第39回 「小型武器問題-国連行動計画の履行と日本の取組み」

益子 崇さん
国連軍縮部 プロジェクト調整官

大村 周太郎さん(コメンテーター)
国連日本政府代表部 参事官

2007年7月12日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連邦人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

■ はじめに

はじめに、国連事務局軍縮部について説明したい。2007年初頭には潘基文新事務総長の国連改革の一環として、軍縮局が政務局に吸収合併される、という案もあったが、軍縮局(Department for Diisarmament Affairs)を軍縮部(Office for Disarmament Affairs)とすることで決着がついた。軍縮部の長はレベルとしては事務次長のままだが、肩書きとしては「軍縮担当上級代表(High Representative for Disarmament Affairs)」となった。昨日、ブラジルのセルジオ・ドゥアルテ大使が上級代表として着任したばかり。ドゥアルテ大使はブラジルの外交官として40数年のキャリアを持ち、2005年の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の議長も務め、軍縮問題への造詣も深いと聞いている。

事務総長報告(A/61/749)では「軍縮問題を活性化させるために、最高レベルによる確固とした指導力が求められている」と述べられている。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効もなかなか進まず、2005年の核兵器不拡散条約運用検討会議は失敗に終わり、2006年の国連小型武器行動計画履行検討会議(以下、再検討会議)も成果文書の採択に至らなかった。こうした状況の中で軍縮局が軍縮部に変わり、軍縮担当上級代表という新たな肩書きが作られたことについては、上記の事務総長報告にもあるように、「柔軟性、敏捷性、事務総長への近接性」を最大限に発揮できる組織とすることで、事務総長直轄で軍縮問題を扱っていくという事務総長の意思の表れだと理解している。

軍縮部には、小型武器問題を扱う通常兵器課(Branch)のほかに、核兵器及び生物化学兵器を扱う大量破壊兵器課、ジュネーブ軍縮会議を担当するジュネーブ支部、ペルー共和国のリマ・トーゴ共和国のロメとネパールのカトマンドゥ(NYから移転協議中)にある三つの地域センター等がある。職員は総勢80名ほどで、以前は局であったことを考えると、規模は非常に小さい。そのうちニューヨークに勤務しているのは約60名で、専門職と一般職がおよそ半々である。私が所属している通常兵器課の中で小型武器問題に携わっているのは私を含めて4名である。

2002年にリマの地域センターが中心になって小型武器を破壊するイベントが開催され、私もニューヨークから参加した。ペルーでのゲリラ活動や犯罪に使われていた武器が押収されていたのだが、警察の武器庫の棚に収まりきらず、床に血のついた銃が放置されて転がっているという状況だった。武器を破壊する前に一挺一挺について型式、製造番号等の記録を取り、「完全に、不可逆に、検証可能に」という国連が定めた武器破壊の原則に従い、3日間で銃を検査していった。検査した銃は全部で2200挺に上ったが、中には弾薬がそのまま残っていたものもあった。武器を取りまとめた後は警察の護衛つきで溶鉱炉に運び、まとめて約1500度の高温で溶かす。溶かした鉄は鳩の形をした鋳型に流し込み、平和の象徴として公園に展示されているという。こういった形で、国連小型武器行動計画(以下、行動計画)に則った破壊活動が様々なところで行われている。

行動計画には二つの大枠がある。一つは国際的な規範作り、もう一つは、行動計画をどのような仕組みで実施していくか、関係者・機関をどのように調整していくか等、履行していく上での具体的施策である。この大枠に基づき、様々な観点から小型武器問題への対応が進められている。

