第7回 横山 和子さん 東洋学園大学現代経営学部 教授「メンター制度を創設しよう」

写真①

プロフィール

横山和子(よこやま・かずこ)さん

北海道小樽市出身。北海道大学経済学部経営学科卒業(1978年)。インディアナ州立大学大学院経営管理学修士課程修了(M.B.A.)。ILO,UNHCR,FAOに9年間勤務後、帰国し大学での教職に就く。現在、東洋学園大学勤務。同時に名古屋大学大学院国際協力研究科非常勤講師、津田国際研修センター非常勤キャリア・カウンセラーも務める。日本労務学会理事。国連ボランティアとしてカンボジアPKOにも参加。主な著書に『国際公務員になるには』(ぺりかん社)、『国連ボランティアをめざす人へ』(岩波書店)などがある。URL:http://www.ba.tyg.jp/~yokoyama/

1.背景:データに基づく国際公務員の現状把握の必要性

私は略歴から見ても分かるように、国連システムで働き、その後日本の大学で「人材開発論」、「人的資源論」、「国際機構」等の科目を教える傍ら、国際公務員志望者に対しカウンセリングを15年以上行ってきた。

国際公務員に関する問題を自己の経験から提起した出版物は多いが、データを使い現状を分析しているものはほとんどない。また、長年続けている国際公務員志望者へのカウンセリングを通じ正規職員になれるか否か、または正規職員としてキャリアを伸ばしていけるか否かは本人の能力、意欲だけではなく他の要因も関係しているのではないかと考えるようになった。このような問題意識を持ちつつ、2003年に日本人国際公務員に対して電子メールを使ってアンケート調査を行い、さらに、2007年から日本人職員だけではなく全ての国籍の職員に研究対象を広げ第2次調査を行っている。

2.日本人国際公務員アンケート調査:調査方法と対象範囲

国連システムに働く日本人職員に対しアンケート調査を実施するに先立ち、2001年から2002年にかけてジュネーブ、ニューヨーク、東京で聴き取り調査を行った。これを基にして調査票を作成し、2003年6月に23の国連機関に勤務する日本人職員541人に電子メールで送り、20機関の職員から250件の有効回答を得た。回答率は46%とアンケート調査としては非常に高いものであった。

国連システムに働く職員の多くは郵便事情の悪い開発途上国に勤務していることから、アンケートの回収率を高め、アンケートを短期間に回収するために、郵送によらず電子メールを使用した。

本稿では、非正規職員であるA/E・JPOや短期職員、あるいは日本政府からの出向者(25名)を除き、正規職員として国連システム内でキャリアを構築しようと働いている170人を分析の対象とした。

3.分析:国連システムへの入職方法がキャリア・パスに影響

当該アンケート調査から、国連機関で働く日本人正規職員の平均像を探ると表1のようになる。この表から分かるように、男女間で年齢、既婚率、日本での勤務年数についてはある程度隔たりがあるが、学歴、日本での勤務経験、勤務国数については男女間で大きな差は見られない。詳細は「日本人国連機関職員のキャリア分析―電子メールを使ったアンケート調査から」を参考にしてほしいが、アンケート調査の分析を通し、次のことが明らかになった。

表1. 回答者(日本人正規職員170人)の属性
※ 4名は性についての問に回答していない。

(1) 専門分野 

専門分野は回答の多い順に経済・社会開発、プロジェクト・プログラム管理、財務、政治、人道援助である。専門分野において男女差は見られない。

(2) 最終学位における専攻分野

最終学位における専攻分野は圧倒的に国際関係、商学/経営管理(MBA)/行政管理(MPA)および開発学に集中している。商学/経営管理/行政管理の内訳を調べると、男性はMBA取得者比率が高く、女性はMPA取得者の比率が高い。最終学位における専門/専攻分野は男性の場合、経営管理、経済、国際関係、工学などに広く分散しているが、女性の場合は国際関係と開発学に集中している。

(3) 入職方法(中途採用、内部昇進)

職員の入職方法を表2に示すように中途採用グループ(空席公募、採用ミッション)と内部昇進グループ(AE/JPO)に分け、かつ各グループを男女別に分類してみた。男性の場合は中途採用で入職するグループとAE/JPO等の試験に合格した後、下位の職位から内部昇進するグループがほぼ同数であったのに対し、女性の場合はAE/JPOおよび競争試験経由で入職した後、国連システム内で内部昇進している職員の割合が多かった。

