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国連広報の役割
〜日本政府と国際機関で働いて〜




「国際仕事人に聞く」第8回では、国連広報担当事務次長の赤阪清隆氏にお話をうかがいました。赤阪次長は2年前に現職に任命される前は、外交官として各国の在外公館で勤務されたほか、関税と貿易に関する一般協定 (GATT) 事務局、世界保健機関 (WHO) 事務局などの国際機関でも長くお仕事されていらっしゃいました。今回は、国連広報の役割と課題について、また、日本政府と国際機関の双方でのご経験をもとに、国際社会における日本の役割などについてもお話いただきました。(2009年4月3日於ニューヨーク)

現在、国連広報局で取り組んでいる課題などについてお話し下さい。

毎年、年の初めに広報局としての一年の優先課題を議論して決め、ニューヨークの本部にいるおよそ450人と世界各地にいる350人の職員でその課題に取り組んでいます。優先課題は事務総長の政策課題に従って決めますが、平和と安全保障、開発、人権、という国連の三本柱にそったものとなります。今年ならガザ、ダルフール紛争、アフガニスタン、ミャンマー、北朝鮮の安全保障問題などの重要な課題がありますが、これに対してそれぞれどういう形で国連の広報をするのかを決めます。

 

赤阪 清隆(あかさか きよたか)
国連広報担当事務次長



京都大学(法学部)卒。英国ケンブリッジ大学にて経済学学士及び修士号取得。1971年外務省入省。在マレーシア日本大使館、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、関税と貿易に関する一般協定 (GATT) 事務局、世界保健機関 (WHO) 事務局等に勤務。1997年には、大臣官房外務参事官(のちに審議官)兼総合外交政策局国際社会協力部に任命され、京都議定書の交渉にあたる。2000年から2001年は国連日本政府代表部大使を、2003年から2007年は経済協力開発機構事務局 (OECD) 事務次長を務める。2007年、パン・ギムン国連事務総長により国連広報担当事務次長に任命。

 

ただ、ものによっては非常に難しい問題もあり、はっきりと立場を言えないこともあります。その中で、できるだけ迅速に、タイムリーに、正確に、包括的に、そして公平な立場で広報を行えるよう心掛けています。公平(Impartial)というのは、中立(neutral)という距離を置いた感じとは違い、どちらか一方に偏らない広報のことをいいます。これは言うは易く行うは難しで、たとえば、スーダン大統領への国際刑事裁判所の逮捕状発行の問題(※語句説明1では、正義を求める声とスーダンにおける政治的な安定を求める声の間で駆け引きがあります。一方的に正義だけを追求する広報では、人道支援を行うための政治的な安定に向けた動きにかえって逆効果になることもあります。ですから、正義と政治的な安定の間でうまくバランスを取りながら広報しなければなりません。また、北朝鮮のミサイル発射問題にしても、日本国民からすれば、もっと国連にはっきりと言ってほしいという要望は当然ありますが、国連側からすれば、北朝鮮も加盟国ですし、安保理がこの問題を審議しようとしている時に、広報局としてこの問題にどこまで突っ込んだ声明を出せるかは非常に難しいところです。

“一方に偏らない公平な立場で広報を行う。”

広報局で取り組んでいる優先課題として、平和と安全保障の問題以外にも、ミレニアム開発目標(※語句説明2の実現に向けた国際的な動きの支援など、開発に関する課題に取り組んでいます。また、人権問題では、去年、世界人権宣言の60周年キャンペーンを積極的に展開しました。今年は、近く南アフリカ共和国で開かれる人種差別撤廃ための会議や、12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動に関する会議の成功に向けたキャンペーンに力を入れていきたいと考えています。国連広報局だけでなく、国連開発計画(UNDP)や国連環境計画(UNEP)や世界保健機関(WHO)など各機関の広報と連絡を密にとって、国連として一貫性のある広報を行うように努めています。

国連の広報として、NGOやメディアとの関係についてどう考えていますか。

国連の一番のスポークスパーソンである事務総長を国連全体の代表として前面に出す形で、広報を行っています。ただ、事務総長だけでは国連の広報は十分ではないので、国連の各機関の広報担当との連携も図っています。また、国連の行っている安全保障や開発、特に人権の分野で非政府組織(NGO)や市民団体が果たす役割は大きいので、そのパートナーシップも広げるよう努力しています。広報局に現在登録されているNGOは、日本のものも含めて1600団体ぐらいあります。毎週、それらの団体の代表と協議がありますし、NGOと一緒に世界人権宣言の60周年の記念行事や気候変動のキャンペーンを行ったりもしています。できる限り、NGOや市民団体、大学などの教育機関、また、最近ではテレビや映画産業などとのパートナーシップを強化しています。いろいろな媒体を通じて国連の活動や目的を幅広く知ってもらえるように、サポート体制を強化するのが私たちの任務だと思っています。

