第119回「世界銀行グループキャリアセッション」
- 日時:2017年11月3日(金)18時30分~21時00分
- 場所:Global Labo
- スピーカー:戸崎智支(世界銀行グループ人事総局人事担当官)
戸崎智支(とざき・さとし)世界銀行グループ人事総局人事担当官
早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄道会社、外資系会社勤務。その後アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)を経て、コーネル大学にて産業労働関係学修士号を取得。多国籍企業の人事マネージャーとして北アメリカ、東南アジア等で勤務後、2013年に国連に移り、国連人口基金ニューヨーク本部人事戦略および分析担当官を歴任。2016年11月より現職。インフラストラクチャー関連の専門家、エコノミストの採用を担当。日本人アウトリーチの他、世界銀行における様々なダイバーシティイニチアチブに携わる。
■1■ はじめに
今回は、世界銀行グループ人事総局人事担当官の戸崎智支氏をお迎えし、「世界銀行グループキャリアセッション」を開催しました。はじめに世界銀行グループの紹介、世界銀行で働くこと、求められている人材、最近の人事の動向等をご説明いただきました。
世界銀行グループへの入り口は様々あり、若手向けのヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)プログラム、アナリスト・プログラム、インターンシップに加え、修士号と5年以上の職務経験を持つミッドキャリア層対象のポジションもあることをご説明いただきました。またこれらのJPOやミッドキャリアプログラムの後、日本人向けのリクルートミッションや日本政府の支援を受け、多くの日本人が世界銀行に入ったことも学びました。
世界銀行の業務書(Terms of Reference)の例や、世界銀行で働く日本人職員数名の履歴書の例もご紹介いただき、世界銀行で求められている人材、また世界銀行に転職をした日本人職員の方々のこれまでの経緯等、業務内容や経緯について具体的にイメージすることができました。専門性を磨く重要性に加え、具体的に世界銀行でどのような貢献ができるか、大学院で学んだ事と職務経験が世界銀行のポストとどう繋がるかを説明できるよう準備をする等、これまでに企業、国連、世界銀行で人事をご経験された戸崎さんから様々なアドバイスを頂く貴重な機会となりました。
質疑応答では、世界銀行の契約や人事評価、日本企業や省庁からの世界銀行への出向、世界銀行の改革後の人事の影響等、多くの質問が挙がりました。なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。
■2■ 世界銀行について
世界銀行は160カ所の現地事務所(カントリーオフィス)と15,500人の職員で形成される国際機関。170の違う国籍を持つ職員の中では、日本人は決して少数者ではない。世界銀行グループはいくつかの機関に分かれており、例えば途上国への投資を専門とする国際金融公社(IFC)や投資する上での保険を管理する多数国間投資保証機関(MIGA)などがある。グループ全体として、人口の変遷、国際化、都市化など、グローバルな課題を分析し、途上国の発展につながる取り組みをしている。
現在さまざまな課題が世界に存在している。例えば、人口問題。高齢化はよく欧州の先進国や日本の問題だと認識されるが、実は一人っ子政策の結果として中国も直面している問題でもある。また、都市問題。都市部に急激に人口が集中し、開発が追い付いていない状況が途上国では問題となっている。また紛争や経済的な理由から難民となる人の数が絶えない中、民間からなど新しい資金の出所を確保し、弱者の保護に当てる必要がある。
■3■ 求められる人材とは
世銀が求める人材は専門性に長けている人。「国際関係」という部署はないため、国際関係の先に何があるのかを把握し、それに対し「自分は何ができるか?」という質問に答えられる必要がある。世銀で採用される数を見ると、日本人は教育関係と公衆衛生等の分野が強い印象がある。このほかにも世銀の支援で途上国ではさまざまな事業が展開されており、都市計画、農業、環境、エネルギー、水、交通、通信などの分野で今後どう持続可能な発展を成し遂げ、世銀の目標である貧困削減を達成できるか職員が日々汗を流している。また、気候変動、脆弱性・紛争・暴力、ジェンダー、雇用といった課題を含むクロス・カッティング・ソリューションという世銀特有の部門もある。
世銀で働くには、上記のそれぞれの専門分野に当てはまらなくてはいけない。例えば世銀にはエンジニアリングという名前の部門はない。工学部卒のバックグラウンドの方は世銀では公共交通関連の部門などで働く選択肢がある。エコノミストや開発専門職以外に普通の会社と同様、人事、財務、法務などの部門もあり、事務・管理的な業務を専門とする方にもキャリア機会は開かれている。
■4■ 世銀への道
世界銀行に入るにはいくつかの入り口がある。一つはヤング・プロフェッショナル・プログラムという32歳までが対象となる世銀がお金を出すプログラムで、3年以上の途上国での職務経験を持つ応募者が優遇される。アナリスト・プログラムは1年から3年の職務経験が求められる。アナリスト・プログラムで採用された人たちは多くが大学院に戻る予定で、大学院の卒業後また世銀に戻ってくる方もいる。ミッドキャリア(30代、40代の中途採用)の空席情報はホームぺージにアップされていて、エコノミストや気候変動の専門家など色々な専門職が載っている。ほとんどのポストが5年以上の経験を要するもので、戦略的思考・リーダーシップ能力など技術的な知識が必要とされる。この他インターンシップもあるが、国連と違いすべて有償のため、倍率も高い。上記内容についてはメーリングリストに登録して最新の情報を入手することができる。
家賃や子供の教育補助の福利厚生に関しては、国籍、勤務地に応じて様々なスキームがある。
