パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航前:特別勉強会」

特別勉強会:大野政義さんをお呼びして

1.概要

パプアニューギニア(以下PNG)の国家計画モニタリング省・財務省にてアドバイザーとしてご勤務されている大野政義さんが日本に一時帰国されたタイミングで、PSP参加者に対してPNG全般に関してレクチャーをしていただく会が開催された。

大野さんがご用意くださった資料をもとに、PNGの基礎情報・財政状況・中期開発計画・日本との関係などについての説明を受けた後、PSP参加者から事前に集めた質問事項に対し一つずつ答えていただく流れであった。全般的に、日本での事前調査では見つけにくかった情報を得ることができた。以下、主な議論内容である。

2.PNGの概要に関するご説明

⑴ 基礎データ関連

PNGの基本情報について、事前の勉強より濃い内容の説明をしていただいた。新たな学びの例を以下に挙げる。例えば、一部の参加者はPNGを多民族国家と誤って理解していたが、民族としては基本的にメラネシア系であり、むしろ「多部族」国家であると訂正された。産業についても、液化天然ガス(LNG)のイメージが強いPNGでは、漁業も盛んであり、マグロなどは日本も大きく依存しているということを学んだ。

⑵ 財政関連

統計情報を見ながら、大野さんにPNGの財政状況についてご説明いただいた。現在、支出が収入を上回っている状況であるが、支出の内訳として州政府への拠出金が多い一方、税収の基盤になるフォーマルセクターが弱く収入が少ないことを教えていただいた。国債も国内の商業銀行ばかりが買う状況であるうえ、天然資源開発においても契約条件で不利になる等の理由で十分な収入を得られていない状況であるとのことだった。

⑶ 中期開発戦略

大野さんは、中期開発計画(2018-2022)の策定に参画しており、開発戦略の方針についてご説明があった。製造業が育っていないPNGでは、欧米諸国が行ってきた伝統的な開発モデルが使えないため、零細中小企業の支援や、携帯電話を使った金融包摂(*)が計画に組み込まれているという。しかし、借りた金を返すという意識がきわめて低いワントク文化のネガティブな部分をどう考えるかが課題である。貨幣経済が進んできた現在では、伝統的なワントク文化と近代的な発展とが相容れないワントク文化が十分に成り立っていた過去とは異なり、貨幣経済が進んできた現在では発展と相容れない部分も出てくるという指摘もあった。

(*)主に貧困層や中小零細企業に対し、経済的に不安定な状況の軽減に必要な預金・ローン・保険などの基本的な金融サービスへのアクセスを提供し利用可能とすること

⑷ 日本との関係

PNGに対し日本は貿易赤字であることに加え、日本の「開発協力(Development Cooperation)」は、開発援助と異なり、PNGの開発のお手伝い・人材育成という立ち位置であることが強調された。重点協力分野は経済基盤の強化、社会サービス、環境・気候変動・防災であるものの、多様性ゆえに教育などの社会サービスは行き渡っていないこと、また防災が含まれる背景については、PNGは火山、地震、津波などの災害に対する脆弱性によるものだと説明を受けた。

3.質問へのご回答(抜粋)

⑴ 渡航関連

PSP参加者の懸念の一つである治安について、質問をした。大野さんのご回答としては、確かにハイランド地方やポートモレスビーは治安が悪いが、ラバウル・ココポのあるニューブリテン島は治安は良いとのことだった。しかし、大野さん自身も、ご自宅を数回襲われたことがあるという。また、ポートモレスビーで女性だけで動くことや、現金を持ちすぎることについて、控えるようにとの注意があった。また、マリファナ栽培による犯罪者が増加傾向にあること、警察の質が低いこと(同じワントクの犯罪者を見逃してしまう等)の情報も教えていただいた。

加えて、渡航初日がPNGの独立記念日であるため、機関の訪問が可能かという質問に対しては、基本的にその前後は皆仕事をしておらず、国連機関や役人もあわせて休暇を取るため、訪問が可能か早めに確認するようにとアドバイスをいただいた。また、彼らの返信は遅く、アポをとっても会えないリスクもあると伺った。なお、通常の公務員の勤務時間は7:45~16:00だが、勤務態度は悪く(ただし財務省では22:00頃まで残業しているようなエリートもいるとのこと)、質問事項も予め送らないと、その場では答えられない可能性もあるとご指摘いただいた。

