第58回 「平和構築分野におけるキャリア形成」

篠田英朗さん
広島平和構築人材育成センター事務局長(広島大学平和科学研究センター准教授)

長瀬慎治さん
国連ボランティア計画(UNV)東京駐在事務所 駐在調整官

2009年7月7日開催
於:国連日本政府代表部3階大会議室
広島・平和構築人材育成センター(HPC)/国連日本人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

写真①

■1■ 篠田さんの講演

1) 2年間のパイロット事業
平和構築人材育成センター(HPC)では、パイロット事業と呼ばれていた最初の二年が成功裏に終わった。3年目から本格事業化することとなり、名称も「パイロット」から「平和構築人材育成事業」となった。事業の扱う規模も拡大し、仕組みも変わった。パイロット事業中には30人の研修員(15人日本人・15人アジア人(アジア15カ国))がおり、その柱は、第一に6週間の国内研修(平和構築の知識と技能を身につける)、第二に海外での現場研修(習った知識と技能を半年間で実践する)、第三に卒業生に対する就職支援(日本人に対してのみ)であった。96%の卒業生が、卒業後、また、現在もなお、何らかの形で平和構築に関わっている。

2) 本格事業化に伴う変化
3年目以降、このパイロット事業は「本コース」に引き継がれた。「本コース」は、25才以上の日本人に対する研修である。海外実務研修の期間が半年から一年に延長された。また、「シニア専門家向けコース」というものが新設された。これは40才から69才の方を対象としている。このシニアの方々には就職援助はあまり行わないが、継続的な派遣を行うことを検討している。既に専門的な知見をお持ちの方については1年ではなく、2年程度の派遣も考えている。研修後にもとの職場に戻ることも予定しているが、いざ緊急に派遣が必要なった場合にすぐ対応できるよう、参加者をリスト化することになった。さらには、新しく「平和構築基礎セミナー」という、夏休みに参加できるような短期間のコースも開設した。

40才以上の専門家に対し「人材育成」という概念が適用されるかという疑問はあるが、今まで平和構築の現場に従事する機会のない人に新しい機会を提供することは、広い意味でいえば人材育成に当たると考える。また、経験をさほど積んでいない若い方には、今後のキャリア構築の観点での事業を提供していきたいと思っている。

3) UNVとHPCとの関係
このプロジェクトではこれまでもUNVと協力し、UNVに派遣先の調整をお願いしてきた。さらに3年目からHPCとUNVは明確にパートナーとしての存在となり、外務省が、UNVに直接拠出金を提供することになった。人材育成を中心とするHPCとボランティア派遣を中心とするUNVの目的は、双方まったく同じというわけではないので、どのように両者にとって有意義な関係を作っていけるかが課題である。UNVが持つ世界中にある巨大なネットワークは私たちにとって最大の魅力である。世界中に人材を送ることができる。しかし、その多様な派遣先の中で、いかに平和構築の人材育成を活かすかという、その絞り込みが課題でもある。また、専門性の多様性もUNVの特徴であり、UNVはあらゆる分野の専門家を世界中のポストに送っている。平和構築も、政治学や開発学など多くの分野を含むものなので、この重なり合いは大変有意義である。ただ、平和構築の人材育成という視点を欠かさずに、研修員の専門性を活かした派遣をしていきたいと思っている。UNVが幅広い年齢を取り扱う点もHPCにとって魅力である。

写真②

■2■ 長瀬さんの講演

1) はじめに
この平和構築人材育成事業は、平和国家日本の旗印として認知されている事業で、関連国連機関としては、パートナーシップ構築の観点から非常に注目度の高い事業として認識している。従って、UNVが、これまでのパイロット事業での実績を認められ、本年度からHPCとの共同事業実施者として位置づけられたことは大変光栄である。海外実務研修の現地受け入れ先となる関連国連機関からの協力を得ながら、平和構築を国際支援の優先課題として位置づけている日本政府への、国連機関からの協力の一つとして認知されるよう取り組んでいきたい。

