第116回 杉山 久実子さん 国連広報局・アウトリーチ課
プロフィール
杉山久実子(すぎやま・くみこ):京都府出身。Hunter大学にてTheatre Artsを学び、その後SAE Institute of TechnologyにてAudio Engineeringを学ぶ。歌手、楽曲プロデュースなどのアーティスト活動を経て、2006年に広報局アウトリーチ課のポストに採用され、現在に至る。
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Q. アーティスト、そして国連職員になった経緯を聞かせてください。
中学、高校と演劇部に所属していて、本格的に演技を勉強したいと思いました。演劇といえばニューヨークが本場ですし、Hunter大学は演劇学科が有名なので、留学を決めました。舞台芸術を専攻し、卒業後半年ほど専門学校で音響技術を学んでから、アーティストとしての活動を開始。大学で勉強した舞台演劇から入ったのですが、次第にミュージカルを手がけるようになり、最終的には音楽に興味を持ちました。
最初は自分が歌うとは思っていなかったのですが、周囲の関係者から「歌を歌った方がいいのでは」と勧められて歌を習い始め、いつのまにかはまり…こうして歌手活動や作詞作曲、音楽プロデュース、楽曲提供の仕事をするうちに、知り合いを通じてUNジャズバンドのメンバーになりました。UNジャズバンドとは、国連職員と外部のプロが半々くらいのメンバーで構成された団体で、レパートリーが非常に多くていつ呼ばれても何でもこなせるのが持ち味です。
そのリハーサルのために毎週国連に通ううち、私の歌が職員組合のかたの目に留まり、2005年の国連職員デーには、総会ホールでオリジナル曲を2曲披露する機会に恵まれました。このようにして国連に関わる機会が増えて、国連の活動にもどんどん興味を持ち始め、今のオフィスで産休に入る職員の穴を埋める臨時ポストが空いたときに応募したところ採用され、今に至ります。現在3年目になりますが、思わぬ展開でしたね。
Q. 今のお仕事について、お聞かせください。
広報局で、アウトリーチ課の課長補佐をしています。私が主に担当しているのは、課長の補佐業務と、国連本部ロビーの展示会に出展する絵画の決定委員、国連出版物の著作権関係です。この部署では他にも、コンサートの運営やツアーガイド、映画やテレビ関係(最近ではLaw & Order / Ugly Bettyのロケ対応など)、国連親善大使、平和の大切さを世界に訴える「ピース・メッセンジャー」などを担当しています。
仕事の上で大変だと感じるのは、職員が皆それぞれ違う国の文化、習慣を持っているので、それを知った上できちんとコミュニケーションをとらなければいけないことでしょうか。よかったなと思っているのは、アーティスト活動をしていることで、逆に国連にいやすいということです。職員と話をするときに芸術のことを持ち出すと、だいたいすぐ仲良くなれます。アートですから、みんな構えてこないので。国連内でのアーティスト活動としては、UNジャズバンドで歌ったり、国際労働機関(ILO)主催の展示会の開会や国連エイズ合同計画の行事、各国代表部のホリデイ・シーズンのパーティーで歌ったり。私がどの部署で何をしているのかは知らなくても、みんな私が歌手だと知っているし、かなり年長の人まで、歌手としての私に話しかけて下さることがあります。
Q. これまでのアーティスト活動のなかで、印象的だったことは?
FOX TVの『30 Seconds to Fame』という番組に出たことでしょうか。ラップは私の専門ではないのですが、日本語でラップの曲を作ってニューヨークでのオーディションを受けたところ、面白い才能だと認められ合格し、ロサンゼルスまで収録に行きました。主要テレビ局の撮影現場は初めてだったのですが、音響設備に驚きました。マイクも格段に良く、自分の声がふぁーって広がるんです。カメラが3台くらい、いろんな方面から映していて…。これは私の音楽活動にとっても貴重な経験でしたし、何より自分の曲が全米に流れたのが嬉しかったです。
Q. 絵も描かれるそうですが。
プロを目指したことはないのですが、昔から漫画を描いていました。今のスタイルは、基本的には日本の墨汁とパステルを使ったものです。先日、ある画家のスタジオのコンクリートが崩れて本人も重傷を負い、絵もつぶれるという事件があり、彼女を支えるために葉書大の絵の出展を募って販売するというチャリティー・イベントが開かれたのですが、そこに出展した私の絵が売れたのです。私の作品が人の役に立ったことが嬉しくて、それを機に絵にも力を入れるようになりました。職員組合のオフィスにも作品をプレゼントしたんですよ。
絵と音楽は、私のなかでは繋がっています。作曲に際して音を作るとき、音が色で見えるのです。映像が頭に浮かんでいて、作曲をしていながら絵を描いている感じです。この辺りでキラキラした、バイオリンの音だったら青が見えたり、この辺りにシンバルの音を出そうとしたら、オレンジが見えたり…。
Q. 最近はどのようなアーティスト活動を?
私の楽曲はiTunesからも視聴できます。音響技術を修得したので、自分で録音してPCに取り込みミックスして、一曲全部仕上げています。曲を作る過程では「無」の状態で作るので、特に曲を通じて訴えたいことや伝えたいことがあるわけではないのですが、結果として聞いている方々が楽しい気持ちになればいいなと思っています。
また、これも周りのアーティスト関係者に勧められて、最近は司会の勉強を始めました。最近は、毎月ニューヨークで活動している若手歌手やダンサーを集めたショーの総合司会を務め、若手アーティストたちを支援しています。私の第一言語は日本語ですが、英語で司会をすることにとりわけ難しさを感じてはいません。日本語でも英語でも難しさは同じです。今は、自分の個性を表現したり、知識や引き出しを増やしたり、ということが課題です。 アーティストとしての活動を支える原動力は何かと言われると…アーティストの自分というのは、自分の“個性”であると思います。この個性があるおかげで、芸術を通じて色々な方々と交流できるので、ありがたいと思っています。
Q. この記事をお読みくださった方々へ、最後に何かひとこと、メッセージはありますか?
好きなことはやり続けた方がいいと思います。どこで役に立つかわからないし、素晴らしい出会いのきっかけにもなると思います。
2009年12月17日 ニューヨーク
聞き手:鹿島理紗
写真:ポートレイトは田瀬和夫
ウェブ掲載 2010年1月3日:田瀬和夫