コロンビア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航後:社会の課題」
要約
2016年の和平合意により、コロンビアは約半世紀以上続いた内戦を終結させたが、完全な平和への課題は未だ残っている。非合法の武装勢力の活動や麻薬経済、貧富の格差、紛争後の土地問題、元兵士の社会への包含などが挙げられる。現地訪問では、政府機関や国際機関、市民による平和構築の取り組みが確認された。渡航前に仮説として議論された課題は現地訪問でも確認された一方で、市民主体で再統合を進める動きや、インフラ改善の進展など前進している様子もうかがえ、市民の当事者意識や平和への思いの強さが大いに影響していると考えられる。さらにその背景としては、「Everyone is Victim」であるコロンビアの状況が大いに影響していると考えられる。コロンビアは、試行錯誤しながらも平和への道を歩んでいる。今後も政府・国際機関・市民の三者がともに協力しながら、その実現がさらに近づくことを期待したい。
1.コロンビアにおける社会課題に関する問い
2016年11月24日、コロンビア政府と左翼ゲリラ組織FARCの間で和平合意が成立し、約50年にわたる武力紛争が終結した。約22万人の死者と数百万人の国内避難民を生んだ(1)内戦に終止符を打ったとして、当時のサントス大統領はノーベル平和賞を受賞した。
FARCの解体後、残党や他の武装勢力が麻薬密売や違法採掘を継続しており、2023年時点でコカ栽培面積は253,000ヘクタール、コカイン生産量は2,664キログラムと増加している(2)。また、2016年以降1200人以上の人権擁護者や社会的リーダーが命を落としており(3)、暴力の問題は依然深刻である。
経済面でも課題が浮き彫りになっている。ジニ係数は2016年の0.517から2020年に0.544へと上昇し(4)、世帯単位の貧困状態の度合いを示す指標である多次元貧困率において、農村部は都市部の約3倍に達している。一方、都市部では金銭的貧困率が改善しており(5)、和平合意の効果が地域ごとに偏っていることが示唆される。
その一方で、和平合意による一定の成果も見られる。政府は被害者のために157,191ヘクタールの土地を取得し、808,815ヘクタールを農民や先住民コミュニティのために法的権利を確立した(7)。さらに、2023年から2024年にかけて民族解放軍(ELN)との停戦が実施され、治安部隊との衝突が大幅に減少する(8)など、和平プロセスの進展も確認されている。
現状では農村部のインフラ整備不足、麻薬経済への依存、政府のガバナンスの課題などが複雑に絡み合っている。こうした背景を踏まえ、「和平条約締結後のコロンビアにおいて、完全な平和と持続可能な社会を築くために、現地ではどのような課題が存在しているのか?また人々はそれをどのようにして乗り越えようとしているのか?」を本セクションの問いとして渡航前の仮説や現地で見たことを中心に考察を行った。
2.渡航前の学びおよび仮説
コロンビアの社会的側面に関しては、紛争の「和平合意」の一部である「武装組織と政府間の停戦交渉」や「元戦闘員の再統合」、「麻薬取引」が主に議論され、コロンビアの平和の達成にはこれらの課題が残っている、という仮説が渡航前に立てられた。
- 「武装組織の現状」としては、政策としてFARCのほかに残存している反政府武装組織や組織犯罪グループとの交渉を進めている。しかしながら、これらの多様な武装組織は、異なる政治的・経済的目標や利益を持つため一貫した交渉枠組みの維持が難しく、さらに武装組織と政府の双方が対話と交渉を継続するためのインセンティブを維持することが難しい(8)。そのため停戦交渉は課題となっていると考えた。
- 「元戦闘員の再統合」に関しては政府機関により社会復帰キャンプが運営・管理されているが、多くの元戦闘員が自立した生活をできていない(9)。その背景として加害者として語られることの多い元戦闘員に対する差別が課題となっているのではないかと考えた。
- 「麻薬取引」に関して、コロンビアで違法に栽培されているコカインはコロンビアの武装組織との関連が深く、武装組織の資金源となっており、コカイン栽培からの脱却はコロンビアの平和とも密接に関連している。主に経済状況の良くない農家が収入を得るためコカイン栽培を行っているため、そのような農家に対して政府が別の作物を育てる支援を実施していることがわかった(10)。和平合意ではコカインの違法栽培や麻薬取引の撲滅を目標に掲げているものの近年ではコカインの生産量が増加している(11)。
以上から、渡航前には「コロンビアにおける平和構築を実現する為には、様々な課題が残っている」という仮説が立てられた。

3.現地渡航における学び
コロンビアの和平構築について、実際現地機関などを訪問し、具体的な進捗がいくつか見えてきた。
国連コロンビア検証ミッション(以下、UNVMC)では戦争がないだけのネガティブな平和だけでなく、民主主義や多様性、ウェルビーイングなどを含む広義でのポジティブな平和を目指したい、と言っていたのが印象的だった。世界のほとんどの和平合意は5年と持たない中、コロンビアでは成功例と言える。特に郊外の土地を再分配することに関してはアマゾンの保全や先住民の権利保護を両立させながら進めている。政府は武装勢力と和平対話をしたい、という意向を元に和平合意を実現させ、国連からのサポートも得られている。
ARNへ訪問した際は元戦闘員たちのための数々の取り組みを聞いた。元戦闘員は加害者でもあり被害者でもある側面もあり、複雑な復讐の連鎖を生み出していた。それを超えて人々が共に求めていたのが平和であったことから、対話を通してその復讐の連鎖を断ち切ることを目指している。いまだコカイン栽培や反政府勢力の活動も根強く残っている部分もあり、地道な活動の継続が重要と感じた。
