第108回 「巨大災害とメディア:日本・海外で<伝える>ために」

日時:2017年2月10日(金)19時00分~21時00分
場所:コロンビア大学ティーチャーズカレッジ図書館3階 ラッセルホール306
スピーカー:小山靖史氏 (NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサー)

写真①

講師経歴:小山靖史(こやま やすし)氏
1961年、東京生まれ。1986年、早稲田大学第一文学部卒業、NHKに入局し盛岡放送局に赴任。1990年より、東京のNHKで、主に、「NHKスペシャル」などのドキュメンタリーを制作。

■1■ はじめに

本勉強会は、NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの小山靖史(こやま やすし)さんを登壇者に迎え、「巨大災害とメディア:日本・海外で<伝える>ために」と題して開催されました。

最初に、継続取材を行われている東日本大震災被災地の歩みを紹介するドキュメンタリー「渡辺謙“僕に、できること”再会 6年目の希望と苦悩」を上映し、取材を続けることで構築された人との繋がりがどのような番組作成に活きているのか、世界に発信するための企画の工夫、番組外での復興支援活動についてお話しを伺いました。また、番組に主演された俳優の渡辺謙さんからも勉強会参加者の皆さんにメッセージをいただきました。

さらに、日本人の国際問題への関心の低さに危機感を持つ中で、難民問題への関心・理解を深めるために企画された「難民大移動~危機と闘う日本人~」という番組についてもご紹介いただきました。現地取材中に出会ったシリア人難民の青年のエピソードとともに、問題の複雑さについてご解説いただきました。さらに番組放映の際の視聴者の反応を例に、メディアの影響力について考えました。

質疑応答では、NHKの番組を教育現場で活用する可能性について、エンターテインメントと伝えたいことのバランスのとり方、テレビ視聴スタイルの変化に伴う効果的な発信方法のアイデアなど、活発な議論がなされました。

以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨を、ご了承ください。

■2■ 被災地の取材

国連フォーラムとの関係は2013年のスカイプ講演が最初。2016年の年末には東京大学で同フォーラムにより主催された勉強会で「難民大移動」について講演し、国連フォーラムには幅広い参加者がいることがわかった。

1ヵ月後で3/11(東日本大震災)から6年になる。謙さんとは震災から今まで取材を重ねてきた。震災から1年目に訪れた地域に再度訪問し、変化を見てきた。日本の企業では転勤や昇進があり、なかなかプロジェクトが継承されないため継続取材が少ない。東日本大震災の事実が風化されないように、これまで意地になって謙さんと取材をしてきた。

(番組内容)

加工工場の取材

宮城の気仙沼市の魚市場を渡辺謙さんは訪れた。震災以前は経済の8割を占めていた水産業が、津波の打撃からどこまで復活しているかを確かめるためだ。再会した熊谷さんは語る。「1年目は被災者気分で、2年目は半分被災者のようだった。3年目やっと正常に戻った気分だった。」現在はようやく年間目標としている10万トン以上の水揚げに近づいている。現在も毎日放射線測定室で放射線量を確かめている。1キロあたり100ベクトル以上の数値が出ると販売を中止しなければならないが、測定を始めて今までその数値は出たことがない。現在も検査を続けている理由は、消費者への信頼を取り戻すためだ。消費者は放射線量に敏感に反応し、安心さを保障できれば、検査は無駄なことではないと思っている。ほかの工場も続々と建設され 、冷凍する設備も充実してきた。

酒造会社の取材

初めて訪れたのは震災後1年目。当時はお酒を造ることができる状態ではなかった。気仙沼の健全さを伝えるために酒造りが始まった。3年ぐらいで売り上げが下げ止まり、造ったお酒を広めるため色々な集まりにも参加。冷水を回すことで詳細な温度管理をおこなうなど酒蔵の設備も工夫を重ねた。

防潮堤の建設

今年は震災から6年目。復興が進む中、5m - 15mの高さの防潮堤の建設計画に対して市民の間では、戸惑いもある。住民が求めているのは海との共生だが、行政の考えは違った。沖野川流域では上流まで堤防が築き上げられている。災害への対策と日々の生活とのバランスが必要とされる。

成長する子ども達

エリアとしても広い岩手県陸前高田市では高さ12mの嵩上げを含む新たな街を生み出す計画が進められていた。高田市で訪問した菊池さん一家に初めて会った時は震災直後謙さんが支援物資を渡していたときである。当時、里歩ちゃん(長女)はまだお母さんのお腹の中にいた。その後たびたび成長を記録している。菊池さん一家にはりほちゃんのほか小学一年生になる長男がいるが、遊ぶところがない。近所の道路ではダンプカーの往来が激しいためである。両親はなるべく車の出入りが少ないところで遊べる場所を探している。身の回りに気を使わなくてはいけないこともあり、全体的に体力が落ちていると感じられた。

