第23回 菅原 絵美(すがわら えみ)さん
第23回 菅原 絵美(すがわら えみ)さん
大阪大学大学院国際公共政策研究科 博士後期課程在籍
OHCHRジュネーブ本部
2008年1月から3月(3ヶ月間)、ジュネーブ
■インターンへの応募の経緯■
私は、国際人権法を専門としており、特に「企業と人権」に焦点を当てて研究をしています。米国で国際人権法修士課程に留学中、クラスメートの多くが国連や国際NGOでのインターンシップに挑戦していたことから、国連でのインターンシップは意外と身近な活動なのだということを強く感じていました。
帰国後、大阪大学国際公共政策研究科(OSIPP)が推進する「国際公益セミナーの政策エキスパート養成」事業を通じて支援を受けられることを知り、インターンに応募することにしました。インターン先候補としては、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)および国連グローバル・コンパクト事務所(UNGCO)を選びました。
OSIPPには、既に数名のインターン派遣の経験があり、応募の際に有益な情報(書類作成のポイント等)を提供していただくとともに、事務手続においても支援をいただきました。また、先生からOHCHR日本人職員を紹介していただき、応募書類やカバーレターについて以下のようなアドバイスをもらいました。
自己の関心分野と希望部署を明確にする。同時に、それ以外の分野に関しても関心があることを示す。
使える人材であることをアピールする(語学力や研究・活動経験など)。
OHCHRが自身に何をもたらしてくれるかという受身の書き方ではなく、OHCHRが自身にインターンの機会を与えることで、応募者個人を超えて、国際人権に関してどのようなインパクト・利益がある(可能性がある)か、また応募者がその経験をどのように活用していくつもりであるかを積極的に書く。
以上の指摘を踏まえたカバーレター、応募書類、そして留学時に書いた修士論文を“example of research work”として10月末の締め切りに間に合うようにOHCHRに提出しました。また、希望部署のコーディネーターにも提出しました。結果、11月末にOHCHRのアジア太平洋ユニットからインターン受入の連絡をもらいました。
実は、私は自分の研究テーマである「企業と人権」の問題が扱える、人権および経済社会問題ユニットを希望しており、アジア太平洋ユニットは応募時の希望部署ではありませんでした。希望部署の選考からは外れてしまったわけですが、アジア太平洋ユニットのコーディネーターが私の研究テーマに関心を示してくれ、採用となりました。このように自身の関心テーマを明確に記述しておくことが、非常に重要です。
■インターンへの準備■
他の国連機関と同様OHCHRも、インターンは無給です。交通費と宿泊代といったインターンシップに関する必要経費の大半については、OSIPPの事業からの助成に頼り、その他生活費用は、これまでの貯金を充てました。
住居に関しては、OHCHRからアパートのリストの配布がありました。しかしインターンの大多数は、ジュネーブ到着後の数日を安ホテルで過ごしながら、部屋探しを始めていました。ジュネーブの住居探しは、非常に苦労すると聞いていましたが、幸運にも私は、ジュネーブ在住の友人の情報と支援で、苦労なく決定することができました。
OHCHRからは、“OHCHR for Interns by Interns”というインターンシップのガイドも届きます。これには、OHCHR到着後の基本的な事務事項(PCやEmailアドレスについてなど)のほか、OHCHRで使用されている略語一覧表(General Assembly、GAなど)が含まれています。OHCHRではインターンオリエンテーションのようなものがなく、個々の配属先の対応に任されているために、融通が利く反面、OHCHRの全体像が見えにくいという難点があります。その際にこのガイドは、非常に助けになりました。
■インターンの業務内容■
OHCHRはジュネーブ内に事務所が2つあり、それぞれパレ・ウィルソン、パレ・モタと呼ばれています。パレ・ウィルソンはOHCHRの顔といえる建物ですが、07年に出来たモタ事務所は、パレ・モタと呼ばれることが冗談なのかと職員が思うほど普通のビルです。
私の派遣先は、Field Operation and Technical Cooperation Division (FOTCD)の下にあるアジア太平洋ユニットで、このモタ事務所の方にありました。OHCHRは、国連人権保障システム(条約に基づくシステムおよび国連憲章に基づくシステム)を事務局として支えるとともに、OHCHR自身も現地事務所をもち、フィールド活動をしています。FOTCDは、国際レベルと現場レベルの橋渡しを行う部門であり、アジア太平洋ユニットは、文字通り、アジア太平洋地域41カ国を担当しています。
このセクションにおいて私は、各国・地域を担当するオフィサーの補助として、情報収集・資料作成、国家報告書などの報告書作成補助、現地職員・国家代表へのブリーフィングの設定などを行いました。最初の仕事は、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の人権部門トップへのブリーフィングの設定でした。国連平和ミッションの人権部門のヘッドはOHCHR代表も兼ねることになっており、派遣前にはOHCHRの主要各部署とミーティングを持ちます。派遣直後であり、前述のような平和ミッションとOHCHRの関係や重要な地位にある職員の顔も名前も分からない状態だったので、大変苦労しましたが、OHCHRの組織構造を理解するのに役立ちました。