2) 国連ボランティア計画(UNV)とは
UNVの本部はドイツのボンにあり、ニューヨークの国連開発計画(UNDP)の本部内には連絡事務所がある。UNVは1971年の国連総会で創設され、UNDPの下部組織として活動を始めた組織である。当時は国際ボランティア派遣機関として活動を始めたが、2001年以降は「国連システムにおけるボランティアリズム推進の中心機関」として、世界の平和と開発のための市民参画の形態としてボランティアリズムを提唱し、国連ボランティアとして世界中の市民の皆様に国連の現場での活動に参加していただく機会を提供している。また同時に、国連ボランティア以外をも含む、「ボランティア」全体の認知の向上のためのアドボカシー活動、そしてボランティアが世界の平和と開発のための活動と有機的に融合し、実質的な効果と成果で貢献できるようなプログラミングを目指して活動をしている。64億の世界の人々の人生のほんの一部の時間とエネルギーがボランティア活動を通して世界の平和と開発の実現のために正しく利用されれば、確実に平和と開発のペースは変わるはずだという信念のもと、UNVは他の国連機関、政府、NGO等とパートナーシップを組んで活動している。

3) UNVによる派遣
UNVはその国際機関としての特徴を生かしてユニークかつ、多様なボランティア派遣を展開している。2008年には、世界159カ国出身の7,753人の国連ボランティアが132カ国で活動した。そのうち約80%が開発途上国出身の国連ボランティアとなっている。そしてそのうちの約30%が自国で国連ボランティアとして活動している。これはナショナルUNVボランティア・スキームと呼ばれるもので、例えば、スーダンの人がスーダンで国連ボランティアとして活動するというものである。国連ボランティアの平均年齢は37歳であり、職務経験が5年から10年あるその分野の専門家がボランティアとして活動している集団がUNVである。現在100以上の専門分野の専門家がUNV本部で管理するロースターに登録し、現地からの要請を待っている。このロースターには毎年7万人が応募し、そのうち選考基準を満たした7000人がロースター登録されている。活動分野は、ミレニアム開発目標の達成に関連する貧困削減やジェンダー、教育、HIV・AIDs、保健、環境の分野と防災、人道支援、平和構築などの危機予防や復興の分野、そして国連の平和維持活動などである。

これらの活動分野は、UNDP、UNICEF(国連児童基金)、UNHCR(国連人権理事会)、WFP(国連世界食糧計画)、UNFPA(国連人口基金)、そして国連本体などの活動分野と共通する。国連ボランティアはこれらの国連機関の現場での活動に派遣され、特に現場の最前線では、その活動の多くを国連ボランティアが担っている。途上国各国に対する国連機関の支援活動の中に実質的に統合され、目標達成のための成果を求められるという成果重視の姿勢は他の国際ボランティア派遣組織とは一線を画している。

さらにボランティア派遣の分野でのUNVのユニークさを顕著に示している活動は、国連PKOへの国連ボランティアの派遣である。これまでの実績として1992年から2007年までに43の国連ミッションに約9,000人のボランティアを派遣した。これは国連PKOの文民スタッフの約半分の数にあたる。国連PKOは国連ボランティアなしには活動できないといわれる程、その認知度が高くなっている。

4) UNVによるHPCの現地派遣
平和構築人材育成事業の海外実務研修部門をUNVが担当することになっている。HPCの参加者は海外実務研修の間は、HPC研修生であるのと同時にUNVと契約を結び、国連ボランティアとして、国連・国際機関の平和構築の現場での活動に従事することになる。従って、現場では世界中で活動している約7,500名の国連ボランティアと同等に国連並びにUNVの規定に従って活動することになる。本年度からは派遣期間が1年となり、今後はより国連機関の現場での活動計画に統合され、より結果を求められることになるだろう。

HPCの研修生の派遣にいたる流れとしては、現場からの要請と研修生の希望を考慮に入れながらマッチングの作業が行われる。最終的な派遣先の決定には、現地の要請機関の担当者とUNVの現地担当者とによる電話インタビューが必須となっている(電話インタビューで不合格になる可能性もある)。派遣先が決定するとUNV本部より通知があり、健康診断で問題がなければ、派遣決定である。航空券の予約、ビザの申請手続き、現地の当座の宿泊、出迎え等の手続きはUNV東京事務所と現地のUNV担当者がお手伝いすることになる。

UNVでは、派遣先への往復の飛行機のチケット、渡航準備費、現地到着後の着後手当、毎月の生活費の支給がなされる。派遣終了時には、帰国手当が支払われる。現地では、100%払い戻しの健康保険と生命保険に自動的に加入する。現地でのセキュリティーについては、国連の安全基準下で他の国連スタッフと同等の安全管理が保障されている。

