ヨルダン・スタディ・プログラム - 「8.まとめ:アドバイザリーより」

8.1. 黒田和秀さん

先ず初めに参加者の皆さんにエールを送りたいと思います。皆さんは、お仕事や学業に専念なさっているのに加え、プログラムへ献身してきた姿には、脱帽致します。今回のプログラムは、開発課題だけに関わらず常に世界情勢のなかでも目を離せない中東地域に注目し、その中でも常に安定性を確保し続けたヨルダンを選択したことは大変意義がありました。参加者にとって素晴らしい研究・経験の機会となりました。このプログラムの企画者にお礼を申し上げます。渡航後も報告書作成・報告会の用意・実施、それに加えSNSでの情報交換と活動が続いています。違った分野から、また、南米・アフリカ・ヨーロッパ・東南アジアからも集まった皆さんが一体となって一つの目的の達成のために向かって活動できる行動は社会開発学では「社会資産」と言われ、日本人にとっては当たり前にように思われやすいですが、開発には欠かせない要因です。この枠を越えた貴重なネットワークはプログラムが終了後も活かされていくと思います。

私は国連に勤務中の、29年前に起こった第一次湾岸戦争の際にクウェート・イラクから流出した難民支援のためにヨルダンに派遣されました。それ以後、訪問する機会はなかったのですが、今回の渡航で、当時と比べ、何が変わったか、変わらなかったについて思案することができ、意味深い経験となりました。もちろん、予想通り、首都アンマンは高層ビルが建ち並び、ショッピングモールもあり、想像を絶する近代都市と変貌しました。と同時に、29年前に訪れたアズラックキャンプは未だに運営されており、今も何十万人のシリア難民がフェンス内での生活を余儀なくされていました。もっとも、キャンプ内はちょっとした街といった様子で、サービスが充実しており、政府・国連・NGOなどの支援努力がうかがわれました。

では、この現実は何故起こっているのかと、私を含め誰もが疑問に思うと思います。投資を基にインフラ基盤が改善される中、地域情勢・政治・社会環境の慣性の要因は今でも存在しているように思われます。また、身近な事例をあげますと、前に交通事故を目撃しましたが、多くの車がスピードを出して走っている様子は以前と変わっておりません。気になって現地の知人に聞くと、驚く答えが戻ってきました。それは、やはり、男らしさのなかで現在では限られてきたマッチョではないかと?ヨルダンの運転習慣はこの地域ではベストと付け加えていました。

結論としましては、ヨルダンに対する外面的進捗は評価されますが、同時に行動修正等が望ましいのではないだろうか、持続可能な開発がより効果よく達成されるためには、更なる努力が必要なのではないかということです。また、未だに先行きが見えない中東の地域情勢は、今後、どのくらい続くかと不安を募りながらも、これからもヨルダン・中東情勢を辿っていこうと決意した次第です。

最後に、渡航中に多くのヨルダン人の方々からとても親切にして頂きました。ヨルダンという国が厳しい立場にありながら、これだけ多くの難民を受け入れている姿は、世界の模範となっていると確信しました。現地でお世話になった多くの国際機関・NGO・日本大使館の方々のご足労をねぎらい、心より感謝を致します

8.2. 吉村美紀さん

2019年のヨルダン・スタディ・プログラムもいよいよ大詰めとなってきました。事前準備を経て大変充実した内容となった現地プログラムを無事終え、現在は報告書作成と報告会の実施が進んでいます。まずは参加者のみなさんをねぎらい、本プログラムの実施に協力してくださった多くの方々に感謝を述べたいと思います。

例年4月に選考が行われ、5月にキックオフするこのプログラムですが、様々なバックグラウンドを持つ参加者が、それぞれの特性を活かしながら、自らの殻を破り、チームの一員としてリーダーシップを発揮していく姿に毎回感動させられます。「みんなで作る」スタディ・プログラムの実施プロセスを通して、一人ひとりが相互協調やチームワーク、コミュニケーション能力を高め、リーダーシップが着実に醸成されていきます。最初は知らない者同士の数十人のチームが見事に連携し、プログラムを作り上げていくプロセスは、企業の人材育成プログラムにそのまま適用できるのではないかと思うほどの完成度です。実際このプログラムの「卒業生」の中には国連やNGOなど国際協力の最前線で活躍する人も出てきましたし、みなさんそれぞれの分野で邁進しています。

ヨルダンと難民問題をテーマに据えた今回のプログラムは、特に人の移動とアイデンティティについて深く考える機会となりました。その中で参加者のみなさんは「国際協力・人道支援のあり方」という非常に根源的な問いにぶつかりました。難民問題の長期化から、一時的な場所として捉えられるはずの難民キャンプに長期滞在せざるを得ない人たちの状況に戸惑い、そもそも誰のための支援なのか、そして出口はどこにあるのか、と必死に考える姿が印象的でした。これらの問いに対する答えは一つではありません。そしてこのプログラムの重要なところは、迷い、戸惑い、混乱しながらも、物事を多面的に捉える視点を獲得することであると私は考えています。

それはつまりミクロとマクロ、そして短期、中期、長期的な視座を組み合わせた視点を持つということです。当事者のニーズに即した支援を考えるときは、限りなく「ミクロ」な視座が必要ですが、その支援がコミュニティに、そして地域全体にどのような影響を及ぼすのかということを考えるときは、「マクロ」な視座を駆使しなければなりません。また、今そこで起きている問題を解決しようとするとき、その解決策がどのようにしたらそのコミュニティの発展に寄与し、さらには地域全体の持続的安定につながるのかということにも気を配らなければなりません。これは「人道・開発・平和のネクサス」という言葉に集約されますが、このプログラムを通して、参加者のみなさんはいつのまにか人道支援の調整、資金調達、そして提供方法に影響を及ぼすこの体系に直接触れる経験をされたと言えるでしょう。このような多層的な視点を持ち、行動することで、私たち一ひとりが世界の課題解決に貢献する人になっていくのだと思います。

10年目となる国連フォーラムのスタディ・プログラムを通して得た大切な友情に感謝し、参加者のみなさんがそれぞれの分野で羽ばたかれることを願ってやみません。