国連は良い意味でも悪い意味でもイメージが先行している組織だと思いますが、広報の観点からどのようなところに気を付けていますか。

民間の調査会社ギャラップの調査などによると、国連に対するアメリカ国民の見方はジェットコースターのように上がり下がりが激しいようです。1990年代初めや2002年には50%を超えるアメリカ国民が国連が良い仕事をしているという見方をしていましたが、2008年にはそれが26%くらいまで下がりました。国連のイメージは特にアメリカや中東で芳しくなく、国連が良い仕事をしていないというイメージが先行しています。それは私たちにとって悩ましいことではありますが、一方でこのイメージはその時の国連と加盟国との関係を反映しているとも思えます。たとえば、アメリカの場合は、90年代初頭にアメリカが国連と協力して第1次湾岸戦争を行った際には急に国連へのイメージが上がり、第2次湾岸戦争のようにアメリカが独自に戦争に入って、当時のアナン事務総長があれは国連憲章違反だと批判的になった時にはアメリカ国民の国連への支持が極端に下がるというような傾向にあります。そういう面では、国連が行っている仕事自体への評価というよりは、国連と特定の加盟国とのその時の政治的な関係がかなり反映していると言えます。中東で国連のイメージが悪いのは、パレスチナ問題をめぐって、安保理が十分な対応をしていないという見方が強いからだと思います。

“国連が地道に進めている開発や人道支援などの活動をできるだけ正確に知ってもらいたい。”

広報局としては、その時々の安保理の決定や加盟国との関係が国連に対する理解に直結するような表面的な関係ではなく、国連が地道に進めている開発や人道支援などの活動をできるだけ正確に知ってもらうように努めています。国連はこういう活動もしていると理解された上でいろいろな意見が出てくるのはいいのですが、基本的な理解がないまま、その時々の政治的な問題の方向次第で国連全体への見方が変わるのは好ましくありません。そのためにはもっと地道な広報努力が必要だと痛感しています。

日本政府と国連での広報対応の違いは何かありますか。

日本の場合は、日本の風土や文化など一般的な情報を知ってもらうための一般広報と、日本政府の考えや立場を説明する政策広報とでは、それぞれが半々か、一般広報の側面の方が大きいと思います。他方、国連の場合はほとんどが政策広報となります。国連とはこういうものですという広報ももちろん行っていますが、国連の優先課題や取り組みなど、政策に焦点を当てた広報が中心になっています。

国連の場合、年間を通してインターナショナルデー(国際デー)というのが数多くあります。たとえば、今年の3月ですと、「国際婦人デー」や「国連水の日」などがありましたが、各分野でキャンペーンが必要なものを重点的に広報しました。最近はじめた女性への暴力をなくすキャンペーン、ミレニアム開発目標を2015年までに実現するためのキャンペーン、気候変動問題に関して国際的な合意を促すための「Seal the Deal」キャンペーンなど様々なものがあり、それを成功させるために、総力を挙げて取り組んでいます。日本政府の場合は日本の国益を推進するための広報ですが、国連の場合は一国の利益のためという訳にはいきません。加盟国の合意がある目的を達するためのキャンペーンになります。このキャンペーン活動に加え、現在課題になっている平和や安全保障の問題などに関して国連が決める政策を支えるための政策広報が中心になります。

これまで、赤阪さんは日本政府の立場と国際機関の立場から仕事をされてきましたが、どのような点に共通点、また違いを感じていますか。

日本政府の中で仕事をするとき、たとえば、国際会議に出る場合は事前に方針を決めて、その範囲の中でできる限り目標を達成できるように努めます。つまり、はっきりとした行動指針があります。他方で、国際機関で働くときは、その最後の目標を達するという点では共通していますが、たとえば国際的な合意を作ろうとする場合、参加している全ての国のプラスマイナスに配慮をしなくてはいけません。そういう意味では一直線に行動を取るわけではなく、かなり行動に制約が課せられているように思います。

