第110回 「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関する国連の活動」

日時:2017年3月19日(水)15時から17時
場所:コロンビア大学
スピーカー:加藤美和氏(UN WOMENアジア太平洋地域部長・事務局長)
モデレーター:田瀬和夫氏(国連フォーラム共同代表)

写真①

スピーカーご経歴
加藤美和(かとう みわ)氏
2016年より、UN WOMEN (United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women/UN WOMEN)のアジア太平洋地域部長・事務所長として、日本を含むアジア諸国42カ国における女性の地位向上を目指し、政策助言・技術支援・アドボカシー等の多角的支援を統括。
大学院修了後、最初の仕事は、日本国政府在ニューヨーク国連代表部にて専門調査員として政務・安保理案件担当(1998年)。在ハーグの化学兵器禁止機構(Organisation for Prohibition of Chemical Weapons/OPCW)事務局長室補佐官として勤務(2000年)の後、再び専門調査員として、在オーストリア日本大使館に勤務。2003年から国連正規職員として採用され、ウィーン、カブール、カイロ、バンコクをベースに勤務。国連事務局の越境犯罪・違法薬物対策部局(United Nations Office on Drugs and Crime/UNODC)の職員として、UNODC 本部(ウィーン)にて経験を積み上げ、2011年より、初代アフガニスタン周辺国地域統合プログラム上級調整官としてカブールに赴任。2013年より、UNODC本部にて、アジア太平洋地域課長として同地域のフィールド・プレゼンスを統括。特に、対ミャンマー支援、ASEAN統合深化に伴う越境犯罪対策支援、インド・インドネシア・スリランカにおける新政権の戦略に即した支援を策定、法の支配・越境犯罪対策を通しての地域協力の推進に努めた。2015年、一番新しい国連機関であるUN WOMENに移り、アラブの春以降、複雑な経過をたどる中東の心臓部たるエジプトの国事務所長、そして現職を通して、女性のエンパワーメントに従事。
学術的専門分野は、国際政治。国際社会の主要課題の一つである、平和・発展を阻む、負の側面たるガバナンス及び法の支配の欠落・犯罪・腐敗・テロ等ヘの対策を見つめた上で、あらゆる社会において変化の鍵を握る多様性の推進・女性のエンパワーメント等を通し、平和・自由・発展を推進するための理論的枠組み・実践との関連を研究中。1996年・上智大学比較文化学部学士号(政治学主専攻)、1998年・上智大学大学院修士号(国際関係論専攻)、2009年・ウィーン大学政治研究大学院博士号(国際政治専攻)修得。
オーストリアに住む夫と息子(10歳)の協力を得て、「女性の社会貢献・エンパワーメントには、男性の具体的協力が不可欠であり、女性の地位向上は女性だけの問題ではない」という趣旨の HeForSheキャンペーン(安倍総理にも、グローバル・チャンピオンとして賛同頂いている UN WOMENのイニシャティブ)を実体験者として推奨中。

■1■ はじめに

3月19日(日)NYにて、加藤美和UN WOMENアジア太平洋地域部長・事務局長をお招きして「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関する国連の活動」と題した勉強会が開催されました。田瀬和夫国連フォーラム共同代表もモデレーターとして東京からお越しいただきました。

加藤さんの学生時代のお話から現在のお仕事に至るまでのキャリア、国連の在り方やUN WOMENの活動について、幅広くお話を伺うことができました。

以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者及び参加者の個人的な見解である旨、ご了承ください。

■2■ 国連のイメージとは?

冒頭、田瀬さんからの「国連のイメージとは何か?」という参加者への問いかけから講演は始まり、加藤さんから国連の現在の在り方についてお話がありました。国連は改革の時期に直面しており、従来の参画者(政府機関やNGO)以外のアクターからの意見を積極的に取り入れ、グローバル市民として解決策を共に見出す協力関係が大切であるという視点が提示されました。その背景として、国連は創立当時、「平和維持・途上国開発・人権」という当時の国際社会で議論に挙がっていた諸問題の解決が主な設立目的だったのに対し、冷戦終結や科学技術の発達、SNSの普及等、社会を取り巻く環境は大きな変化を遂げ、人々のニーズも多様化しています。そのような中で、国連自身が、社会が必要としている真のニーズに合致できているのか、その真価が問われる時期でもあります。国際協力に携わる機関やアクターが多様化する中で「国連だからこそ果たせる役割、国連にしかできない役割とは何か?」を国連で働く職員自身も問わなくてはならないというお話がありました。

■3■ 講師のキャリア

加藤さん自身のキャリアとして、冷戦終了後に国際政治や紛争解決について学ばれ、外務省の専門調査員、UNODCを経て、現職のUNWOMENに至るまで、フィールドでの技術協力、本部での多国間交渉支援や局長室での人事・財務管理など、国連の中でも多様な業務を経験されています。特定の分野での専門性のみならず、多様な業務を経験することで、一つの問題を多角的視点から捉えることができるようになり、国連のローテーション政策では、こういった総合力を重視するようになってきているとのアドバイスもありました。これまで様々なキャリアを経験された加藤さん自身が現在辿り着いた結論としては、国連の役割とは、「世界中に住むできるだけ多くの人々の身の安全を確保し、尊厳を与え、個々が持つ可能性を最大限に発揮できる社会の実現」だそうです。

