第28回 位田 和美(いんでん かずみ)さん

インドの子供たちと一緒に

第28回 位田 和美(いんでん かずみ)さん

UNICEFチャド事務所(WASH Section)所属
インターン派遣先:UNICEFインド・デリー事務所(HIV/AIDS Section)
インターン期間:2008年7月から9月(3ヶ月間)

私は大学院修了直後の2008年7月から9月までの3ヶ月間、UNICEFインド・デリー事務所のHIVエイズセクションでインターンをさせていただきました。

■インターンシップの応募と獲得まで■

既に「国連でインターン」でも何人かの皆さんがご説明されている、日本ユニセフ協会の「国際協力人材養成プログラム・海外インターンのユニセフ現地事務所派遣事業」(http://www.unicef.or.jp/inter/inter_haken.html)へ応募し、インターンとして派遣されました。本制度のメリットは、何と言ってもインターンシップの打診に日本ユニセフ協会/UNICEFのネットワークを利用させていただけること、そして渡航費や傷害保険、現地生活費等、経済的な支援を受けられることが挙げられると思います。さらには、派遣前オリエンテーション時にはUNICEF東京事務所から業務遂行の際のアドバイスを受けたり、インターン後の報告会でキャリア開発のアドバイスを受けたりすることもできました。

私は、大学院進学以前から上記の制度への応募を考えていたのですが、大学院一年目は不合格、二年目で合格に至りました。したがって、実際の派遣は、大学院修了直後の夏になりました。一度目の応募時には応募動機が確固たるものではなかったのかもしれません。その反省から、さらに経験を積むべく、大学院一年目の夏休みには、青年海外協力隊短期ボランティア派遣制度に応募し、セネガルでのHIVエイズ予防プロジェクトに従事しました。(青年海外協力隊時の活動に関しては、ワシントンDC開発フォーラム「地球に乾杯!NGO」http://home.comcast.net/~NGOcolumn/inden.htm をご参照ください。)3ヶ月間のセネガル滞在中は、2005年以来全国8箇所の青少年センターで実施されている、青少年向けHIVエイズ一次予防啓発活動に対する質的・量的評価を実施しました。しかしながら、大学院で調査手法を学んでいる最中だったこともあり、手探り状態で業務を敢行した感が否めませんでした。そんななかで、他機関ではどのようにHIVエイズの予防啓発やモニタリング評価を実施しているのか、また、「エイズ予防に成功した国」とされているセネガル以外で、特にHIV感染率の多い地域では、どのような予防活動が行われているのか、非常に興味を抱きました。大学院二年目に日本ユニセフ協会のインターンシップへ応募した際には、HIVエイズの予防啓発活動という専門分野は譲れない条件としながらも、アフリカ以外の地域でHIV感染が顕著な国への派遣を希望しました。これは、本インターン後の将来のキャリアとしてアフリカ勤務を希望していくつもりであったため、今回は他地域でのアプローチを知りたいと思ったからです。そして、日本ユニセフ協会を通して、派遣可能性のありそうなUNICEF現地事務所に打診を行っていただき、UNICEFインド事務所派遣となった次第です。

UNICEFインド事務所の様子

ちなみに、二度目の応募の際には、同時にJPO(UNICEF希望)も応募しており、インターンシップを進路開拓の一つの選択肢として考えていました。実際、インターンシップ後、コンサルタントとして残られた方がいらっしゃるとお聞きしたことがありました。(ただし、インターンシップ後3ヶ月間は、特定の公募ポストに応募できない等の規定もあるようなので、ケースバイケースでお考えください。)幸い、私はインターンシップの合格通知とほぼ同時にJPOの合格通知もいただいたため、地域間でのHIVエイズに対するアプローチの差異を理解するという当初の目的に加え、JPO派遣前にUNICEFという組織やそのプログラム策定プロセスを知るという目的も掲げてインターンシップに取り組むことができました。

