第72回 黒澤 千晶(くろさわ ちあき)さん

第72回 黒澤 千晶(くろさわ ちあき)さん

コンサルタント
インターン先: アジア開発銀行Asian Development Bank(ADB)ベトナム事務所(ハノイ)
インターン期間: 2016年6月~2016年9月(4ヶ月)

■インターンシップ応募から採用まで■

(1)応募の経緯

4年間金融機関に勤務した後、2016年9月~イギリスサセックス大学院、グローバリゼーション、ビジネスと開発の修士課程に進みました。その後、2016年6月~9月まで4ヵ月間、アジア開発銀行ベトナム事務所でインターンを経験しました。本インターンを選んだ理由は、国際開発金融機関の役割・業務・そこで働く人の考え、また東南アジアのフィールドで何が起きているのかを自分の目で確かめたいと考えた為です。

このインターンシップを知ったきっかけは、ADBインターンシップ経験者のブログを読んだことでした。留学前から、留学から日本に帰国するまでには東南アジアのフィールドで活動したいと考えていた為、意識的に情報収集を行っていました。その中でこのブログを見つけ、夏季インターンの募集が3月から始まることを知りました。

(2)プロセス

選考は、書類選考と電話面接が行われました。選考スケジュールは、3月中旬に書類選考として英文履歴書と2種類のエッセイを提出、4月中旬に書類通過・電話面接の案内があり、その翌日に約20分間の電話面接、5月初旬に合格の連絡を受けました。電話面接では、志望理由、自分の職務経験を希望ポジションでどう活かせるか、チームワークで大切なことは何か、といった質問を受けました。

選考の対策としては、大学のキャリアセンターや英語のサポート制度を活用して、英文履歴書やエッセイの添削を受け、英語面接の練習を行いました。結果的に合格することはできたものの、書類通過連絡を受けた翌日に面接が実施され、準備が不十分であった為、もう少し前広に面接準備をするべきだったと反省しました。

また、私は東南アジアのフィールドに行くことが大きな目的だった為、組織に拘らず、ADB以外にもミャンマーの現地コンサルタントや日本の援助機関のインターンシップにも応募しました。複数のインターンシップに応募することは獲得率を高める方法だと思います。

■ADBとODAについて■

まずインターン業務内容を説明する前に簡単にアジア開発銀行(ADB)と政府開発援助(ODA)について説明したいと思います。

(1)アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)

アジア開発銀行(ADB)は、1966年に創設されたアジア・太平洋地域における経済成長及び経済協力を助長し、開発途上加盟国・地域の経済発展に貢献することを目的とした国際開発金融機関[1]です。本部はフィリピン・マニラに置かれ、アジア・太平洋地域67か国を対象としています。2014年時点、ADBに対する出資比率は、日本(15.7%)、アメリカ合衆国(15.6%)、中国(6.5%)、インド(6.4%)、オーストラリア(5.8%)と日本がアメリカに並ぶ主要な出資国となっています[2]。

当時、インターンシップは夏と冬に年2回実施されていました。2016年ADB夏季インターンシップは、約10ポジション募集され、ほとんどが本部フィリピンマニラでの開催でしたが、私は現場に近いフィールドオフィスを希望していた為、ベトナム事務所でのインターンを選びました。私が担当したプロジェクトは「Capacity Building for Project Management Unit Professionalization」といって、ベトナムのODA事業を運営するPMU(Project Management Unit)というプロジェクト運営ユニットのキャパシティーディベロプメントを目的としていました。

(2)ODAとは

国際協力には様々なアプローチがありますが、「経済協力」は代表的な開発途上国への支援の方法です。その「経済協力」の中でも中心を占めるものが,ODA「Official Development Assistance(政府開発援助)」という公的資金を用いて行う開発協力です。ODAとは,OECD(経済協力開発機構:Organization for Economic Co-operation and Development)のDAC(開発援助委員会:Development Assistance Committee)が作成する援助受取国・地域のリストに掲載された開発途上国・地域に対し、経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的として公的機関によって供与される贈与および条件の緩やかな貸付等のこととされています。ODAには、開発途上国・地域を直接支援する二国間援助と、国際機関に対する拠出である多国間援助があります[3]。

