パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航後:北海道報告会」

1.報告会概要

  • 場所:Ten to Ten Sapporo Station
  • 日時:2019年1月20日 13:00~16:00 

PSPの第2回報告会は、北海道・札幌にて、パプアニューギニアにおける環境と開発、文化的多様性に焦点を当てて行われ、渡航者2名による発表と参加者を巻き込んだ活発な議論がなされた。報告会に続けて懇親会も開かれ、PSPメンバーと報告会参加者との交流の場となった。

2.PSP紹介及び渡航者個人発表

① PNGにおける環境と開発(北海道大学農学部2年・中村翔陽)

パプアニューギニア(以下、PNG)は高い生物多様性と豊富な希少種・固有種を有する、世界にも稀な自然豊かな国であり、地球最後の楽園とも呼ばれる。SDGsの普及もあり地球環境が世界中で重要視されるようになった今、PNGを捉えるうえで環境の観点は欠かせない。実際、PNGでは開発に起因する様々な環境問題が生じていることが渡航前のリサーチで明らかになり、特に政府の腐敗・管理能力の弱さが目立っていた。

実際に渡航してみてまず実感したのは、PNGには海洋や森林といった大自然が存在し、そこには多様な生物が生息していることであった。そのような場所で、一般の人々・政府・企業や国際機関の各アクターがPNGの自然環境とどのように関わっているのかを探った。一般の人々は、生活が自然に依存していることもあって自然環境の重要性は概ね認識しているようだが、ワントクや豊富な食糧の存在から現状に対する危機感が薄く、環境保全につながるような行動を起こすモチベーションの低さも感じられた。政府に関しては、教育省での環境教育をはじめとして若干の取り組みは見られたものの、腐敗や汚職も多いとされており、影響力は弱いように感じられた。企業や国際機関に関しては、子供たちへの環境教育、持続可能な森林管理を行うなど環境保全に積極的に取り組むところもあれば、利益を最優先に据えた森林管理を行ったり汚水を直接海に垂れ流すなど環境への配慮がない企業も存在することが分かった。

以上のことをまとめて、PNGの環境問題に対処するにあたっては、政府及び一部の企業の意識・行動の改善が必要であるとした。

渡航後、環境破壊を引き起こす要因を洗い出し1つの論理としてまとめた。それは、PNGの環境問題はガバナンスの問題であり、究極的には教育の不足に起因するというものである。すなわち、適切な教育がなされれば優秀な人材が育成され、政府の能力に反映される。そして政府の能力はガバナンスに直結し、ルール作りが促進されてやがて環境へ行きつくというものである。これが正しいとするならば、PNGのガバナンスや教育を変えていけば良い。だが、政府が機能せず海外企業が目先の利益を求めて開発を進めてしまっている現実がある以上、外部つまり国際社会からの支援が必要なのではないだろうか。

実際、現時点で様々な国際機関がPNGに対して支援している。しかしながら、めざましい効果があがっているとは言えないのが現状だ。なぜ支援の効果が薄いのか、どのような支援のあり方が良いのか、そもそも各国はなぜコストをかけてまでPNGを支援するのか、この問いを1人ひとりが考え、国際協力の意義やあり方を見直すことによって、よりよい社会が形成されていくのではないだろうか。

② PNGの文化的多様性と危機(北海道大学理学部3年・上川伶)

PNGでは、生物多様性のみならず、多様な部族社会を構成するワントクシステムに代表されるエスニシティや800を超える言語(Lewis 2009)といった人間の文化的多様性も観察することができる。生物進化の過程において、生物多様性により外的な環境変化に適応できる種が生存可能であるとするダーウィン進化論を参照した文化進化論の枠組みにおいても(Mesoudi 2016)、文化的多様性の保持により種としての文化が保存される可能性が高まると言える。

また、2001年にUNESCO総会で採択された文化的多様性に関する世界宣言の第1条で「文化的多様性は、交流、革新、創造の源として、人類に必要なものである」と述べられており、1975年の独立時に発効されたパプアニューギニア独立国憲法に「わが市民の文化・商業・倫理上の多様性は明白な強みである」と記されていることからも、一般的に多様性は重要であると認識されている。