一方地域の団体が主体となって元戦闘員を支えている動きも印象的だった。
COTEPAZでは元戦闘員の方々に直接お話を聞く機会を得た。元戦闘員に対する社会的偏見と差別は残っており、元戦闘員であることが理由で雇用を拒否されるケースもあるという。外観からは何の看板もない建物で、偏見を極力避ける意味合いがあるのだろうか、と推測された。
グラナダではSalón del Nunca Más (紛争記念館)を訪れた。この地域はエネルギー資源に恵まれているゆえ、様々な武装勢力が衝突し、地元住民の多くが犠牲となってしまった。今では元戦闘員がコーヒー栽培などに奉仕し、戦争犯罪の真実の告白をして赦しを得、対話を深めている。しかし罪は重く、裁きにも不満を持つ市民もいるなか、完全な和解まではまだ道半ばというような印象だ。記憶を残しつつ前に進み平和を作ろうとする気持ちが伝わってきた。
COMUNA13はメデジン郊外にあり、かつては暴力が絶えない地域だった。壁画やヒップホップなどを通じて地域を活性化させ、観光地化が進んでいる。エスカレーターやケーブルカーによって、地域の人々の都心部へのアクセスも改善された。芸術要素やインフラなど、すべての人が恩恵を受けられているわけでもなく、まだ格差があるのも課題だ。
Ajizalは同じくメデジン郊外の地域にある。ここで地区の生活向上支援を行うNGOの代表、Sandraさんを訪問した。子供たちの図書館を作るほか、元戦闘員のボランティアを受け入れ、和解のためのワークショップも開催している。
エンベラ族の先住民族の方にも話を聞くことができ、国内紛争に巻き込まれ、国内避難民になった半生を伺った。都市部では先住民に対する差別もあるなか、コミュニティを作って文化、言語、アイデンティティを守る努力をしている。
麻薬取引についても国連工業開発機関(以下、UNIDO)や国連薬物犯罪事務所(以下、UNODC)などの機関での取り組みを聞いた。
両機関とも違法作物の代替プログラムなどが実施され、また、UNODCでは地域のモニタリングによって組織犯罪グループに対する対応が可能になった。先住民族の中には信念をもってコカ栽培を少量栽培し、文化を守っているところもあり、そこを含めて保護の対象となっているのが印象的だった。

以上、様々な団体の話を聞くことができたが、政府と国軍の立ち位置や全体的な進捗度合についてなど今回の訪問では確認できなかった項目もある。
4.現地渡航を踏まえた渡航後の考察と問いに対する検討
今回、和平合意締結から約8年が経過したコロンビアを訪問した。過渡期にある同国の試行錯誤しながらも着実に前進している姿を窺い知れた。渡航前には見られなかった点として、平和構築におけるコロンビアの強みについて述べた。
政府機関、国際機関、市民のそれぞれが和平合意の実現に尽力していることがわかった。なかでも市民の取り組みの多さが印象的だった。例えば、元戦闘員が自身の再統合に取り組むCOTEPAZや、紛争被害者が独自で作り上げた記憶と対話の館であるSalón del Nunca Más、個人レベルで地域コミュニティでの「対話」を推進するSandraさんなど枚挙に暇がない。また、壁画は有名なメデジンのCOMUNA 13だけでなく、グアタペやボゴタでも見られた。半世紀以上の戦闘の歴史をアートに昇華することで、自分たちの心を癒したり、コミュニティの団結を図ったり、外部の人を惹きつけたりすることが目的だという。コロンビアの強みは、まさに市民が平和構築のアクターとして活躍している点にあるのではないだろうか。
こうした背景には、「Everyone is Victim」という共通の認識が存在していると感じられた。2016年に和平合意を締結したFARCは、もともと貧困に苦しむ農民によって結成された反政府組織であった。また、国軍やそれに追随する民兵、FARCには各組織厳しい上下関係があり、命令に従わなければならなかったり、個人の意思で脱退することが難しかったりするとのことだった。また、FARCと政府の半世紀にわたる対立は、力の誇示や報復の連鎖を生み出し、一般市民を含む多くの人々を深く傷つけたとうかがった。
そのような状況下で結ばれた和平合意は、長く渇望されていた平和への希望の光だったとうかがった。実際に訪問したSalón del Nunca Másでは、被害者家族から「被害者であることを強調して留まるのではなく、建設的な話し合いで前を向きたい」という言葉を、また元FARC戦闘員からは「苦しかった時代に戻りたくないという共通の意識で平和を目指している」という声を聞くことができた。かつて内戦の主体になってしまったコロンビアの市民は、こうして平和構築の主体となっていると考えられる。
現在は先住民族やアフロ系コロンビア人、難民を含めた包摂や他の反政府組織との和平を含めたPaz Total (完全な平和)が目指されている(12)。今後も、政府・国際機関・市民の三者が共に平和への歩みを進めていけることが期待される。
引用文献
- (1) United Nations Security Council. (2024). Protection of civilians in armed conflict. UNODC. Retrieved from https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n24/110/29/pdf/n2411029.pdf (Accessed on January 3, 2024).