■3■ 継続性の大切さ

震災から6年になるが、復興にはある程度順調に進んでいる部分と遅れている部分があり、継続した取材を続けなくてはわからないところがある。国際的にも伝えるべきと考え、番組の英語版をNHK Worldで発信した。普通英語版にするにはコストがかかるため、厳選された番組がごく一部だけ翻訳される。ではなぜこの番組がNHK Worldで選ばれたのか。

一つの大きな理由としては、国内で震災のことが忘れられているからだ。それに伴い、世界にはどんどん伝わりにくくなっている。仕方ないという見方もある。2004年のインドネシアとその近辺の国々を襲った地震と津波、2005年にアメリカ南東部を直撃したハリケーン・カトリーナなどがいい例である。

そこで、NHK Worldは、謙さんという「フィルター」に期待をかけた。結果、放送後のモニター報告によると「謙さんがいたから見た」、「謙さんほどの俳優が継続的に関わっていることに対して刺激を受けた」などの声があり、番組を広める重要な役割を彼は果たしてくれた。

熊本地震の後から東日本大震災がより一層忘れられている印象がある(熊本も忘れられてきている)。忘れられないためにどうしていくべきか苦心している。

取材を通じて、謙さんは個人的に震災を支援したいと思うようになり、気仙沼市の一部にコミュニティー・カフェをオープンした。楽しい場所を作りたいという気持ちから出たアイデアであろう。

では、なぜ謙さんはカフェをオープンしたのか。また、なぜ気仙沼市なのか?

これは、友達ができたことが大きかった。中には1年目の取材で出会った魚の仲卸を営む安藤竜司さんがいた。復興作業を待っていられず、安藤さんは海に近い土地を買い、自分なりに街の再生に尽くそうとしていた。取材では謙さんにカフェを作る夢を語り、それに友人として応えるような形で、謙さんが応援することになった。

現在カフェでは4人のスタッフが働く。年齢は20代から30代。謙さんも2ヶ月に1回ほどカフェに行って働いている(皿洗いなど)。私は広報、物販を手伝っている。カフェの名前はK-port。

  • ホームページ:http://www.k-port.org/
  • Facebookページ:https://www.facebook.com/k.port.kesennuma/

「K」は気仙沼、絆、謙さん、そして心の「K」でもある。謙さんがメニュー開発をし、地元を引き上げるためにお菓子屋さんとのコラボなどもやっている。

カフェの取り組み以外にも謙さんはいろんなイベントに顔を出している。成人の日に若者と語る機会を設けたり、エルメスの社会貢献イベントで司会を担当するなど継続性を保っている。海外で映画や舞台に出演している時でもほぼ毎日(移動日を除く)、お店のお客さんにFaxを送っている。これは本気度の証であり、継続することがいかに大事かを示している。

■4■ マスコミでの仕事

私は、主に社会と国際問題をテーマとしている。最近感じるのは世界が日本を注目しなくなっていること。もう一つ深刻なのは、日本人の国際問題への関心の低さである。ただし日本だけの問題だけではないかもしれない。アメリカでのトランプ大統領当選がいい例であり、世界中で国際問題への関心の低さが危ぶまれている。日本の場合、アメリカへの留学生が減っている。グローバル化の中で経済的に台頭している人がいる一方で、日本国内では生活が苦しい人もいることも、内向きになっている理由かもしれない。

では、どうするべきか?東日本大震災は渡辺謙さんを通して発信した。最近ではシリアからの難民問題にも注目した番組を制作した。視聴者に見てもらう番組にするにはどうしたらいいかが問われた。シリアでの取材は価値が高いが、普通に紹介しても見てくれないのが現状である。視聴率を気にしなくてもいいという方もいるが、できるだけ多くの方に見てもらいたい。

緒方貞子元国連難民高等弁務官の取材をした縁で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の駐日事務所に連絡し、難民のヨーロッパ流入問題に関係している職員がいないか尋ねた。UNHCRの日本人の活躍を通じて難民の問題を出したら視聴者に見てもらえるかもと考えたのだ。日本人というフィルターを通したほうが、より多くの日本人視聴者にシリアの現状を届けられるという考えからだ。

