第117回「Because You Are Special」
- 日時:2017年10月8日(日)16時00分~17時30分
- 場所:コロンビア大学ティーチャーズカレッジ図書館3階 ラッセルホール305
- スピーカー:牛嶋浩美(イラストレーター)
牛嶋浩美(うしじま・ひろみ)イラストレーター
1997年、UNICEFにカードのイラストを提供。これより毎年UNICEFにデザインを提供。1999年、絵本「Our cup of tea」をアーサー・ビナード氏と出版。2004年と2006年にUNICEFのクリスマスカードの絵に選出。「地図でユニセフ」、「ユニセフABC」等のUNICEF資料の絵やユニセフのホームページの絵も提供。2008年、環境省と環境紙芝居を制作(現在も環境省で使用中)。2009年2月、UNICEF東ティモール事務所と東ティモール教育省による教科書作りに協力。現地を視察し、絵を制作・提供。2009年6月~、手作り絵本のワークショップを横浜を拠点に開始。2010年、絵本「あなたが大切だから」出版。2011年、東日本大震災の支援のため被災地をまわり、絵本作りのワークショップを通して心のケアに従事。2011年7月、絵本「ころがってごらん」を今井絵理子さんと出版。2011年10月、絵本「守りたいもの」を普天間かおりさんと出版。2013年9月、UNICEFの絵本「ちきゅうからのしつもん」を手掛ける。
■1■ はじめに
第117回勉強会では、イラストレーターの牛嶋浩美さんをスピーカーとしてお招きしました。前半では牛嶋さんが絵に関わるようになったきっかけや、絵を通して平和にどのように貢献されてきたかお話しいただき、後半は参加者全員でクリアファイルに絵を描くワークショップを行いました。
以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。
■2■ 絵を通してメッセージを伝える
大学の時は絵ではなく、国際関係を勉強していた。その頃から、人種問題やアパルトヘイト(特に南アフリカ共和国における人種隔離政策を指す言葉)などの原因や背景は何か、という疑問があった。大学4年生の時にニューヨークでホームステイを体験し、絵でメッセージを伝えること、そして絵を見ながら自分でできることを考えたいと思うようになり、イラストに取り組むようになった。社会問題に直接取り組むだけでなく、絵を通じて一人一人の心にメッセージが届き、一人一人が変われば社会も変わるかもしれない、というのが出発点としてある。また、ユニセフの視察団で他の国を訪問し、現地の人びとが心を開いてくれるまで時間がかかることに気がついた。そこで、共通してもっているもの、心が開けるものは、絵だと思った。
■3■ 最近の活動1:福島県富岡町
2017年4月に福島県の富岡町で絵のワークショップを行った。同年4月、放射能で避難命令が出ていた富岡町に対し、避難解除が出された。町民が戻ってきたときに、温かさを感じるものがあったらいいのでは、ということで4月1日に訪問した。町の建物はきれいなまま残っていた。戻って来た町民の方が塗れるよう、木と桜の花は輪郭だけ描いてきた。写真(会場で映したスライド)は、戻ってきた人たちが塗ってくれたもの。その後、夏に再訪した。桜を消して、葉っぱを書いた。1日目は輪郭を書いて、2日目は参加者に塗ってもらった。一人一人が喜んでいるのを見て、「みんなと一緒に乗り越えることが 喜びになるんだ」ということに気付き、感動すると同時に、一緒にもの作りをすることの大切さを認識した。絵は話さなくてもいい、自分がいるだけで完結するので、できない人はいない。楽しいという気持ちが自然に伝わってきて、感動した。とくに年配の方が積極的に描いているのを見て、そんなに描きたかったのかな、と思った。富岡町は60歳以上の町民の方々は3,000人くらいしか戻ってこないと言われている。現在その方達用のワークショップができないか相談されているので、日本に帰ったら、実施したいと思っている。年配の方は年を重ねたからこそ、自分を楽しめる、見つめられるワークをしたいと思っているのでは。私は誰もが希望を持てる環境をつくりたい。
■4■ 最近の活動2:円覚寺