- (2) United Nations. (2024). Colombia: Potential cocaine production increased by 53 per cent in 2023, according to new UNODC survey. UNODC. Retrieved from https://www.unodc.org/unodc/en/press/releases/2024/October/colombia_-potential-cocaine-production-increased-by-53-per-cent-in-2023--according-to-new-unodc-survey.html (Accessed on January 3, 2024).
- (3) United Nations. (2024). Despite prevailing violence, divisions across political spectrum, Colombia still model for conflict resolution, special representative tells Security Council. Meetings Coverage and Press Releases. Retrieved from https://press.un.org/en/2024/sc15656.doc.htm (Accessed on January 3, 2024).
- (4) United Nations. (2022). Situation of human rights in Colombia. Retrieved from https://documents.un.org/access.nsf/get?OpenAgent&DS=A/HRC/49/19&Lang=E (Accessed on January 3, 2024).
- (5) United Nations Development Programme. (2023). Briefing note for countries on the 2023 multidimensional poverty index. Retrieved from https://hdr.undp.org/sites/default/files/Country-Profiles/MPI/TCD.pdf (Accessed on January 3, 2024).
- (6) European Union Institute for Security Studies. (2021). Implementing the peace agreement in Colombia. Retrieved from https://www.iss.europa.eu/content/implementing-peace-agreement-colombia (Accessed on January 3, 2024).
- (7) United Nations. (2024). Briefing Security Council, President cites ‘territorial segregation, illicit economy’ for Colombia’s long-standing inability to achieve peace. Meetings Coverage and Press Releases. Retrieved from https://press.un.org/en/2024/sc15657.doc.htm (Accessed on January 3, 2024).
- (8) Rodeemos el Diálogo. (2022). The first step towards ‘total peace’ in Colombia. Retrieved from https://uk.rodeemoseldialogo.org/2022/11/the-first-step-towards-total-peace-in-colombia/ (Accessed on January 5, 2025).
- (9) 鈴木真代. (2024). コロンビアの元FARC構成員たちの社会復帰の現状. ヒューライツ大阪. Retrieved from https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2024/09/farc.html (最終閲覧日: 2025年1月5日).
- (10) 幡谷則子. (2017). コロンビアにおける和平プロセス:その背景と課題. 笹川平和財団. Retrieved from https://www.spf.org/apbi/news/i_170129.html (最終閲覧日: 2025年1月5日).
- (11) UNODC. (2022). Survey of territories affected by coca cultivation, 2021. UNODC. Retrieved from https://www.unodc.org/documents/EXECUTIVE_SUMMARY_19102022.pdf (Accessed on January 5, 2024).
- (12) UN News. (2024). ‘Historic progress’ for Colombia peace process – but challenges remain. Retrieved from https://news.un.org/en/story/2024/10/1155761 (Accessed on January 5, 2024).