第38回 「国連平和構築委員会の現状と展望~議長国に就任して+ピースビルダーのための寺子屋とは~広島平和構築人材育成センターの挑戦」

星野俊也さん
国連日本政府代表部 公使参事官

上杉勇司さん
広島大学大学院国際協力研究科 准教授

2007年7月9日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連邦人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

■1■ 第1部 国連平和構築委員会の現状と展望 【星野さん講演部分】

はじめに

国連平和構築委員会(PBC)の実質的な活動が始まって一年が経った。平成19年6月27日、組織委員会の公式会合では初年度の活動に係る総会への年次報告書について基本合意が成立した後、日本が平和構築委員会の第2会期の議長国(任期一年)として選ばれた。全会一致で、議場は歓迎の拍手に包まれた。これは、日本が平和構築支援の分野、あるいはPBCにおいてこれまで果たしてきた建設的な役割に対するメンバー国の評価の表れでもあり、とてもうれしかった。学者として国連や平和構築の研究に携わってきた身としては、この時期に国連代表部でPBC関係の仕事を担当でき、心の躍る思いでもある。ちょうどよいタイミングでもあるので、平和構築委員会の一年を振り返り、これからの一年をどういうものにしていくかということについて考えてみたい。

1.国連平和構築委員会の「政治」

(1)国連平和構築委員会の素顔とは
PBCは、紛争から抜け出した国の平和構築戦略について助言する機関として2005年9月の国連首脳会合での合意を受け設立された国連の新機関である(正式な設立は、同年12月の安保理及び総会決議による)。多くの国で内戦が終結しても、半数近くの国が和平合意から5年も経たないうちに紛争状態に逆戻りしてしまうという現実に対し、何か有効な手立てはないのか、という問題意識から設立されたのがPBCである。だが、同委員会の意思決定を行う組織委員会31カ国の顔ぶれや仮手続き規則の決定にあたってはメンバー国間の思惑や確執等が交錯し、半年近くの交渉を経てようやく実質的な活動に踏み出したのが昨年6月だった。
最初から国連政治の洗礼にさらされたPBCだが、この機関にとっての大きな課題の一つは、イメージと現実のギャップが大きいこと。まず、国連の「平和構築委員会」という名がついている以上、あたかも国連システムの平和構築事業に関する全てを統括・実施しているかのようなイメージを持たれているのではないかと思うが、この一年間で実際に行われたのは、作業手続きに関する議論を除くと、ブルンジとシエラレオネを国別に取り上げて両国の平和構築プロセスについて議論するということが中心で、極めて地味なものだった。それでもなぜPBCの活動に携わることが心躍る思いなのかというと、PBCには大きな潜在性があると思うからである。紛争から抜け出した国が再び紛争に逆戻りしないためにどのようなプログラムを組み、どのような支援を行うべきかについて、これまでは国連システム内外の各機関が独自に、相互の調整もなしに取り組む場合が多かった。PBCは、当該国の平和構築のプロセスにおいて多くの関係主体による多様な取組みが戦略的・統合的・組織的なものとなるように助言するという野心的な試みであり、これはとても大切なイニシアチブである。

もう一つ、イメージと現実のギャップということでは、PBCが検討対象国の平和構築活動に直接携わっているかのような印象もあるかもしれない。あるいは平和構築基金(PBF)という財源をもつドナー機関だという誤解もあるかもしれない。しかし、PBCは設立決議に明記されているように「政府間の諮問機関(intergovernmental advisory body)」であり、ドナー機関でもなければ、オペレーション実施機関でもない。これは、やはり真っ先に確認しておかなければならないことと考える。言い換えると、PBCは政治機関だということ。実際、ポスト紛争国における平和構築のプロセスには(プロジェクトを実施する側面ももちろん大事だが、)「政治のプロセス」としての側面も切り離せない。それまで対立していた勢力が和平に合意し、さらに和解を進めるにしても、様々な政治的な利害が関わっており、司法部門や治安部門の改革、ガバナンスの改善等を行うにしても、当事者の政治的な意思がなければうまく進まず、紛争へと逆戻りしてしまうことになる。政治的意思ということでは、国際社会がある国の平和構築プロセスを支援しようとする意思も喚起・促進する必要がある。

