第55回 小林 綾子(こばやし あやこ)さん

(55-1潘基文事務総長とインターンの特別イベントにて)

第55回 小林 綾子(こばやし あやこ)さん

一橋大学大学院法学研究科博士後期課程
一橋大学大学院国際公共政策教育部グローバル・ガバナンス・プログラム修了
インターン先:国連人道問題調整事務所・ニューヨーク本部(OCHA New York)
インターン機関:2013年7月~9月(2ヶ月)

■はじめに■

一橋大学大学院法学研究科博士後期課程に所属し、国際関係論を専攻しております、小林綾子と申します。2年近く前のことではありますが、国連でのインターンを希望されている方の参考になればと思い、OCHAニューヨーク本部で行ったインターンシップの経験をご紹介します。

■インターンシップの応募から獲得まで■

私は、一橋大学大学院で国連平和維持活動(PKO)に関する研究を行い、国際行政修士号を取得しました。その後民間企業勤務を経て、2010年10月~2012年10月の2年間、在スーダン日本国大使館専門調査員として、スーダンの和平交渉プロセスや、分離独立を問う南部スーダン住民投票の監視、独立後の南スーダンの国家建設過程の調査に従事していました。専門調査員の任期終了後は、一橋大学大学院に戻り、博士課程で文民保護に関する研究を進めています。

現場での経験の後、関心の対象であった国連本部がいかに機能しているかを知りたいと、博士課開始直後、OCHAを含む国連事務局の採用システムであるInspira(https://inspira.un.org/)を通じて、国連事務局のインターンシップに応募しました。OCHAニューヨーク本部Policy Development and Studies Branch(政策担当部署)のインターンシップの採用に至った経緯は、以下のような流れでした。2012年12月下旬、同部署より、私がショートリストiに載ったことと、2月から7月の6か月間のインターンシップが可能かどうかについて連絡がありました。私が春休みもしくは夏休み期間のみのインターンシップを希望していることを含めて返信すると、その後返信はありませんでした。後で聞いた話では、当時は6か月間できる人材を探していたため、別の候補者(前任者)を採用したとのことでした。6月下旬、夏休み期間のインターンを募集することになり、あなたをショートリスト(i)に載せましたと再度連絡があり、ぜひやらせてほしいと返事をすると、すぐに7月下旬からの採用に至りました。

■インターンシップの内容■

OCHA本部の政策担当部署では、文民保護政策を担当するチームに所属しました。文民保護政策とは、紛争下で攻撃や暴力、その他の危機下にある人々の状況を把握し、保護や救援を含めた文民の状況の改善策を検討する業務です。チーム内では、私はアフガニスタンにおける文民保護の調査に携わりました。所属部署のチーフは、文民保護に関する安全保障理事会(安保理)の非公式専門家会合(Informal Security Council Expert Group on Protection of Civilians)で、文民保護に関するブリーフィングを担当しています。同専門家会合は、国連平和維持活動(PKO)(インターン時は国連PKOではなく、正確には「アフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)」)のマンデート更新(ii)時に採択する安保理決議に、どのような文民保護の文言を入れ込むかを検討する、非公式な会合(iii)です。文民保護のペンホルダー(iv)である英国を筆頭に安保理15カ国が中心の場で、国連の関係機関も参加します。私は、上司の助言の下、チーフのブリーフィングの基礎となる、約50ページの資料を作成しました。直属の上司はフランス人のJPOで、同僚からの信頼が厚く、「あの人の下でインターンができるあなたは幸運よ」と言われるような、素晴らしい方でした。上司と議論を重ね、修正を経て、チーフに資料を提出しました。最終的に、専門家会合でブリーフィングを終えたチーフからも、これまでの文民保護の課題や文脈を網羅しつつ、最新の課題も指摘できている、と資料に対する評価をいただけました。専門家会合の準備から会合開催まで業務に携わったことで、OCHAが、特に安保理との関係において、文民保護の分野でどのように機能しているかを学ぶ、良い機会となりました。加えて、自分の調査の成果が、文民保護に関する提言の背景として使われ、その提言が安保理決議の内容として検討されていくと考えると、とても貴重な経験をさせていただいたと思います。

そのほか、人道支援機関ならではの緊急性の高い仕事もありました。OCHAのトップであるエイモス(Valerie Amos)人道調整官から所属部署への突然の依頼で、ある人道危機対応に関する報告書をチーム一丸となって、2時間でまとめ上げたことがありました。イレギュラーな業務ながら、高い集中力を要求された仕事でした。

所属した部署では、インターンであっても明確な役割がありました。週1回のチーム会議では、現在担当する業務の進行状況、今後の予定等を報告しました。上司に仕事を進める上での助言も受けながら、仕事のスキルを向上させることができたと思います。また、決まった役割をこなすだけなく、自分が必要と考える場合には、上司に相談の上、関係部署に連絡を取ったり、興味のある会議に出席させていただいたりもしました。長らく国連の人道支援分野で活躍されている関薫子さんと、偶然同じオフィスであったため、民軍調整(v)についてお話しいただくなど、貴重な機会にも恵まれました。このインターンでお世話になった方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。

(55-2国連本部とはためく日本の国旗)

■その後と将来の展望■

インターンシップ終了後は、日本に帰国し、博士論文の執筆を続けています。内戦国での人道アクセスの問題を扱っているため、OCHAでの調査の経験は、論文執筆にとても役立っています。

