第98回 ワークショップ「自分の心の声に沿った世界貢献の形」

日時:2015年10月24日(日)11時00分~12時30分
場所:国際交流基金 ニューヨーク日本文化センター
スピーカー:牛嶋浩美氏 (絵本作家・イラストレーター)

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講師経歴:牛嶋浩美(うしじま ひろみ)氏
1997年、UNICEFにカードのイラストを提供。これより毎年UNICEFにデザインを提供。1999年、絵本「Our cup of tea」をアーサー・ビナード氏と出版。
2004年と2006年にUNICEFのクリスマスカードの絵に選出。「地図でユニセフ」、「ユニセフABC」等のUNICEF資料の絵やユニセフのホームページの絵も提供。
2008年、環境省と環境紙芝居を制作(現在も環境省で使用中)。
2009年2月、UNICEF東ティモール事務所と東ティモール教育省による教科書作りに協力。現地を視察し、絵を制作・提供。
2009年6月~、手作り絵本のワークショップを横浜を拠点に開始。
2010年、絵本「あなたが大切だから」出版。
2011年、東日本大震災の支援のため被災地をまわり、絵本作りのワークショップを通して心のケアに従事。
2011年7月、絵本「ころがってごらん」を今井絵理子さんと出版。
2011年10月、絵本「守りたいもの」を普天間かおりさんと出版。
2013年9月、UNICEFの絵本「ちきゅうからのしつもん」を手掛ける。

■1■ はじめに

今回の勉強会では、UNICEFのクリスマスカード作成などでご活躍されている、イラストレーターの牛嶋浩美さんをお招きし、講演、およびシール絵本を使ったアートワークショップを開催しました。
優しい語り口の中から、人並み外れた行動力と精神力で、ご自身の活動を広げてこられた情熱を垣間見ることができました。またワークショップでは、牛嶋さんの素敵な絵を見つめながら、一人一人が自分のこれまでと向き合う時間となりました。

なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。

■2■ 講演

心の声に素直に従い動く

大学卒業時、友人たちは卒業旅行で国内の温泉を巡る中で、牛嶋さんは一人旅を決心、1ヶ月間NYでホームステイした。それは牛嶋さんにとって初の海外であった。滞在中に訪問したトリニティー教会で、2月の凍える寒さの中、裸足で物乞いをするアフリカ系アメリカ人の人々と出会う。その時に、これからは絵を描きなさいと心の声が聞こえ、その声に導かれてきた。当時、絵画の技術を有していなかったものの、不安を感じることはなく絵ならどの国の人にも言葉を超えてメッセージを伝えられると考えた。この出来事を契機として、ホストファミリーに貰った雑誌「New Yorker」に描かれた諷刺画から、更に絵によるメッセージ伝達についてインスピレーションを得たり、日本に帰ってからは絵本作家養成講座に通ったりと活動を続け、10年かけて独自のスタイルを確立した。

UNICEFのカードデザイン等、心の声に沿った国際貢献の形

大学では国際関係学を専攻し、社会のために役立ちたいと考えていた牛嶋さん。そんな牛嶋さんがUNICEFのカードデザインを手がけるようになったきっかけは1997年に遡る。手紙を送ったカード担当者が同氏の個展を訪問、それから話が進み、ポストカードに採用された。それからは牛嶋さんがカードを手がけない年は各方面からクレームが来るほどになり、毎年UNICEFのカードやグッズ等のデザインに携わってきた。
エクソンモービル社のアフリカに蚊帳を送るプロジェクトでも、蚊帳のパッケージに使用される絵を担当。使用者にやさしく、かつ使いたくなるパッケージにするため、蚊帳をヒーローに見立てたイラストを完成させた。「かわいい」という言葉から敵意は決して生まれないので、かわいいという感想を得られるのは貴重なこと。