■1■ 小型武器とは何か

小型武器とは何か、という定義は、行動計画においては明確には示されていない。2005年に採択された「国連非合法小型武器の特定と追跡に関する国際文書」では、small armsは個人で携行・使用できる兵器とされており、カラシニコフ、ライフル、自動ピストル、リボルバー、サブマシンガン等が含まれる。一方light weaponsは2~3人がチームとなって携行・使用する兵器とされ、マシンガン、ポータブルミサイルランチャー(肩撃ち式ミサイル)、100ミリ以下の迫撃砲、グレネードランチャー(手榴弾発射装置)等がここに分類される。日本語では、このsmall armsとlight weaponsを併せて小型武器と総称している。弾薬、爆発物、地雷は小型武器には含まれない。

国連では統計はとっておらずあくまでも参考値ではあるが、小型武器の蔓延を示す数字として以下のようなものがある。合法・非合法を問わず世界中に蔓延している小型武器の数は7億5千万から10億。紛争に関連して主に小型武器によって命を落とす人は年間30万人。紛争以外の状況で小型武器によって命を落とす人は年間20万人。小型武器の製造数は年間800万。小型武器の貿易額は年間40億ドル。

小型武器が問題となるのは、多くの人数を簡単に殺傷することができるからである。アナン前事務総長は、小型武器は事実上の大量破壊兵器であると述べた。非合法な小型武器が特に蔓延しているのは、その環境から、アフガニスタン等の紛争下の状況と、南米等暴力や犯罪に関連する状況の二つに大別できる。

■2■ 国連小型武器行動計画について

2001年の国連小型武器会議にて採択された行動計画(正式名称は「小型武器非合法取引防止に向けた行動計画」)には法的拘束力がなく、あくまでも政治文書としての位置づけとなっている。この行動計画を法的に拘束力のあるものとすべきとの議論もあったが、軍縮の世界では作業部会における意思決定は全会一致でなければならないので(コンセンサス・ルール)、この行動計画も最終的には政治文書として落ち着いた。この行動計画における主な行動主体は加盟国(states)であり、国家が一義的な責任を負うことになっているが、このほか地域機関、国際機関、市民社会もそれぞれ取組を進めることが推奨されている。

行動計画について、キーワードを追いながら内容を見ていきたい。前文に続き、第二部では、国家レベル、地域レベル、世界レベルでそれぞれ取るべき施策について順に述べられている。主なものを挙げると国家レベルでは、小型武器の非合法な取引について刑事罰を適用すること、外務省・内務省・防衛省・法務省等国内の関係機関を調整する仕組みを作ること、小型武器問題に関する連絡窓口を設けること、小型武器の製造・輸出入・合法取引を免許制にすること、非合法取引の仲介者に対する罰則を定めること、余剰武器を適切に管理すること、国民に対する啓発活動を行うこと、紛争下で子ども兵士として働かされる子どもを保護すること等が求められている。また、世界レベルでは、国連安全保障理事会が発動する武器禁輸措置と連携すること、非合法な小型武器を追跡する仕組みを強化すること等としている。

2001年に行動計画が採択されてから2006年に再検討会議が開催されるまでにどのような成果があったかということについては、2003年と2005年の中間会合で各国の取組が報告されている。2003年の第一回中間会合は日本の猪口軍縮大使が議長を務めた。これまでに145カ国が小型武器問題に関する連絡窓口を設け、80カ国以上が国内に調整機関を設置し、141カ国が行動計画に関する報告書を提出した等の成果が報告されている。ある統計によると、1990年から2007年までの17年間に破壊された小型武器は830万挺とのこと。他方で、小型武器の製造数が年間800万挺であることを考えると、17年かけて廃棄してきたものが毎年新たに作り出されていることになる。

■3■ 国連小型武器行動計画履行検討会議について

2006年6月末から7月にかけて、再検討会議が開催された。この会議でどのような成果があり、どのような点が不調に終わったかを考えてみたい。ある国のロビー団体はこの再検討会議に対する反対活動を繰り広げ、関係者に何万通もの抗議文書を手紙、ファックス、電子メール等で送りつけた。国連で議論されるのはあくまでも非合法に取引される小型武器を取り締まるための枠組であり、加盟国の国内法に則って合法的に市民が武器を所持することについては国連の管轄外であるため関与しない。そのことをこれまで何度もはっきりと説明してきているが、こうしたロビー団体はそれを承知の上であえて反対活動を続けている。

