第100回 「国連と日本外交」

日時:2016年2月3日(水)18時00分~20時00分
場所:国連代表部3階 会議室
講師:外務省 杉山晋輔 外務審議官(※当時)
コーディネーター:国連フォーラム 田瀬和夫 共同代表
出席者:国連代表部 南博 大使 ほか約60名

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講師経歴:
杉山晋輔(すぎやましんすけ)
(プロフィール)
1977年4月外務省入省。総合外交政策局総務課企画官(1995年1月)、総合外交政策局国連政策課長(1995年8月)、条約局条約課長(1998年1月)などを歴任。
在大韓民国日本国大使館公使(2000年4月)、在エジプト日本国大使館公使(2004年7月)等在外公館でも勤務。地球規模課題審議官(2008年7月)、アジア大洋州局長(2011年1月)、外務審議官(2013年6月)等を経て、2016年6月14日より外務事務次官。

■1■ はじめに

記念すべきニューヨーク第100回目の勉強会は、外務省の杉山晋輔外務審議官(※当時)をお迎えし、国連代表部との共催にて開催しました。地球規模課題審議官、アジア大洋州局長などをご歴任され、安倍総理や岸田外務大臣の下で重要な外交課題に取り組まれている杉山外務審議官に、日本外交の最前線と今後目指す方向等についてお話しいただきました。 ご多忙極めるスケジュールでのご出張の中、この日も別のご講演を二つ行われた後の三つ目のご講演でしたが、熱気溢れる参加者と共に多岐に亘るお話を伺えました。今回は国連フォーラム共同代表の田瀬和夫さんもファシリテーターとして参加しました。

なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、各発言者の個人的な見解に基づくものである旨、ご了承ください。
※記事内の「外務審議官」の肩書は勉強会当時のものです。その後2016年6月14日付で外務事務次官へご昇進されました。

■2■ 安倍総理と外交の現場

安倍政権下での、日本外交の基本的な方向性は、「Diplomacy of panoramic views (地球儀を俯瞰する外交)」「Proactive contribution to peace based upon international cooperation(積極的平和主義)」。この構想は、第二次安倍内閣発足時に練られたものである。安倍総理は、これまで63の国と地域を訪問し、訪問国は39か国、来訪首脳は95人を数える。戦後日本の長期政権としては例えば中曽根政権や小泉政権があり、いずれも外交面で成果を挙げた政権だったが、安倍政権は更にその上を行くのではないかと期待している。その理由の一つには、安倍総理、及び岸田外務大臣という、現在の外交を担うリーダーのこれまで以上に幅広い外交に取り組む姿勢が挙げられる。重要な外交交渉の前には、官僚から現況の説明を行うが、総理・外務大臣はそれらを(時には鋭い質問を浴びせかけながら)まずこと細かく理解する。そして実際に各国の代表と対面する場では、要点をまとめたペーパーを、必要に応じて参照するものの、決して棒読みすることはなく、自分の言葉で訴える。だから説得力がある。例えば首脳会談での安倍総理は、重要な点になるととりわけ相手の目を見て、メルケル首相には「アンゲラ」、オバマ大統領には「バラク」、とファーストネームで呼びかけ、自分の言葉で伝え、様々な国のリーダーと良好な関係を築いている。同時に「日本の政治家は会ってもどうせすぐ変わる」という先方の見方が変わったことも大きい。安倍総理は、オバマ大統領をはじめ各国の首脳と個人的な信頼関係を築いて来たし、インドのモディ首相やオーストラリアのトニー・アボット前首相とはとりわけ仲が良い。

実務的な話をすると、安倍総理が首脳会談を行う場合、事前のブリーフィング及び実際の会談には、現状では、私は原則としてすべて同席することとなっている。これは私にとってもかなり大変な作業である。ブリーフィングで時々は「杉山さんはどう思う?」と聞かれることがあるが、瞬時に返答するのが仕事である。首脳会談中にもメモが回ってきて質問が来ることがあるし、席に呼ばれ進言を求められたこともある。回数を重ねていく中で、メモが回って来るタイミングや短い文言に込められた意図をある程度は推察できるようにはなったが、依然としてプレッシャーの大きい任務である。

今年は日中韓首脳会談、G7サミット、安保理非常任理事国、と外交面で非常に重要な年。現在はG7の準備で忙しいが、もちろん外務省として専心すべきはそれだけではなく、昨年12月28日の日韓慰安婦合意のように、表に出ない水面下の交渉が最後に実を結ぶ、という例もある。
慰安婦問題に関する合意について付言すると、実はあの合意は国際法上の国際約束ではない。国際法上、国際約束(international undertaking)とは政府と政府,あるいは国と国との間で両者の法的な権利義務に関する合意(形式自体は書面でも口頭でもよいとされている)である。しかるに、この慰安婦問題に関する合意のように、政治的な行動を相互に発表するだけで権利義務を規定していないものは、国際約束には当たらない。とは言え、「政治的な意図の表明」としては非常に重要な意味のあるものである。