一方で、多様性をめぐる困難も存在する。

第一には、言語である。世界的には、少数言語が単一言語を理想とする近代国家のイデオロギーに抑圧され言語紛争などを招いた経験から、あらゆる言語に対して平等な価値を見出す多言語主義が欧州を中心に広がり、現在では少数言語を衰退・消滅の危機から救おうという動きがある。しかし、アイデンティティの保持を重視した多言語主義はすでに十分な経済発展を遂げた先進国に受け入れられる考え方であり、一般に多言語状態は低い経済発展水準と一致している(Coulmas 1993)ため、発展途上国においてはアイデンティティの保持よりも言語統制によるコスト削減が優先される。事実として、PNG国内ではピジン英語であるトク・ピシンが共通語として話されており、世界とのつながりや経済的利益の獲得を目的として旧宗主国の言語である英語の普及もメディアや教育現場を中心に進んでいる。交通インフラの整備に伴う国内の移動やグローバル化による海外との交流が増えていることもあり、地域固有の言語数は減少傾向にあるという。

第二には、経済である。経済発展を望む人々が多い中、PNGの伝統文化の維持が必ずしも経済発展に結びつかないという事実が、現地における従来の文化には存在しない資本主義の導入という結果を招き、多様性の源流とも言える伝統文化が市場原理により淘汰されている。また、PNGの通貨のほかにシェルマネーを用いた経済活動が行われている地域が存在するため、統一された一つの指標で正確に国の経済状況を測ることが難しい。

第三には、政治である。国会議員は各部族の利益代表として選出されるため、自ワントク内の候補者を当選させるための不正が絶えない。まさに、民主的選挙というより無政府状態(塩田 2006)なのである。また、利益代表である議員にとっては出身ワントクの利益を最大化することが目的となり、公共性がある一貫した政策立案が行いにくいという現状も存在する。統計的にも、腐敗認識指数が180カ国のうち135位(Transparency International 2017)、政治腐敗抑制度が209カ国・地域のうち174位(World Bank 2017)と、総じてPNGのガバナンスは脆弱であると言える。

このような困難の背景について、内的要因と外的要因に分けて考えた。

内的要因としては、国内の統治がワントクシステムに依拠していることが挙げられる。植民地時代から国家の統一は実現されておらず、国民国家としての歴史はわずか40年余りであるため、部族ごとの統治システムは国家による政治システムよりも強力である。多様な部族社会を統制し、既得権益を超えて国家機能を支えるリーダーが不在であるため、国家の統治は困難を極める。

外的要因は、世界経済の「政治的トリレンマ」(Rodrik 2014)、すなわち、グローバル化、国家主権、民主主義が同時に成立し得ないというものである。グローバル化が進む現在において、国民主権との組み合わせは小さな政府、低税率、規制緩和、民営化といったグローバル資本主義に基づいた経済政策と国内の民主政治に隔離をもたらし、トマス・フリードマンが『レクサスとオリーブの木』で提唱した「黄金の拘束服」により国民の民主的決定は制限される結果となる。一方で民主主義を選択すれば、究極的には国民国家を超越した民主的政治体である世界政府を目指すことが考えられる。現在、局所的ではあるがEUがその一例であるとも言える。しかし、言語や法といった多様性がある中で共通のルールを作るには国家間の隔たりがあまりにも大きく、またイギリスのEU離脱やポピュリズム政党の台頭を招いているEU諸国の課題を考慮すると、国家を超えた民主主義の実現が望まれない現状があることは確かである。

そのため、ロドリックは国民主権と民主主義を選び、グローバル化を制約することが望ましいとしている。ただし、自由貿易やグローバル金融市場、労働ビザなどの規制が国家間の経済格差が再び拡大する恐れを内包していることには留意しなければならない。さらに、ワントクに依拠しており文化的多様性に富むPNG特有の政治システムとして、国民主権・民主主義というよりワントク主権・無政府状態と言える現状であるため、よりPNG国内の文化に即した独自の政治システムを確立することが求められるのではないだろうか。

PNGを特徴づけるキーワードは総じて「多様性」であると言える。しかし、多様性とはすでに政治的安定を実現した先進諸国が半ば一方的に主張する価値観であるとも言え、複数の言語を擁するなどの要因やガバナンスが脆弱である現状、また当事者である現地の人々の意識が経済成長を差し置いて多様性の維持に向いていない現状を考えると、文化的多様性を実現し維持することは容易ではない。実際に先進諸国においても昨今は世界的に多文化主義の退行が見られ、江戸時代は強権的な政治体制でありながら多様な文化が存在した日本も、現代では多様化よりも一元化(NHK放送文化研究所 2015)している。