国際機関の職員はそれぞれの加盟国に配慮して行動しないといけないので、言いたいことも言えず、書きたいことも書けないなど、制約がずいぶんあります。変なことを言って、加盟国から中立ではないと言われたら、反論のしようがありません。いろいろなことを周りから言われますので、それをあまり気にする人には国連は向かないと思います。むしろ、しっかり腹を据えておかないと、なかなかどの国からも文句をつけられないというのは難しいものです。自分の国の国益ということで、一直線に進められる各国の外交官の立場の方が精神衛生上はいいかもしれません。国際機関で長く働くと面白い文章が書けなくなると言われるのは、はっきりものを言うと角が立つので、どうしてもあいまいな文章になってしまい、何の面白みもない官僚的なものになってしまうからだと思います。

これまで、京都議定書の策定や経済協力開発機構(OECD)など、外交や国際情勢の最前線でいろいろなお仕事をされてきましたが、特に印象深いエピソードはありますか。

関税および貿易に関する一般協定(GATT)では、自分が書いた文章や政策提言が実際の経済活動や政府対策につながっていたので、その影響力の大きさを実感し、面白いと感じました。GATTにいたときは、運よくアメリカの貿易政策の調査文書で思い切ったことを書く機会がありました。こうした経験を通して、国際機関でもっと働きたいと思うようになりました。

WHOで仕事をした時は、ミャンマーで赤ん坊に小児麻痺のワクチンを口から注入する機会がありました。他の子どもは泣いていたにもかかわらず、この一歳くらいの女の子は泣かずに微笑みかけてくれました。ワクチンは二度受ける必要があるのですが、この子がもう小児麻痺になることはないと思うと、涙が出るほど嬉しかったです。また、当時のザイール、今のコンゴ民主共和国のキクウィットでエボラ熱が出て、WHOのチームと現場に行ったときのこともよく覚えています。私は医者でもないのですが、WHOの一行とともに村中の人たちに大歓迎で迎えられ、我々の車は感謝の手を振る大勢の人々に追いかけられました。これには非常に感激しましたし、国連はこれほど人々に喜ばれる重要な仕事をしているのだとあらためて思いました。

ただ、国連の場合、このような喜びは現場ではありますが、ジュネーブやニューヨークの本部では会議に追われ、議定書や条約の作成など違う種類の仕事をしているので、何かを達成したという充実感はなかなかつかめません。現場と本部はどちらも重要な仕事をしているのですが、本当に働いた充実感を感じるのは、現場で人助けをするときだと思います。同じように、広報の面でも本部のいろいろな活動を伝えるだけでなく、現場で国連がどのような形で役立っているか、できるだけ具体的に伝えていかなければいけないと思います。私たちはそのような具体例を集め、国連が人々の役に立っていると理解してもらえるような広報に力を入れています。

日本は国連の第二の拠出国であり、来年の末まで安保理の非常任理事国を務めていますが、国際社会から日本が求められていることは何でしょうか。

日本は国連の政策決定にもっと直接関わることが求められていると思います。これまでは、国際貢献や国際協力の名のもとに、既に国際的に行われていることに対して日本も協力するという形が多かったと思いますが、もっと日本がリーダーシップをとって具体的な提案をしてもよいと思います。

国連でも、私が以前勤務していたOECDでも、日本の経験を使って新しいイニシアティブをとろうという動きはありました。これは今までより更に大事になってくると思います。開発や人権の問題などでも、日本の力を使えば、非常に大きな仕事ができるでしょう。今、事務総長が力を入れている気候変動の問題でも、日本のもっと積極的なリーダーシップが期待されています。これまでのところなかなか日本国内で合意ができず、アメリカやヨーロッパの動きを見た上での判断になっています。これでは間違った政策は出てきませんが、国際的なリーダーシップはとれません。

“日本には国際社会で率先して主導権を取ってもらいたい。”

日本が率先してイニシアティブをとることのできる具体例としては、たとえば、来年名古屋で開かれる生物多様性条約の会議(COP10 (※語句説明3)があります。これには世界の期待が高まっており、このような分野で日本にもっと積極的に引っ張っていってもらいたいと思います。また、今のような金融危機で、世界中の国、特に途上国が困難な状況に陥っている場合は、日本の経験から学んだことを活用できると思います。日本はいわゆる「失われた10年」の間にさまざまな困難を乗り越え、省エネなどの新しい動きも始めました。このような重要な教訓を日本は世界各国に広め、率先して主導権を取っていってもらいたいと思います。

