ策定の公的プロセスに抜擢していくことで、彼/彼女らが社会に対する自分達自身の責任の重要性とその重さを早期に自覚し次のリーダーとして成長していく。これが開発分野におけるこれまでの歴史の教訓や知見が熱をもった形で次世代へ脈々と受け継ぐための大きなきっかけになり得ると思います。ユースに対する機会の付与と責任の負荷による上述した好循環が、今後世界をリードしていくキャプテンシーを持ったリーダー育成の下地、そしてあらゆる意味でより良き世界の創出に繋がることを願い、本文の帰結とさせて頂きます。
参考文献
- 提言書URL(UNESCAP北東アジア地域事務所ウェブページ)
http://northeast-sro.unescap.org/meeting/2012/nea_youth.html - Millennium Development Goals: 2012 Progress Chart
http://www.un.org/millenniumgoals/pdf/2012_Progress_E.pdf
2013年5月26日掲載
担当:藤田綾
ウェブ掲載:藤田綾