国連フォーラム関西支部 第15回SDGs勉強会『難民支援におけるテクノロジーの可能性〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー〜』開催報告

2020年11月7日実施

文責:纐纈 響七

2020年11月7日(土)に、オンラインにて、『難民支援におけるテクノロジーの可能性〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー』を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

イベント概要

《企画背景》

近年、先進国でのテクノロジーの進歩は目覚しく、スマートフォンやパソコンは、生活や仕事、授業では必須アイテムになってきており、その影響は先進国だけなく途上国にも浸透し始めています。UNHCRのヨルダンの難民支援では、色彩認証が取り入れられ、安全性や支援の効率性から新たな支援の形態として期待されており、特に難民キャンプでは、テクノロジーを活用した難民のコミュニティの成立や外とのコネクションが重視されています。しかし、このようなテクノロジーを用いた新しい支援を取り入れる上で、その利点のみならず起こりうる問題点にも目を向けていかなければなりません。

そこで、国連フォーラム関西という国際協力に関心を持つ若者が集うプラットフォームでは、新たな支援の形態としてのテクノロジーの好事例や可能性を知ると同時に、その課題点やどのように調和をとっていくのかを考え、新しい国際協力の在り方を考える、勉強会を企画します。

《企画目的》

対象:難民支援やテクノロジーによる途上国支援に関心がある方

企画目的:

難民支援の円滑な自立と支援には、テクノロジーが使われ始めており、その重要なワードとして「難民の接続性」ということがあります。「難民の接続性」とは、難民コミュニティーだけでなく、難民コミュニティーや難民キャンプの内外問わず、支援やサービスがつながることを意味します。テクノロジーが世界の人道支援や難民のコミュニティー開発に寄与していることを理解し、企画終了後も難民問題への関心を引き続き持ってもらうため、以下のことを目的として企画しました。

  1. 難民支援×テクノロジーという新しい支援の形態が、どのようなものを用いてどのように支援がなされているのか、外との接続性を意識した支援とはどのようなものなのか、という難民支援の形態や難民支援組織が直面する課題点の理解
  2. テクノロジーの支援を理解した上で難民コミュニティーの接続性を踏まえて、どのような課題に、どのようなアプローチで支援ができるのかを考えます。また、難民支援におけるテクノロジーの活用や民間セクターとの関わりがどのように変化してきたのか、また今後の在り方を考える。

《イベントプログラム》

【日程】2020年11月7日 13:00~15:00(12:45開場/15:00〜ネットワーキングタイム)

【場所】Zoomにて実施

【イベントプログラム】

オープニング

  国連フォーラム紹介、タイムライン説明

第1部

- 講演 守屋 由紀 氏

 「難民支援とテクノロジー ~世界の難民問題~」

第2部

- グループディスカッション

- グループディスカッションの共有

閉会

- ゲストによる講評

- クロージング

《ゲスト》

守屋 由紀 氏 国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所 広報官
東京生まれ。幼少期を香港、メキシコ、アメリカで暮らす。大学卒業後、総合商社、法律事務所などを経て、1996年よりUNHCR駐日事務所。2007年より広報官。世界の難民・避難民などへの理解を促し、UNHCRの活動を日本に紹介することに従事。東京をベースに、アフリカやアジアなど18カ国の現場を訪問、直近の訪問地はコロンビア。

【開催報告】

勉強会当日は、ゲストの方の講演とディスカッションの2部構成で行いました。ゲストは、UNHCRの守屋様をお呼びして、難民支援におけるテクノロジーの活用の現状とその成果について説明していただきました。

ディスカッションでは、事前に配布した事前資料を参考に難民支援における問題点を深堀したのち、「その問題をテクノロジーによってどのように解決していくか」そして、そのテクノロジー支援のメリット・デメリットについて支援のアプローチについて考えました。

《第1部 守屋由紀氏の講演》

第1部では、守屋様から難民支援におけるテクノロジーの活用をテーマにご講演頂きました。

はじめに、守屋様の活動についてご紹介頂きました。難民を取り巻く状況は年々悪化しており、人類の1%が移動を余儀なくされている、と守屋様は指摘します。このような人類の課題ともいえる難民問題に対して、広報官である守屋様は、様々な人にUNHCRの活動を知ってもらうため、メディアや著名人など発信力のある方々を巻き込んで活動されてきました。

COVID-19の影響は、難民支援にも影響を大きく与えていると守屋さんは述べます。世界中が困難な状況にある中、UNHCRへの支援額が増加したというエピソードは印象的でした。

◆守屋様からご紹介いただいたポータルサイト
“Operational Portal -Refugee Situations-”<http://data2.unhcr.org/en/situations>
UNHCRをはじめとした国連機関やNGOによるオペレーション情報、教育、水などの詳細なデータが掲載されています。