再検討会議で参加国の意見が分かれた項目については以下のようなものがある。まず、行動計画をいかにフォローアップするかという仕組みについては、国連で小型武器について話し合う必要はない、と強硬に主張した国があり、そのことが再検討会議が不調に終わった原因となった。その他は、弾薬や携帯式地対空ミサイル(Man-portable air-defense systems, MANPADS)を小型武器の範疇に入れるか入れないか、市民が小型武器を所持することについて言及するかしないか、反政府ゲリラは行動計画の行動主体となりうるかどうか等の議論があった。また、発展途上国からは、開発と小型武器の関係についてより明確に言及してほしいとの希望も出された。結局、行動計画のフォローアップの仕組みを2006年以降どうするかということについて合意できなかったため、何度も草案を書き直しながら2週間にわたって議論したにもかかわらず、成果文書を採択することができなかった。これを救ったのがその年の第一委員会と総会(第61回)で、2008年に第三回中間会合を開催することについては、かろうじて採決された。しかし、再検討会議でまとまらなかった点に関する意思決定をどうするかということについては未定のままである。

行動計画から新たに発展した取組としては、小型武器の追跡(tracing)が挙げられる。小型武器を製造する時、そして輸出入をする時には再度、刻印を行い、記録を管理することで小型武器を追跡可能にしようとする取組である。国際刑事警察機構(Interpol)では、銃の型式やモデルを特定し、その個体が過去に犯罪に使われたことがあるかどうかを調べられるようなデータベースを試験運用中である。

また、非合法取引の仲介(brokering)に関する取組も進んできている。武器取引を行う業者を免許制度に基づいて登録し、非合法取引に対する懲罰を設けて国際的に管理していこうとするものである。非合法取引については、どこか一つの国の法律が整備されていなければその国を拠点にして非合法取引が行われてしまうため、国際的な歩調を揃えることが必要となる。非合法取引の仲介については政府専門家会合(GGE)も開催されており、その報告書が今年の総会(第62回)に提出される。日本からも専門家が参加した。

2006年の再検討会議が不調に終わったのは、今後小型武器に関する国際基準を設定するにあたって限界が見えてきたからという背景もある。常に反対する国があれば、合意を形成するのは困難になる。

■4■ 小型武器に関する様々な取組

行動計画とは別に、武器貿易条約(Arms Trade Treaty)を実現するための取組が進められているが、新しい条約を作るにあたっては、実現可能性、何を対象とするか、貿易が制限されるべき具体的な状況(パラメーター)をどうするか等、議論しなければいけない点がたくさんある。2006年12月に国連総会決議で武器貿易条約を目指した決議が採択されて以来(国連総会決議61/89)、各国が事務局に意見を提出している。また、行動計画に含めるか含めないかで意見が分かれた弾薬や携帯式地対空ミサイル(MANPADS)については、行動計画とは別に決議が採択されている(弾薬については国連総会決議61/71、MANPADSについては国連総会決議60/77)。また、国際組織犯罪を防止するという観点からは、法的拘束力を持った議定書(「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する銃器並びにその部品及び構成部分並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書」2005年7月に発効)が存在する。

国連ミッションが武装解除・復員・再統合(Disarmament, Demobilization and Reintegration, DDR)に従事する際の小型武器への配慮を定めた「武装解除・復員・再統合についての総合的基準(Integrated Disarmament, Demobilization and Reintegration Standards, IDDRS)」が2006年12月に発表された。この基準は、短期的な平和維持の取組が実施されている最中に、長期的な開発課題も見据えて小型武器の管理を進めようとするもの。DDRウェブサイトからダウンロードできる。また、平和構築における治安部門改革(Security Sector Reform, SSR)の枠組みにおいても、小型武器の管理を進めるべきとされている。

