第14回 「人間の安全保障と国連改革 国際組織のアカウンタビリティーの観点から」

2005年12月13日開催
於:国連本部(事務局)ビル 1895会議室(18階)

植木 俊哉 教授
東北大学大学院法学研究科

東北大学大学院法学研究科の植木俊哉教授に国際法協会(International Law Association; ILA)の「国際組織のアカウンタビリティー」に関する委員会での審議の内容、特に、同委員会により作成された報告書についてのポイントを解説していただきました。

■1■ アカウンタビリティーの定義について

近年、国際組織のアカウンタビリティー(accountability)は国際組織・機構法からの視点で研究が進められてきたが、「国際組織のアカウンタビリティー」の定義自体は非常に困難で、なかなか一義的な結論を出すことは難しい。

■2■ 国際組織のアカウンタビリティーに関する委員会

2004年にベルリンで国際法協会(International Law Association)の総会が開催された。国際法協会の総会は2年に一度開催されるが、国際組織のアカウンタビリティーに関する委員会(以下、委員会)は、1996年の設立以来この問題に関する報告書の起草作業を行ってきたが、2004年の総会において最終報告書の採択を行った。

この委員会の議長は、長年にわたりイギリス外務省の法律顧問をつとめ国際法の実務の隅々に精通したイギリスのSir Franklin Bermanが務めており、委員は各国から原則として一人ずつ選ばれ、学識者、実務家などを中心として委員会が構成されている。

■3■ 委員会の議論‐4つの視点

国際組織のアカウンタビリティーの問題に関して、委員会は4つの観点を提起したが、実際の検討はこのうちの1~3の問題について行われた。

  1. 国際組織の加盟国、第三者、国際組織間の関係について。
  2. 国際司法裁判所(ICJ)、他の裁判所へのアクセス、手続き関連諸問題を含む、国際組織に対する、また、国際組織による救済について。
  3. 国際組織の法的、政治的、行政的、財政的な意味に於いての異なる4種類のアカウンタビリティーの関係について。
  4. 国際組織の解散と承継に関連する諸問題について。

(特に3.の4つの異なる種類のアカウンタビリティーについての観点は重要。)

■4■ ILC国際責任条文との比較

これまで、国家の国際責任に関する国際法上のルールに関しては、長年にわたり国連国際法委員会(International Law Commission、以下ILC)により法典化作業が進められ、2001年には「国際責任条文」が採択された。この条文案は「国家の」国際責任に関するもので国際組織の責任に関するものではない。

ILCでは、その後、国際組織に関する国際責任についても検討が進められているが、そこでの作業は、政治的または財政的な責任ではく、法的な責任に限定して議論が行われている。

■5■ 国際組織のアカウンタビリティーについての議論をする際に注意すべき点

国際組織、条約機関の意思決定における必要な自律性を保つことと、国際法と国際関係の両方に於いて、国際組織、条約機関にその作為・不作為について責任(accountable)を持たせるという要請に応えるという双方の要素を議論の際に考慮すべき。

■6■ 第1部-一般的ルール

委員会による報告書の第一部では、内部的および外部からの監視について以下の原則(principle)から構成される法的・政治的な一般的なルールについて提案がなされた。

  • 良き統治(good governance)
  • 信義誠実(good faith)
  • 合憲性と機構的バランス(constitutionality and institutional balance)
  • 監視と管理(supervision and control)
  • 決定または特定の行動に対する理由の開示(stating the reasons for decisions or a particular course of action)
  • 客観性と中立性(objectivity and impartiality)
  • 相当な注意義務(due diligence)

■7■ 誰のためのアカウンタビリティーか?

委員会の報告書では、国際組織のアカウンタビリティーの追及できる相手方を、利益または管理が国際組織の行為に影響されることを前提とし、国際社会(international community)の全ての構成員(all component of entities)としている。それに従い、名宛人(addressee)は、政府間組織のスタッフ、加盟国、非加盟国、政府間組織内での監督機関、国内裁判所・国際裁判所、議会などの国内制度内での監督・監視機関、NGO、私人(法人、自然人を含む)としている。

委員会での報告書作成の際の国際組織側の反応としては、このようなルールで縛られ過ぎては自由で効率的な国際組織の任務の遂行に制約がかかるという観点から、一般に警戒心の強いものであった。

■8■ 委員会による提案の法的位置づけ

委員会で推薦された規範と慣習(Recommended Rules and Practices、以下RRPs)は、政府ではなく、国際法協会という学会により提案された勧告的規則であり、法的拘束力はないとされる。