HPCのプログラムには今年からシニアコースが加わることになったが、UNVのボランティア派遣には年齢による区別はない。下は25歳から上は80歳まで、さまざまなバックグラウンドを持った7500名の国連ボランティアが活動している。若い方々にとっては、現場での活動経験、そこで培ったネットワークが今後のキャリア形成に大きな貢献をするであろうし、シニアの方々は、これまで培ってきた職務経験によって世界の開発と平和という地球規模の問題解決に貢献できる機会が得られるだろう。そして、その機会のすべてに共通する「ボランティア」という価値を体現する、国連ボランティアとしての限られた時間の中での活動から、キャリア形成を含めて、新しい人生の可能性が必ずや広がっていくものと考えている。

写真③

■ 質疑応答

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■会場からのコメント
私は国連の人事を担当しているが、私たちとしても、HPCの事業および国連ボランティアの方々でその後国連で活躍している方も多いので、このプログラムを人材プールと捉えている。国連ではP1、P2,P3などランクがいろいろあり、それぞれ職務経験年数が就職時に問題となる。うまくHPCを利用すれば、すぐに本格的な戦力として認識され、就職につながるだろう。

■Q■研修前にどのくらいの平和構築分野での知識・経験が必要か。
■A■篠田さん:HPCでの6週間で最大限できることを研修したいと思ってはいるが、できることは限られている。だからといって、知識と経験がある方だけを上から順に採用するのでは、人材育成機関として意味がない。知識や経験はあった方がいいが、25才と49才の方を同じ土俵で比べることもできない。結果、個々人それぞれに評価せざるをえず、やはり、人材育成事業であるからには「やる気」をまずは重要視したいと思う。とくに、「具体的な」やる気が欲しい。素晴らしいことを実際に実現しそう、伸びそう、という点を追求したいと思っている。

■Q■卒業生の現在の仕事の分野・状況・期間などを具体的に教えてほしい。
■A■篠田さん:卒業生の96%が実務に当たっている。まだこのプロジェクトが始まって間もないので、海外実務研修に関連した就職先で今でも働いている人が多い。最大の受け入れ先はUNDPで8人。続いて、UNHCR7人、そしてUNICEF、WFPと続く。NGOの受け入れも多いが、今後は国連の受け入れが増えていくと思われる。これからは、現場研修が1年以上になるので、研修先の事務所に残ることを目標に研修で頑張って欲しい。能力を評価されて、そのままUNVとしてそのまま別のファンドを得て同じ機関に残ったり、コンサルタント、JPOとして同じ機関に残る方もいる。外務省の本省や在外公館に就職するケースも多い。

■Q■応募要件として「平和構築に関連する諸分野」での2年以上の職務経験や、修士課程以上の研究経験などとあるが、「平和構築に関係する諸分野」に含まれない分野というのは何か。
■A■篠田さん:平和構築を網羅的に定義付けすることは難しい。平和構築をどう解するかという点の判断は、応募者の方にお願いしたいと思っている。まったく新しい、私が想像もしないような、平和構築に役立つ知見や関心がある方を、ぜひ採用したい。新しい平和構築の分野を広げたい。

■Q■応募資格では2年間の実務経験が望ましいとあるが、インターンシップの経験も入るのか。また、その後の就職支援についてより具体的に教えてほしい。
■A■篠田さん:インターンも職歴に近い取扱いにしたいと思うが、個別の事例で判断したい。就職支援にもいろいろあるが、試行錯誤の部分が多い。基本的には、まず本人の希望を聞き、現在どのような就職先の空きがあるのかを調べ、そこに希望者を推薦していく。また、HPCのネットワーク機能も就職支援の柱である。研修員同士の情報交換も大きな財産だし、講師が実務家ばかりなので、講師との繋がりも役に立つ。また、「ロスターシステム」というメンターシステムを、オンライン上で立ち上げて、適確なメンターと世界のどこにいても会話ができるような制度を作っていきたいと考えている。また、キャリア構築の能力、具体的には、国連の人事で必要とされる能力や、インタビューでの受け答えといったノウハウについての就職用のワークショップを行っていく。