■インターンシップの業務内容■

(1)ベトナムのODA事業運営主体であるPMU

ベトナムではこのODA事業を運営する際に「PMU (Project Management Unit)」というプロジェクト運営ユニットを立ち上げます。ベトナムにおけるODA事業の運営主体はPMUであり、重要なユニットであると言えます。一方で、ODA事業運営はPMUに所属するスタッフの能力に左右されることとなり、PMUのスタッフや運営方法によってはODA事業の進捗にも大きな影響を及ぼします(時には進捗の遅れ等)。そして、経済発展が進み、途上国から中所得国に移行しているベトナムは、今まさにODA事業の自立的運営が求められており、ODA事業運営主体であるPMUスタッフの能力向上が急務となっています。

(2)インターンシップ業務概要

インターンとして携わったプロジェクト「Capacity Building for Project Management Unit Professionalization」の目的は、特にベトナムでも発展が遅れている中部4省(Nghe An, Ha Tinh, Quang Binh, Quang Tri)のODA PMU21ユニットに対して、キャパシティーディベロプメントを行い、ODA事業の自立的運営を促すことでした。具体的には、4省の各PMU(1つのPMUには平均20名のスタッフが所属)が、ODA事業の準備・運営する際に抱えている課題を把握し、その結果に基づいて各PMUの課題を解消する為のオーダーメイド型の研修を提供するという内容でした。

インターンの担当業務は、1:オンラインアンケートを活用して、21のPMUが抱えるODA事業運営の課題を洗い出すこと、2:アンケート結果の収集、PMUが抱えるODA事業運営課題の傾向分析、3:分析結果をチームメンバーと4省のPMUに対して英語でプレゼンテーション、ワークショップ開催、4:各PMUに対する個別インタビューの実施でした。

このプロジェクトには、約15名のADBのチームスタッフが所属していましたが、皆さんに助けて頂き、協力しながら業務を進めることが出来ました。またコミュニケーションは現地語ではなく、英語で行いました。

PMUに対する個別インタビュー1

 PMUに対する個別インタビュー2

(3)インターン業務の様子

まず、21のPMUが抱えるODA事業運営の課題の把握を目的としたアンケート調査では、ベトナム人スタッフと協力しながら、アンケート回収率が高まるような聞き方を意識しました(例:質問事項の簡易化や回答欄に選択肢を与えること、ベトナム語と英語の翻訳時間を事前に確保すること、未回答者に対するフォローアップを丁寧に実施すること等)。結果、アンケート回答率を前回の倍に引き上げることが出来ましたが、それもベトナム人スタッフの方が丁寧に未回答者にフォローアップを実施してくれたことも大きかったと思います。

そしてアンケート調査結果からは、多くのPMUがODA事業運営に対して共通課題を抱えていると同時に、セクター毎、地域毎に異なる課題も抱えていることが分かりました。例えば、共通課題としては、ベトナム政府とADBのODA事業に対する制度の違いがODA事業の運営を複雑化していることが分かりました。また、水や農業プロジェクトを運営するPMUは土地収用(土地の確保、その土地に住む人々を移住させる為の交渉等)が大きな課題である点が分かりました。これらの結果は一部に過ぎませんが、各PMUが抱える課題を明確化し、傾向を明らかにすることが出来ました。

次にアンケート結果をもとに、ベトナム中部地域(Nghe An, Ha Tinh, Quang Binh, Quang Tri)に出張し、ワークショップを開催し、7つのPMUへ個別ヒアリングを実施しました。ベトナム北部と南部の中間に位置する中部地域はベトナム戦争の影響を受け、他地域よりも国際援助を受けるタイミングが遅れたことで、都市の開発も遅れてしまい、PMUのキャパシティーディベロプメントも重要なテーマとなっています。また、この中部は、雨も多く、気候の影響によりプロジェクト運営が難しい地域となっています。個別インタビューでは、PMUによっては専門性を持った人材の確保が困難であることも明らかになり、PMUの人材確保も急務であることが分かりました。