「難民大移動:危機と闘う日本人」の視聴者数は、900万から1千万人で、放送後UNHCRへの寄付が10倍に増えた。放送直後にUNHCRの新しい高等弁務官、フィリッポ・グランディが日本を訪れ、番組の放送のおかげで外務省から協力が得られたのではという発言もあった。

問題意識をもっている人からは、NHKは高い視聴率は期待しなくてもよい、という意見ももらったことがある。しかし、見てもらえないと伝わらないことも事実である。視聴率を気にしない番組制作は、受信料の無駄遣いという認識もある。

通常、一つの番組を作るため複数の場所に取材をしに行く。「難民大移動」では、フランス・カレー(フランス語: Calais)の難民キャンプへ現地取材に行った。カレーは地理的にイギリスに近いため、ドーバー海峡を渡ってイギリスに行きたい人たちが集まっていた。すさまじいところであった。冬は寒い、夏はごみだらけで悪臭が強いらしい。カレーからイギリスへ渡るために、ユーロトンネルを通るトラックに隠れて乗る方法があるが、動き出すトラックに飛び乗らなくてはいけなく、成功率は低い。

地元の人たちは難民キャンプのことをジャングルと名づけているが、そこに暮らす住民たちはそのような印象からは程遠く、気さくな人たちばかりだった。最初はカメラを持たないで話をしに行った。「東京からきた」と言うと「日本も大変だな」と難民と勘違いされたこともあった(会場が笑いに包まれる)。取材中一人の20歳の青年と出会った。カレーの難民キャンプは汚く、絶望的な印象を抱くが、それでもシリアのエリートがたくさん集まっていた。一人の青年はダマスカス大学(シリアの名門大学)で英語を学んでいた。彼との出会いがきっかけでシリアの話をしっかり報道したいと思った。渡辺謙さんがカフェを作った気持ちと似ていると思う。その青年は気仙沼の安藤さんのようなイメージだった。取材先で人と関わりお互いを知ることで、継続的に問題解決のために何か協力できないかと考えるのだ。

私は、これからもマスコミの一員として頑張っていきたい。みなさんにも海外で感じておもしろいと思ったことを発信していただくことが、日本人が関心をなくしているところに大きな刺激になると思う。東京オリンピックも外国人と接することができるいい機会で国際的な関心を失っている日本人へ刺激を与えてくれるのではと考えている。現在、多くの外国人の日本での訪問先は、東京・京都・富士山にとどまっているらしいが、今後東北も目的地になることを願っている。

■5■ 質疑応答

質問:東日本大震災について。海外ではどのように東日本大震災が報道されているのか。気づきは?
回答:当初は事実に基づかないニュースが多かった。アメリカのニュースなどには間違った情報が流れていた。今は比較的冷静な報道に落ち着いているのではないかと思う。謙さんと番組を制作した理由は、実はディスカバリーチャンネルから制作依頼があったのが始まり。しかし番組を作り始めると、視点・意見の相違で大喧嘩になった。英語を喋らない編集マンが「こうやって戦争は始まるんだな」とポツリと語ったのが印象に残っている。
福島では、まだ放射能汚染の不安があるなか、本気で帰還を終えようとしている。全村避難をしたところの取材では、村民は10%も戻っていないことがわかった。インフラが整ったことで商店も移動するが、共倒れする可能性もある。仮設住宅でお店を出していた食堂を取材したが、5年間かけてお客さんを開拓したあと、またゼロからスタートすることは大変である。

質問:どこまでいったらエンターテイメントになってしまうのか?個人的な基準は?
回答:特にドキュメンタリーではその判断が難しい。NHKでは、半年ごとに震災を忘れないために番組を作っている。最近「やってほしい」と言われて意図的にやったのは観光案内である。これは現地の人たちからの要望であり、「忘れられたくない、来てほしい」という願いが込められていた。タレントさんを使って徹底的にエンターテイメントとしてやった。誰を使うのかによって「見やすさ」が変わってくるので人選は重要である。震災から5年半たった時に出演してもらったカンニング竹山氏は頻繁に福島へいき、ブログなどで福島をPRしている。本気で復興に協力する人が番組でも必要。ドラマでも芝居の上手下手がわかるのと同じ例で、本気で考えている人とそうでない人とはテレビで視聴者に伝わる。作る側としては、ちゃんと考えてくれる人、思いがある人と仕事をするのが大切だと思う。