国連通常兵器登録制度というものがあり、1992年に設立されている。これは、(1)戦車、(2)装甲戦闘車両、(3)大口径火砲システム、(4)戦闘用航空機、(5)攻撃用ヘリコプター、(6)軍用艦船、(7)ミサイルおよびその発射基、の七つのカテゴリーにつき、輸出入または移転があった場合に国連に届け出るという制度である。現在140カ国ほどが参加しているが、2006年からはオプションとして小型武器の報告も可能にするために統一書式が設定された。

2週間ほど前(6月29日)には、小型武器行動計画実施の重要性を認め、今後2年に一度定期的に安保理で小型武器について審議するという安保理の議長声明が出された。実際には、2001年以降は毎年安保理で小型武器について審議が行われてきており、安保理が発動する武器禁輸措置との関係における小型武器の重要性も指摘されている。しかし、安保理で小型武器について議論することに反対する国もあり、2年に一度ということになった。

国連以外の機関においても、法的拘束力を持ったものも含めて、それぞれの地域で小型武器の枠組作りが進められてきている。たとえば、" 西アフリカ諸国経済共同体(The Economic Community of West African States, ECOWAS)における小型武器管理プログラムの発足(2006年)" アフリカ東部諸国11カ国による小型武器ナイロビ議定書の採択(2005年)" 南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community, SADC)による議定書(2001年)" 欧州連合(European Union, EU)による「武器輸出に関する行動規範(European Code of Conduct on Arms Exports)」の採択(1998年)" 欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Co-operation in Europe, OSCE)における「小型武器に関する文書(Document on Small Arms and Light Weapons)」の作成(2000年)" 通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(The Wassenaar Arrangement on Export Controls for Conventional Arms and Dual-Use Goods and Technologies)が制定した小型武器輸出に係るガイドライン(2002年)" 米州機構(OAS)による「銃火器、弾薬、爆弾及びそれに類する機材の製造及び不正取引に関する米州協定(Inter-American Convention Against the Illicit Manufacturing of and Trafficking in Firearms, Ammunition, Explosives, and other Related Materials, CIFTA)」の採択(1997年)" 中米統合機構(Sistema de la Integracion Centroamricana, SICA)による武器の不法所持等に共同対処するための行動計画の採択(2005年)等がある。

また、16の国連部局および専門機関が小型武器に関する政策調整を行う協議体として、小型武器行動調整メカニズム(Coordinating Action on Small Arms Mechanism: CASA)が1998年に発足した。各部局・機関はそれぞれの使命に基づいて参加している。たとえば平和維持活動局(DPKO)はDDR、人道問題調整部(OCHA)は武力紛争における文民保護、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は暴力からの難民の権利保護、国連開発計画(UNDP)は開発を中心としたより大きな枠組の中における小型武器への対応、国連児童基金(UNICEF)は子ども兵士の問題、国連環境計画(UNEP)は小型武器廃棄の際の環境保護および紛争後社会における環境評価、世界保健機関(WHO)は暴力からの保護、等それぞれの観点から行動計画の履行に協力している。

CASAの枠組の下で、小型武器問題への対応に関する能力強化、現場へのミッション派遣、小型武器の回収および破壊等、既に様々なプロジェクトが実施されてきた。関係者間での情報共有についても、CASAでデータベースを作り、小型武器に関する全国連加盟国192カ国の情報やDDRの成功事例をまとめている。日本は、国連軍縮信託基金(Trust Fund for Global and Regional Disarmament Activities)の一部である小型武器基金(通称)への主な拠出国として、CASAのデータベース構築を支援している。