■4■ UN WOMENのアプローチ

UN WOMENは国連の中で最も新しい機関であり、「女性のエンパワーメント」を切り口とした国際社会への貢献という点で、加藤さん自身、ご自身のお仕事にやりがいを感じているそうです。現在、国際社会が直面している諸問題へのアプローチとして、「女性のエンパワーメント」を取り入れることで、人類が直面する横断的問題において、従来にない新しい解決方法を生み出す可能性があります。一方で、ジェンダーの目標がSDGs(※)に入ったことは喜ばしいことであるものの、1995年の北京宣言以降の進展ペースでは、2030年までの目標達成はほぼ不可能で、抜本的にアプローチ手法を見直さなくてはならないというお話がありました。そして、その変化を促進させるために、ジェンダーに関する諸問題は女性の活動家やジェンダー専門家だけで議論すべき問題ではなく、従来ジェンダーや女性の問題に興味・関心のなかった人々の行動を変えるよう促すことが重要です。女性のエンパワーメントを切り口として、多くの人々が自らの持つ可能性に気づき、チャンスを活かせる社会につなげたいと今後の展望についても語られました。

※ミレニアム開発目標(MDGs)の後継として策定され、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称。

■5■ 質疑応答

Q.(田瀬さん)ジェンダーを巡る課題として考えられるものは何か。

A.(参加者)女性の社会進出を促進する機運があるものの“(男性含め)働きたくない人”を無理に働かせるのはおかしい。“働きたいが(制度上の理由等で)働けない人”を支援するべき。本来、選択肢となるはずの制度が“選択肢”として機能していないのは、育児休暇の取得状況等を見てわかるとおり、日本が直面している課題である。男女平等が叫ばれる中で、“やりたい人”の自己実現を支援する制度が整い、上司や同僚を含めた周囲の人間がサポーターとして応援する環境が必要である。その支援ツールの一つとして、SNS等のソーシャルメディアが活用され、ジェンダーに関する明るい話題や世の中に伝わるべきニュースが積極的に世の中に拡散するようになってほしい。

Q. 社会で男女に期待される役割について無意識の偏見(Unconscious Bias)が存在している。

A. (加藤さん)日本社会では未だ長時間労働が風潮として残り、労働時間に対する生産性の低さが指摘されている。ジェンダーの問題は、女性活動家や専門家を中心として議論されていると捉えがちだが、女性に限らず男性も積極的に関与すべき問題である。
(参加者)男性は女性の活躍を応援すると同時に、自身も変化しなくてはならない。

Q.ジェンダーの議論において男女の生物学的な差異は考慮に入るのか。

A. (加藤さん)ジェンダーを議論する上で、男女の生物学的な違いはあまり問題でないと思う。“男女”いう定義は一つカテゴリーに過ぎず、本質的に一人でも多くの男女が自己実現しやすい社会を作ることの方がより重要である。その実現のために、制度上の不備や実際の運用面を含め、いかに周囲を巻き込んでいくかを考えていかなくてはならない。ジェンダーは女性に限った問題ではなく、男性も積極的に議論に加わってほしい。

Q.ジェンダーをめぐる課題は、先進国ではよく議論されるが、そもそも途上国では問題とすら認識されていない。

A. (参加者)途上国では意識啓発のようなソフト面でのエンパワーメントは後回しにされがちである。先進国で当然のように用意されている制度自体が途上国には存在せず、人々の意識改革にまで問題が及んでいない。
(加藤さん)途上国では「女性」というだけで、性暴力の被害者となったり、若年での結婚、教育の機会や選挙権がなかったり等多くの問題を抱えている。また、「途上国」といっても、最貧国から中級国まで経済状況やジェンダーを巡る状況は国によって様々である。また、日本のように、職業も権利も保障されているはずなのに“無意識の偏見”が存在している国もある。UN WOMENは、様々な途上国から日本のような先進国まで多岐に渡る国々へジェンダー支援を提供しており、今回の話題にも挙がった先進国における制度上の課題や無意識の差別を含め、女性であるがゆえに遭遇する暴力や差別を解消すべく、女性の権利を保障するための多岐に渡る活動を行っている。

■6■ まとめ

最後に田瀬さんから、ジェンダーの問題には一人ひとりがこれらを実現させるための実行案を考えることが大切であり、各々が責任を担って行動することができるというお話がありました。

加藤さんから、「選択肢としてAとBがあった際にも、両方が正しいかもしれないし、AB以外の選択肢が正しい可能性もある。色々な選択肢がある中で、自分がどうしたいのか、周囲を幸せにするために何ができるのかを考えてもらいたい。できない事にばかり目を向けて批判するのでなく、ネガティブな思いが世の中に広がらないよう本質的側面に目を向けて、自分にできることを考えて行動を起こしてほしい。」というコメントで締めくくられました。

加藤さん自身、オーストリアに住むご家族と離れて働くという環境を乗り越えながら、ジェンダー平等をなるべく多くの人が実質的に享受するために何をしていくべきなのか、という現実的なアプローチの下で奮闘されています。勉強会でもジェンダーの問題は女性だけでの問題でなく、男性も積極的に関与しつつ、社会の中で性的役割分担に関する制度や意識を変革させているべく、ジェンダーの問題を捉え直す必要があると感じました。

今回の勉強会には、NY研修中の姫路西高校の生徒さん含め、69名以上が参加され、講演会後の懇親会にも多くの方々が参加されました。ご参加いただいた皆様、有難うございました。

2018年3月15日掲載
企画リーダー:洪美月
企画運営:天野彩佳, 中島泰子, 西村祥平, 原口正彦,三浦弘孝
議事録担当:建道文子
ウェブ掲載:三浦舟樹