■派遣部署の取り組み■

昨今、IT産業をはじめとする巨大ビジネス市場として注目を集めるインドですが、世界でも有数のHIV感染者・エイズ患者の多い国でもあります。インドでの成人人口のHIV感染率は0.36%と比較的低いながら、巨大な人口を有するがために、2007年にはHIV感染者・エイズ患者数は220~300万人いると見積もられています。そのうち、15歳未満の子どもたちが全HIV感染者・エイズ患者の4%となる94,000人を占め、母子感染も年間24,000件報告されています。さらには近年、青少年間、および村落部でのHIV感染が増えてきています。そこで、UNICEFインド事務所では、NACO(国家エイズ管理機構)や他のパートナーと共に、県レベルでのHIVエイズ予防活動を強化するべく、2008年9月現在、インド25県でエイズ予防管理ユニットの設立を支援しています。UNICEFとしては、HIVエイズの4重点分野である(1)母子感染予防、(2)小児エイズ治療、(3)青少年の一次感染予防、(4)エイズ孤児等の保護・ケア・サポートを核に、4つの戦略:①プログラムマネジメント強化、②BCC(行動変容コミュニケーション)、③保健システム強化および他のシステムとの統合、④アドボカシー、を軸としてプロジェクトを展開しています。(http://www.unicef.org/india/hiv_aids.html)

■インターンシップの内容■

インターン業務は、3ヶ月間という短い期間でありながら何らかの成果を示すことができるよう、業務開始初日に上司と話し合い、大きく下記3つの業務を担当させていただくことになりました。まず一つ目として、県レベルでのHIVエイズプロジェクトのオペレーションガイドの作成支援、二つ目として、同プロジェクトのモニタリング評価指標の選定支援を担当しました。そして三つ目の業務としては、プログラムコミュニケーションセクションが作成している、啓発教材のデータベースであるIEC Warehouseの更新を支援しました。

一つ目のHIVエイズプロジェクトのオペレーションガイドというのは、県エイズ予防管理ユニットの設立および機能強化を支援すべく、上記HIVエイズ対策4戦略ごとに、何をどのようにすればよいのか、をまとめたガイドブックです。本ガイドブックにより、25の対象プロジェクト県でエイズ予防管理ユニットの業務を標準化するのがその目的です。また、エイズ予防対策が進んでいる県を良い事例として紹介し、他の県への参考となるよう導く役割も果たしています。

県のHIVエイズ調査を実施するコミュニティワーカーへの研修の様子

二つ目のモニタリング評価指標というのは、国、県、郡のそれぞれのレベルでのHIV感染の傾向を表す指標、および実施されているHIVエイズプロジェクトに対する、上記4戦略の進展をモニタリングする上で鍵となる指標です。インターンシップ中は、今年度中でのHIVデータのデータベース化に向け、戦略ごとに必要かつ適切な指標を選定しました。その後、フィールド調査中にUNICEFの州事務所スタッフやカウンターパートと話し合い、より現実に即したプロジェクト評価指標になるよう、また、よりユーザーにとって使いやすいものとなるよう、指標を改善していきました。

カウンターパートであるNGOとの意見交換会にて 

三つ目の業務は、HIVエイズ予防啓発活動に使われた教材の共有を目的としたIEC Warehouseの更新です。IEC Warehouse は、啓発教材を分野、テーマごとに分類し、それぞれの教材の要約とともにウェブサイト上に掲載されている啓発教材データベースです。(http://www.unicefiec.org/) HIVエイズ分野に関しては、以前インド事務所へ派遣され、この「国連でインターン」でも寄稿されている、林英恵さん(第17回参照)が手がけられたIEC教材分析を継続して行い、さらに簡素化して経験の共有を図っています。私は、2007年以降のHIVエイズ啓発教材の更新を担当しました。

インターンシップ期間中、二度フィールドに行かせていただきましたが、行政レベル、コミュニティレベルで本プロジェクトがどのように進んでいるのか、県レベルでのHIVエイズ予防に関してどのような課題があるのか、を学びました。特に、ライフスキル研修の前後で、エイズ啓発活動に従事するピュアエデュケーターの性に関する知識・意識の変化を知ったこと、また、彼らの啓発活動へのモチベーションの高さに触れられたことは、UNICEFインド事務所でデスクワークの多かった私にとって、各業務の意義を感じられた貴重な体験でした。