表2. 入職方法による男女比

さらに相関分析を行い、2つのグループを比較すると、内部昇進グループが国連システム内での仕事、生活に満足している。これは、内部昇進グループは比較できる他機関での職務経験が少なく、現在の職場での仕事、生活が一定の満足を与えているためと考えられる。一方、中途採用グループは志を持ち、職務満足度を高めたいと考え転職したと推測される。このグループは他組織における待遇レベルを知っていることから、国連システムの給与・福利厚生をそれ程評価していない。さらに、職員は空席ポストに応募し、選考されなければ昇進できないため、特に内部昇進グループの男性と中途採用グループの女性は積極的に転籍・異動を行い、自らのキャリア・アップに努めていると見られる。

(4) 男女による比較

アンケート調査に回答した男性、女性職員の比率は表1からも分かるようにほぼ1:1である。相関分析を行った結果でも男女による差はあまり見られなかった。よって国連システムは性に関しきわめて平等な職場であり、女性職員が男性職員と対等に働いていると判断できる。

相関分析からは、女性職員が男女平等な職場環境の中で積極的に仕事に打ち込んでいることが分かる。さらに、女性は国連システム内での転籍も含め、多くのポストを経験することにより職務満足度を高めている。柔軟性に関しては、女性の方が男性より途上国での勤務・生活によく対応しているようである。

(5)日本人職員の要因分析

国連システムに働く職員の特徴を分析するために26項目について因子分析を行った。その結果、固有値が1以上の因子が8つ抽出された。抽出された8つの因子を表3に示した。

第1の因子は「若年女性キャリア型」である。このグループの特徴として、女性であり、入職時期が早く、職位が低い。このグループはAE/JPO制度や国連職員競争試験を経由して正規職員になった内部昇進職員であろう。このグループは職務、生活、総合のいずれの満足度も高い。国連の福利厚生に対しても満足している。すなわち、このグループは早い時期から職員になるべく努力し、その夢を叶えられ、現在の国連機関での仕事、生活に満足していると言える。

第2の因子は「男性高職位中途採用型」である。このグループの特徴として、男性で職位が高く、年齢が高く、かつ日本での勤務経験が長く、中途採用で国連機関に入職している。このグループは現在の職務、生活に満足しておらず、総合満足度もプラスにはなっているものの、第1の「若年女性キャリア型」程高くない。このグループは給与、福利厚生についても不満を持っている。なお、このグループは職位も高く、日本に戻り働くことも考えている。

第3の因子は「マイペース型」である。現在の職務、生活に満足しているグループである。このグループは第1因子グループと同様、職務満足度、生活満足度、総合満足度のいずれも高い。現状に満足していることからか、このグループは積極的に他国の事務所、機関の空席に応募し、高い職位に就こうとは考えていない。このグループの職員は現在の先進国での勤務に満足しており、定年まで国連機関で働きたいと考えている。日本に戻り働くことは考えていない。

第4の因子は「男性高学歴型」である。このグループの特徴として、男性であり、年齢はそれ程高くないが、学歴は非常に高い。このグループの職員は先進国の本部で働いており、定年まで国連機関に継続勤務することは考えておらず、機会があれば日本に戻り働くことを考えている。このグループの職員はほとんど勤務機関、勤務国を変えていない。

第5の因子は「途上国満足型」である。このグループの勤務地は開発途上国である。このグループの生活満足度は低いが、職務満足度はプラスであり、仕事に満足していることを示している。また、このグループはポストや勤務国を頻繁に変えていることから、ローテーション・ポリシーのある人道援助機関に勤務している職員と考えられる。このグループは定年まで国連機関で働こうと考えており、日本に戻り働くことは考えていない。

第6の因子は「不満グループ型」である。このグループの特徴は学歴が最も低く、年齢は比較的高い。このグループの最終学歴は大学卒であろう。国連機関は学歴社会であるが、このグループの職員は自分の能力に見合った処遇を職場で受けていないという不満を持っているように思われる。このグループの職務満足度、生活満足度、総合満足度はいずれもマイナスである。

第7の因子は「女性アドミン業務型」である。このグループは先進国にある機関の本部で総務・財務などの管理部門で働く女性職員グループである。このグループの職務満足度、総合満足度には低い数値を示しており、生活満足度は先進国に住んでいるにも関わらずマイナスである。本人たちは国連の給与は低いと感じている一方、労働時間は増えたとも感じている。このグループは現在の仕事に満足しているように思えないが、かといって他国への転勤も希望しておらず、日本に戻り働くことも考えず、定年退職時まで国連機関で働きたいと考えている。

最後の第8番目の因子は「途上国帰国検討型」である。このグループは第5因子の「途上国満足型」と同様開発途上国で勤務しているが、年齢は第5グループよりも高い。このグループは職務満足度、生活満足度、総合満足度が共にプラスであることから、現在の仕事、生活に満足していると言えよう。しかしながら、このグループは将来日本に戻り働くことを真剣に検討している。日本に戻ることに関しては、8つのグループの中で最も熱心である。