■5■ 日本の取組

日本政府は小型武器問題に非常に熱心に取り組んでおり、国際社会でもリーダーシップを発揮している。国連小型武器政府専門家パネルや中間会合で議長国を務めたり、コロンビアや南アフリカ共和国と共に小型武器に関する国連決議の取りまとめにあたったりしている。また、二国間援助においても、カンボジアにおいて2003年以来「カンボジアにおける平和構築と小型武器対策プログラム」を実施したり、他国においても、警察改革や教育支援、DDRの一部分としての小型武器対策に資金援助を行ったりと、積極的に取り組んでいる。また、日本政府が主な拠出国である人間の安全保障基金では、人間の安全保障を実現するための治安改善という観点から、コソボやタンザニアで小型武器対策が実施されている。

■6■ 日本政府の立場から【大村さんからのコメント】

これまで3年半ほど、国連日本政府代表部で軍縮を含めた様々な案件をみてきた。自戒の念を込めて申し上げれば、日本人の多くは軍縮の専門知識をあまり持っていない。歴史的背景もあって、「軍事はよくない」「軍縮をすべき」という感情は世界中のどの国よりも強いが、なぜそうなのかということが、教育の場で理論的に教えられてきていない。アメリカ等では大量破壊兵器問題についても、理論に基づいた議論や主張がなされている。この勉強会を契機に、軍縮問題に対する関心を深めて頂きたい。

小型武器問題については、(1)なぜ小型武器なのか、(2)この問題の何が難しいのか、(3)国連または日本に何ができるか、という三点を中心に考えてみたい。

まず、(1)なぜ小型武器なのか、であるが、小型武器とは基本的に昔から存在していたものである。戦後に登場した核兵器とは違って、殺傷兵器として身近なところにずっとあったものをいかに適切に管理できるかという点に、その国の統治能力が表れる。日本の戦国時代を振り返っても、安価で効率のよい武器を得た勢力が勝利を手にしている。長篠の戦で織田信長が勝ったのも火縄銃のおかげだろう。武器によって覇権を取った勢力は暴力装置を独占する必要があり、そのために過去の勢力は苦労してきた。これらの例には豊臣秀吉の刀狩、明治政府の廃刀令等がある。

国家による武器の管理ということに関して言えば、無論西南戦争のような、政府に反抗する勢力による反乱もあったものの、日本は比較的成功した方なのではないか。島国であるために他の国からの武器の流入が少なかったこと、また、明治以前から藩制度があったためにそれぞれの藩の中で統治がしっかり行われていたこと等がその理由であると思われる。

しかし、現代において同じように武器の管理を行うことはずっと困難である。一つには、数の多さが挙げられる。益子さんの講演にもあったように、世界中で10億挺ともいわれる小型武器が安価かつ容易に手に入るようになっている。紛争を終えたばかりの社会で、昔の日本がやったことと同じことをやろうとしてもそう簡単にはいかないが、その手伝いをすることはできる。紛争後社会では、核兵器よりも大量破壊兵器よりも、小型武器の存在が開発の障害となっている。だからこそ、そうして小型武器の管理を進めていくことが重要である。

次に、(2)小型武器問題の何が難しいのか、という点については、第一にこれが比較的最近議論され始めた問題だからである。小型武器はようやく1990年代後半から国際社会において問題として認識されたばかりであり、国連が本格的に取り組み始めたのも、ここ10年ほどのことである。核兵器の40年近い議論の歴史に比べれば、小型武器問題についてはまだまだ議論が深まっていない。

第二の難しさは、小型武器には合法なもの、非合法なものの両方が存在するということである。核兵器で言えば、保有国と非保有国が存在し、保有国については一応保有が認められている。一つの国の中に合法と非合法なものが混在しているというのが小型武器の特徴であり、どれが合法でどれが非合法かを識別するのは非常に難しい。

第三に、小型武器問題の多面性および複合性が挙げられる。小型武器問題は人権、開発、治安部門改革等、様々な立場にある機関が様々な角度から取り上げており、一つの切り口から考えればよいというものではない。その点では、対人地雷の問題とも似ている。

