ヨルダン・スタディ・プログラム - 「4.1. ヨルダン概要」

【地理】

面積は8.9万平方キロメートル(日本の約4分の1)で1、北海道とほぼ同じ大きさである。東西南北をイラク、サウジアラビア、シリア、イスラエル、パレスチナといった域内の強国や紛争当事国・地域に囲まれているが、ヨルダン国内の治安は安定しており、中東地域の平和と安定において、ヨルダンは重要な役割を果たしている2。

【歴史】

ヨルダンの正式名称はヨルダン・ハシェミット王国で、イスラム教の開祖ムハンマドの子孫であるハーシム家を王家とする、立憲君主制の国家である。この地域は長くオスマン帝国の一部であったが、第1次世界大戦の後にトランス・ヨルダン王国としてイギリスの委任統治下に置かれ、第2次世界大戦後の1946年に独立を果たした3。独立後のヨルダンの歴史は、中東地域における絶え間ない紛争と、それに伴い発生した難民の問題と切り離して考えることは出来ない。1948年のイスラエル建国を機に勃発した第一次中東戦争と、1967年の第三次中東戦争により、約82万人45のパレスチナ難民がヨルダンに流入し6、1990年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争、2011年から続くシリア内戦の影響による難民も含め、UNRWAに登録されているパレスチナ難民は約200万人7、UNHCRに登録されている難民は約77万人に上る8。そのため、国内的には、どのように難民に必要な保護を与えつつもヨルダン国民の不満を解消し共存を計るか、そして対外的には、いかに周辺諸国の支援を受けつつも国家としての主体性を保つかが長年の政治課題である。

【経済】

1990年〜2004年の期間、ヨルダン政府が国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)と協調して進めてきた経済構造改革プログラムを通じたマクロ経済・財政運営面での改革等により、平均で7%を超える高い成長を実現していた。しかし、2008年の世界金融危機が発生して以来、経済成長は伸び悩んでいるうえ、2011年以降はアラブの春、シリア内戦、ISISの跋扈等により、重要な収入源である観光産業が大きな打撃を受けている。更に、過去10年間、物価は上昇し続けており、人々の生活は苦しい9。

これらのヨルダン経済の低迷は、都市・地方間の所得格差、高い水準で推移する貧困率・失業率、慢性的な財政ギャップなどの構造的な問題をも悪化させている10。さらに、資源が採れないことから依然として資金援助を外国に頼っているほか、地域の治安情勢、外国からの短期的な資本流入の動向等に左右されやすい脆弱性がある。

これに輪をかけるように、ヨルダン政府はシリア難民流入に伴う財政危機に苦しむ。2011年3月以降、65万人以上のシリア難民を受け入れたことにより、教育、保健医療、給水、廃棄物処理などの公共サービスは逼迫している11。さらに、社会保障サービスへのアクセスの競争激化は、ヨルダン国民の不満を高める要因になっている。低迷した経済状況のため、ヨルダン政府は、アラブ諸国や欧州諸国への財政的な依存傾向を高めている12。

【文化】

国民の大半がアラブ人であるヨルダンの公用語はアラビア語で、イスラーム教を国教としている。古代都市でもあった首都アンマンでは、降雨が少なく高温低湿な気候に適応した石造りの伝統的な建物と近現代的な高層ビルが入り混じり、魅力的なコントラストを生み出している。他にも古代文明の痕跡が多く残っており、ユネスコ世界遺産にも登録されているペトラ遺跡は有名な観光地である。

[1] 外務省、https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000214580.pdf, accessed on 21 December 2019.

[2] JICA, https://www.jica.go.jp/jordan/office/others/situation.html, accessed on 21 December 2019.

[3] JICA, https://www.jica.go.jp/jordan/office/others/situation.html, accessed on 21 December 2019.

[4] UNRWA, https://www.unic.or.jp/files/print_archive/pdf/world_conference/world_conference_6.pdf, accessed on 4 January 2020.

[5] 今井静(2009)、https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/kias/1st_period/contents/pdf/kb3_1/27imai.pdf, accessed on 4 January 2020.

[6] CCP Japan, https://ccp-ngo.jp/palestine/refgees-information/, accessed on 22 December 2019.

[7] UNRWA,https://www.unrwa.org/where-we-work/jordan, accessed on 13 January 2020.

[8] UNHCR, https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/69826.pdf, accessed on 13 January 2020.

[9] CEIC, https://www.ceicdata.com/ja/indicator/jordan/consumer-price-index-cpi-growth, accessed on 11 January 2020.

[10] 2018年時点で、労働者全体に対する失業率は18.4%、そのうち15歳から19歳では47.7%、20歳から24歳では37.6%と、若年層における高失業率が顕著である。JICA, https://www.jica.go.jp/jordan/office/others/situation.html, accessed on 11 January 2020.

[11] 外務省、https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/jordan/data.html#section4, accessed on 11 January 2020.

[12] 2019年5月時点で、ヨルダンの対外債務は400億ドルを超えている。中東調査会、https://www.meij.or.jp/kawara/2019_029.html, accessed on 11 January 2020.