したがって、PBC自体が援助主体となることはなくても、PBCがある国を検討対象国に取り上げることにより、平和構築にコミットするその国に対し、(PBCメンバー国も含む)国際社会から支援や資源が流れるように「触媒」の役割を果たすこと、現地での平和構築活動が前進するように政治的な後押しをすることがPBCの役割、といえる。過去一年間、PBCとして我々はどのような付加価値をつけられるのか、と常に自らに問いかけてきたが、その答えの一つは、ニューヨークを拠点とし、国連という看板の下、当該国(現在はブルンジとシエラレオネ)において「平和構築」というきわめて合目的的な方向にプロセスが順調に進むよう、政治的な働きかけ(国内・国際両面での政治的意思の動員)を行っていくことだと私は考えている。

組織委員会は31カ国で構成されており、各メンバーの選出母体も安全保障理事会、経済社会理事会、日本のような主要財政貢献国、主要要員派遣国、地域バランスを考慮した総会枠と幅広い。理論的には、これらの国は、それぞれの持ち味を出すことで、平和構築という政策目標に貢献ができるようになっている。紛争経験国も含まれている。紛争から抜けだし、平和構築を実践したアンゴラが初代のPBC議長を務めたシンボリックな意味もあると思う。さらに、「統合平和構築戦略(Integrated Peacebuilding Strategy, IPBS)」というキャッチフレーズのもと、国別に平和構築に必要な優先課題を洗い出し、そこに必要な資源が流れるような枠組作りを促すというPBCのアプローチは概念的に非常に面白く、将来の応用可能性のあるものだと思う。また、PBCの議論では、国連システムのみならず、世銀・IMFや機関ドナー、市民社会も予めパートナーとして協力・協議が前提とされていることもユニークな特徴である。

(2)初年度の成果

ところで、そのPBCの初年度における活動の成果だが、まず、体制としては、平和構築委員会(PBC)・平和構築支援事務局(PBSO)・平和構築基金(PBF)という、平和構築の三位一体の「アーキテクチャー(基本体制)」ができた。また、ブルンジとシエラレオネについては、PBCからの要請に基づき、現地の関係主体(政府・国連チーム・世銀/IMF・ドナー国・市民社会代表等)の手によるIPBSの策定プロセスが始まった。これは、当該国の平和構築の促進という観点から優先的に取り上げるニーズのある分野及び課題を特定し、当該国政府と国内・国際パートナーがそれらに積極的に取り組む政治的な意思を盛り込んだ文書を作る作業である。この文書は、私なりに表現すると、支援の手を差し伸べようとする人々にとっての「メニュー(Menu of Choice)」にもなりうるものであり、どこにどのような支援をすれば平和構築に寄与できるのかがわかる手引きのようなものである。こうした国別のアプローチのほか、PBCでは教訓作業部会を通じ、平和構築に係るテーマ別の議論にも着手した(紛争後の選挙のあり方、「アフガニスタン・コンパクト」のモデルの検討、平和構築における地域的取組の役割、等を議論)。

PBFに関しては、目標額の2億5千万ドルのうちほぼ90パーセントまで各国のプレッジ(誓約)で確保できた。日本は基金立ち上げに間に合うように2千万ドルを拠出した大口ドナーの一つ。本基金の運営はあくまでも国連事務局であってPBCではないが、PBCの議論と助言を踏まえ、事務総長はブルンジとシエラレオネに基金のエンベロープ支援(各3千500万ドル)を決定し、プロジェクトも動き出している。

ニューヨークにいながらどれほど現地に密着した議論ができるのかとの批判もあったが、本年初めにはブルンジとシエラレオネの両方に対し、PBCからのミッションを派遣することができた。これは単に現地情勢を視察するというだけでなく、ニューヨークの国連から現地の平和構築のプロセスを真剣に見守り、支援をしているとのメッセージにもなっている。また、政治的なメッセージということでは、シエラレオネの大統領・議会選挙(8月11日)を控え、PBCは先の国別会合(6月22日)で「議長宣言」を発出し、選挙の平和裏の実施に向けた支援の呼びかけを行っている。安保理や総会でPBCに関する公開討論が行われるようになり、PBCへの関心の高まりも指摘できる。