最後に、(3)国連または日本に何ができるか、ということについて考えたい。これについては、益子さんの講演にあったように、国際社会におけるルール作りと現場での支援を両輪で進めていくことが必要である。ルール作りについては、まずは会議を通じて少しずつ合意を形成し、行動計画を着実に実施していくこと。小型武器の追跡(tracing)については一通りの目処がついた状況なので、今後は非合法取引の仲介(brokering)を中心に、一歩ずつルール作りを進めていくことになるだろう。現場での支援については、平和維持活動、資金援助、NGOを通じた人的支援、小型武器をいかに効率的に破壊するか等の技術支援を行っている。

小型武器、国際社会における対立の構図が核兵器や大量破壊兵器とは若干異なっている。核兵器については、保有国対非保有国という一義的な対立が確立されているが、小型武器については、そこまで明確な対立はない。あえて言うならば、武器輸出国とそうでない国、ということだろうか。小型武器問題への対応を進める上で、武器輸出国が障害となっている面もある。

日本の観点から見れば、核兵器については、日本は被爆国である反面、日米安保条約に基づいた安全保障体制を持っているので、核廃絶を訴える際にも歯切れの悪いところがないとは言えない。他方で、小型武器については、アメリカとは違う立場を取ると割り切っている。もちろんアメリカの参加を得なければ実効性のある管理制度は作れないので、アメリカを孤立させずに国際社会の議論の場に留めるための配慮を示してきた。しかし基本的にはアメリカとの立場の違いを気にせずに日本の姿勢を打ち出すことができ、日本が活動する余地も大きい。

何ができるか、ということについては、国連総会決議が国際社会におけるルール作りの源泉となっているので、今後もこれを柱として取り組んでいくことが重要。日本は国連小型武器基金及び国連機関に対して相当な額を拠出している。国連人間の安全保障基金を通じた平和構築等、小型武器そのものではないにしても、小型武器問題と密接に関わる分野でも積極的に支援を行っている。引き続き、ルール作りと現場での支援を基本姿勢として取り組んでいきたいと考えている。

質疑応答

■Q■ 日本では小型武器は製造されているのか。日本で製造された小型武器が海外で出回っているということはないか。 

■A■ 日本では、警察官、自衛隊等政府職員が所持するための小型武器が製造されている。ただし、武器輸出三原則に基づき、日本で製造した武器は輸出しないと閣議決定されているので、日本の政府機関でのみ使用されている。

■Q■ 現場での支援について、人間の安全保障との関連で小型武器を回収しているとのことだったが、紛争後社会の人々が抱える不安を解消するための包括的な枠組と提携して行われているのか?たとえば、コソボではUNDPが中心となって小型武器を回収したが、住民の間に治安への不安があったため、皆自分の身を守るために武器を手放したがらなかった。紛争直後の、暴力の収まっていない社会で小型武器を回収することは難しいのではないか。

■A■ コミュニティの安全があって初めて小型武器の回収が成功する。安全が確立されるタイミングを見計らって回収を行う必要もあるし、その前段階においても、学校等の教育機関と協力したり、警察と住民との対話の機会を設けて住民の不安を取り除いたり等、小型武器回収と併せて啓発活動を実施することが必要。これまでに実施されたプロジェクトでは、まずコミュニティの安全性を調査し、回収に機が熟しているかどうかを判断した上で、熟していなければ、回収できるような状況に向けて働きかけを行っている。

■Q■ 様々な部局や機関が小型武器問題に携わっている中で、国連軍縮部はどのような役割を担っているのか。

■A■ 小型武器問題は様々な分野に関係してくるため、国連の機関間枠組、DDRに関する機関間の活動にも積極的に参加している。軍縮部は平和と安全保障に関する問題のうち、政治的な部分に対するアドバイスを行うのが主な役割である。実際の活動については、軍縮部の地域センターやUNDP、CASAの他のメンバー、国際NGO等が行っている。