このような世界情勢にあり、アイデンティティの保持よりも経済発展や政治の安定を求める国々を前にして、多様性の価値は本当に普遍であると言えるだろうか。

<参考文献>

  • Melvyn Paul Lewis(2009)Ethnologue, Papua New Guinea
  • Alex Mesoudi(野中香方子訳、竹澤正哲解説)(2016)『文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか』
  • Florian Coulmas(諏訪功、大谷道、菊池雅子訳(1993)『ことばの経済学』
  • 塩田光喜(2006)「崩壊の予兆:パプアニューギニア議会制民主主義の人類学的分析」
  • Transparency International(2017)グローバルノート「腐敗認識指数 国別ランキング・推移」
  • World Bank(2017)グローバルノート「世界の政治腐敗抑制度 国別ランキング・推移」
  • The Wantok System as a Socio-economic and Political Network in Melanesia
  • Dani Rodrik(柴山桂太、大川良文訳)(2014)『グローバリゼーション・パラドクス:世界経済の未来を決める三つの道』
  • Thomas L. Friedman(東江一紀訳)(2000)『レクサスとオリーブの木:グローバリゼーションの正体』
  • NHK放送文化研究所(2015)『現代日本人の意識構造』

<質疑応答>

1)なぜ多様な部族が存在する中でも1つの国家を形成することができたのか。

――独立国という形態がそれを可能とした。それに伴って、言語の統制や各地域・部族間での協力関係の構築が必要な状況となっている。

2)ワントクのイメージは具体的にどのようなものか。働かなくてもよい、自立しなくてよいという性質も伴うようだが、例えば日本で言うと何にあたるのか。

――ラバウルの村を訪問した際に、村人に「普段何をしているのか」とインタビューしたところ、「何もしていない、することなど何もない」と強く言い切っている人もいた。食べ物に困らないということもあり、ワントク内の一部の人が働けば成り立つ大家族のような集団である。

――大学を出ても仕事がなく、仕事に就くことできる人はおよそ2割である。これに周りの人が依存している状態である。

3)PNGの環境教育はどのように行われているのか(環境問題は地球規模の問題であり、地球市民の一員として自覚を持てば環境教育はやりやすいと思われるが、PNGにおいてはどうか)。

――国際的な視野を持った国際NGOが活躍している印象。例えば、OISCAは地域コミュニティ単位を対象にして活動している。

4)PNGの学生たちは、PNGのワントクシステムに対してどのように考えているのか。

――ブタル大学の学生の1人は、国としてやっていくときに、各部族同士が協力してやっていくのは難しいだろうと言っていた。

5)政府の汚職に対して反汚職教育を挙げていたが、具体的にどのようなものか。

――政府は国の代表であることを認識させるような教育。汚職が多いとされるPNGでは、政治家がどのようにあるべきかを教えることが重要ではないか。

――ワントク主体の政治システムが所与として存在する倫理観の中に、個人の主権が尊重される民主観を根付かせる必要があるのではないか。

6)ワントクの規模はどれくらいか。また、争いがしばしば起こるという話があったが、助け合うことはないのか。

――地域によって大小さまざま。助け合うこともあると伺ったが、具体的なところにまでは踏み込めなかった。

7)パプアの環境破壊の現状はどのようであったと感じたか。

――一定程度起こっている印象。開発に参入している海外企業の影響は大きい。ただ、渡航前に印象として抱いていた、異常な速度・規模での環境破壊の様子は伺えなかった。

8)人々が生活している中で、多様性と一元化は国家論としてどうあるべきか。

――外部の思想で現地のあり方を歪めるべきでない。例えば、部族社会の中に無理やり選挙制度を押し込めるのは違うのではないか。PNGにおける自然状態に基づいた政治のあり方が望ましいと考える。

3.参加者ディスカッション

4つのグループ(A, B, C, D)に分かれてディスカッションを行い、アイディアを全体で共有した。その後、田瀬和夫氏のファシリテーションのもと参加者を交えて活発な議論が交わされ、国際協力や国連について理解を深める会となった。ディスカッションテーマは次の2つであり、①をA, B班が、②をC, D班が話し合った。