もっとも、これらの成果を上げるためにどれほどのコストがかかったのか、という「バランス・シート」で考える必要もある。個人的には、初年度のプラスとマイナスを比べると「バランス・シート」はプラスに傾くと概ね評価しているが、概観すると次のようなものになるのではないだろうか。まずはマイナス面としては、

  • 実質論よりも手続き論にかなりの時間が費やされた。組織委員会を構成する31カ国の中には先進国もいれば発展途上国もいるし、援助を拠出する側の国もいれば援助を受ける側の国もいる。こうした多彩な顔ぶれの中で、国連でよく見られる政治の駆け引きが再燃したことがあった。PBCは平成17年12月の安保理および総会決議で設立が定められ、その両機関の下部機関とされたことにそもそも象徴されるように、安保理とのつながりを強調したい国(主に主要先進国)もいれば、総会とのつながりを強調したい国(主に途上国)もいて、安保理と総会の権限争いともいえる対立が見られた。こうした対立が手続き論に跳ね返り、時間がかかってしまった。いくら平和構築は政治のプロセスと言っても、PBC内のポリティックスはできるだけ抑えていかなければならない。
  • 冒頭にも述べたように、PBCへの漠たる期待とその活動の地味さとの落差から、失望やシニカルな見方が出されたことも事実。会議の数が多い上に情報流通が悪く、必ずしも効率がよくなかったことに不満を抱くPBCメンバー国は多かった。
  • 「統合戦略」策定プロセスの遅れも指摘できる。シエラレオネでは予定されていた選挙の日程がずれ込んだり、ブルンジでも援助ラウンドテーブルの日程が後ろ倒しになったりする等不可避の理由もあるが、全体的に作業は遅れがち。そもそも両国では既存の世銀の戦略枠組等もあり、PBCはむしろ「新参」機関として認知度やオーソリティがまだ確立できていない。現地との調整も一筋縄ではいかないこともあり、最初の検討対象国として、ブルンジ、シエラレオネが果たして適当だったのか、との議論も時折でてくるが、何はともあれ、少しでもPBCのクレディビリティを高めることは急務と言える。
  • 平和構築委員会(PBC)と平和構築基金(PBF)とは、上述の通り、役割も性質も異なるが、両者の混同が頻繁に見られた。

一方、プラス面としては以下のような点が挙げられるだろう。

  • 自らも紛争から復興し、平和構築の経験を持つアンゴラが初年度の議長国に就任し、エルサルバドルが副議長国として教訓作業部会をリードする等、多くの国が自らの平和構築経験をシェアしようとの意欲が頻繁に表明されたことの象徴的・実質的な意義は大きかった。
  • ブルンジとシエラレオネが検討対象国に取り上げられたことで、両国への国際的な関心が高まった。両国の政府関係者や市民も平和構築に主体的に取り組むようになり、目に見えない成果が上がっている。両国の代表がPBC会合で「平和構築に向けた強い決意やPBCへの感謝」等の発言からそうした意識の変化を窺うことができ、とてもうれしく思っている。PBC側も両国に対する連帯意識を強めている。
  • PBCは、国連システムの中では珍しく、世銀やIMFの議論への参加が所与のものとなっている。そのため、国連機関を超えて一緒に平和構築支援に取り組んでいこうという前向きな姿勢が醸成されつつある。
  • 安保理からの諮問に答え、政治的なメッセージを発出する試みに踏み出した(上述のシエラレオネ選挙に関する国別会合議長の宣言)。
  • 新しく設立された機関であるがゆえに試行錯誤はあっても、PBCの運営にあたっては過去のしがらみや国連の古い慣行は乗り越えるべき、という声がメンバー国から出てきている。
  • 31カ国の間には、新設のPBCを何とか活発にしようという仲間意識も芽生え始めた。
  • PBCの役割については、検討対象国の平和構築活動を促進し、資金を動員するための触媒、あるいは平和構築支援に係る国際社会の認識の向上を促すべく政治的なメッセージを送る政治機関としての共通認識が見え始めたこと。