表3 因子グループ

4.問題点:戦略的支援策の必要性

私達が国連職員、国際公務員から連想する職場は、女性が活躍する職場、高学歴の人が働く職場などである。しかし、要因分析で紹介した通り、若手でバリバリ働く女性職員がいる一方で、国連勤務をキャリアの踏み石の一つと考えている職員もいる。また、途上国勤務に満足している職員もいれば、現在の途上国での仕事に満足していると同時に、日本に帰国することを真剣に考えている職員もいる。国連システムと一口で言っても、国連本体、UNDPをはじめとする下部機関、専門機関の間では人事施策、求める人材が異なる。また、男女間では大きな差が見られないものの、内部昇進グループと中途採用グループでは職員のキャリア・パスが異なっている。

さらにアンケート調査での分析を通し、職員の満足度と給与の間に大きな関係があることも分かった。特に男性職員の給与に対する満足度は低いものであった。授業の際、ある学生の「国際公務員ってボランティア精神がなければ務まりませんね。外国語を習得し、海外での職務経験があってもこんなに低い給与で働くのだから。」という発言は正鵠を得ているように思える。国連システムで働いている職員は他の分野で働いてもかなりの貢献をすることができる人達であると考えられる。その人達が他の分野ではなく国連システムを選んでいるのである。その含意を考える必要があるのではないだろうか。

5.提言:メンター制度によるキャリア支援

本稿ではおもに2003年に行ったアンケート調査を通して得られた分析結果を紹介した。最後に、提言として「メンター制度」の創設を提言したい。

2001年から2002年に聴き取り調査を行った際、かなりの数の中堅職員が国連システムに入職後のメンターの重要性について強調していた。「~さんがいなければ現在の自分はありません。」と固有名詞を挙げた人も数名いた。初職時におけるメンターの重要性は職種、業種を問わず経営学のキャリア・ディベロプメントの分野で確認されている。

国際公務員は日本企業での働き方と異なり、独立して職務を遂行する。よって、個人レベルでの人的交流はあるが、所属組織を超えた横断的な交流を行うことはそれほど容易ではない。

若手職員が職場の問題、将来のキャリアの問題等を一人で判断し意思決定することが難しい場合が多い。そんな時、経験豊富な中堅以上の職員、あるいはすでに退職したOB/OGに相談することができる制度があれば、問題を一人で抱え込むことなく、アドバイスをセカンド・オピニオンとして活用し、適切な意思決定を行うことが出来る。

中堅職員にとってもたとえば、職域を広げようと考える場合、自分と同種の専門分野の上級職員、あるいは退職者と意見交換することが可能であればその後のキャリア構築につながるであろう。さらに退職を予定している人、あるいは帰国を検討している人にとっても、大きな決断を行う前に参考情報を入手することができ、その後の人生設計に役立てることが出来る。

メンター制度の創設にあたり、具体的にどこが主体になり、どのような条件でこの制度を運用していくかということについては議論が必要である。しかし、現在は、ネットワーク社会である。メンター制度をネット上で制度構築してゆくことはそれほど難しいことではないと考える。

20%前後の分担金を支払っていながら、何故、日本人職員数は少ないのかという発言をよく耳にする。しかし、国際的人材育成には時間と戦略が必要である。国際公務員のキャリア支援を推進させるためには、時間をかけながら戦略的な支援策を実施してゆく必要があろう。

最後に、本稿で2007年度に第2次アンケート調査を実施していることを言及したが、回収率は第1次調査時と比べると低い。アンケートの締め切りは2007年8月15日としたが、回収率を上げ、データの信頼性を高めるために締め切り期限以後も回答を受け付けることにした。正規国際公務員の方で、当該「提言」を読み、アンケートに協力しても良いと考える方はhttp://www.ba.tyg.jp/~yokoyama/index_Eng.htmlにアクセスし、調査票に回答した上、research-un@ba.tyg.jpまで返送してもらえると大変有り難く思います。

主要参考文献

  • 横山和子 「国際機関における女性雇用促進政策」(日本労務学会研究奨励賞)日本労務学会第28回全国大会研究報告論集 日本労務学会編 1998年
  • 横山和子 「国際的キャリア拡充のための検討課題―日本人国連機関職員アンケート調査からー」日本労務学会第35回全国大会研究報告論集 日本労務学会編 2005年
  • 横山和子 「日本人国連機関職員のキャリア分析―電子メールを使ったアンケート調査から」日本労務学会第35回全国大会研究報告論集 日本労務学会編 2006年
  • なお、本稿で使用されたアンケート調査集計値は横山のホーム・ページ(http://www.ba.tyg.jp/~yokoyama/)に掲載されている。

2007年10月1日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田