ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第2部 第2章 第2節 国連およびネパールの基礎情報」
執筆者:石井 大河、小野 好之
問題意識及び問題意識をめぐる議論
NSPの活動を進めるにあたり必要になる予備知識を全員で共有することを目的として勉強会を行った。研究グループから、国連に関する基礎知識とネパールの基礎についての調査・研究結果が報告された。
国連の組織とその役割、ミレニアム開発目標(MDGs)の成果と反省を踏まえて新しく持続可能な開発目標(SDGs)という目標が設定され動き出していること、活動における内政不干渉の原則についての議論が行われた。
ネパールの基礎知識として、基本統計情報、歴史・文化・宗教、地理学・地政学的情報、政治体制・行政機構について調査・研究結果の報告がされた。王制から民主制への移行が進められている最中であり、行政基盤も十分整っていないことが指摘された。また、多民族・多宗教国家であり、カースト差別が存在していることもポイントとしてあげられた。
ディスカッション内容
中国とインドという大国に挟まれた地理的環境を背景に、古代から多様で豊かな文化を育んできた反面、多民族国家ゆえの課題が存在していること、震災の復興においてもインド系住民の政治的扱いから国境が封鎖され大きな影響を与えていることなどが議論された。
政治基盤が脆弱な状況において、内政不干渉の原則を踏まえつつ、地方政府や地域市民と、どのような距離感を持ってエンゲージメントを結び国連機関として活動をするのかが難しいという議論も行われた。
カーストやジェンダーといった弱者の視点で、医療や生活環境、教育について深堀りして調査する必要があるという意見も出された。
問題意識に対する仮説
以上のような議論を踏まえ以下のような仮説にいたった。
- ネパールにおける、国連活動では、ネパール政府のガバナンス不足、調整能力不足が障害になっているのではないか。中央政府の情報共有とコンセンサスを図ったうえで、現地にも積極的に足を踏み入れ、状況に応じて主導的に動く必要性があるであろう。特に人道的支援については、それが求められるのではないか。
- 震災復興支援においては、短期・中期・長期でスパンを区切り戦略を持って活動することが重要である。撤退についての戦略を持っていないと、援助がかえって現場自身の対応能力を削ぐことになるのではないか。
- 貧困の要因はいろいろ考えられるが、カースト差別や民族差別が世代を超えた貧困の固定化につながっていると考えられる。
参加者コメント
ネパールは日本ではヒマラヤがある国という認識しかない馴染みの薄い国であったが、歴史と文化に富んだ魅力のある国であることが共有できた。多民族・多宗教、民主化したばかりで行政基盤が脆弱といった重要な視点が得られ、今後の調査研究にとっても有益な勉強会であった。