以上から、私は初年度のPBCは、一定の活動の基盤を作ることができたと考えている。

2.国連平和構築委員会の展望と日本の役割

そこで日本が議長国となったPBCの第2会期では、第1会期の反省点を活かし、改善できるところは改善し、PBCとしての付加価値とクレディビリティをさらに高めていくことが大切だと考えている。昨年はアンゴラに落ち着くまで調整がかなり難航した議長国選びも、今回はとてもスムーズで、幸先のよいスタートとなった。初代議長国がアフリカから選出されたため、第2会期はアジアから、との考えが(どこにも明文化はされていなかったものの)一般的な共通理解であり、日本がごく自然なかたちでアジア・グループのなかからの推挙を受け、それがPBC全体に受け入れられたかたちだった。PBCは、既得権の固まりのような安保理とは歴史も実力もまったく違う。何しろ日本はPBCの創設メンバーであり、第1会期には過度に政治化してしまった問題(例えば、市民社会参加に関する手続き問題や総会への年次報告書の内容をめぐる議論等)に対して良識的、建設的な立場から論点を整理し、合意の手助けをする場面も多かった。

アジア・グループのとりまとめ役としてアンゴラが指名したのはスリランカだったのだが、意気に感じたスリランカは、積極的に日本擁立で調整を進めてくれた。以前から懇意にしていた同国次席常駐代表から私の元に舞い込んだメールは、支持集めは順調で、一両日中にも朗報を届けられるだろう、といった内容だった。そこで面談を求め、国連のデリゲーツラウンジで話を聞くと、グループとして推挙することで根回しは進んでいる、スリランカとの友好関係はもとより日本のPBCでの活動や平和構築分野での実績に鑑み、純粋な気持ちで動いたのだから、自分の手柄にするつもりもないと言う。我々はこうした期待に応える責務がある。

では、議長国日本が果たすべき役割とは何か。あるいは、この時期に日本がPBCの議長国に就任した意義は何なのだろうか。私はこの関連する二つの問いに、主に二つの角度から考えたい。

第一は、日本としてPBC全体にどのような付加価値をもたらすことができるかを考えることである。この点について、PBCは設立1年そこそこの新機関であり、国連システムの中でも新参者である。期待される政治的な役割を果たそうにもまだ十分な地位を得ていない。そうしたなか、日本が議長国として多方面で立ち回ることでPBCの存在感や政治的重みを増すことにもつながるとよいと思っている。その意味でも国連の主要機関(安保理、総会、経社理、事務総長)や世銀・IMF、地域機関、市民社会等とのコミュニケーションを深めていきたい。試行錯誤のなかから積み上げてきた規則や慣行を整理し、作業手順を合理化する一方、ブルンジとシエラレオネ以外にも支援の手を伸ばせるように道をひらくこと(新規検討対象国の追加)も重要だろう。「平和国家・日本」として平和構築という政策目標の重要性を広く唱道していくことも必要だ。また、PBFへの大口拠出国として、基金のより効果的な運用や透明性の向上のための働きかけもできるのではないか。

第二に、日本外交の観点からもPBC議長国に就任した意義は大きいと思う。PBCは、言うまでもなく安保理とはまったく性格を異にする機関だが、それでも日本が安保理の外にいる時期に「国際の平和及び安全」に関わる案件に主体的・積極的に貢献する機会を提供してくれる。この結果、平和構築の分野での活躍が安保理常任理事国入りを目指す日本にとっての経験や実績になるとの考えも当然あるだろう。だが、それだけに留まらず、「平和国家・日本」として、いわば「平和国家の拡大再生産」のプロセスでもある平和構築分野で日本ならではのアプローチや発想、メッセージを広く世界に訴えかけていく機会にしていくことも重要と考える。