また、人権条約システムとしては、東ティモールの子どもの権利条約国家報告書審査に参加しました。これは東ティモールにとって初の審査であるとともに、人権条約実施機関にとっても、共通重要文書を使っての初めての審査ということで、歴史的に重要な審査となりました。
国連憲章に基づく人権保障システムとしては、普遍的定期的審査(Universal Periodic Review, UPR)に関する仕事があります。UPRは人権理事会になって新設された、国連加盟国全ての人権状況を普遍的に審査する制度です。UPRの第1回作業部会(4月)および日本が審査を受ける第2回作業部会(5月)を前に、OHCHRでは新設の制度に対応すべく、準備が進められていました。UPRは3つの報告書、すなわち国家による報告書、被審査国に関する国連機関の報告・勧告をまとめた国連機関報告書、NGOや国内人権機関によるステイクホルダー報告書を基に行われるのですが、OHCHRでは後の二つの文書を作成しなければなりません。私は、ユニットの対象となるUPR被審査国のこれら文書の作成に関わりました。報告書作成過程で、何度もミーティングが設けられるのですが、限られた時間のなか、白熱した議論を経て何度も報告書を改訂する職員の方々の姿勢が、非常に強く心に残っています。
その他にも、キャパシティ・ビルディングとして、太平洋島嶼国の代表者を対象に国連人権保障システムのブリーフィングを行ったり、国連人権高等弁務官のステイトメントのため、現地のNGOから上がってくる情報を整理したりもしました。
また自身の研究分野を活かし、アジア太平洋ユニットと企業問題担当者(人権および経済社会問題ユニット)との共同プロジェクトに参加しました。これはOHCHRの企業問題担当者から第一次的な情報を得る機会になったとともに、OHCHRがこの問題に今後どう取り組んでいくのかという、実際的なアプローチの第一歩を経験する機会となりました。プロジェクト準備に当たり、アジア太平洋地域41カ国の「企業と人権」問題をまとめましたが、これは問題の所在や現状の把握をより深めることにつながりました。協力先のユニットは私のそもそもの希望部署であったので、自身の研究にとっても、非常に意義のあるプロジェクトでした。
■インターンの感想■
インターンという身分ではありましたが、OHCHRでの3ヶ月間のインターンシップは公私に渡り貴重な経験・アドバイスを得ることができ、非常に充実しました。FOTCDは実際的な業務に関わる部門であり、現地事務所の設置・人事から人権理事会・人権条約実施機関による手続まで、国内・国際両レベルでの業務を経験することができ、またそのなかで職員の方々がどのように活動しているのかを目の当たりにすることもできました。また、就職や仕事上の苦労やアドバイスのほか、仕事と私生活の両立について国際公務員ならではの経験を伺うことができたのは、非常に有益でした。
また、たくさんのいい出会いがありました。妹のように世話してくれた職員の方々や、私の駆け込み寺であり、また共通の関心事項に話題が及ぶとランチもディナーも関係なく盛り上がった、インターン仲間などです。前回の渡部さんがジュネーブにある国際機関インターンネットワークについて紹介されていますが、OHCHR内にもインターンネットワークが存在します。ランチやピクニックといった交流の機会を提供し、また情報交換の場として非常に貴重でした。さらには、メーリングリストを通じて生活情報交換をしたり、職員を招き所属ユニットの紹介をする勉強会を開催したりしました。「人権というフィールドにいるからまた会えるだろう」という想いが、別れを別れにしませんでした。
反省点としては、OHCHR職員の方々とのコミュニケーションに対する積極性が、少し欠けていたかなと考えています。情報の量や早さが求められることから、「コーヒータイム」における情報交換の重要性は認識していましたが、業務の忙しさから、なかなか実際に行うことは難しく苦労しました。
■ その後と将来の展望■
その後、OHCHRと同時に応募した国連グローバル・コンパクト事務所からも、インターン受入の連絡をもらい、ジュネーブ後すぐに国連ニューヨーク本部に移り、3ヶ月間のインターンを開始しました。この様子は次回紹介したいと思います。
■これからインターンを希望する方へのメッセージ■
最初に書きましたが、米国留学中に感じた、「インターンシップは学生として身近な活動である」ということを、世界中からくるインターンの友人たちを見て、ジュネーブで再認識しました。
しかしながら、超えなければならない壁も、もちろんあります。応募に関しては、無数の応募の中から選ばれるテクニックが必要であり、インターン経験者や希望機関職員などの方々から受けたアドバイスは、本当に有用でした。またインターン中は、とにかく積極性が求められます。職員の方々はそれぞれに仕事があるため、インターン自身が積極的に動かない限りなにも始まりません。私は、自分がしたい仕事をスーパーバイザーに書面で提案したりしながら、インターンを充実させようと努力しました。
お世話になったOHCHRの先輩職員から、「語学力は必要不可欠だけど、それにばかりとらわれていてはいけない。積極性やコミュニケーション能力、社交性など、仕事上、もっと必要なものがあるのだから。」と伺いました。「積極性」、私がインターンから得た教訓はこの一言に凝縮されます。
最後になりましたが、OHCHRでのインターン中、私を支えてくれたOHCHR の皆様・友人達、OSIPPの諸先生・皆様に心からの感謝を申し上げます。
2008年9月15日掲載