上記のILCによる国家の国際責任に関する条文草案は長年、条約としての地位はもってこなかったが、ICJが判決を下す際に参照されてきた。RRPsも、そのような性格を持った規範となる可能性はある。

RRPsは、効果的なアカウンタビリティーを達成することを目的とした原則から導かれた一連の規則や指針を反映するものである。RRPsが、現在既に存在する法(lex lata)であるのか、将来成立すべき法(lex ferenda)であるのかは、ここでは問題としていない。

■9■ 第2部、第3部-アカウンタビリティーの異なる次元での規範の関係

第2部と第3部に於いては、アカウンタビリティーに関する一次規範と二次規範について述べられている。 一次(primary)規範とは、これに違反することにより責任発生の根拠となる規範をいう。これに対して、二次規範とは、法的責任をめぐるその後の対処(賠償など)について定めた規範をいう。

■10■ 第4部-救済

第4部では、国家責任につき、違法・合法な行為から生じる責任、その救済について、司法的・非司法的手続きをはじめ、手続的観点を中心に議論されている。

■11■ 人間の安全保障との関係

「人間の安全保障」に関係する国連諸機関に対して、この「国際組織のアカウンタビリティー」に関するRRPsを適用してみると、例えば国連安全保障理事会での議論に関して公開される情報はかなり限られており、アカウンタビリティーの観点からは問題があるといえるかもしれない。

「人間の安全保障」は、(国家の)安全保障の問題として扱うこともできるが、従来国連安全保障理事会で安全保障とは「人間の安全保障」も含めた広い意味での安全保障といえるのか。「人間の安全保障」という新たな概念の提示は、安全保障概念の再検討を要請するものであり、その際に国際組織のアカウンタビリティーという観点を踏まえて問題を検討することも必要ではないか。

質疑応答

■Q■ どのようにして、この種の問題が議論されはじめたのか?

■A■ 最近、NGOや各国政府をはじめ全世界的にこのような問題の検討が必要であるという意識が急速に強まった。その中で、「1945年のStatus quo(現状)を前提とした国際体制が存続し続けることの問題点」「透明性の確保をどのようにして実効性のあるものにしていくべきか」といった問題が提起されてきた。また、この報告書で提示されたRRPsを、国連の制度にそのまま適用できるかは疑問もあるが、欧州連合(EU)の発展により、EUにおいて発展してきたコンセプト(例えば、合憲性(constitutionality)や機構的バランス(institutional balance)など)を借用して一般化する傾向があることも事実である。

■Q■ 国連職員が違法行為を行った場合、誰が責任をとるのか?

■A■ この点の責任帰属関しては、各ユニット、即ち、課(例えば、人間の安全保障課など)の単位ではなく、国連自体に責任あるとみなされるべきであろう。賠償など財政的な事項が問題となる場合には、賠償のための財政能力が不可欠である。また、国連が賠償責任を負うということになれば、賠償金は結果的には加盟国の分担金より拠出されることになる。。

■Q■ 国家の国際責任ではresponsibilityという用語が使われているが、アカウンタビリティー(accountability)の概念の方が広いのか?

■A■ 政策に関するアカウンタビリティーなど、responsibilityには含まれないものもアカウンタビリティーは含んでおり、responsibilityの概念よりも広い。

■Q■ 国際組織が、この委員会の提案した規範案(RRPs)、また、それと類似するものを受け入れるインセンティブについて考える必要があるのでは?

■A■ 特に損害賠償を誰がどのように負担するのか(分担金に応じた負担?、重過失の場合は個人、責任の所在が特定の国家にある場合には当該国家?など)、意思決定にドナー国がかかわっていたらどうなるのかなど、インセンティブを低下させ得る要因は存在する。

■Q■ 主権免除を根拠として、国連の職務との関連で引き起こされた損害につき、国連が応じなかった場合、どのように強制するのか?

■A■ こういう事態は、個人の裁判を受ける権利を制限することにもつながってしまう。主権免除は無制限であると解すべきではないだろう。特に国際組織に対して認められる免除は、国家に対して認められる国家免除とはその性質も範囲も異なるものである。

■Q■ 例えば、会社では、株主に対する責任と私人(会社の個人等)に対する責任の2種類の責任または規則体系をもっている。また、会社の形態も株式会社、合名会社など様々な異なる種類が存在する。国際組織も様々な形態をもっており、国際組織を1つの規則体系で縛るのは無理があるのではないか?

■A■ 今回の委員会による案は、法的拘束力のある規範ではなく、緩やかなルールにとどまるものである。今後、各国際組織それぞれの事情については、個別具体的に考える必要があろう。

担当:仲居