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ワークショップ活動と絵本

7~8年間続けているワークショップは、巧拙を判断することではなく、自分を表現することに焦点が置かれている。本日(勉強会開催日:10月24日)は国連設立70年の節目であり、今回の滞在では、United Nations International Schoolで子供向けのワークショップも行う予定。ワークショップのやり方はその時に応じて少し変えるものの、素材(絵本の土台とシール)は大人でも子供でも同じものを使っている。
日本の学校教育では、人との違いを意識する時間はあまりなかったかもしれない。しかし、思い思いにシールを貼ることで、自分の気持ちがデザインに反映されることに気づくことができる。絵本作成において答えはない。このワークショップは人にいいところを見せるためではなく、自分の気持ちに従ってやったことを、後から俯瞰する手段になる。絵本作成を通して、今まで自分が歩んできた道を振り返る時間にしてもらいたい。
牛嶋さんの絵は、それを見る人たちが絵の中に自分を見つけることにおいて、他の絵とは一線を画している。作品の主張や考え、意味を探るのではなく、見た人が自分を見つける手段となっている。
この絵本ワークショップは、東日本大震災被災地でも行った。開催時、被害者にとって、自分の気持ちをうまく言葉にするのはまだ大変な時期であった。その中で、ワークショップでは子供たちが声にできない気持ちを表現したり、見えにくいトラウマを台詞で表現したりすることを助け、参加者が自分の心の声に耳を澄ませる時間となった。 UNICEFから発行している「ちきゅうからのしつもん」(リンク、 https://www.unicef.or.jp/kodomo/osirase/2013/09_01.htm)という絵本でも、すべて質問形式で表現している。これも日本では「答えはなに?」と聞かれるが、答えはなんでもいいと伝えられる手段となっている。
また新刊の絵本が2冊あり、「Crown」(=王冠)では 一人一人が生まれた時からそれぞれの王冠(役割)を持っていて、この世界には様々な王冠を持った王様・王女様で溢れていることを伝えている。「Erick & Rick」は、9.11直後の11月にNYに訪れた際に、親を失った子供達が身内以外からも愛を得られるものが必要と感じたのをきっかけとして生まれた。「大丈夫のおまじない」を伝えられるキャラクターとして広めたい。

(講演の最後に、現在美大でアニメーションを勉強している娘さんが、牛嶋さんの絵を使って製作したアニメーション(音楽:守時タツミさん)を鑑賞し、ワークショップに移った。)

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■3■ 参加者の発表・感想・質問

最後に、参加者が作成した絵本の解釈やストーリーを共有した。他人に共有することによって、ワークショップで見つめた自己の理解が更に深まった。
参加者の感想として、途上国の子供たちにはこういったワークショップが必要であり、ぜひ届けたいという声や、特別学級で言語がうまく運用できない児童、絵が描けない児童に効果的であるとの意見があがった。同時に、使用されたシールの人種や服装などをもっと多様にすることが望まれた。日本でのワークショップを想定したため、シールのデザインは単一であったが、今後海外でワークショップを開催するにあたり多様性を増やすとのこと。

■4■ まとめ

今回は通常の勉強会とは趣向の異なるワークショップ形式であったが大好評に終わった。やらなければいけないこと、やりたいことに追われて毎日を忙しく過ごしている参加者にとって、牛嶋さんの力強くかつ温かいスピーチ、そして自分の心の声に耳を澄ませるワークショップは、貴重な体験となった。

■5■ さらに深く知りたい方へ

牛嶋さんのご活動について、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。

  1. 牛嶋さんの事務所「Hiromiwork」のウェブサイト
    http://hiromiwork.com/

2.日本ユニセフ協会/「ちきゅうからのしつもん」のページ
https://www.unicef.or.jp/kodomo/osirase/2013/09_01.htm

3.国連フォーラム「国際仕事人に聞く」第17回 牛嶋浩美さん
http://www.unforum.org/interviews/17

2016年6月7日掲載
企画リーダー:志村洋子
企画運営:原口正彦、高橋尚子、中島泰子
議事録担当:中島泰子
ウェブ掲載:三浦舟樹