これからもしばらくは試行錯誤が続くとは思うが、この1年間を通じ、日本なりの持ち味を出していけたらと願っている。

質疑応答

■Q■ 教訓作業部会が始動したとのことだが、教訓として共有できるような事例には具体的にどのようなものがあるか。 

■A■ 現時点の教訓作業部会での議論の対象となっているのは一般的なものが多いが、これまでに扱われたテーマとして、例えば、平和構築プロセスにおける選挙というものがあった。和平合意直後の初回の選挙は国連PKOの下でまずは実施されるが、平和の定着のためには二回目以降の選挙を現地の人々が自らの手でいかに公正に行うか、そして政権交代があった場合にはいかに平和的に権力の移譲を行うか等が重要となる。その観点から各国が経験をシェアする議論がなされた。その他、アフガニスタン政府と国際社会の間で合意された「アフガニスタン・コンパクト」に見られるような当事国の自主性と国際社会からの支援を結びつけるための手法や、西アフリカ、大湖地域、中米などを例に国別の平和構築の取組と地域ぐるみの取組とを結びつける意義等、興味深い論点が取り上げられている。

■Q■ 平和構築委員会と世界銀行・IMFとの関係はどのように整理されているのか。

■A■ 「統合平和構築戦略」を策定するといっても、現地の対象国には世界銀行の「貧困削減戦略文書(Poverty Reduction Strategy Paper, PRSP)」等既存の戦略が存在する。したがって、それらと重複することなく、「平和構築」という観点からいかなる付加価値をつけることができるのかに力点を置くようにしている。

■Q■ たとえば現在のネパールのように、国際社会の観点からは平和構築を支援する必要があると思われても、当事国からは内政干渉をしてほしくないと拒否されるような事例もあるのではないか。平和構築委員会が関与するためには当事国からの要請が必要だと理解しているが、その点は今後の課題だと言えるのではないか。

■A■ PBCは、当事国からの要望も踏まえつつ、安保理や総会、経社理、事務総長等からの諮問要請を受けて検討対象国に取り上げるかどうかを決定する。確かに、平和構築の作業は、多くの場合、国家のガバナンス機構の立て直しを伴うことから、それを外部から支援することは「内政」に深く関わるものとなる。しかし、基本的には同意が前提となるので「干渉」というわけではない。(逆に言えば、検討対象国は内政に「干渉」される覚悟がいる。)有無を言わさず議題化が進む安保理とPBCはここでも大きく性格を異にするが、安保理と連携し、(当事国の基本的な同意を前提に)安保理で議題となった国の平和構築フェーズのフォローアップをすることはPBCの重要な役割である。

■2■ 第2部ピースビルダーのための寺子屋とは 【上杉さん講演部分】

日本政府・外務省は、平和構築を担う人材を育成するために「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」として研修制度を立ち上げた。事業運営は、外務省からの委託を受けて広島大学に設立された「広島平和構築人材育成センター(Hiroshima Peacebuilders Center, HPC)」が中心となって行う。この事業についてはこれまでも東京や広島で何度か説明会を開催してきたが、説明会でのやりとり等については逐次ホームページ上に掲載する予定なので、http://www.peacebuilderscenter.jp/index_j.htmlを確認して頂きたい。

1.本事業の特徴

そもそも平和構築とは何か、ということについて我々は非常に広くとらえており、この事業では、紛争に逆戻りしないための支援を行う人材を育成することを目的としている。本事業の特徴としては、以下三点が挙げられる。

第一に、日本政府の主体的な取組みであり、外務省が就職支援を行うと明確に宣言していること。

第二に、平和構築支援を行う文民専門家の育成を念頭に置いていること。アジアの国々にも平和構築のための人材育成を行う機関があるが、その多くは軍人を対象としており、国連平和維持活動に参加する際に必要となる能力を培うためのものである。平和国家日本として、文民に特化した、文民による文民のための研修制度を立ち上げた。HPCの目的は平和構築の現場で働きたいという熱意を持った人を支援することであり、そのために今年度は日本政府から1.8億円の資金が投入される。日本人・アジア人がそれぞれ15人ずつ、合計30人の研修員が募集されているので、単純に計算すれば、日本政府は一人当たりに約600万円の投資を行うことになる。それだけの投資をしてでも平和構築に携わる人材を育てていきたいという日本政府の意気込みと決意を感じて頂けると思う。