次に、ヨルダンの難民キャンプの実際の事例をもとに、難民支援におけるテクノロジーの利用についてご説明いただきました。

Iris scanning biometrics 虹彩認証

自分の虹彩を合わせることによって、自分の電子口座にアクセスし、現金を受け取ることができます。ヨルダンは、パレスチナ難民を受け入れている国ですが、国境は閉鎖せず、難民を受け入れていました。多くの難民に対してどのようにしたら的確な支援ができるかを考えていました。

虹彩認証によって、奨学金を受けることもできます。奨学金を受け取ることによって、600人の学生に教育の機会を提供しています。スマートフォンにグランドが入ってきて、その金額で教育を受けています。

太陽光発電

砂漠のようなヨルダンのザアタリ・キャンプでは、IKEA財団からの寄付によって広大な太陽光発電をおこな合っています。電気が通っているテントやプレハブの近くに街頭がありその街頭が電気を奪っていたため、電気不足が深刻だったことが導入のきっかけです。

難民の自立につながります。自分たちの生計を立てて、人間の尊厳を高めるような成果もできました。また、安定した電力が供給できることにより、そのキャンプの運用費を削減することもできました。

テクノロジーの進歩(AIや統計データ)を用いた支援は今後も重要視され、UNHCRでは、イノベーションや革新に力を入れています。また、色々な現場でプロジェクトを組んでのイノベーションもあります。

《第1部 質疑応答》

質疑応答では、以下のようなお話を聞くことができました。

― 日本企業はどのように協力しているか

守屋様からは、UNHCRが実際に企業と関わっている例を挙げてくださいました。ユニクロで有名な(株)ファーストリテイリングとグローバル・パートナーシップを結び、難民の方々への服の提供を行っている事例をご紹介頂きました。要らなくなった服の回収から現地での提供まで一貫して取り組まれ、社員が現場を訪れてフィードバックを社内に持って帰るなど、普段の生活では気付かない企業の取組みを知ることができました。また、UNHCRの機材としてトヨタの車が多く使用されていることに言及されました。機材の提供のみならず、メンテナンスの指導がなされていることで、長期的に使用することができ、様々な現場で活用されていることをお話頂きました。

― 難民キャンプ外に住んでいる難民をターゲットにしたテクノロジーを用いた支援について

難民の多くは、キャンプではなく都市や町などで暮らしており、そのような都市に住む難民の人々への支援が難しいことに言及されました。ヨルダンの難民の方々は七割以上の人が携帯を持っているため、スマホを通じて情報を提供しているとお話しくださいました。一方、現金給付による支援の重要性が高まってきていることを教えて頂きました。現金支給による支援であれば、自身の生計を主体的に考えることができるほか、それぞれのニーズに合ったものを地元のマーケットで購入するといった、経済活動に参加することができます。このように、現金給付の支援は、難民の自立促進や受け入れコミュニティへの還元にもつながるという点で重要性が高まっていることを学びました。

― 日本の難民・移民政策について

日本における外国人労働者の受け入れなど、移民以外のかたちで受け入れを行っているような状況に言及され、移民や難民の政策を進めるには世論の声・世論の理解が影響を与えるのではないかと述べられました。また、外国籍の人の割合が高い新宿区の事例を挙げ、移民政策を進めるうえでは多様性の理解が必要ではないかとお話頂きました。また、〇〇人として括る報道や、〇〇難民というワードを使うことも難民や移民への誤解を招きかねないと指摘されました。

― 課題が起こっている現地企業とのテクノロジーの活用における協力について

外からの力に頼らず、現地の人や物などのリソースを用いて課題などに取り組んでいくことの重要性に言及され、JICAなども取り組んでいる自主性を促す取り組みに言及されました。さらに、「テクノロジーと人」や「人の活動」をどのように融合させるかがテクノロジーの活用においても重要だと述べられました。

《第2部 グループディスカッション》

今回のグループディスカッションでは、参加者の皆さまにグループに分かれて頂き、難民キャンプの方々や難民支援において直面する課題や解決策となるテクノロジーについて考えて頂きました。このグループディスカッションでは、難民の方々が直面している課題をテクノロジーでどのように解決するか、そしてそのテクノロジーの可能性やテクノロジーを用いた支援の課題について考えました。

<A班>

A班では、教育をテーマに議論しました。難民として国を移動している間に「学びのギャップ」が生まれること、難民が居住しているところから学校が遠いことや、親が経済活動を重視することで「子どもの学習機会」を奪ってしまうという問題が挙げられました。

これに対するテクノロジーを使った解決策として、AIの活用やタブレットの使用などのアイディアが挙りました。AIによって生徒に応じたカリキュラムを選定・理解度の測定をすることで、学びのギャップを把握しつつ対応できることや、タブレットで場所の制約なしに教育機会を創出できるというメリットが考えられました。

