カンボジア・スタディ・プログラム - 第2章第1節「渡航前事前勉強会」
第2章:渡航前事前勉強会
本プログラムでは渡航前に、カンボジアでジェノサイドが起こった原因、国連PKOと日本の貢献、人身取引をめぐる現状と国際的取組、農村開発とMDGsのテーマで4回にわたる勉強会を実施しました。本勉強会では、東京と関西に会場を設けた上で、世界各国に散らばる参加者とはビデオチャット機能を持つGoogle+ハングアウトで回線を繋ぎリアルタイムで開催しました。また、各勉強会には専門の講師をお招きし、東京・大阪会場では終了後に講師及び参加者を含めた交流会も実施しました。以下各勉強会での勉強会概要と質疑応答、参加者の声を掲載致します。
第1節:第1回勉強会
テーマ:「ジェノサイドと紛争後の正義、クメール・ルージュ特別法廷」
実施状況
第1回事前勉強会は、2012年9月29日(土)14時~17時の日程で、25名の参加者が①カンボジアで大虐殺が起きた原因、②カンボジア特別法廷の果たす役割と残された課題・取り組みについて勉強し、参加者のうち2名がプレゼンテーションを発表しました。講師には、弁護士兼ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch: HRW)日本代表を務め難民問題などの国際的な人権問題に取り組む土井香苗さんをお招きしました。
勉強会議事録
カンボジアではポル・ポト政権が発足した1975年から1979年の間に総人口800万のうち実に200万人から300万人近くの人間が虐殺された前代未聞の大量虐殺の歴史がある。その背景には、国内の党派闘争の過激化したこと、ベトナム戦争の攻撃がカンボジア国内へ飛び火したこと、当時の共産主義の思想の広まりなど様々な要因が重なり合った結果とされている。
1979年ベトナム軍の進攻で崩壊した紛争後のカンボジアでは、包括的な政治解決に関する協定を定めるパリ和平協定が成立された。また、国際連合とカンボジアが協力し、新たな憲法と議会を創立し、新政権を発足させた。1993年正式にカンボジア王国の成立、その後ポル・ポト政権下での大虐殺等の重大な犯罪について、政権の上級指導者・責任者を裁くことを目的とした「カンボジア特別法廷(Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia:ECCC)」を設立。国連の関与の下、2006年7月に運営を開始した。ECCCは、①当事国の関与が強い、②二審制を採用、③30年経た後に開催、④裁く対象が明確という特色を持つ裁判所である。またECCCは、①正義、法の支配の実現、②カンボジア国民にとっての和解・融和の促進、③将来の司法制度に与えるモデル効果、④司法に対する一般国民の信頼強化、⑤国際刑事法の発展に関する貢献の役割を担っている。
2012年現在までに、5人の被告人が起訴され、うち1名の有罪判決が確定した。1名は認知症のため現在裁判が停止しており、その他の3名については裁判が現在も進行中である。しかし、同時に①関係者の高齢化、②被害者の訴訟参加、③言語の問題、④予算など今後の課題点も残されている。
質疑応答一部抜粋(Q: Question, A: Answer)
- Q1:ECCCを構成する外国人の裁判官はどういった国の人がいるのか?(東京会場参加者:田中さん)
- A:ECCCの裁判官には、日本人裁判官の野口氏がいる他、調べたところ、スリランカ、アメリカ、ポーランド、フランス、オーストリア、カナダ、オランダの国からの裁判官がいた。(発表者:木曽さん)
- Q2:ECCCではなぜ二審制が採られたのか?(東京会場参加者:花村さん)
- A:多くの国で三審制が採られている理由は、被告人の人権保障のため、裁判をより慎重に行う必要性を考慮したものと理解しているが、ECCCで二審制が採られた理由は、時間の経過とともに証人・証拠が失われていくので、早期の裁判を進める必要があった点と、人権保障の観点との妥協の結果ではないかと思われる。(発表者:木曽さん)
- Q3:ECCCについて、カンボジア国民はどの程度の興味・理解があるのか?(東京会場参加者:松崎さん)
- A:確かなデータはないので認知度がどれほどかは正確にはわからないが、認知度を高める活動を行うNPOが存在する他、ラジオを利用した認知度向上の活動もみられる。(発表者:木曽さん)
- Q4:カンボジアの大虐殺では有識者が多数虐殺された。ECCCではカンボジア人の裁判官が外国人裁判官より多く17名いたが、どのような人がなったのか?また、東京裁判の裁判官は全て外国人で構成されていたが、なぜECCCでは裁判官が全て外国人にならなかったのか?(大阪会場参加者:岡見さん)
- A:大虐殺で知識人が多数虐殺された中カンボジア人の裁判官はどのような人が務めたのかという点については、大虐殺後、時間が経ち、その間日本などが司法整備の支援を行ったこともあり、ECCCが始まった頃には裁判官を務める有識者が育ったのではないかと思われる。ECCCのカンボジア人裁判官は、司法に携わる人の中で最も優秀な人が務めている。また、ECCCが東京裁判と違い、裁判官が全て外国人にならなかったのは、フンセン首相がもともとECCCに対し否定的な考えがあったため、国際判事だけで構成されることに抵抗があったから国際判事よりカンボジア人判事の人数の方が多いのではないか。(講師:土井さん)
参加いただいた講師の土井 香苗さんから
カンボジアで起きた重大な人権侵害は、被害者にとって大きなトラウマになっているので、ECCCの成立は非常に重要であった。ECCCが設立した時期は遅かったが、被害者としては、法の下の公正な裁きがされたことが一つの区切りになったと思う。全てのリーダーが、自分の身を守るために法律を破っていいか、人道に対する罪を犯していいかを考えるとき、自分が裁きにかけられることが秤にかけられる世界が来ることは最低限必要だと思う。人権というとテクニカルな話が多く、法学を専攻していない人にとっては馴染みにくい内容だと思うが、カンボジアで起きたような人権侵害が将来にわたり起こらないようにするためにも、重要な分野であるので、前向きに考えてほしい。ECCCの運営資金最大拠出国は日本であるが、内容的な貢献はまだ十分できていないと思う。今後、法律の分野に進む人は積極的に活躍されることを切に願う。
参加者の声:小林 真由美さん
私は、第1回勉強会のマネージメント全般を担当し、プレゼンテーターと一緒に、プレゼンテーションの事前準備をする他、当日の司会進行を担当しました。第1回勉強会のテーマは、「ジェノサイドと紛争後の正義」という難しいものだったので、参加者にも事前の予習が求められ、個人的には、講師である土井さんから紹介された、Human Rights Watchの報告書等を読んで、勉強会に臨みました。勉強会では、2人のプレゼンテーションと土井さんの講評を受けて、ポル・ポト政権下でどのようにしてジェノサイドが起き、その後いかなる対処がとられたのか、とりわけカンボジア特別法廷の取り組みについて学びました。かなり専門的な内容でしたが、土井さんがポル・ポト政権下の出来事を国際的な時代背景と一緒に解説してくれたので、よく理解できたと思います。