安倍総理の政治信条については、いわゆるリベラルとか左派でないことは確かと言っていいし,いわゆる保守主義に属することは間違いないと思うが、軍国主義とか全体主義などとは全く違う。安保法制によって徴兵制を目指しているとか戦争法を策定しようとしているなどというのはひどいレッテル張りで、彼の本心はそんなところには全くないことは確かである。一時ワシントンDC界隈にまでこの誤解が広がってしまった部分があるが、昨年の総理訪米の成功で、その種の懸念は払拭されたと思う。総理訪米のハイライトは、米議会上下両院合同会議での演説。格調高く、見事な演説であった。英語で読むことをお勧めする。硫黄島の激戦について、当時敵同士であったスノーデン中将と栗林中将、その孫の新藤議員に言及して日米の和解を強調し、過去の歴史について悔悟(remorseという言葉は他で使い,ここではrepentance)という言葉を使った。これが米国人の心に響いたし、米国での論調も大きく変わったと考える。

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■3■ 国連安保理と日本

最近の話題としては北朝鮮問題。先ほどの講演後のぶら下がり取材でも、講演会の主題ではないにも関わらず北朝鮮のミサイル発射表明に関する質問がほとんどだった。そもそも私は現在、北朝鮮問題を担当しているわけではなく、担当でない者が外部に向けて発言するのは政策遂行上好ましくないので、あくまで「一般論としての」安保理決議の実務や対応方針の概要を、どうしても意見を求められる場合には発言する。本件の場合、一般的に安保理の意思決定というのは非常に時間がかかり、1998年8月31日の北朝鮮テポドンの発射時(※当時、杉山外務審議官は条約課長)は、安保理議長によるプレス声明が出ただけであったが、それでも2週間かかった。一方で2006年のミサイル発射に対する決議1695は決議まで10日。2006年10月9日の核実験に対する第7章の下の決議(Acting under chapter 7)は10月14日に採択と、非常に早く決議が出るケースもある。他方、2013年2月12日の核実験に対して、第7章決議が出たのが3月7日であった。

ところで安保理の意思決定はほぼ常任理事国のみで行われているという印象があるかもしれないが、実は日本がイニシアティブを取って議論に貢献することも多い。
ここで、国連安保理での交渉の現場の様子について少し述べたい。非公式協議を行う際は、議長執務室の手前にある非公式協議用の狭い会議室で行う。馬蹄形の円卓に各国代表が着席し、その後ろの椅子には補佐が座っている。緊急事態になるとこれに加えて立ち見も入るので、狭い部屋に熱気がこもるような独特の雰囲気になる。使用言語は9割以上英語。仏語やアラビア語を使う人もいるが、みんな英語が通じるので、同時通訳を使わず英語でやり取りすることが多い。

安保理の意思決定過程の一例としてグアテマラPKOを紹介する。当時,日本は8回目の理事国入りを果たし,なったとたんの1月に議長国になってこれが議題となった。当時自分(杉山外務審議官)は国連政策課長という安保理担当の課長であったし,常駐代表は今のICJ判事の小和田大使であった。これは内戦終結後のグアテマラで平和維持活動を行おうというもので、内容面ではほぼ反対の余地がない案件であったが、グアテマラは台湾と国交があるという理由で中国が決議案に反対した。他の常任理事国だけでなくブラジル等南米諸国が説得し、当時小和田大使も安保理議長として説得したがどうにも状況が打開できず、参加国全てが中国の拒否権発動を承知の上で決議案を安保理に上程した。実際の経過としては、非公式協議をまず開催し、予定通り14か国賛成、中国だけ反対で合意不成立。そのまま各国代表が安保理議場に移動して正式の安保理を開催。議長が台本に沿って進め、各国発言し、採決では議長が各国を促して賛否を問い、想定通り14か国賛成、中国のみ反対し拒否権を発動した。これを受け議長が “Now we decide not to pass the resolution. Now we adjourn this meeting.” と述べ決議不採択で終了した。これが拒否権というものかとつくづく思った。

拒否権について補足すると、本来、国連憲章には安保理の意思決定は “including the concurring votes of the permanent members”によると書かれている。これについては全常任理事国が出席して賛成しないと決議はできない、というのが文理上の解釈としては自然かもしれない。しかしそれに反する実例として、朝鮮動乱勃発時、ソ連欠席のまま開かれた国連軍派遣決議がある。ソ連は自国が出席していないので無効、と主張したが、この決議に基づいて実際に国連軍が派遣されたので、実務上は有効ということになっている。それ以来、安保理決議については、常任理事国であっても、積極的に安保理に出席して反対しない限り黙認したことになる、すなわち欠席では拒否権の発動とはならない、というのが確立した慣行となっている。先ほどのグアテマラの例に即して言えば、決議案として上程された、すなわち安保理議場で決議案が採決に付された(これをprint in blueと言う)際に、中国は、欠席では拒否権の発動とはならないので、採決に出席して反対票を投じたということである。