一方で、難民キャンプではネットワーク状況が不安定であることやインターネット料金を払えない難民への教育機会などの意見も生まれ、それに対してどう解決していけばよいかなどと活発な議論が行なわれました。

<B班>

B班は、雇用促進・エンパワーメントをテーマに議論を進め、特に「難民キャンプに雇用がない」「雇用があっても、その人の教育レベルと合わない」ことにより、生きがいや自立心につながらないという課題が挙がりました。そこで、雇用を求める世界の企業と教育レベルの高い難民をマッチングし、適切な人に適切な仕事を提供するクラウドソーシングサービスというアイディアが挙がりました。本アイディアにより、難民の方はキャンプにいながら自尊心の持てる仕事に携わることができる反面、雇用する企業側の難民の状況への理解や文化、考え方への理解をどう深めていくかなど、ソフト面に対する配慮が必要になるという意見も挙がりました。

<C班>

C班は、自立促進・エンパワーメントについて議論を進めました。難民キャンプにおける教育にフォーカスを当て、学歴証明書がもらえないことを課題に上げました。そこで、「ネットの環境を整える」「オンラインで学歴証明書」が発行できるようにするなどが挙がりました。そこでSAP デジタルバッチに焦点をあてて、どのような仕事を経験したきたのか、学歴や資格がオンラインで発行できるようにするテクノロジーを提案しました。そのため、dのような企業が行うのか、漏洩した場合のリスク管理などが懸念点として挙げられました。

<D班>

D班は水問題・衛生環境について議論しました。下水処理システムの不整備から発生する公衆衛生の問題や、農業に関心がある参加者からは農作物への影響などが課題としてあげられました。これらの課題を解決するためには盤石な水の循環管理システムが重要であるため,

ITを用いた24時間体制の管理や、VRを用いた修繕技術訓練などがアイディアとしてあげられました。コスト等を考えると実現可能性はまだまだ低い一方で、長期的な視点で構築していくことの重要性も意見としてあげられました。

<E班>

E班は、自立促進をテーマとしてディスカッションに取り組みました。難民の方々が直面している問題として、生計を立てるための市場がないことや経済活動を行うための身分証明がないこと、経済制裁により物資が届かないことなどが問題点として挙げられました。中でも、地方においては農業による自給自足が行われていることに着目し、どのようなテクノロジーが農業による生計手段確立に役立つかを考えました。ドローンを用いた農薬散布や稲の生育状況や土地の乾き具合などを調べるための写真によるデータの収集といった実用例のあるアイデアから、LEDを用いたネット環境の構築といった未来の可能性に言及したアイデアまで様々な意見が交わされました。

《クロージング》

講評

最後にグループディスカッションを踏まえ、ゲストの守屋様から講評を頂きました。

― 今回の勉強会の改善点などは、ありますか。

グループディスカッションがもっと長くてもよかったと思います。みなさんのバックグランドから出される様々なアイディアがとてもいいなって思いました。コロナの中で、今までのことを変えるチャンスだと思います。

― 特に印象に残った新しいテクノロジーなどはありますか。

特にデジタルバッジのアイディアは革新的なものだと感じました。日本にきた難民の人が自分の立場を証明するものがないということがあります。デジタルバッジがあれば、証明されるのかと思う一方セキュリテーとの兼ね合いなどを何かARVRができるかもしれないです。そもそも難民問題を防ぐテクノロジーを作れるかもしれない技術革新があるかもしれないです。

各班に様々なアドバイスをくださり、参加者の質問にも答えてくださった、守屋様、西村様に心より感謝申し上げます

《参加者の声》

参加者の皆さまからのアンケート結果を抜粋してご紹介いたします。

  • 講演、質疑応答、グループディスカッションの時間配分が丁度よく、最後まで楽しめました!
  • いつも通り、ディスカッションタイムがしっかり設けられており、トピックについて深く学ぶことができました。
  • 同じグループの方の知識が豊富で、勉強になることばかりでした
  • さまざまなバックグラウンドある方々から幅広く学ぶことができた。
  • 自分にとっては少し遠いテーマ(テクノロジー)でしたが、いろいろなアイディアがでて、非常に刺激的な時間でした。新たな知見や考え方を得て、また自分に何ができるかを考えるきっかけとなりました。
  • 皆さんとの意見交換や、発表の仕方がとてもうまく、とても参考になりました。色んな分野の方がいる中で、自分の専門性や経験、関心分野について、短い時間の中でわかりやすく論理的な説明をする力が必要とわかった。日本の難民についてももっと幅広く知ってもらえる方法を考えていきたいと思った。

この度「第15回SDGs勉強会「難民支援におけるテクノロジーの可能性〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー〜」」にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

また、国連フォーラム関西支部のFacebookグループページやホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!