■5■ 日本人採用と実例
世界銀行の出資比率は第一がアメリカ(16%程度)、第二が日本(7.5%程度)である。職員の割当制(クオータ制)はなく、現在日本人職員は全体の約3%。日本人の採用を支援するため、毎年2月から6月にかけて東京で専門家やエコノミストを主に対象としたリクルートミッションが行われる。さらに各国政府が寄付金をもとに実施している採用プログラムの中で日本はジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)とミッドキャリア募集を行っている。JPOは世銀と日本の財務省との連携で2009年に開始され、2017年には8個のポストが公表された。ちなみにJPOへの応募条件の一つとして現在年齢制限が32歳までとなっているが、将来的には35歳まで繰り上げられる可能性がある。ミッドキャリアは2011年に開始されたプログラムで、国連のP3レベル(専門職)に匹敵する最低5年以上の職務経験を持つ人が対象となり、2017年には6個のポストが公表された。
ここで何名かの実例を紹介する。一人目の職員はテクニカルアドバイザーとしてパキスタンカントリーオフィスで勤務。UNICEFとJICAでの職務経験があり、教育学の修士を所持している。次の方はエネルギースペシャリストとして世銀のエネルギーグローバルプラクティスで働いている。過去は地域電力会社での職務経験があり、修士を持っている。最近UNICEFから世銀のタンザニアオフィスへ転職した方もいる。UNFPAでJPOを始め、モニタリング、プログラム評価、幼児教育などの分野でキャリアを構築している。IFCの方は民間セクターの専門家。以前はゴールドマン・サックスのエクイティ部で働いていた。
自分は20歳まで海外に出たことがなかった。新卒で大手鉄道会社に入り、現場研修で切符売りの仕事などをした。その後、独学で英語を身につけ、アメリカのコーネル大学で修士を取得した後、GE(ゼネラル・エレクトリック)本部にて人事リーダーシップ・プログラムを経てシュルンベルジェ社に就職。東南アジア、アメリカ、日本などに勤務し、国連人口基金の空席に応募して入った。その後縁あって世銀で働いている。
■6■ 質疑応答
質問:世銀の職員はだいたいPhDを持っているのか?
回答:エコノミストはPhDを持っている人が多い。とくに近年採用された職員にはその傾向が強い。ポストにもよるが、専門家はだいたい修士と豊富な経験を持っている。日本人候補者については、エコノミスト以外は修士卒が多い印象。
質問:出向制度はあるのか?
回答:グローバル・セカンドメント(国際出向派遣)プログラムがある。日本企業では地域電力会社、インフラ関係の政府系機関、大手銀行など、親元がお金を出して社員を世銀に派遣するプログラム。ヨーロッパ諸国はこのプログラムを戦略的に使っていて、派遣終了後正規職員を目指す取り組みをしている。組織間でキャリアの動きが少ない日本の組織と比べると、ヨーロッパは出向制度をうまく使っているように見える。
質問:世銀の専門家が持っている専門のレベルをより詳しく知りたい。
回答:経験年数に応じて経験の深さも変わって来るので、一概にはいえないが、例えば世銀が支援している南アジアのダムのプロジェクトがあるとする。そのプロジェクトに関わるポストにショートリストされる応募者は水力発電、ダム防災管理などで現場で働いた経験を持つ人や、同じような地域でダム関連のプロジェクトマネジメントや開発事業をやっている人である。
質問:東京採用はありますか?
回答:あります。最近東京防災ハブという途上国で日本の防災の技術を生かすことを目的とする機関も設立された。時折空席も出ている。
質問:契約の更新について。どういう基準で採用・不採用が決まるのか?
回答:ビジネスニーズと本人のパフォーマンスの評価で決まる。課題を達成できるか、そしてそれをどのようなレベルで達成できるか。業務上のミスが多かったり、成果物の質が悪い、期限が守れない等というケースでは上司から悪い評価を受けることになる。これは、日本でも外資系の企業などは同様のプラクティスをしていると思う。
質問:エコノミストの採用について。テニュア(終身雇用資格)の審査はあるのか?
回答:世銀のポストだと最初の2、3年は有期労働契約であり、その後評価によりオープンエンドという期限の定めのない契約になれる。
質問:総裁が変わって何が変わったか?
回答:世銀は以前地域割りの組織を持っていた。ただしアジア開発銀行など地域に特化した金融機関があるため、世銀の比較優位は国際的な存在だとされ、グローバルプラクティス組織が作られた。組織改革以外にも資金調達や時間がかかる内部の承認プロセスの見直し、人事制度の透明化など様々な業務でさらなる効率化が行われている。
質問:世銀に入るには最初コンサルタントで入るのがいいのか?
回答:日本人には少ないが、職員の多くは世銀にコンサルタントとして入って来る。コンサルタントは日給で、年間の勤務日数上限があるが、ワシントンD.C.で生活をする収入は得られると思う。
■10■ さらに深く知りたい方へ
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照ください。国連フォーラムの担当幹事が、勉強会の内容をもとに下記のリンク先を選定しました。
● 世界銀行 | 日本 - World Bank Group:www.worldbank.org/ja/country/japan
● 世界銀行 | 日本 - 採用について:http://www.worldbank.org/ja/country/japan/brief/careers
● 世界銀行 | 東京防災ハブ:http://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/02/03/gfdrr-tokyo-hub
2018年3月3日掲載
企画リーダー:洪美月
企画運営:三浦弘孝、古林聖、加藤順平、原口正彦、高橋尚子
議事録担当:三浦弘孝
ウェブ掲載:三浦舟樹