また、発生しているポリオについては、マダン州が一番危険と聞いており、その周辺地域において問題はないものの、病院には行かない方が良いとの助言をいただいた。

⑵ PNGの生活全般

まず、生活感について質問があった。治安とも関連するが、ポートモレスビーは気が抜けない一方、地方は自然が豊かでのびのびしており、食糧には困ることもないとの話があった。また、若い人はグローバルになってきており、伝統社会から脱却しようとしている人もいると伺った。なお、一般的に政治への信頼度は低く、首相の評判は悪い(腐敗の塊と野党は批判)とのことだった。

また、地方では、村に入ってしまえば相互扶助的でその中の治安はよいが、ハイランドの村には、女性が立ち入れない男性専用の家屋のような伝統的な価値観が残っていると教えていただいた。州都は夜は治安は悪くなるとも話があった。

インフラについては、電気は村にないが、小型のソーラーパネルが手の届く範囲になっている他、インターネット利用も増えており、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)により農作物の価格などを提供するサービスも市場などで利用されていると教えていただいた。

宗教について、キリスト教はどんな奥地でも浸透しているとのことだった。言語については、共通語は英語とピジン語であるが、数キロ離れた村では言語が全く異なるため、住民は4言語程度は話せると教えていただいた。

⑶ 開発

PNGで必要な国際協力は何かという質問に対し、人づくりが何より大事とのお答えを頂いた。最近はコンサルタントが外部から色々提供しているが、そうではなくPNG自身に試行錯誤させつつ自国にあうスタイルを探すべきとのお考えであった。

多文化という観点からは、独立当初は部族をまとめる方針もあった(他部族との結婚を間接的に奨励していた)が、各州に自治権を持たせる方針に変わったと伺った。開発計画策定者の目線では、与党連合によるトップダウンはかなり強く働いており、先日オニール(Peter O’Neill)首相が北京に招かれて、財務省が認可していない援助プロジェクトにサインしてしまったそうだ。

⑷ その他

PNGでは採掘産業が盛んであるためグローバル企業の活動が目立つ。関連して以下のような言及があった。(i)“price transfer”つまり現地法人にコスト上の負担を強いて、親企業は税金を減らす仕組みがPNGの法人税を減らしてしまう。(ii)LNGメジャーであるエクソンモービル社は村にパイプラインを引いて援助をしているため、CSR活動としてイメージは良いが、本業の利益に比べると微々たる貢献である。(iii)収益ルートの透明性は天然資源がある国につきまとう問題であり、PNGでも様々な援助機関が収益管理の支援をしている。(iv)現在マレーシア資本が流入し、様々な分野でビジネスを展開している。

関連して、PNGからの原木輸入について以下の2点の言及があった。(i)欧米や日本は、持続可能への配慮に批判もある中国で製材してから自国に輸入しており、環境保全の活動をしているNGOはこの輸入ルートを強く批判している。(ii)住友林業は現地で植林して輸出することによって持続可能な環境保全を実現している。

土地と資源については、以下のような言及があった。(i)土地はほとんど登記されておらず、法律上、地面の下の資源はその地域のものではなく国のものとされる。(ii)エクソンモービルのときは土地買収手続きを省略してしまい、問題が生じたため、現在プラント建設中の会社は手続きの徹底を心がけている。

最後に、PNGの魅力とは何かという問いかけに対し、大野さんからは、「PNGは人々が素朴で自然も豊か。観光開発されていないためダイビングやサーフィンのスポットとして人気。ただし、パラオのようにマスツーリズムで失敗しないように、PNGでは持続的な観光業を薦めたい。PNG-上海直行便が就航するため危惧している。」とお答えいただいた。

4.所感

PNGに大勢の日本人が行くことは珍しいため、大野さんにも歓迎していただき、予定時間を超過してまで色々な説明を受けることができた。事前の調査だけではわからなかった情報に加え、PNGで国際協力に携われている方でないと聞けないような意見を伺うことができた。それだけではなく、渡航に備えて治安や過ごし方に関するアドバイスや、訪問予定機関への紹介も引き受けてくださり、渡航準備およびPSPとしての学びについて、大きく前進できた機会だった。また、参加者の多くから渡航が楽しみになったという声があり、非常に意味深い会であった。