第46回 「第52回婦人の地位委員会と日本女性監視機構(JAWW)報告」

原 ひろ子さん
JAWW代表、城西国際大学客員教授、お茶の水女子大学名誉教授

2008年3月3日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

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■ はじめに

「第52回国連婦人の地位委員会(CSW)」の主要テーマは、「男女共同参画の推進と女性のエンパワーメントのためのお金の流れ(資金調達)」である。日本女性監視機構(JAWW)は、2007年5月から勉強会を重ね、各分野の著名な方に執筆して頂き報告書を作成した。報告書のタイトルは「資金調達」とせず、「お金の流れ」としたが、「資金調達」では、それが民間と政府、双方向からの資金の流れであるということが、伝わりにくいためである。

■1■ 政策決定におけるジェンダー意識

日本でもジェンダー平等に対する意識は以前よりも向上している。例えば、管理職に女性が多い会社ほど業績が良いことが『男女共同参画白書』に記されている(内閣府男女共同参画局編『男女共同参画白書』平成19年版 p. 45 第1-特-34表「女性社員の基幹化と経営パフォーマンスとの関係」参照)。一方、実際に、管理職に就く女性のうち、部長クラス以上は未だ僅かである。また、2007年度の国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書』によると、日本のジェンダー・エンパワーメント指数は、93ヵ国中54位である。ジェンダー平等に対する意識が向上している一方で、他国と比べるとジェンダー平等のための努力と取り組みの実施が十分でないことがわかる。

女性の国会議員の数も他国に比べると少なく、財政担当の政府機関が今回のCSWへの参加に消極的であることからも、日本では未だ女性のエンパワーメント、とくにそのための資金の確保があまり重要視されていないことが明らかである。日本の現税制や社会保障制度でも、例えば寡婦控除など、離別女性は特定の基準を満たさない限り控除を受けられず、男性であるか女性であるか(ジェンダー)、またその配偶関係のあり方によって受けられる待遇が異なる。従来の制度は、親や家族を養う一家の稼ぎ主は男性、その男性をウチで支えるのが女性という考えのもとに設けられており、「夫につくす女性」が優遇される仕組みとなっている。現状のままでは、低所得層の女性比率は高くなる一方である。税制・社会保障制度・年金制度などの改革ととともに、男女共同参画の視点に立って、社会制度・慣行の見直しや、意識の改革が必要である。

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■2■ 「男女共同参画推進関係予算」「男女共同参画・女性関係予算」と女性NGO

「ジェンダー予算」とは、政府予算を「ジェンダー平等」という視点から分析することである。現実の政府予算が「ジェンダーの平等」を推進するように配分されているか、配分がこれまでの男女間の不平等を拡大させていないか、更に、ジェンダー平等社会の形成へのニーズを満たす配分になっているかなどを査定・評価する。しかし、日本の現政府予算制度では、同分析を行うのは不可能である。

日本では、現在、『男女共同参画基本計画(第2次)』に記載されている事項に関して所管官庁が「男女共同参画推進関係予算」として一定程度の予算を配分しているが、「ジェンダー予算」という形の公的な資金はない。男女共同参画の推進のためには、制度上の改革が不可欠である。

男女共同参画担当部局によると、日本の都道府県・政令指定都市レベルにおける「男女共同参画・女性関係予算」は、日本の国や地方の財政難も影響して、2001年をピークに減少傾向にある。関東地方の群馬、千葉、東京などを除いて、女性政策に力を入れてきた北九州市でも、男女共同参画・女性関係予算の減少がみられる。

このような状況の中、以前は文部科学省(文部省)から補助金を受けることができた女性団体も、自ら資金を調達することを迫られている。会費収入だけで活動できる団体は少なく、外部資金を取り込むためには、税制の壁に直面し、複雑な手続きを取らなければならない。また、寄付金に関しても、仕事を持たない、もしくは収入の少ない女性から、大口の寄付金を集めること(例えば、1千~3千円は出せても1万円は出せないなど)は困難である。メンバーの高齢化も進み、女性団体は現在厳しい局面を迎えている。

