ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第2部 第2章 第4節 公開勉強会 You Me Nepal:シャラド・ライ氏」

執筆者:小野 好之

公開勉強会の狙い

最先端の議論ができる場である国連フォーラムと東大KOMEX(Komaba Organization for Educational Excellence、教養教育高度化機構)の共催勉強会という形式で、公開勉強会を実施した。外部の第一線で活動している専門家の方を講師としてお招きすることで、議論の深掘りを行うことが狙いである。

外部講師のみならず、ネパール人留学生や一般参加の方、過去のスタディプログラム参加者にも参加していただき、様々な視点から議論を行った。

ライ氏の所属とプロフィール

シャラド・ライ氏は、現在、日本に在住し大手通信サービス会社に勤務している。ネパール東部山岳地帯のコタン群の出身。10歳で国費奨学金を受給しカトマンズの学校で学び、東京大学に留学した。ネパールの学校建設のボランティア団体「YouMe School」の代表を務め、現在、2校目の学校の建設をすすめている。

講演内容

自身の体験から、ネパールの農村部の一般的な学校の実態が語られた。教師のモチベーションは低く、遅刻や農作業による欠勤が普通に行われ、ひどいケースでは酒に酔って教壇に立つこともあるという。カーストによる差別も残っており、行ける学校に差がある。低カーストの子供だけが掃除をさせられるということもある。また低カーストゆえに経済的理由で子供を学校に行かせられないということも少なくない。学校を卒業しても国内に仕事がなく、中東などに出稼ぎに行っている同級生が沢山いるという。ライ氏は高等教育それも日本での大学教育を受けることで、違った人生を歩むことができた。教育の重要性を身にしみて感じており、教育を受けた自分が、学校作りで恩返しをしたいという気持ちから活動に取り組んでいるとのこと。現在はIT産業を担う人材を育成するための学校を建設中である。

ディスカッション

教育の質が低い原因についての議論では、「最も大きいのは政治の欠如と政府の怠慢だ」とライ氏から回答があった。教育に限らず、ネパールの政治は未熟であり、権力闘争に明け暮れ政治的混乱が続いており、また役人による汚職も横行しているとのこと。一番弱い立場である子供、さらに低カーストの子供には、なかなか手が差し伸べられないのが実態のようである。ライ氏は日本の経済的な成功の背景には優れた教育システムがあると考えており、日本式教育の良い点は積極的に取り入れている。具体的には生徒による教室の清掃とカースト差別の撤廃、朝の挨拶。父兄に受け入れられるには時を要したが、今ではこの学校の良さとして受け入れられているとのことである。

参加者のコメント

ライ氏の率直な、時には辛辣な意見には、ネパールをよくしたいという熱意が現れていた。まだ20代という若さで、クラウドファンディングや大手企業からの支援金で資金を獲得し、2校の学校を建設する行動力は素晴らしいと思う。ネパールは、つい最近に民主憲法を制定し、歩み始めた若い国である。課題は山積だが、ライ氏のような熱い思いを持った若者がいればネパールの将来は明るいのではないかと感じさせられた。

写真①
写真②