 

日本がそういったリーダーシップに欠ける立場を外交上よく取るのは、なぜだと思いますか。

それは日本が非常に賢明というか、国益を守るために手堅い、間違った対応にならない政策をとっているのだと思います。その代わり、アメリカやヨーロッパなど他国の後をついていくような政策にもなり得ます。小国の場合は国益を守る方策として妥当ですが、日本のような大国がいつもそんなことをしていて良いのかということにもなります。そのような状況を避けるためにも、日本にもっとリーダーシップをとってほしいと思います。

このような日本の対応は、もとは、まだ第二次世界大戦の処理が十分に終わっていないことにあると思います。日本には、朝鮮半島、日中関係、台湾、北方領土の問題など、様々な問題が残っています。これにより、日本は国益のためにこのような問題を一番に解決しなくてはいけないので、戦後処理をほとんど終えたヨーロッパと比べると、あまり世界規模の問題でリーダーシップをとる余裕がないのかもしれません。そういった意味では、日本は過去の問題にまだ縛られていますが、早くその状況から脱せないものかと思います。

たとえば、東アジア地域における環境問題として酸性雨の問題がありますが、日中韓、あるいはロシアや東南アジアの諸国も含め、日本が率先して酸性雨対策のための条約機構のようなものを提議できればと思います。ヨーロッパも、酸性雨の問題を通じて、1970年代に環境面での国家間の協力が大きく進みました。ヨーロッパが30年以上前に経験した地域協力のレベルにも、アジアはまだ達していません。日本のまわりに、同じような経済発展をした国がこれまであまりいなかったので、ヨーロッパ諸国のような協力は難しかったのかもしれません。しかし、今では中国も韓国も東南アジアも大きく発展しました。日本がいろいろな分野でリーダーシップをとり、グローバルな問題に対応する時はもう来ていると思います。

リーダーシップをとるというのは、日本が言われて久しい、いわゆる「顔の見える」人的な貢献をするということですか。

顔の見える貢献というのは日本にとって重要なのでしょうが、国際的には、顔が見えなくても役に立つ協力という動きが強まっています。それは援助の効率性の向上のための、2005年のパリ宣言(※語句説明4以降の動きですが、まだ日本はその動きに十分沿っていません。顔が見えなくても援助効果をあげるため、たとえば国際機関を重視した協力や、途上国の予算に直接援助を与える協力ができますが、それは日本としてやりにくいのかもしれません。日本の旗が現場で見え、日本からの協力であることが評価されるのは納税者としては当然のことで、そのような顔が見えない援助はやるべきでないという議論もあります。しかし、途上国で求められているのは結果であり、援助の効率を高めるためであれば、多少日本の顔が見えなくても日本への評価は十分されると思います。現在、日本のODAの予算は低く、GNP比率にしても、0.7%という国際的な合意から程遠い状況です。顔の見える貢献と言って現場で支援のケースを積み上げても、まだ日本の国力にしては援助額が少ないということでは国際的な評価は上がりません。本当に重要な貢献をしているかという意味での正確な評価は、現場で顔が見えることとはあまり関係がないと思います。

他方で、たとえば国連教育科学文化機関(UNESCO)の松浦事務局長など、国際機関のトップに日本人がいることは、国際社会で日本人の顔が見えることになり、日本にとって大変重要です。国連事務総長のパン・ギムンさんは韓国にとって国の宝になっていると思いますし、アメリカが世銀や国連児童基金(UNICEF)のトップのポストを手放さないのも、フランスやヨーロッパが国際通貨基金(IMF)を手放さないのも、国際機関のトップに自国民がいることの重要性を示すものだと思います。そういった意味での顔の見える国際的な活躍というのは今後も大事だと思います。

また、私もいろいろな国際機関で働きましたが、日本人は高い評判を得ています。日本人職員で問題があったことはあまりないですし、責任感が強く、誠実で、まじめに働き、チームワークがとれて、組織のために最大限の努力を尽くすという評価が定着しています。そういう意味で日本人職員に対する評価は非常に高く、たとえば国連平和維持活動(PKO)局からも、日本の警察官や自衛官をもっとほしいと言われます。正直で腐敗がなく、責務に忠実で責任感が強い日本の警察は、平和維持活動にうってつけです。いろいろな事情によりなかなか容易ではないでしょうが、こういった面での日本のもっと積極的な参加も期待されています。