しかし、女性の権利を主張する団体の必要性が減ったわけではなく、逆に、今こそこれら女性団体のあり方を真剣に考えることが重要である。ジェンダーの平等化が進む中、第二次世界大戦終結直後のように、女性は団体を作りその権利のために戦わなければならないという危機感が減ってきているようにみえるが、世界的な水準と比べると日本におけるジェンダー意識は未だ十分とは言えず、女性団体の存続のため、その運営のあり方の再考も必要である。

■3■ 働き方の変化

男女雇用機会均等法などが制定されたが、未だ十分に制度が整っているとは言い難い。有償労働の諸条件や無償労働の分担において、ジェンダー格差が存在する。その是正のためには、雇用機会の均等を実質的に確保する間接差別の認定を限定しないこと、パートタイム労働・派遣・起業など働き方が多様化する中でディーセントな仕事を確保するよう国際合意を国内で推進することが必要である。その他、女性がより起業しやすいよう融資、税制上の優遇を行ったり、積極的にノウハウの提供を行ったりなどの支援施策を増やし、また育児・介護休業への所得保障を充実させ、休業取得者が生涯所得にペナルティを科されるような処遇の現状を見直すことも大切である。ペナルティを科さないとは、育児・介護で休むことが、後の給料評価などの妨げにならないことを意味している。特に女性は介護を任される傾向にあることから、介護をペナルティと考えないことが重要である。これらの対策を通じて、性別による賃金格差が縮小すれば、無償労働の機会費用における性別格差も減り、男女がより均等に無償労働を担うことが可能になるだろう。現に、日本の男性の育児時間はOECD諸国の中で最も短く、働き方や環境を変えない限り、男性は家事・育児・介護を分担しにくい。女性だけではなく、男性側からの多様なアプローチも取り入れながら、働く環境全体を改革していくことが必要不可欠である。

■4■ 最後に

女性の働き方が正しく評価され、女性が自らをエンパワーすることで、女性がより重要な地位に就くことが可能となる。またその結果、所得が増えれば、現在広がりつつあるジェンダー格差も減少するだろう。意思決定の場に、女性の参画や男女格差に敏感な人が増えることで、政策面での改善も望まれる。さらに、育児・介護休暇を女性・男性が同等に取得できるようにするなどジェンダーに配慮した職場作りが進めば、男女共同参画社会がより現実味を帯びたものとなるであろう。

写真③

関連リンク
○内閣府男女共同参画局編『男女共同参画白書』平成19年版
http://www.gender.go.jp/whitepaper/h19/gaiyou/index.html
○国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書』(概要)
http://hdr.undp.org/en/media/hdr_20072008_summary_japanese.pdf
○『男女共同参画基本計画(第2次)』http://www.gender.go.jp/main_contents/category/gaiyou.pdf

質疑応答

■Q■ 北京会議当時に比べると、ずいぶん議論が進んできたという感じがする。しかし、女性の活躍が増えてきた一方で、優秀な女性は外国へと仕事の場を求めているようだ。未だに、国家公務員の男性ですら育児に参加できず、また女性も家事の兼ね合いが難しいというのが現状である。なお、報告書のp. 40の「育児・介護休業への所得保障を充実し、休業取得者の生涯所得にペナルティを科すような処遇を見直すこと」とあるが、「ペナルティを科す」とは何を意味するのか。

■A■  依然として数は少ないが、国家公務員は企業に比べ、育児休業が比較的浸透している。とりわけ内閣府男女共同参画局に勤めている方の中には、まだ短いが1ヶ月ほどの育児休暇をとるケースもある。育児休暇のとり方には、様々なパターンがあるが、多くの人が英気を養って職場に復帰してくるようだ。また、そのような方たちが、育児休暇をとりたいと考える人の相談相手にもなっているようである。