① 現在、様々な国際機関や国がPNGに対してコストをかけて支援している。では、各アクターが国際協力をする意義はどこにあるのだろうか。

(A班)各国(特に日本)、国連、一般的な人の3つの視点から考えた。国連の視点と一般的な人の視点との境界は曖昧であった。

  • 日本の視点:過去に国際社会からの支援を受けたため。日本にメリットがあるから。援助をすることで国際社会にアピールできる。
  • 国連及び人として:救える命を救うため。今ある環境や文化を保護するため。宗教や倫理観から。潜在的な能力を発揮できるようにするため。

(B班)国連・オーストラリア・企業・海外政府・JICA・NGOをアクターとして考えた。

  • 国連:SDGsの達成に向けて。国としての発展を望んで。
  • オーストラリア:統治してきた歴史があるから。市場や安価な労働力を求めて。
  • NGO:支援が元々の目的であるから。
  • JICA:外部資金獲得も望んでいるのでは。
  • 政府:ラスカルを減らす目的もあるのでは。

② PNGは世界有数の多様性を有しており、PNG政府もそれを尊重しようとしている。また、国連も多様性の重要性を唱えている。一方で、多様性の尊重には困難が伴う。なぜ、国家において多様性は重要なのか。

(C班)

  • 障がい者にとってはむしろ生きやすいのではないか。

(D班)

  • 例えば、学校のクラスの中での多様性を考えてみた。多様性が高いほどさまざまなアイディアが生まれる。逆に教師にとっては、多様性が低い方がやりやすいのかもしれない。
  • 多様性があった方が一般の人々は生きやすいが、まとめる立場の人たちは苦労することが多いのではないか。

<オープンディスカッション>

国連は、普遍的な価値を追求してきた。第二次世界大戦後、国際社会が求めたのは戦争・飢餓・いじめの撲滅であった。SDGsはそれが発展してできた概念。PNGでは「人々は幸せそうに暮らしていた」ように見えたが、本当に苦しんでいる人ははっきりとは見えない。そんな中、国連はHuman Sufferingを徹底的に減らすことを目指す。では、なぜ他国に経済支援をしなければならないのか。参加者の中からは次のような意見が出た。

  • 経済的利益
  • 国連の票集め
  • 人助け
  • 全く違う国々との関わりから新たなアイディアを生み出す

次に、多様性の議論に入った。「人間は平等=公平な価値を提供されるべき」という普遍的な価値観が存在する。一方、多様性は強みでもあり、今企業にとってはあって当たり前とまで言われるほどだ。では、どこまで多様性を許してどこまではまとめていくのが良いのか。次のような発言があった。

  • 多様性があっても、どこかでつなげる部分が必要ではないか。
  • 多様性の中の共通する部分→共通の目標を掲げる

多様性を維持しながらも集団としてまとまるには、

  • 1人ひとりを理解すること、1人ひとりが自分を表現することの重要性を認識すべき。
  • 強力なリーダーシップを発揮する、かつ独りよがりにならないように外部と接点を持つリーダーがいると良い。

といった意見が挙がった。

以上をまとめて、多様性を維持しつつ、国際協力で経済発展させていくにはどうすれば良いのだろうか。次のような意見が出た。

  • 世界中の人々が世界市民としての自覚を持つ。
  • 普遍的価値の追求。民間においても利益追求との融和が必要だ。

以上のことを踏まえて、田瀬氏の以下の見解で締めくくられた。

  • 国民の税金で援助するのは、自分たちの信じる普遍的な価値観を広めるため。
  • 経済的な援助は短期的すぎる。だから日本はルール作りに参画できていない。
  • 困った時はお互い様というのが世界のルールになったら良い。
  • 多様性はあった方がよいのではないか。最大公約数的な価値観があって、そこから新しい価値観が生まれる。

4.渡航者所感

PSPでの活動を通して多くを学び、考えた。それらを一般の方々にわかりやすく伝えるのには難しさもあったが、活発な議論が行えたことや新しい考えを生み出せたことに価値を感じる。PNGは今なお多くの問題を抱えており、共に発展していくためには国際社会からの援助が欠かせない。報告会では一般の方を巻き込んで国際協力について考えることができた。このような活動の積み重ねによって、より多くの人々に社会のあり方を考えてもらうことで、より良い国際社会・国際協力の実現に近づくのではないだろうか。