北鎌倉の円覚寺では、瞑想の先生のご協力のもと、絵を使った瞑想を行った。これは、縄文時代の表意文字をデザインしたカードによって、自分を見つめるワークショップだった。縄文時代は1万年の間戦いがなかった時代であることから、心が平和になるツールとしてカードを作成した。これは潜在意識が引き出されるような瞑想の会となり、自分と向き合う時間は大切だと感じた。私はヨガの先生のご指導で、平常心を保つことや、自分であることができるようになったため、導いてくれる人の重要性を認識している。傍らに誰かがいてくれるだけで人は変われるので、静かに耳を傾けることは大事だと思う。傍に誰かがいるだけで、とても助けられているということを、夫と夫の友人の台湾人の家族と一緒にある旅行に行ったときにも感じた。全員が協力していた。国籍は関係なく、生きるということは共通しており、一緒に達成していると思った。
■5■ 最近の活動3:日本理化学工業
日本理化学工業ともご縁があり、訪問した。社員の7割の方が知的障がい者で、知的障がい者が働ける場として開かれており、それぞれの個性が大切にされている企業である。褒められる、班長になる、他の人のために何かしてあげたいという気持ちなど、やる気になる働き方が実践されている。わかりにくいことは簡単に説明すれば、お互いに理解しあえる。その手間を惜しまない。ムハマド・ユヌスさん(グラミン銀行の創設者、ノーベル平和賞受賞者)の講演を聞きに行った時も、あらゆる人が働ける環境をつくりたいと彼は言っていた。その人が持つ能力を使える形に変えることは、企業として可能なのだと思った。日本理化学工業の大山会長から、それを国連フォーラムで伝えてほしいといわれたので、伝えなくてはと思ってきた。日本理化学工業の代表的な商品としては、ガラスに描いて消せるチョーク「キットパス」が知られている。福島のワークショップも、キットパスを使って実施した。
■6■ 2016年の活動:ニューヨークでのワークショップ
生まれ持った感性を大事にしてほしい、という思いから、昨年ニューヨークでワークショップを行った。48枚のカードに人生で必要な言葉や人間のもつ性質を書き込んでいった。それを見ることで化学変化が自分の中で起き、自分に関する気づきにつながるカードになってほしいと思っている。
■7■ Because You Are Specialの出版
2010年に出版した絵本「あなたが大切だから」がBecause You Are Specialというタイトルで英訳され、同年の10月に出版された。自分の居場所を見つけられる絵本になって欲しいという願いが込められている。安心できる場所、お母さんのような絵本を作りたかった。そのままの状態であなたは"special"だから、と言葉ではなく、絵本を何も言わずに渡せるのもいいのではないかと思っている。
この絵本には、未来を持続可能にするあらゆるメッセージが含まれている。例えば、原材料は紙ではなく、石灰石でできた代替品(ライメックス)である。ライメックスでできている絵本としては世界初。水も木も有限だが、石灰石は地球上に豊富にあるもの。水に濡れても問題ない。環境を選ばずどの人でも同じものを手にすることができる。
絵本を通じて一番伝えたいことは、自分を信じて大切に生きる、相手と誠実にかかわってみるだけで全然違うはず、ということ。こういったメッセージをもった絵本をずっと作りたかったが、大澤直美さんが英語にしませんか、と声をかけてくれた。そこで、私らしい英語で表現したいとお願いし、実現できた。一昨日ニューヨークに到着したが、周囲の人は、絵をみせただけで「このメッセージは素晴らしい」と言ってくれる。もしかしたら、絵本にあるような言葉を誰もが欲しているのかもしれない。
■8■ Because You Are Specialのスライドショー
会場では絵本の全ページをスライドで拝見しました。
■9■ ワークショップ
クリアファイルはライメックスで作られたもので、下書きとなる絵は牛嶋さんがご準備してくださった、Because You Are Specialの表紙絵でした。ファイルにこの絵を描き写し、キットパスで各自好きな色で塗るという工作でした。この工作は、同じ素材(この場合は下書きとなる絵)であっても、全員違う作品ができる、そこを楽しむという趣旨で行われました。
■10■ さらに深く知りたい方へ
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照ください。国連フォーラムの担当幹事が、勉強会の内容をもとに下記のリンク先を選定しました。
● 牛嶋浩美のpeaceなお仕事
● 日本ユニセフ協会 | ちきゅうからのしつもん
https://www.unicef.or.jp/osirase/back2013/1309_04.html
2018年1月14日掲載
企画リーダー:洪美月
企画運営:大井由紀、古林聖、加藤順平、大川友里恵、原口正彦、高橋尚子
議事録担当:大井由紀
ウェブ掲載:三浦舟樹