国、市民社会、企業など、国際社会には様々なアクターがいますが、その中で国連が今後果たしていくべき役割についていかがお考えですか。

国連は政府間協力機構ですから、政府間の協力を進めていく役割があります。他方で、市民社会は世界の利益や地域の利益、コミュニティの利益を追求するので、国連と最終的な目標は同じでも、そのための協力体制や直接の目標が異なってきます。国連には、加盟国の国益が追求された結果としての世界的な利益がありますが、その中で市民団体が追求する地域やコミュニティの利益とも整合性を立てなくてはいけません。ですので、市民社会と協力し合い、同じ目標に向かっていく必要があります。

企業はまず企業の利益を優先させるのは当然ですが、以前のように、自らの最大利潤を追求するだけの共同体ではなくなってきました。利益を得る過程で社会的な責任も追求しなくてはいけないということはもはや常識になりました。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)を追求するなかで、いろいろな分野で国連と協力することもできます。私たちも今、企業、市民団体、大学などの教育機関、そして学生をはじめとした若い人たちの組織などとのパートナーシップを拡大しようと努力しています。最近は映画産業やテレビ業界など、大きな影響力のあるところとも協力が進んでいます。国連はあくまでも政府間の組織であり、その枠からは離れられませんので、枠を越えて自由に活動できる企業や市民団体、メデイアなどにいろいろな形で協力してもらいたいと思っています。



【語句説明】
1. スーダン大統領への国際刑事裁判所の逮捕状
スーダンは19世紀から1956年の独立まで、エジプトとイギリスの両国の統治下に置かれ、南北で分断された時期もあった。このため、北部のアラブ系スーダン人と南部の主に黒人の非アラブ系スーダン人の間で現在も対立が続く。第一次スーダン内戦(1955-1972年)と第二次スーダン内戦(1983-2005年)は終結したものの、西部のダルフール地域では、スーダン政府に支援されたとみられるアラブ系民兵組織ジャンジャウィードと反政府勢力の対立が2003年より激化し、今も紛争が続く。国連の推定では現在までに約20万人のアフリカ系住民が殺害され、約200 - 250万人の難民が発生したとされる。2009年3月、国際刑事裁判所(ICC)は北部政権を握る大統領兼首相、オマル・アル・バシールを、ダルフールにおける人道に対する罪と戦争犯罪で逮捕状を発行した。国際刑事裁判所が現職の国家元首に逮捕状を発行したのは本件が初めてである。
参考:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/sudan/kankei.html (日本語)


2. ミレニアム開発目標 (MDGs)
国連とその加盟国が2015年までに達成すると提示した8つの目標。2000年に国連加盟国によって採択された国連ミレニアム宣言と1990年代の主要な国際会議で採択された国際開発目標が統合された枠組みをもとにまとめられた。8つの目標とは、極度の貧困と飢餓の削減、初等教育の普及、ジェンダーの平等推進、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、エイズをはじめとした疾病の蔓延の防止、環境の持続可能性の確保、そして開発のためのグローバル・パートナーシップの推進である。
参考:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html (日本語)

3. 生物多様性条約第10回締約国会議 (COP10)
2010年10月に名古屋で開催される予定。1993年に発効された生物多様性条約の締約国が集まり、各種の国際的な枠組みを策定する。今回は、2002年のCOP6(オランダ・ハーグ)で採択された「締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」の達成状況を検証することも議題に含まれている。
参考:http://www.cop10.jp/aichi-nagoya/index.html (日本語)

4. 援助効果向上に関するパリ宣言
援助の質を改善し、効果を最大限に上げるために必要な措置について、援助国と被援助国の取組事項をとりまとめたもの。2005年にパリで開催された第2回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムで採択された。OECDが中心となり、援助国と被援助国のほか、国際機関と民間団体が参加している。被援助国の自助努力、開発成果管理など、援助効果向上のための原則、取り組み事項とモニタリング指標が提示されている。
参考:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/07_hakusho/kakomi/kakomi02.html (日本語)

(2009年4月3日、ニューヨークにて収録。聞き手:池田直史、コロンビア大学国際公共政策大学院、岡崎詩織、コロンビア大学国際公共政策大学院・ジャーナリズム大学院。立会い:田瀬和夫、国連事務局人間の安全保障ユニット課長、幹事会コーディネーター。写真:加藤里美、フォトグラファー・ライター。ウェブ掲載:岡崎)
担当:池田、岡崎、加藤


 

2009年5月21日掲載

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