第三に、国内研修・海外研修・就職支援という三本柱から成り立っていること。
まず国内研修においては、30人の研修員が寝食を共にし、同じ志を持った仲間同士で切磋琢磨することで、生涯の糧となるネットワークを築いて頂きたい。また、講師の方々にも研修場所である「ひろしま国際プラザ」に泊まって頂く予定なので、講義が終わった後も夕食の場等で議論を続けることができる。こうした機会を通じて、国連機関の重鎮にある講師の方々と、単に講義を受けるというだけにとどまらず、将来の就職にもつながるような深い議論が重ねられることと期待している。
次に、海外研修では、平和構築の実務を行う上で必要となる能力やスキルを養って頂く。派遣先としては、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)等、現場で平和構築の活動を実施している国連専門機関を第一の選択肢として想定しているが、国連機関以外を希望する人のためにNGO等の選択肢も用意したいと考えている。また、国連が実施している平和活動に参加する機会も作りたいと考えている。研修員の方々が海外研修の期間中に実力を発揮し、その後の就職につながることが望ましい。
最後に、就職支援については、優秀であるにもかかわらず国連機関からすぐに声がかからなかった研修員若干名を対象に、外務省が、原則2年間、国際機関に若手職員として派遣することになっている。

2.今後の課題・挑戦

広島大学がこの事業を正式に受託したのは平成19年6月22日であり、まだ一月も経っていない。受託以来過密なスケジュールで動いているためまだ決まっていないことも多いが、今後乗り越えていかなければならない課題として、現時点では以下のような点を認識している。

第一に、この事業では文民の人材育成を掲げているが、なぜ文民に特化しているのかということを明確に説明できるようにしていく必要がある。国際的には、軍人・警察官・文民の三者を一体として訓練するのが最近の潮流となっている。文民に特化した人材育成を行うことで現場の要請にどこまで対応できるのか、という課題は出てくるだろう。

第二に、日本およびアジアのやり方と、欧米あるいは国連機関で現在主流となっているやり方は違うのではないか、ということを多くの人が感じているのではないかと思う。だが、どのように違うのか、どちらが優位なのか、とういう点については、まだ漠然としているのではないだろうか。欧米の真似をするだけの人材育成ならば、あえて日本が行う必要はない。この事業を通じて、日本およびアジアのやり方とは何なのか、そこにどのような比較優位があるのか、ということを検証し具体化できればと考えている。HPCを単なる研修機関ではなく、アジアの知見を体系的に取りまとめて、それを世界に向けて発信できる、知見とネットワークが集積される場にしていきたい。

第三に、人材育成には時間がかかる。5ヶ月の研修を行うだけで国連機関の邦人職員数が一気に増えるとは考えていない。この事業が国際的に評価を受けるのは、10年、20年という時間が経ってからだろう。また、現在は、単年度の予算という枠に縛られてはいるものの、人的ネットワーク構築という観点からも、この事業が一年だけでなく、中長期的に継続されていくことが重要である。

質疑応答

■Q■ 日本政府はこの事業のために1.8億円、一人当たり600万円を投資するとのことだが、具体的にはどのように使われるのか。

■A■ 一人当たり600万円というのはあくまでも話を分かりやすくするための単純計算として捉えて頂きたい。この金額は、講師への謝金、海外実務研修にかかる渡航費、着後手当、保険料等に使われることになる。つまり、海外実務研修にあたって、基本的には受け入れ機関が人件費を負担する必要はない。ただし渡航費については、日本から研修先への往復渡航費はHPCが負担するが、赴任後に発生する活動費は受け入れ機関が負担することになる。また、現在の就職先を休職してこの研修制度に参加する人については、出向元の職場に対してその分の補填をすることも検討している。

■Q■ 国内研修の期間中は研修員全員が6週間寝食を共にするとのことであり、説明の中ではアジア的なやり方という点が強調されていたが、海外生活が長い人にもなじめるような雰囲気なのか。