現在は、論文の完成を目指すと同時に、博士論文完成後の道を模索しています。国際機関職員のポストへの応募をしつつ、研究費の申請を行ったり、研究職ポストにも応募しています。実務であれ研究であれ、国際社会の一員として、暴力の連鎖を断ち、平和な社会づくりに貢献したいという自分の目標と、新しくできた家族との生活のバランスが両立できる道を選択できればと思っています。

■資金確保、生活、準備等■

資金確保:海外インターンシップのハードルのひとつは、金銭的課題だと思います。私の場合、職務経験を積んだ後のインターンシップでしたので、貯金を使って必要経費は賄えました。しかし出費は多く、修士時代を思い浮かべると、仮に国連本部インターンに採用されたとしても、自分で資金を準備することは難しかったと思います。周囲にいた欧州や中東からのインターンは、親御さんからお金を借りるなどして工面していました。

生活:短期でアパートを借りて、1人で生活していました。短期アパートは渡航してからでも決められる、というアドバイスもありましたが、渡航前に調べて、メールで連絡を取って仮契約し、到着直後に見学をして本契約をしました。インターネット上の情報だけで決めるのはリスクもあり注意が必要ですが、私の場合は信頼できる方からお借りすることができました。

渡航準備:査証取得のため、国連から書類を送ってもらう必要がありますが、この渡航前の書類のやり取りに時間がかかりました。インターン決定から渡米まで時間が限られていたので、上司や人事部のインターン担当者に、書類がまだ来ていないが確認してもらえないか、など、メールで依頼もしました。実際、査証が貼られたパスポートを受け取れたのは渡米前日で、綱渡り状態でした。選考後も、無事に渡航できるまで気を抜けませんでした。

仕事の予習:仕事に関しては、少しでも即戦力になれればと、事前に読み込んでおくべき資料はないかと上司に問い合わせ、送付いただいた文書は渡航前に目を通し、理解しておくように努めました。

■その他感想・アドバイス■

国連でのインターンシップを希望される方にとっての関心は、まずはいかにしてインターンシップを獲得するかということであると思います。

インターン期間中、上司に、インターンの採用について尋ねたことがあります。Inspira上で提出するPHP(選考書類)のどこを見ているのかについては、(1)学歴や語学など、要求事項が満たされているか。(2)興味関心や経験がインターンシップの内容とマッチしているか。(3)職歴はなくとも、インターンシップの経験はあるか。(4)一緒に働きたいと思える人物像が読み取れるか。上司は、「応募書類のうち4分の3は、これらの条件のどれかが当てはまっていない。」と言っていました。しかし、裏を返せば、これらの条件をしっかり満たすように書類を書くことがインターンシップ獲得の大きな一歩になります。世界各国から学生が積極的に応募している中で、書類の時点でどのように自分をアピールし、印象を残すかがひとつの重要な点だと思います。また、何よりも世界各国の学生に負けず、日本人の学生も積極的に応募されることをお勧めします。

書類選考後のメールのやり取りも重要です。上司は、書類選考で4分の1に含まれた応募者といざ連絡を取ってみると、語学スキル以前にメールのマナーがなっていない候補者がいて、がっかりしたこともあるそうです。次に、面接についてです。私は国連インターンシップポストに8件応募し、4件ほど選考が進みました。電話面接では、1件、学業との関連性が主に問われる面接がありましたが、ほかの3件は国連職員採用の際に行われるcompetency based interviewでした。私の場合、2012年の年末年始にかけて、一般財団法人国際開発機構(FASID)が外務省から受託して実施した、国際機関向け人材育成コースを受講し、competency based interviewのトレーニングを受けていたため、面接は概ね満足いくものになりました。面接のコツを熟知する必要はなくとも、面接の形式を理解しておくことは有用かと思います(competency based interviewの参考:https://careers.un.org/lbw/home.aspx?viewtype=AYI)。

以上のように、インターンシップに応募するだけでも事前準備が必要で、足踏みしてしまいそうですが、何事もLearning by doingだと思います。国連でのインターンシップは、自分の目標をより明確にしたり、世界観を広げる機会になるので、学生の皆様には、ぜひ積極的にチャレンジしていただきたいです。このインターン記が、今後応募を考える方の参考になれば幸いです。 

  • i 第一段階の書類選考を通過して、第二次選考の対象とされる少数の候補者に選ばれたということを意味する。
  • ii PKOは、任務遂行期間が、例えば1年間など、安保理決議で定められている。定められた任務遂行期間の終了が近づいた時、安保理が、同PKOの任務内容の変更を含め、活動期間を延長する決定を行うことを、マンデート更新と呼ぶ。
  • iii安保理の非公式会合(informal consultation)とは、通常、安保理15カ国またはその中の数か国が他の国連加盟国には公開せずに行う協議を指す。参考:United Nations Security Council homepage, at http://www.un.org/en/sc/about/methods/glossary.shtml/
  • iv 注:安保理の決定までの非公式の草案作成プロセスで、議長を務める安保理のメンバー
  • v 自然災害や紛争下で発生した人道危機への対応に関し、人道支援に携わる文民で構成される人道支援機関(民)と軍隊(軍)が、同じ現場で活動する上で、人道原則の保護及び促進、共通の目標の追求のために調整を行うこと。参考:OCHA homepage, at http://www.unocha.org/what-we-do/coordination-tools/UN-CMCoord/overview

2015年9月6日掲載
ウェブ掲載:中村理香