国連フォーラム関西主催 第20回SDGs勉強会『教育のニューノーマル〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜』開催報告

文責:丸岡 樹奈

《企画背景》

教育は、社会の発展にとって非常に重要であり、社会の変化に合わせて常にその形を変え、進化してきました。特にここ数十年では、科学技術や経済の飛躍的な進歩に伴い、格差拡大や資源枯渇など世界が困難な課題に直面し始めたこともあり、教育の重要性がさらに増しました。

一方で、2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的大流行によって、社会はあらゆる側面で打撃を受け、教育についてもユネスコのデータによると感染が急拡大した2020年4月の段階で、既に14億人以上の就学者に影響が出ていることが発覚しています。現在でも一部の国では休校が継続されています。このような状況下では、各国の発展レベルによって、教育が長期的に中断され、ますます課題が深刻化する恐れがあり、こうした危機的状況を打開するために、今まで以上の国際協力が求められるとともに、テクノロジーの活用が期待されています。

これらの時代的背景の下、近年では、最新のテクノロジーで教育に纏わる様々な課題の解決を図る新しいビジネス分野EdTechが注目を集めています。インターネットやIoT、人工知能(AI)、ビッグデータなどテクノロジーの急速な進展に伴い、様々な領域で最新テクノロジーを活用・応用した取り組みが加速しています。その中でEdTechは、教育(Education)とテクノロジー(Technology)の融合、テクノロジーの教育への革新的な応用として注目されています。

国際機関や民間企業、NGO等の様々な組織でEdTechへの取り組みがコロナ禍に伴って加速しました。EdTechは、物理的な空間の枠を超えた教育のアクセスを実現できるという魅力的なメリットがある一方で、ICT環境の未整備や視聴覚情報の偏りによる学習の質への課題など、デメリットもいくつか存在します。

 本勉強会では、コロナ禍によりこれまで以上に教育の質や量に課題が増えた発展途上国を対象フィールドとしています。衛生管理やインフラ整備に課題を抱える発展途上国においては、SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」の達成はコロナ禍に伴い、より困難になっていると考えられます。その為、今までの学習形態だけではない新しい学習の形が求められるでしょう。発展途上国という限られたリソースのフィールドで、EdTechを切り口に、教育のニューノーマルについて考えることで、より革新的な今後の国際教育協力のあり方を模索します。

《企画目的》

対象:発展途上国の教育課題に関心を持つ高校生、大学生・大学院生、社会人

企画目的:

  • 途上国におけるコロナ禍での子供達の取り巻く環境の変化(特に教育・福祉)を知る
  • コロナ禍での教育の貧困・格差是正のための策のひとつであるEdTechの価値・現状・課題を知る
  • 参加者自身に自身のこれからの国際協力を考えてもらうきっかけ作りとする

《プログラム詳細》

※イベントのスケジュール・内容は都合により変更となる場合がございます。予めご了承ください。

13:00 – 13:15オープニング、EdTechについての概要説明・ゲスト紹介
13:15 – 14:25 第1部  ゲストからの基調講演
14:25 – 14:55第2部 パネルディスカッション
14:55 – 15:00クロージング
15:00〜15:30ネットワーキングタイム(希望者)

《ゲスト》

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藤平 朋子 (ふじひら ともこ)氏

株式会社すららネット 執行役員 マーケティンググループ 海外事業推進室 室長

中小企業向けの経営コンサルティング会社にて複数のフランチャイズ本部、加盟店の支援、事業開発を経て同じ部門より開始したeラーニング「すらら」の教育事業にMBA後に合流。2015年よりJICAプロジェクトを通じて本格的にスリランカ、インドネシアへ進出。プロジェクト終了後に事業化し、海外生向けに開発した算数教材「Surala Ninja!」の教育サービスを展開。その後もインド、フィリピンなどで同サービスの事業化に着手。現在多くの小学校での授業内活用や学習塾での導入を実現。2020年度には経産省・JETROによる「未来の教室」実証事業に採択され、インドネシアとフィリピンにて活動。2022年はアジア開発銀行研究所の大規模教育プロジェクトにコンサルタントとして参画。