■A■ 東京で説明会を行った際、NGOや国連機関で実際に平和構築の専門家として活躍している方々にも来て頂いた。その方々からは、平和構築に携わるために必要な資質として、チームワークと柔軟性が挙げられていた。どのような機関で働くとしても、チームワークと柔軟性は欠かせない。国内研修では、自ら周囲に溶け込み、リーダーシップを発揮して頂けることを期待している。

■Q■ 書類選考通過者に対して面接あるいは電話インタビューを行うとされているが、日本に帰国しなければいけないのか。

■A■ 海外在住の書類選考通過者に対しては、国際電話でのインタビューを通じた面接を行うことを考えている。面接のために日本に帰国する必要はない。

■Q■ 日本での説明会にはどのような人が参加し、どのような点に関心が持たれていたか。

■A■ 東京のUNハウスで行った説明会には約180人の参加者があり、そのうちおよそ三分の一が学生だった。あとは社会人として仕事を持っている人が多かった。関心が持たれていた点としては、応募資格に「平和構築に関連する諸分野で2年以上の実務経験を有し」とあるが、これまで自分が働いていた分野が「平和構築に関連する諸分野」にあてはまるのかどうか知りたい、というものがあった。これについては、募集要項で列挙されている分野はあくまでも例なので、そこに書かれていない分野であっても、これまで何らかの専門的な知見を培ってきた方はぜひ応募して頂きたい。 
実務経験が2年を大幅に超えて5~6年あったとしても、長すぎるということは全くないので心配せず、むしろその知見を活かして平和構築の分野で活躍して頂ければと思う。その他には、研修を終えた後本当に就職できるのか、という質問が多かった。この点については、日本政府ができる限りの後押しをするとはいっても、最終的には本人の実力にかかってくる。
研修員が何人どういう機関に就職したかということはこの事業の成否を判断する上での最もわかりやすい指標となるので、HPCとしても研修員の就職を支援していきたいと考えている。
また、どのような機関または地域で海外実務研修を行えるのか、という点にも関心が持たれていたが、現時点では、アジアを中心とした平和構築の現場を念頭に置いている。実際にどのような人材が研修員として派遣されるのかは、研修員の希望と受け入れる側の機関の事情の双方を考慮しながら調整していくことになる。

■Q■ 平和構築支援が必要とされるような現場においては、日本では考えられないような事件が起こることもあるし、たとえば撃たれた時に何と叫べばよいか、ブービートラップとはどういうものか等、紛争後の不安定な地域だからこそ知っていなければならないこともある。国連機関では、安全研修に合格しなければ職員を紛争後地域に派遣しないとも聞いている。この事業では文民の育成に特化するとのことだが、文民だからこそ、平和構築の理論とは別に、紛争後地域で生活するための軍事的な知識や安全面での訓練を受けていることが求められるのではないか。

■A■ 東京で説明会を行った際、同じような質問がNGOの方からも出された。確かにこれは重要なことであり、国内研修修了後に行う予定の「海外実務研修に向けたガイダンス」の中で、派遣前研修として安全対策を実施したいと考えている。あわせて国連ボランティア計画(UNV)の協力を得て国連ボランティアを派遣する前に実際に行われているような研修をこの事業の研修員にも提供したい。あるいは、UNHCRが人道援助活動のための訓練センターとして設立した「eセンター」の安全対策カリキュラムを実施する等の方策についても現在検討中である。また、軍事活動の経験者を講師に招くことで、研修内容を平和構築の現実に少しでも近づけていきたい。

■Q■ カナダのピアソンセンター(レスター・ピアソン記念PKO訓練センター)等、平和構築に関する人材育成を行っている機関は他にもあるが、そういった既存の機関と比べてどのように独自性を出していくのか。

■A■ HPCは何といっても本年立ち上げたばかりの組織なので、自分の力だけで一から始めるのではなく、海外の実績のある機関とパートナーシップを築き、取り入れるべきところは積極的に取り入れていきたい。とはいえ、既存のカリキュラムを丸写しするのではなく、この事業の趣旨に合うように練り直していきながら独自性を打ち出していきたいと考えている。

