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「人間の安全保障:概念の発展と実践」

田瀬和夫さん(OCHA 人間の安全保障ユニット課長)
渡部真由美さん(OCHA 人間の安全保障ユニットJPO)


2006年12月1日開催


(撮影:藤原紀香、著作権:国際連合)

質疑応答

 

■Q■ 日本政府の主導する基金以外に、人間の安全保障の理念を実践する機関としてはどのようなものがあるか。

■A■ @まずは、カナダの安全保障プログラム。但しカナダのODAとしての色が濃い。
(参加者より補足)
軍縮局では小型武器のキャパシティ・ビルディングのセミナーにあたりカナダのプログラムから約30万ドルもらった。カナダの基金も国連機関により十分活用されていると思う。
A次にHuman Security Network。人間の安全保障の概念に賛同する各国政府からの派遣要員で構成されており、独自の財源はないが、主に国連総会、委員会において決議等の文章に人間の安全保障の概念を入れ込むための政策的ロビーイング集団。

■Q■ 日本政府がシングル・ドナーのままで良いかどうかという議論について更に詳しく。

■A■ シングルドナーのままで良いという人はいなくなった。今は個別に他国の政府に話を持ちかけている段階。加盟国がこの基金の意思決定に関与することが大事。

■Q■ 物理的安全を超えたsecureを保障すると言いつつ、資金供与先が紛争地域に集中している印象だが、紛争地域以外に資金を拠出する場合の審査ポイントは。

■A■ 特定可能で、かつ、"critical and pervasive threats(広範かつ深刻な危機)"を重視しつつ、HIV/AIDSや人身売買などの複合的で人類学的な要素のある脅威が絡んでいるものを中心に光を当てている。





■Q■ カナダのプログラムとのco-fundingの試みについて詳しく。

■A■  ジョルダンの国王が経営しているHuman Security Centerの研究活動に対して日本とカナダが共に資金拠出している。人間の安全保障は、アラブではまだ新しく懐疑的でもある中で、幸いジョルダン政府は概念を支持しているので、アラブの文脈で何が出来るのか一緒に考えようという政策立案プロジェクト。更にもう一つ別のプロジェクトも日本とカナダで一緒にやろうかという話が進行中。

■Q■ 理想論としてはシングル・ドナーじゃない方が良いのだろうが、実際論としては審査期間の短縮を阻害するのではないか。

■A■ 数年前までは東京が審査の実質を握っており、日本で1年、国連で1年くらいの審査期間がかかっていた。しかし今は日本政府も国連に任せてくれるようになり、3〜4ヶ月で通るものも出てきた。こういった実務を進めていければドナーが複数になってもあまり問題にならないのではないかと思っている。

■Q■ 持続的な人間開発と、支援期間2年というのは矛盾があるのでは。

■A■ おっしゃるとおり2年間でインパクトを出すのは難しい。一方5年以上になると出口政策が見つからない危険性もある。よって3〜4年が理想的ではあるが、予算的に難しい。

■Q■ 評価方法についてもう少し詳しく。分野と機関の横断性を重視したり、欠乏からの自由と恐怖からの自由と言ったタイプの違う目標を持つ事業を重視したりすると、おのずと評価も複雑になると思うが。

■A■ 評価方法について課題は多いが外部監査も入れるなど前進している。但し、「裨益者の将来に対する希望指数がどう変わったか」「国連機関の態度がどう変わったか」を評価すべき基金であるが故の難しさがあり、基準となる軸をいかに設定するか、今議論が活発に行われている。
(参加者からの補足)
心理的社会的なことまで評価しようとする人間の安全保障は、MDGを超えてさらに高いものを見ようとしている。今まで、「図ることができない」から「ない」とされてきた、あるいは重要だと分かっていながらプログラムに組み込まれてこなかったものをきちんと見ようとしているだけに難しいだろう。

■Q■ 各エイジェンシーの得意分野や優先分野を判断するのは難しいと思うが、実際の判断方法は。

■A■ ニーズについては各エイジェンシーの判断を信用しており、全てニーズが存在することが分かるが故に、判断は難しく、そのためニーズよりも人間の安全保障の概念に沿っているか否かが基準になる。具体的には第2の3.のパラメターを睨みながら検討。

© UN Photo


■Q■ 国境を越えた地域的なプロジェクトについてどの程度支援するのか。

■A■ 最後の1ドルまで裨益者にわたるべきという強いこだわりがあるが、一般的に地域的プログラムは資金の使途が制度的政策的な部分に行きがちで、突き詰めるとカンファレンスやワークショップのための旅費がほとんどを占めていたりする。そのため基金は地域的プロジェクトに対しては消極的で、コミュニティー・ベースを重視。但し国境を越えたプログラムであっても裨益者の顔が見えるようなプログラムであれば支援する。

■Q■ ドナー政府の数を増やすベネフィットは確かにあるが、今はまだシングルドナーとして、ファンドを通じたコントロールを活かしなが、、新しい概念の導入についてトライ・アンド・エラーを繰り返す時期ではないか。

■A■ 確かに人間の安全保障は日本に向いてると言える。ODAは政策なのか政策実現の手段なのか、理念がないと言われて久しいが、現場主義の人間の安全保障は、日本が提示してきた理念的な政策概念の一つなのだから、それを日本の政策担当者にもっと分かってもらう必要がある。ドナーベースの拡大の問題とは別に、世界のルール作りで勝つ、という日本の国益を実現するために、政策レベル、一般レベルで日本の方にもっとこの概念について議論してもらう必要がある。その一つの例が今NY本部で開いている写真展。その他にも日本で議論してもらうための仕掛けを今考えているが、それはシングルドナーでなければできないとは思っていない。


以上

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担当:北村


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