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■4■ 国連改革・安保理改革

国際社会は早いスピードで変わっているのに、安保理は63年の改正(参加国を11カ国から15カ国に増加)以来一度も改正されていない状態であることや、国連予算分担率が20%を超えたこともあるほどの財政貢献をしている日本が常任理事国でないことへの疑問等から、1990年代半ばから安保理改革を求める声が上がった。G4と呼ばれる日本、ドイツ、インド、ブラジルの四カ国が常任理事国入りを目指して動いているが、国際社会の多数のアクターの思惑が絡み合い、なかなか実現にたどり着けない。例えばブラジルに関しては、同国を南米の代表とすることに対して、メキシコとアルゼンチンが異議を唱えるし、インドに関してはパキスタンが反対する。また、拒否権制度は安保理改革における重要なポイントである。さらには、近年の提案ではアフリカから二カ国が常任理事国になるべきだと主張されるなど、混沌としている。

国連憲章の改正には総会決議で2/3、つまり129カ国以上の賛成が必要。当然現在の常任理事国との協力も重要だが、アジアやアフリカ、また太平洋・カリブ海諸国からの票数を集める等の戦略が必要となる。今年から二年間の非常任理事国という立場を利用して今度こそ、という気概で、関係者一同が全力で取り組んでいる。

同時に、国連での日本の存在感を増す為に、邦人職員増加のための取り組みも重要。2020年までに国連邦人職員1000人を達成することを目標とし、JPO派遣予算を20億円に増額。また事務次長補(ASG)以上の上級職員のポジションの増加等にも取り組んでいる。

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■5■ 質疑応答

Q:(田瀬共同代表より)安保理常任理事国入りについては、過去、「代表なくして課税なし」というスローガンがよく使われたが、今はどういう説明をするか。日本が常任理事国になることで具体的にどういう付加価値があるのか。
A: 「重要な意思決定のメンバーでなくて義務だけ履行する国」には日本はなりたくない、という考えが背景にある。
日本は率先して国際社会のリーダーになるべき国だと考える。
例えば、核軍縮は日本がリーダーシップを発揮する可能性がある典型的なテーマである。核の平和利用はするけど核兵器は持たない、日本は常任理事国と一線を画す。常任理事国になれば、もっと日本が考えていることがやりやすくなるはずである。

Q: より具体的に、日本は何を目指してリーダーシップを発揮すべきか。
A:日本が人材と技術のために尽力を重ねてきた貢献は間違いなく評価されている。実務レベルの例を挙げると、地球規模課題審議官時代の経験としてクロマグロ漁獲規制案の例がある。総会出席国のうち2/3で、日本にとって重要なクロマグロを規制する決議が採択されてしまうことから、出席国の数を推定し、集められなければならない票数を計算し、その票数を確保する為の対策を打った。日本と同じ立場を取ってくれる国を増やすためにはイメージ戦略だけでは不十分で、相手国にとっての意義がある外交政策を個別に話し合う。加えて、大使公邸で60-70カ国の代表を呼んでマグロの解体ショーをやる等、現場に即したアイディアも発揮した。こうした一つ一つの外交努力の結果、決議で規制案をひっくり返した。この種の外交努力と戦略を突き詰めていく知恵が日本にはあり、日本が国際社会で物事を動かせるという一つの例だ。

Q: 安保理改革において日本に反対する国々との関係をどう考えるか。
A:賛成してくれる国を増やすと共に、多方面での取り組み、また「この提案に賛同しないと全世界を敵に回す」と大国に思わせるくらいの強力な取り組みも必要である。そしてそれを行う外交力を日本は持っている。

Q: 二国間外交と安保理外交のより強い連携が必要なのではないか。
A: 確かにバイとマルチの連携が取れていないのは国連関係以外も日本の組織でよく見られる問題。最近は改善してきているが、更なる改善の余地がある。

Q: 市民社会等、マルチステークホールダーの日本外交における位置づけについて
A: 市民社会・民間との連携について外務省も近年特に力を入れて取り組み始めている。ただしまだ新しい流れなので、外務省職員の意識を変える必要がある。省内に専門の室を作って成果は出てきており、問題意識は高まってきている。より効果的な結果を出していく為には、政府と市民社会との間で距離を置くような意識が仮にある場合には、お互いに変えていく必要があると感じる。

Q:JPOの人数を増やすことも重要だが、その上のレベルの職員を増やすことも重要では。日本人職員がより意思決定できる立場に上げてもらえるようなサポートも必要と感じる。
A:全くその通り。D1(部次長レベル)、D2(部長レベル)から、さらにASG(事務次長補)、USG(事務次長)レベルの日本人職員を増やさなければいけない。国連での昇進は、出身国政府のサポートも重要。外務省も日本人職員をサポートするが、重要ポストにつけるにはそれに十分な資質のある人材が必要。長年の課題である。

■6■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。

1. 外務省ウェブサイト「安全保障理事会(安保理)とは」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_anpori/torikumi/anpori.html

2.外務省ウェブサイト「国連改革・安保理改革」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_kaikaku/

3.国際連合 日本政府代表部ウェブサイト
http://www.un.emb-japan.go.jp/jp/

写真⑤ (左から南大使、田瀬共同代表、杉山審議官)

2016年7月10日掲載
企画リーダー:中島泰子
企画運営:原口正彦、志村洋子、高橋尚子、平井光城
議事録担当:西村祥平
ウェブ掲載:中村理香