■Q■ 海外実務研修の派遣先はアジアが中心になるとのことだが、アフリカにも平和構築を必要としている国が多く、TICAD(アフリカ開発会議:Tokyo International Conference on African Development)等を通じて日本政府も積極的にアフリカへの支援を行っている。それにもかかわらず、派遣先はアジアに限定されるのか。

■A■ 主な派遣先はアジアという方針はあるものの、平和構築の観点から見れば、もちろんアジアだけではなくアフリカ等他の地域で研修を実施することも視野に入れなければならないだろう。実際には、受け入れ機関との調整が必要となることに加えて、万が一の場合に日本政府としてどのような対応を取ることができるか、等の点を考慮した上で最終的に派遣先を決定していくことになる。

■Q■ 欧米あるいは国連機関で現在主流となっているやり方に対して違和感を持っている人も多いためアジア的なやり方を模索していきたいとのことだが、違和感とは具体的にどのようなことか。

■A■ 私(上杉プログラムオフィサー)自身の経験では、現地での知見の集積があるにもかかわらずそれを活用しようとせず、他の国の成功例を押しつけようとする、現地の人が無知であると決めつけて「教えてあげている」と相手を見下したような態度で仕事をしている、と感じたことがある。相手が失敗したときに、日本人であれば相手と一緒に対応策を考えられるのではないかと思うが、欧米から支援に来ていた人は現地の人を怒鳴りつけていたのを見たこともある。対等なパートナーとして現地の人と共に働くことができるか、平和構築の主役はあくまでも現地の人であり自分たちは「名脇役」であるべきだとわきまえているか、という点で、日本人としては欧米流のやり方に違和感を覚えることがあるのではないだろうか。
(参加者からのコメント)平和構築支援を必要としている国は世界各地にあり、価値観も様々だ。そのため現地の人に受け入れられる方法は国によって違うはずなのに、欧米流のやり方が主流となっているのが現状。これまでの平和構築支援で失敗例とされているものの中には、欧米一辺倒のやり方が失敗の一因となっているものもあると思う。多様な価値観の中で支援をしていける柔軟性が必要であり、特にアジアでの平和構築については、アジア的な価値観に基づいてアジア的なやり方で支援を行うことも重要ではないか。

■Q■ 就職支援の一環として、優秀な研修員は、原則2年間、国際機関に若手職員として派遣するとのことだが、現在年間40人ほどいる邦人JPOの中で、JPOを終えた後も国連機関に残る人材は半数に満たないのではないか。国連機関における邦人職員を増強するという外務省の観点を踏まえれば、この研修制度は、JPOに応募する前段階にある人が受けるべきものとの位置づけと理解してよいのか。JPOを終えた後、P3ないしはP4レベルとして国連機関内に残り、昇進していくのは自分の力だけでは難しく、日本政府の後押しも必要とされているが、その点について日本政府としてはどのように考えているのか。

■A■ 国連機関の邦人職員数を増やすためには、JPO、国連職員採用競争試験、この人材育成事業、どれか一つだけで十分というものではなく、様々な方法を組み合わせていく必要があると考えている。JPOを終えた後も長期的に国連機関で勤務している人材は確かに少なく、実態は厳しい。いろいろなプログラムを複合的に使いながらキャリアを形成していくことが重要だと思う。この事業に関して言えば、今後、国際機関等の国際舞台で活躍したいと考えている人、国際機関若手職を経験した上でネットワーク作りやプレゼンテーション能力の面でもっと力をつけたいと考えている人、両方の立場の人に活用して頂きたい。人材育成とは、すぐには成果が出なくても、中長期的な視野を持って着実に取り組んでいくべきものだと考えている。

■Q■ ちょうど空席がある場合、国連機関の方からHPCに対して海外実務研修員を派遣してほしいと申し入れてもよいのか。

■A■ そうした申し入れは大歓迎。5ヶ月間の海外実務研修が終わった後も引き続きその国連機関で働くことができるのであれば、それを受諾するかどうかは本人次第であり、HPCとしてはむしろその方が望ましいと考えている。この事業では将来性を重視しており、いろいろな人材が切磋琢磨することでよい結果が出ることを期待している。

議事録担当:大槻