インターン業務としては、このインタビュー結果の整理までを担当しました。その後、本プロジェクトは、今回のアンケートやインタビュー調査で明らかになった各PMUが抱える課題に対して、PMU毎にオーダーメイド型のPMUの人材育成を始めとしたトレーニングを提供することとなっています。

またプロジェクトとは直接的な関係ありませんが、4か月間のインターンシップ終盤には、本部マニラ事務所へインターン業務についてレポート提出、ベトナムハノイ事務所にてスタッフの皆さんに対してインターンシップ最終報告会を開催しました。最終報告会には多くのスタッフの方がご参加下さり、今回のアンケート調査方法を他のプロジェクトにも活かせないかといったことや、今回のようなインターンを今後の若者に広げていきたいというコメントを頂き、非常に嬉しく思いました。

インターンシップ最終報告会

■資金確保、生活、準備等■

渡航準備について、航空券手配や現地での滞在先探しは自分で行います。滞在先は最初の1週間のみホテルを予約しました。住まいが上手く見つかるのか最初は心配でしたが、ベトナムに着いてから運よく同僚のご家庭に住まわせてもらえることとなりました。またサービスアパートメントもいくつかあるので、現地に着いてからも住まいを探すことも可能です。

資金について、国連のインターンとは異なり、ADBのインターンは片道の航空券と手当2か月分は支給されます。現地の物価が安いこと、私は同僚のご家庭にお世話になることができたことから、現地生活分の資金はやりくりすることができました。

■インターンシップから学んだこと・感じたこと■

(1)国際開発金融機関について

まずADBでは全スタッフが金融業務を行っているわけではないということです。アジア開発「銀行」というと多くのスタッフが金融業務に携わっており、金融のバックグラウンドを持つ人が多いのだろうと予想していましたが、むしろ、金融以外の各自の専門性(例:農業、都市開発、教育といったセクターの専門性)を活かし、個別のプロジェクトを担当している方が多くいました。もちろん金融のバックグラウンドを持ち、融資業務や金融セクターのプロジェクトを担当されていた方もおりますが、金融業務以外の業務に関わる多くの方がいることに驚きました。この点は多くのスタッフが金融業務を担当する商業銀行とは大きく異なる点だと感じました。

また、非常に基本的なことではありますが、国際機関の主要なカウンターパートナーは「途上国政府」であるということです。一般的にはコミュニティレベルの業務はコンサルタント等に委託し、国際機関はまさに途上国政府との政策づくり、国創りに携わることができるダイナミックな仕事であることを実感しました。同時に、業務を進める上で、当該国の世界的な立ち位置(経済的、文化的、社会的)の把握や政策の理解をはじめ、マクロな視点で物事を考えることの重要さを改めて感じました。

(2)ベトナム人スタッフとの仕事を通して

今回のインターンでは、メリハリのきいたベトナム人の方の仕事の進め方を学ぶことができました。勝手な先入観として時間にルーズであると言われている東南アジアの方と仕事をすることは苦労もあるかもしれないと予想していましたが、チームのみなさんは時間に対しての意識も高く、助け合いながら業務を進めており、とてもスムーズに仕事を進めることができました。私も多くのベトナム人スタッフの方の協力を得ながら無事にインターンを終えることができ、大変感謝しております。

また家族との時間を非常に大切にする文化があり、18時以降はオフィスにほとんどベトナム人スタッフは残っておらず、メリハリをきかせて仕事を進めている印象を持ちました。

(3)ベトナムの現地生活から学んだこと

今回ベトナム人の方と共に生活する機会にも恵まれ、多くの学びがありました。例えば、ベトナムでは女性の社会進出度が高く、ADBでも多くの女性スタッフが家庭や子育てと仕事を両立していました。その背景にはもちろん経済的な理由もありますが、親戚、ご近所同士、地域が協力し合いながら子育てをしていることが、女性が外で働くことを可能にしていました。女性の社会進出がなかなか進まない日本がベトナムから学べることが多くあると実感しました。同時にベトナムの友人も、日本人の習慣(何かを待っているときに順番に並ぶこと、貯金すること等々)を学びたいと感じており、先進国が途上国に一方的に何かを伝えるというのではなく、お互い認め合い、学び合う姿勢が大切だと感じました。

