第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1 アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~開催報告
2019年5月5日実施
5月5日(日)に、関西学院大学大阪梅田キャンパスにて、「第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1 アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。
【イベント概要】
日時 | 2019年5月5日(日)13:00~17:00 |
場所 | 関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1004教室 |
主催 | 国連フォーラム関西支部 |
ゲスト | 高橋基樹 氏 - 京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科教授。元国際開発学会会長、日本アフリカ学会編集委員長等も務める。アフリカの政治経済と開発を専門とする。 - 著書『開発と国家―アフリカ政治経済論序説』(勁草書房, 2010年)、『現代アフリカ経済論』(ミネルヴァ書房, 2014年, 共編著)等 |
内容 | 1.オープニング 2.基調講演 3.質疑応答 4.プレゼンテーション 5.個人ワーク 6.グループディスカッション 7.意見の共有・講評 8.クロージング 9.ネットワーキングタイム |
《企画背景》
TICAD7@横浜やG20@大阪が本年行われます。官民共にアフリカと繋がりが様々に構築され、アフリカも身近になり、渡航する若者も増えてきました。関わる人々は、歴史・環境・文化など様々な側面で他の地域とは違う背景を持つ当地域をどの程度理解しているでしょうか。若者が、より精緻な理解や明確な意図・狙いを形成してアフリカの開発・国際協力に関わるための一助となる勉強会として本企画を立ち上げました。本企画では、アフリカに対する国際協力・開発の課題・動き・展望を現在の潮流から考えます。
《企画目的》
企画目的:アフリカを「アフリカ」と捉えずに、国・地域レベルの視点で開発もしくは国際協力の課題を知ろうとし、自分なりの関わり方を企画終了後も考えることができる状態を目指します。
- アフリカの開発・国際協力の課題を整理し理解する
- 地域別の課題や今後の動きを知る
- 自分の関わり方を考える
《イベントプログラム》
オープニング
・国連フォーラム/国連フォーラム関西について
・企画背景
・TICAD7について/TICAD7の論点
今年の8月に開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の論点として、以下の3点が挙げられています(外務省HPより)。
- 民間セクターの育成とイノベーションを通じた、経済構造転換とビジネス環境・制度改善
- 人間の安全保障のための強靱かつ持続可能な社会の推進
- 平和と安定(アフリカ自身による前向きな動きを後押し)それぞれの地域におい このような目標を達成していくには、1つのイシューを扱う中でも、地域によって異なる歴史・環境・文化といった背景の固有性に着目していくことが重要であると考えました。そこで、地域の固有性を意識しながら、正確な理解と明確な意図をもって、私たちの国際協力ってなんだろう、と考えていけるような勉強会の開催を企画しました。
《ゲスト》
高橋基樹 氏 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授
本勉強会では、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の教授であり、京都大学アフリカ地域研究資料センターの副センター長を務める高橋基樹氏をお招きし、アフリカの開発を考えるためのご講演をいただきました。
【開催報告】
基調講演「アフリカの人々と民主主義及び平和」
基調講演では、高橋基樹氏によるご講演をいただき、アフリカの人びとと民主主義及び不平等についてお話頂きました。
冒頭では、「私の国際協力」について考える機会をくださいました。アカデミックな立場から国際協力に関わっていらっしゃる高橋氏は、ご自身の大学での指導経験を踏まえて、「国際協力に関わりたいなら、まず日本のことを知ってほしい」という激励のメッセージを頂きました。
「TICAD6までの流れは、どうやってアフリカと付き合いながら日本の落ち込み気味の経済や内向きな社会をから復活するかを考えていた。これまでのTICADで欠けているのは、アフリカの努力を見落としている点にある。TICAD6までの、このようなアフリカの見方とは違う視点から話をしたい。その上で、アフリカとのかかわりを考えていきましょう。」
高橋氏は、政治の関心が薄い日本と、政治に関して命がけで戦うアフリカの国々でどのような違いが存在するのかを問いかけます。しばしば、アフリカの国々の行政機構の弱さが指摘されますが、その一因は、西洋の国によって様々な物事が決められた点にあると指摘します。「外から持ち込まれた国境によって、異なる言語の人々が同じ国家に住んで、同じ言語の人が異なる国に住んでいる状況」がつ暗れたことに言及し、その他、統治・行政機構やその制度が西洋諸国から持ち込まれた点、使用する言語が政治・学問・実生活で異なる点を紹介しました。このような、外から持ち込まれた概念がアフリカで実際にどのような影響を及ぼしているのか、ケニアを例に紹介していただきました。