エイズ啓発のためのライフスキル研修の様子

冒頭でも触れた、昨年のセネガルでの3ヶ月間のHIVエイズ予防活動と比べると、今回のUNICEFインド事務所でのインターンシップでは、インターン実施期間中(および派遣前の短期間)に複雑なプロジェクトの内容を把握することが必要であったこと、自分自身で実施プログラムをデザインする業務ではなかったことの二点が大きく異なっていました。また、ドナー会議やフィールドトリップへ出られる頻度が少なく、プロジェクトの動きを肌で感じられていたとは言い難かったです。反面、HIVエイズセクションの一員として週会議に毎回参加させていただき、プロジェクトの進展を追っていけたこと、さらには、セクション内の他のスタッフからも私の質問に丁寧に応えていただいたおかげで、多岐にわたるHIVエイズの課題、インドならではのHIVエイズの課題、UNICEFが強みを発揮できる分野、これから力を入れていきたい分野を理解することができました。何より、インターン派遣前に掲げていた目的、インドのHIVエイズに対するアプローチ、つまり、HIV感染リスクの高いグループを特定し(特定グループへの差別偏見には配慮しつつ)、プロジェクトの重点ターゲットとして、コミュニティワーカーによるベースライン調査およびHIVエイズ予防啓発活動を行っていく手法をじっくり理解できたことは非常に大きな収穫でした。担当させていただいた業務を通して、インドにおけるNGOやソーシャルワーカーの豊富さ、質の高さに感心させられると同時に、地方政府の関与が州によってさまざまであり、一概にHIVエイズ対策と言っても対象県ごとに異なった対策が必要であることも感じ取ることができました。

■その後と将来の展望■

現在は、JPOとしてUNICEFチャド事務所で水と衛生のプロジェクトの衛生啓発事業を担当しています。プロジェクトの対象者の行動変容というのは、プロジェクトを効果的に計画・実施する上で常に大きな課題です。同時に、長期的な効果が見えにくく、評価しづらい分野でもあります。インターンシップ中、UNICEFインド事務所の水と衛生セクションの方にお話を聞く機会も多々あり、本インターンシップで得たネットワークを活かして、今後ますます勉強し、少しでも子供たちの生活状況改善に努めていきたいと思います。チャドでは、衛生分野での啓発活動はこれからますます力を入れていく分野なので、どこまでできるか、楽しみでもあります。

■これからインターンを希望する方へのメッセージ■

UNICEFに関しては、現地事務所によって少しずつ異なるかもしれませんが、例年、第三四半期 (7月~9月) というのは、プロジェクトの履行時期にあたるそうで、さまざまなプロジェクトが形になっていくのを見ることができて面白かったです。反面、政策決定やプロジェクトの方針決定は第一・第二四半期に行われることが多いようなので、皆さんが応募される際には、プロジェクトサイクル中、ご自分の興味関心により合ったプロジェクト実施のタイミングを選ぶのも一つの手かもしれません。また、UNICEFでは、日本ユニセフ協会のインターンシップ事業以外にも、インターンを公募していますので、積極的に応募されるといいかと思います。(http://www.unicef.org/about/employ/index_internship.html)

最後に、現地事務所にとって、大学院生を対象としたインターンを受け入れるメリットは、業務支援はもちろんのこと、やはりインターン自身の経験を現場に還元すること、大学院で学習中の専門分野での最新のアプローチを紹介することにあるかと思います。私の場合、派遣先では学ぶことだらけでしたが、貢献できそうな分野があれば、積極的に提言すると大変喜ばれるかと思います。これからインターンをされる方は、短期間であれ、さまざまなことを吸収できるかと思います。楽しみながら頑張ってください。

2009年1月22日掲載
担当:澁谷
ウェブ掲載:柴土