(4)日本人として国際開発金融機関で働く意味

今回、個人的には初めて海外の比較的日本人が少ない環境で仕事をして、日本人である自分が今回であればベトナムの発展に携わる意味、どこを向いて仕事をしたいのかのような根本的なことを改めて考えさせられる貴重な機会でもありました。現在も国際協力の仕事に携わっていますが、その中では自分が関わる機会に恵まれた国や地域に対してその国や人々が何を望んでいるかきちんと理解し、行動してくことが重要なのかもしれないと感じております。一方で、やはり自分の中でまだはっきりと答えは出ておりませんが、ベトナムと文化的歴史的にも関係が強い日本で育った自分がどのようにベトナムの発展に貢献できるのか、またそういった国籍や国境の考え方に捉われず、貴重な経験・大切な人々と出会うことが出来たベトナムに対してどんな恩返しができるか、今後も考えながら行動していきたいと思います。

ADBベトナム事務所入り口に掲げられているボード

■その後と将来の展望■

インターンの後、2016年10月~12月の2か月間は、ADBベトナム事務所の「Mekong Business Initiative (MBI)」というCLMV(カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー)の中小企業開発支援のプロジェクトに中小企業金融(Financial technology調査)リサーチアシスタントとして参加しました。

もともと東南アジアの中小企業開発に関心を持っていた中で、ADBベトナム事務所で中小企業開発プロジェクトが存在していた為、プロジェクト担当者とコンタクトを取り、本チームに参加させてもらえることとなりました。具体的にはベトナムでのFinancial technologyに関するデスクトップ調査に加えて、シンガポールで実施されたFin-tech boot campというCLMVの政府関係者や金融関係者に対しての新興金融のワークショップをサポートしました。本調査を通して、複雑な制度が存在しない途上国だからこそ、現地のニーズに従ってテクノロジーを活用した金融手法が急速に発展しているということも理解しました。

12月までのADBでの業務を終え、日本へ帰国後2017年1月~現在は、日本のコンサルタント会社で働いています。ADBでのインターンシップの経験から、マクロな視点を持つことの重要さと共に政策と現場が乖離してしまっている現状があることも知った為、まずは現場でプロジェクトがどう動いているかをより深く理解したいと考え、現場でプロジェクトに接する機会が多いコンサルタントという職を選択しました。現在は、国際機関での気候変動プロジェクトに対する新興金融導入の検討調査やベトナムやカンボジアの産業人材育成のプロジェクト等に関わっています。

■その他感想・アドバイスなど■

私は国際開発の世界ではまだ駆け出しですが、アジアの国際開発金融機関、日本の援助機関での仕事を通して、各援助機関の主要な財源はどこか、その組織がどのような姿勢や方針を途上国援助に持っているかという点を理解することが重要だと感じました。その方針がその組織の援助の方向性に大きな影響を与える為です。その組織の仕組みや援助の背景を理解した上で、途上国に対してどういった貢献ができるのか、どう貢献していきたいのかを考え続けていきたいと思っています。

  • [1] 国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)は途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を、金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的 に支援する国際機関の総称です。MDBs と言えば、一般的に全世界を支援対象とする世界銀行と各所轄地域を支援する4つの地域開発金融機関(アジア開発銀行、米州開発銀行、アフリカ開発銀行、欧州復興開発銀行)を指します。(出典:財務省 http://www.mof.go.jp/international_policy/publication/mdbs2016/mdbs2016.pdf)
  • [2] ADBサイトより http://adb2017.city.yokohama.lg.jp/about-adb/
  • [3] 財務省サイトより http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/oda/oda_keitai.html

2017年7月23日掲載
ウェブ掲載:三浦舟樹