ケニアでは、民主化以降、暴力的紛争が頻発してきました。その原因は、部主義にあると理解されます。1代目大統領のケニヤッタ政権時には、ケニヤッタ氏の出身であるキクユを優遇する政策をとり、2代目のモイ政権時にはカレンジンを優遇する政策がとられました。その結果、民族やアイデンティティごとに対立が深刻化しました。しかし、このような部族主義は外から、つまり後から持ち込まれたものであると高橋氏は言います。
アフリカの紛争について高橋氏の経験から生々しい状況を知ることができました。また、高橋氏の行った調査で「部族の優遇政策は良いか」という質問を襲撃側、被襲撃側に聞いた際、襲われた側の圧倒的多数が良くないものであると考えており、襲撃側でも半数近くがそのように応えたことをご教示くださいました。つまり、理屈上部族主義に反対していることを意味します。また、「腐敗のお金はどうすべきか?」という質問に対しては、半数近くが「ケニア政府に返還されるべき」と答えたと言います。さらに、「自然災害が他の村で起こった際に、税金はその人たちの救済に使われるべき」という答えも帰ってきたそうです。
意識の上では、日本人と同じように、ケニアの人々も部族主義に反対しているのに、なぜ凄惨な紛争が起こるのでしょうか。高橋氏はこう述べます。「ケニアという新しい国に、開発を求めると不平等が存在する。そこで、やはり自分の地域で開発行いたくなる。人間の基本的ニーズに関わる開発を優先させると、自分や自分の家族の命や暮らしが関わってくるため、選挙が命がけになる。」
高橋氏はこう続けます。「彼らも国民という意識がある。」そして、国民という意識があるからこそ、不平等に扱われることは不当に思い、これが、部族主義の根源であると述べます。このように考えると、近代的民族主義も部族主義はすべて同じところから始まっており、我々は同じ世界に住んでいる。その中でアフリカは非常に多様であることを理解していかなければならない、と高橋氏は語ります。高橋氏は、アフリカの不平等は、政府がちょっと操作することで状況が変わる点で、不平等であることが非常に深刻な意味を持っており、アフリカの平和と安定をどのように進めるかはTICADの一番重要な課題の一つであると述べます。「国民のベーシックヒューマンニーズを徹底的に平等にして、政治から切り離されなければならない」と高橋氏は述べます。
最後に、高橋氏より「民族や国ではなく、個人と個人が結び合う世界になればいい」と国連フォーラムの参加者へメッセージを頂きました。
プレゼンテーション
TICAD7の論点として、主として①民間セクターの育成とイノベーションを通じた経済構造転換とビジネス環境・制度改善、②人間の安全保障のための強靱かつ持続可能な社会の推進、③平和と安定が挙げられています。しかし、これらの議論が抱える課題を解決するには、1つのイシューの中でも、それぞれの地域によって異なる歴史・環境・文化といった背景の固有性に着目していくことが重要です。また、TICAD7に向けて発行されたTICAD報告書2018では、間の安全保障のための健康で持続可能で安定した社会の構築のために、ジェンダー間の経済格差や不平等の改善が重要であると指摘されています。そこで、「経済格差」と「地域の固有性」を軸に、アフリカを牽引する2つの国 ― 南アフリカとケニアの事例を取り上げ、参加者に考えてもらえるよう、国連フォーラム関西のメンバーがプレゼンテーションを行いました。
・南アフリカ共和国にみる土地問題と経済格差
南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)は、所得・支出の分配面における不平等が世界で最も深刻な国の一つであると言えます。所得等分布の均等具合を示すジニ係数から、どの人種においても深刻な不平等が存在しており、特に白人系住民とアフリカ系住民では所得格差が顕著に見られます。ここに見られる経済格差には、南アフリカ特有の問題が起因していることを紹介しました。南アフリカでは、アパルトヘイト政策に起因して、インフラへのアクセスや雇用機会、土地の資産所有に不平等が存在しています。たとえば、土地の所有に関する政府による是正措置として、土地改革(土地の売却を希望する白人に、政府が補償金を支払って収用し、アフリカ系住民に土地の再分配を行う政策)が試みられたものの、政府の資金不足やアフリカ系住民にとって実施が難しい政策であったことより、未だに土地の不平等配分が存在しています。
・ケニアにみる暴力的紛争と経済格差
ケニア共和国(以下、ケニア)は、サブサハラアフリカで最も巨大な経済、世界的にも最も急速に発展している国です。ジニ係数を見ると、2005年の46.5%から2015年は40.8%へと改善が見られます。しかし、2007年の大統領選挙では、死者1,200人,国内避難民50万人を超える未曾有の大規模な混乱を経験するなど、国内での対立が存在しています。そして、この国内の情勢不安定を生む原因の1つが、経済格差であるとして、その実態を紹介しました。経済格差が実際にどのように存在するかを見るため、首都のあるナイロビと、キベキ氏の出身地で開発の進んだ中央州のニエリ、オディンガ氏の出身地で開発が遅れたニャンザ州のキスムを比較しました。地域による格差は、汚職や開発政策の偏りが影響して生まれます。このような、開発格差が経済格差を生み、さらには民族間での対立感情を駆り立て、大統領選のような暴力的紛争が生じてしまったことを紹介しました。
