ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第2部 第2章 第4節 公開勉強会 セーブ・ザ・チルドレン:塩畑真理子氏」
執筆者:小野 好之
公開勉強会の狙い
最先端の議論ができる場である国連フォーラムと東大KOMEX(Komaba Organization for Educational Excellence、教養教育高度化機構)の共催勉強会という形式で、公開勉強会を実施した。外部の第一線で活動している専門家の方を講師としてお招きすることで、議論の深掘りを行うことが狙いである。
外部講師のみならず、ネパール人留学生や一般参加の方、過去のスタディプログラム参加者にも参加していただき、様々な視点から議論を行った。
塩畑氏の所属とプロフィール
塩畑真理子氏は、アジア、アフリカで教育開発事業に従事し、2011年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。現在は東京本部で教育マネージャーを務めている。 セーブ・ザ・チルドレンはイギルスに本部を置く約100年の歴史を持つ子供支援を行う国際NGOである。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは1986年に設立され、国内外で活動を行っている。
講演内容
塩畑氏は2011年から3年間、ネパール駐在員として子供たちの基礎教育支援に取り組まれた。報道だけではわからない現場の様子が語られた。 MDGsを掲げた活動の成果として、世界的に初等教育への就学率は大きく上がっている。ところが中途退学者は増加している。また基礎学力が思ったようについていない。質をともなわないまま教育がビジネス化されているケースも見られる。SDGsの中では、すべての子どもが適切でかつ有効な学習成果が得られる、質の高い初等・中等教育を修了出来るようにすることが求められる。今後は、単に教育資金を提供するだけでなく、教育現場に入り込んで質を上げる支援活動が重要になる。
ディスカッション
ネパールからの留学生から、塩畑氏の述べた発展途上国における教育の実態はネパールにもよく当てはまるという意見が述べられた。ネパールではSLCという修了認定試験がある。その功罪についての議論が行われた。教育成果を判定する指標なのだが、子供達を選別するという面も持っている。ネパールではSLCがその後の進学や就職に大きな意味を持っている。近年は受験競争が過熱している。教育の格差は、所得の格差に直結しており、格差の固定化が懸念される。経済成長が生み出す負の側面である「取り残された子供達」への対策が必要である。選別のための教育ではなく、「学ぶ楽しさ」と「社会生活能力の習得」という基本に立ち返ることも重要だという認識に至った。
参加者のコメント
塩畑氏の現場経験に基づく見解と、学力テストの具体的な事例紹介は非常に説得力があり、報道やレポートでは得られない気づきが多く得られた。教育においては、マクロな数字で理解するのではなく、一人一人の立場と個性に向き合うことが重要であることが理解できた。
ネパール訪問に先立って、今回の講演とそれに基づいて一歩踏み込んだ議論ができたことはとても有益であった。学校の現場にも足を運び実際に目で見ることが重要になる。