■Q■ 非合法なものであるにもかかわらず、小型武器問題を国連という場で話し合うこと自体に反対する国があるとのことだが、こうした主張はどのような理屈に基づいて行われているのか。また、実際に小型武器問題に携わっている立場からは、このような主張はどう思われるか。

■A■ こうした国の場合、まず理屈があるのではなく、合法・非合法を問わず、とにかく銃の規制や管理について話し合われることが我慢ならないというアレルギー反応に近いものが国民の間にあり、それを逆手に利用してロビー団体が反対活動を行っているというのが実情ではないか。こうしたロビー団体はその国の政権と密接に繋がっていることもあるので、政権としても無視できない存在となっている。2001年の初めから、国連の立場としては、小型武器問題を議論する際にはこれらのロビー団体を会議に招待し発言も行ってもらって、政治的な客観性を確保しようと努めている。実際に国連でこうした国が発言する場合には、はっきりと「非合法な小型武器についても議論したくない」と明言しているわけではない。ただ、小型武器はどれが合法でどれが非合法かを判別するのが難しく、コインの表裏のようなもの。国連が進めている枠組作りはそれをできる限り管理しようとし、その一環として、小型武器一挺一挺に刻印を押すこと等が試みられている。しかし、たとえば刻印を押すとなると生産者にとっては相当のコストがかかるので、小型武器問題に限ったことではなく、とにかく新たな面倒は背負いたくない、という気質があるのではないか。もっとも、公の場でそう主張することはできないので、自国の憲法等を持ち出して理屈を後づけしているようにみえる。

■Q■ 武器輸出国は安保理常任理事国の中にもいくつかあるが、それぞれどのような立場を取っているのか。

■A■ 武器輸出国が皆足並みを揃えて同じ主張を行っているわけでもなければ、武器輸出国だから小型武器の管理に必ず反対するというわけでもない。武器輸出を行っているにもかかわらず、武器貿易条約の推進役となっている国もある。また、一元的な対立軸の中に入らず、独自の立場を守っている国もある。他方で、現時点では特定の輸出国が目立って反対しているので、他の輸出国はそこまで前面に出て反対する必要もないという見方もできる。仮に、今後輸出国に対する拘束が強まれば、他の輸出国も強硬な反対論を唱え始める可能性もある。

■Q■ 過去17年間で廃棄された小型武器と同じだけの小型武器が年間に新しく生産されているとのことだが、それだけのコストをかけてまで小型武器を廃棄する意義は何か。

■A■ 1997年にはアルバニアの武器庫から50万挺の銃が盗まれるという事件が起きた。小型武器の廃棄には確かにコストがかかるが、廃棄せず保管しようとすればもっとコストがかかるだけでなく、それが非合法に蔓延する危険性もある。そのため、たとえコストがかかろうとも、再利用が不可能なように廃棄を進めていくというのが小型武器処理の本流となっている。

■Q■ 日本は小型武器を輸出しているわけでもないのに、なぜ日本がこの問題に取り組まなくてはいけないのか。小型武器が蔓延しているアフリカの旧宗主国等が中心となるべきではないか。

■A■ 小型武器によって影響を受ける国は多い。日本がこれまで積極的に支援してきた発展途上国の開発においても、小型武器問題が根幹にある。他方で、大量破壊兵器問題への対応がなかなか進捗しない中で、小型武器は今後議論や取組を深める余地が大いにある。

■講師からのコメント■
小型武器に関する包括的メカニズムが存在しない中で、今の勢いを失わずに今後も取組を進めていくためには、機関や組織の枠を超えた議論の場を強化することが必要。人間の安全保障、DDR、開発等、大きな概念の中に一つの要素として組み込まれて履行されていくことで、小型武器問題の主流化を進めていくことが重要だと考えている。

議事録担当:大槻