南アフリカとケニアの例でみたように、経済格差といっても、その背景はそれぞれ異なることが分かりました。このように、「アフリカは~」「~すれば経済格差を解消できる」などと一言で語ることができないことが分かります。
個人ワーク・グループディスカッション・意見の共有
先の講演やプレゼンテーションを踏まえて、自らがどのように国際協力に関わっていくか、また自身の目指す国際協力の在り方について考えるため、国連フォーラム関西が独自で作成したワークシートを基に、個人ワーク、グループディスカッション、及び意見の共有を行いました。グループディスカッションの最中には、ゲストの高橋氏や、国連フォーラム関西の顧問である久木田純氏が、グループを周り、質問や悩みの相談にお答えを頂きました。
あるグループでは、途上国は教育をするベースがないことを指摘したことから議論が発展し、グループ内でも様々な意見が交わされました。また、別のグループでは、問題を問題として捉えてもらうにはどうすれば良いのかという問いかけから発展して、問題に気付かされるだけではただ不幸になるだけではないかという意見や、問題を問題として捉えないのはただ後伸ばしにしているに過ぎず、その後をどうすれば良いのかを考えられるよう、先のことを見据えた協力の在り方が必要である、という意見が出ました。また、国際協力を仕事にしてよいのかという学生の悩みに対して、実際に国際協力の分野で働いていらっしゃる方からの実体験を共有しているグループもありました。
《クロージング》
講評
最後に、高橋氏や久木田氏から、本勉強会を振り返って感想や講評を戴きました。
高橋氏からの講評
世界では、自分たちとは状況の異なる世界に生まれる人がいます。そこに、何か合理的な理由があるでしょうか。ないですよね。それは”by Luck”運によります。最初にあるべきは、国ではありません。ホモサピエンスの歴史と比較すると国の歴史は短く、「人間として、どのように付き合うか?」が大切です。そうであるとすれば、「国際協力」から「国」という概念がなくなることが理想ではないかと考えます。なぜ日本人である私たちが他の国の人々を心配するのか?という発想自体が重要だと思います。いずれ日本は、他国の協力なしには生活が難しくなり、もう既にそうなりつつあります。そうなると、「国」という差が関係なくなるのではないでしょうか。むしろ、そのように考えた方が、楽しい未来が待っているのではないでしょうか。「国際協力」から、「国際」(という国ベースの発想)をなくしたいというのが私の思いです。
久木田先生からの講評
「アイデンティティーを持てるかどうか」が国際協力で、そして「同じ人間としてのアイデンティティーを持てるか」がグローバルな視点で考える人にとって重要ではないでしょうか。そのようなアイデンティティーを多くの人が持てるようにすることがひとつポイントになると思います。20世紀は「儲かるか?」が一番の関心事項でした。「マネー=幸福」という社会でしたが、そのような経済成長の結果、気候変動や核汚染のリスク、世界の貧富の格差が進んでいます。このような格差社会の結果、子どもたちが教育を受けれらず、健康でいられなくなり、人がもつ充分なポテンシャルが発揮できない状況になってきています。このような状況は我々にとって非常に危険な状態であります。人生100年時代で、私たちが100歳になった時、恐ろしい取返しがつかない社会になっているかもしれません。全員が力を併せて取り組まなければならない状況の中で、村や国、会社など自分の周りだけを優先している場合ではなく、グローバルな協力をしなければなりません。中でも、気候変動の問題や、戦争・差別を許容しない、途上国の貧困層への支援をする、金持ちが公平な分配について真剣に考えて行動する必要があるのではないでしょうか。私たちも、世界でみれば「金持ち」という分類分けになる中で、どのように行動するかを考えていかなければならないと思います。
《参加者の声》
本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。
- アフリカでの政策があまり進んでいない根本的な要因が分かった。ニュースではあまり話されていない貴重なお話だった。
- 国際協力を考える前に国とは何か、国民とは何かと言われてう事を考えさせられた。
- 普段あまり聞くことのできない、紛争の真の原因を聞くことができてよかった。
- 自分の知らないことや新しい視点を知ることができた
- 様々な背景を持っている人たちと議論ができて良かった
- 自分の知らない分野について興味を持つ方々とお話しできて、様々な知識を得ることができた
第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1『アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~』にお越しくださり、誠にありがとうございました。
また、国連フォーラム関西支部のFacebookグループページやホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!