質問:高校生・大学生向けに国際情勢の資料を教材として使いたい。アメリカの公共放送サービス(Public Broadcasting Service, PBS)は取材の背景材料や使わなかった資料などを提供し、クラスで使えるようにしている。NHKの番組でも個人のレベルで共感を与えるのは重要なのでは。教材として学校で使ってほしい。NHKで教材向けにパッケージするのは難しいのか?
回答:全部教材として活用されることを前提にして権利処理をしておけば良いと個人的には思うのだが、それまではいっていない。全部ではないが現在NHKスペシャルなどを再利用して高校生向けの番組を作り、放送はしている。基本的に、放送番組をそのまま勝手に教材として使用することは法律上禁止されている。個人的には積極的にやってほしいと思うのだが、ルールに従うと、ナレーションや音楽などの著作権もあるため、法律上困難が生じる。内容に関して言えば、学生向けには、もっと短い番組が必要かもしれない。

質問:日本人の国際関係の関心が低いことに関して他にも例をあげてほしい。
回答:留学生の数が減っている印象がする。排他的になっているのでは?「難民大移動」を去年放送したとき、放送中にかかってきた電話の中に「なぜこんな話をやるの?」「なぜこんな遠いところの話をやるの?」という質問があった。「なかなか大変な国だな」と思った。

質問:クレームなどは次の作品へ影響はあるのか?NHKとしての方針は?
回答:企画はボトムアップが基本であり、あまり上からダメだしされることは少ない。

質問:終戦記念日などの企画は枠組みされているのか?
回答:私もNHKの8.15を作った。企画は自分から手を挙げる。「再来年何をやるか」など、かなり先を見据えながら企画を練っている。

質問: 報道の自由に対する懸念について、メディアとしてどう感じているか?
回答:政治家レベルのメディアに対する発言はとても重い。前のNHK会長の時に話題になったが、私自身は若い人たちに対し、「メディアの重要な仕事は権力の監視だ」と言い続けている。

質問:放送規制でやりたいことをやることができないなどの、ジレンマの経験は?
回答:個人的にはないが担当者による。忖度しつつ行動する人も確かにいるだろう。見えない圧迫はあるかもしれないが、今日上映した作品3つともNHK上層部のチェックは入っていない。

質問:SNSや新しいメディアがある。既存のメディアとして新しいメディアをどう活用していくか。
回答:SNSは主に視聴率を上げるために有効と考えて使っているが、そもそもNHKを視聴しない人にはSNSの宣伝効果がない。持論としては、「複数回の本放送」が一番より多くの人に観てもらうために効果的だと思う。オンデマンドもあるが、受信料をもらっておいて再度課金するのはよくないのでは、という考えもあるかもしれない。

質問:NHKはどのような視点を大事にしているのか?
回答:速報性が高いことが一つ。他に心がけていることは、「どういう構造によってものごとが生まれているのか」を意識して取材することである。複数の番組を作ることも大事だ。「難民大移動」の取材などは、相当に人をつぎ込んだ。撮影したものは一部分しか放送されないが、そのような取材資料が無駄にならないように、この時は、ヨルダン取材だけで別番組も作った。

質問:内向き志向の日本人が増えているのはメディアのせい?今後メディアは何をするべきか?民間企業とは違ってメディアはドメスティックなのでは?
回答:ニワトリと卵だと思う。例えば、謙さんに出演してもらうのはとっかかりでしかない。UNHCR日本人職員の姿を追った「難民大移動」を放送した時には、もっと強いメッセージがほしいという意見があった。しかしテレビは大衆向けメディアなのでどうしても現在のような形になってしまう。メディア業界に入ってくる人たちの外国への関心も、減っている感じがする。もしくは関心を持っている方々がメディア業界に入ってこないのかも。NHKでも海外赴任希望者が減っていると聞いている。日々のニュースの中でもっと身近に共感できる内容が必要なのではないか。「難民大移動」みたいに日本人を通した取材の仕方は、国際分野の担当者からも「見やすい」という意見があった。気を付けなくてはいけなかったのは、日本人が頑張っているというメッセージではなく、あくまで語りやすくしてもらうために日本人フィルターを通していること。

■6■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照ください。国連フォーラムの担当幹事が、勉強会の内容をもとに下記のリンク先を選定しました。

● NHKドキュメンタリー:NHKスペシャル「難民大移動 危機と闘う日本人」
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586773/

● 明日へ つなげよう :NHK東日本大震災プロジェクト
http://www.nhk.or.jp/ashita/bangumi/

写真②

2017年5月15日掲載
企画リーダー:三浦弘孝
企画運営:瀧田あゆみ、原口正彦、中島泰子、西村祥平、洪美月、天野彩佳
議事録担当:三浦弘孝、洪美月
ウェブ掲載:中村理香