■Q■「合格者の来年度事業参加」というのは、どういう意味か。
■A■篠田さん:合格者の「来年度事業参加」とは、採用の1年後に研修を開始する特例のことである。研修員として採用された1ヶ月後に、直ちに東京での事業に参加せよといっても仕事の関係などで難しい人もいる。特例的な扱いになるが、本人の意志が強く、能力が高く、特別な事情が認められる場合には、職場の事情を考慮するなどして、翌年の参加を認めている。

■Q■国連以外の国際機関への派遣はあるのか。派遣の場合のプロセスは。
■A■
篠田さん:国連機関以外に派遣するときも国連ボランティアとして派遣することにしている。HPCによる派遣では、既にその人を送る予算が外務省から出されるため、資金不足で必要なポストを作れないような事務所に対し派遣することになる。
長瀬さん:UNVでは要請主義を取っており、現地からの要請に従って派遣することになっている。従って、ボランティアの派遣経費は通常、要請機関のプロジェクトから負担されることになっているが、ドナーからの拠出金を利用してボランティアを派遣することもある。受け入れ機関にとっては、経費の負担なく優秀な人材を確保できる貴重な機会となる。HPCはその一例。もっとも、国連ボランティアをNGOへ派遣するというケースは様々な条件をクリアする必要がある。現地のNGOのキャパシティ・ビルディングのための国連プロジェクトの一環としてのボランティア派遣という事例はあるが、国連機関の各国プログラムに組みこまれていないNGOへの派遣は困難。これは、国連ボランティアは国連の安全管理下で活動することになり、そのためには派遣先が国連の活動のフレームワークの中に入っている必要があるからである。国連の活動と直接関係のないNGOへの国連ボランティア派遣は制限されてしまうのが実情である。

■Q■国際協力機構(JICA)から派遣される場合には、JICAの給与の補填の制度がこの事業にも適用があるか。
■A■長瀬さん:給料の補填はしていない。もっとも、シニア専門家については研修中にシニアであることを考慮した額の支給がなされ、また、UNVに派遣されている間は、UNVの規定に従って生活費等が支給される。青年海外協力隊事務局とは協力関係にあり、協力隊の経験者の方をJICAによる経費負担で毎年15名国連ボランティアとして派遣している。協力隊経験者であっても、HPCのプログラムに参加する場合は、HPCの資金での国連ボランティア派遣となる。

■Q■インターンシップとHPCの違いを教えて欲しい。
■A■篠田さん:自分の一番やりたいことを自分の意思に基づいて探せるのが、インターンのいいところではないか。逆に、インターン先を見つける苦労が常に伴うだろう。HPCでは、決まったスケジュールの中で決まった人を組織的に派遣したり支援したりするので、動きが重たいと感じることもあるだろう。例えば、国連機関でないところで働くときにはUNVとその機関の合意などが必要となったりもする。しかし組織的に行うため、国連ボランティアとしての地位が確保されるし、外務省が採用した人間の派遣なので身分保障の点では違いがあるだろう。また、就職支援が卒業後もずっと続くなどのメリットもある。ご本人の希望によってメリット・デメリットについてのとらえ方は変わるだろう。

■Q■応募する際に推薦状は必要か。推薦状を提出するメリットは何か?
■A■篠田さん:研修生の採用は公正に行いたいが、そのためにも、所属組織の裏付けといった意味などで、推薦状を出していただきたい。もっとも、応募要項には「組織の上司の推薦状」とあるが、もちろん他の方からの推薦状でも構わない。

■Q■日本の雇用制度では、シニアが休職をして1年、2年職場を空けるのは難しい。フォローを何か考えているか。
■A■篠田さん:ご指摘の通りである。元の職場の理解があって職場を離れるのが理想であるが、それができなかった場合には、こちらとしては就職支援という形での将来のお手伝いをしていきたいと思う。

■Q■海外実務研修が1月頃から3月頃とあるが、仮に3月頃の派遣であると、国内研修が終わってから3ヶ月間間が空くが、この間に自分で海外に行くことは可能か。
■A■篠田さん:派遣の時期については、相手のあることなので明確には言いにくい。待機期間を有意義に生活してもらうことは素晴らしいことである。

議事録担当:猿田
ウェブ掲載:由尾