(独)産業技術総合研究所、(独)物質・材料研究機構、(独)森林総合研究所などでは、文部科学省から「科学技術振興調整費プロジェクト」「応援します!家族責任を持つ女性研究者」として助成金が出されて、女性研究者が育児をしながら研究を続けられるよう工夫することが求められている。このような研究所では、自己資金の中から男性への育児休業・休暇および保育の資金をサポートしている例もある。ペナルティを科さないということは、このように、育児休業などによって研究費を稼ぐ機会を減らさない、また育児休暇に入ることが、給与決定の評価に影響を及ぼさないということを意味している。また、中小企業でも男性に育児休暇を与える会社が出てきている。事例として、青森県に県外の人が育児設備が整っている工場を作り、近隣の人を育児施設の働き手として雇うなどして、育児と就業を支えることに成功している小さな企業もある。経営者の柔軟性と想像力により、中小企業でもこのような環境を整えている例もある。

■Q■ 政府において、未だ政策決定の場に立つ女性が少ないが、その背景と解決策は。

■A■ 日本には、女性が物事を決めるような頭を持っていないという意識、女性は表に出て色々なことをこなす力がないという意識が未だ強いのではないだろうか。男女雇用機会均等法成立後でも、働き方の問題で、上手く機能していないのが現状である。今の日本では、家事・育児、そして特に介護の負担が女性にかかることが多く、それが政策決定者としての地位に女性が就くことを妨げている。

■Q■ ディーセント・ワークとは。

■A■ ディーセント・ワークとは、仕事の質に対して、それに見合った賃金を払うとことである。女性にとっては、事業を起こすときに銀行から融資を受けるのが難しい。特に、農家の女性が起業する際は、まず夫の名義で借金をし、その借金を返してから自分の名義で借りる、という二段構えの段取りが用いられている。他方、経営が安定している環境で、東京で起業する女性は、簡単に銀行から融資を受けることができたという例もある。ある一定の財力を持っているとみなされる女性に対しては、女性の着実な事業の展開の仕方が評価を得ており、安心してお金を貸せると考えられていることもあるようだ。なお、報告書のp. 26の第二段落にILOによる定義(注にはその原典である英語の定義)があるのであわせて参考にしていただきたい。

■Q■ 日本の女性団体の移り変わりの最近の流れ、特に、国際的な観点からはどのような流れなのか。また、女性団体は日本にどのような貢献を成し得るのか。

■A■ 戦後初期、全国的に組織された女性団体は60ほど存在していた。例として、戦争で夫を亡くした女性が、生涯独身で過ごすことになり結成した独身婦人連盟が挙げられる。独婦連は1999年から2000年にかけて解体した。高齢化などにより、徐々にメンバーが減ってしまったことが主な理由である。現在は33団体存在し、国際婦人年連絡会など、政府にロビイングする団体として依然として重要である。

高齢社会をよくする女性の会は国連婦人年連絡会に所属していない新しい団体であり、全都道府県に支部がある。以前のピラミッド型とは違う体系で活動しており、今後ともこのような新しい形が必要なのではないだろうか。優秀な男性・女性が、日本のNGOで活躍しているが、活動を維持するためにも資金面や働く環境を見直す必要がある。

■Q■ 男女雇用機会均等法の改正がなされたが、実際の影響力は少ないと感じる。それを規定する処罰規定などは作られないのか。

■A■ 経営者側の考え方が変わらなければ実現は難しい。しかし、労働組合に関しても、男性が代表であることが多く、経営者側と同じく、労働組合側も女性の権利に関しては意識が低いようだ。処罰規定を作りたいと政府は考えているが、抜本的な改革を行うとすれと抵抗を受け、実現は難しい。ジェンダー平等とは男女両方の参画を意味する。粘り強く取り組まなければならない。

議事録担当:田辺