松本 ふみ(まつもと ふみ) 氏

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部

大学卒業後、IT企業での勤務を経て、英国大学院にて教育開発学の修士号を取得。その後、ユニセフガーナ事務所教育セクションでのインターンシップを経て、2018年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。モンゴルにおける初等・中等教育でのインクルーシブ教育推進事業などを担当。

佐藤 秀美(さとう ひでみ) 氏

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部

大学卒業後、英国大学院にて教育と国際開発の修士号を取得。その後、外資系金融機関での勤務を経て、2021年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。レバノンにおけるシリア難民やホスト・コミュニティの子どものための教育支援事業などを担当。

ファシリテーター

安藤 秀雄(あんどう ひでお)

国連フォーラム関西スタッフ、公文教育研究会

神戸大学大学院国際協力研究科修了。学生時代はイギリス・シンガポールへの留学とケニアでの開発NGOの活動を経験。大学院ではケニアにおけるシティズンシップ教育について研究。2018年より公文教育研究会に所属。フランチャイズ教室への指導・運営・普及に関するコンサルティング業務に従事。個人として国際協力や障害児教育に関心を持ち、国連フォーラム等で活動中。

開催報告

勉強会当日は、ゲストの方の講演とパネルディスカッションの2部構成で行いました。

《第1部 講演》

講演①松本ふみ氏/テーマ『コロナ禍前後の発展途上国の子どもの取り巻く環境の変化』

【講演要旨】

  • 組織のビジョンや事業概要について
  • 学校に通うことが難しい子どもたちの現状について
  • コロナ禍に伴う子どもたちのメンタル面の危機とそのケアについて
  • SCJとしてEdTechの価値や位置付けをどのように捉えているか
  • EdTechに関わるこれまでのご活動と今後の活動計画

講演② 藤平 朋子氏/『発展途上国におけるEdTech事業の成果と今後の方向性ースリランカでの事業を事例にー』

【講演要旨】

  • 組織のビジョンや事業概要について
  • 「Surala Ninja!」の概要と特徴について
  • スリランカでの連携事業について
  • 海外でのビジネス展開の今後の方向性について

《第2部 パネルディスカッション》

(Save the Children様より)

  • 発展途上国かつコロナ禍という特異な状況下でのEdTechの普及に関しては、子ども側の負担だけでなく、教員側の負担や、電力需要の超過などについても懸念点がある。
  • 学校が休校になってしまったことにより、子どもと武装勢力が接近する機会・口実が作られているのも事実。さらには、児童婚の増加傾向も確認されている。
  • コロナ禍で、当団体への募金金額は増えたと感じており、教育等の整備に使われている。

(すらら様より)

  • デバイス不足の問題に対しては啓蒙活動を行う等のロジ面での整理を行ったとのことであった。その一方で、発展途上国の国内でも地域間格差が存在しているのが現状である。そのため、現地NPOとのパートナーシップ構築が喫緊の課題である。
  • PCではなくスマホでの教材の受講は、画面が小さく学習環境としては芳しくない。また、スマホ版を作るのにも予算が必要である。
  • 学習の習得状況により、フォローアップの仕組みを整備しているのが、同業他社と比較した際の強みである。
  • 子どもの学習に最も大きな影響を与えるのは教員だと認識している。教員によって、e-ラーニングの受講時間にもばらつきがでる。教員は、学習に対するフォローはもちろんのこと、子どもたちの精神的成長にも大きく寄与するメンター的存在であり、EdTechが普及しようとその重要性は不変である。
  • 上記のように、講演パートだけでは扱いきれなかったテーマに関して、参加者からは積極的に質問が寄せられ、自由闊達な意見交換を行うことができた。

《クロージング》

クロージング後には、ネットワークキングタイムの時間を設けており、ゲストと参加者によるインタラクティブな交流の機会を設けることができた。

《参加者の声》

参加者の皆さまからのアンケート結果を抜粋してご紹介いたします。(一部編集済)

  • 興味のあった分野について実際にそのフィールドで活動されている方からの講義を受けれてとても勉強になった。
  • EdTechについて、事例も交えてわかりやすく解説いただけた。また、グループディスカッションでは、様々な年齢、所属の方と意見交換することでき、勉強になった。
  • 二つの団体の方のお話を伺うことができ、多角的に学ぶことができた。

この度「第20回SDGs勉強会 教育のニューノーマル 〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜」にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。

今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。