ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第2部 第3章 第1節 日本赤十字社」

2016年11月21日

執筆担当者:木村仁美、小野好之

概要

赤十字国際委員会は国際人道法にもとづいて、戦争、内戦または国内騒乱の犠牲者に対し人道的支援を行っている。日本赤十字社はネパール地震発災直後からネパール赤十字社と協動して災害時緊急支援を行なった。国際赤十字・赤新月社連盟の緊急救援ツールである緊急救援ユニット(ERU)(あらかじめ訓練されたチーム、ロジスティクス体制)により発災より48時間以内に活動を開始した。現在は災害復興期を支えるプロジェクトを進めている。

主要な論点

赤十字概要

スイスの起業家アンリー・デュナンがイタリア統一戦争の激戦地で負傷者に遭遇し、兵士の救護に当たったのがはじまり。これが大きな運動となり、赤十字国際委員会(ICRC)が設立され、190カ国に赤十字社が広がっている。各国赤十字社の連合体である国際赤十字・赤新月社連盟は1919年に設立された。赤十字社は、ジュネーブ条約で定められた任務(mandate)に従い活動する非政府組織であるという点で、NGOや国連機関は一線を画す。赤十字は各国に自分の組織(赤十字社)を持つので迅速でダイナミックな活動ができるのが強みである。

赤十字の緊急対応ユニット (ERU、Emergency Response Unit)について

ERUは国際赤十字・赤新月社連盟の緊急救援ツールで、災害時の支援ツールとして各国赤十字社が平時から備えている。ERUは通信、水衛生、病院、基本的ヘルスケア、ロジスティクス、基地などの標準化されたユニットからなり、それぞれのユニットは担当国が決められている。ユニットの内容物や使用方法をスタッフは事前に訓練されている。発災後48~72時間以内に活動を開始し、1ヶ月は補給なしで活動を継続できるような体制を整えている。

ネパール地震時の対応

国際赤十字・赤新月社連盟は、発災後24時間以内にフィールドオフィスを設置し、パートナー(他国の赤十字社)の受けいれを開始した。まず被災状況をアセスメントし、カテゴリーA,B,Cに分類し最も被害の大きいカテゴリーAの14地域を活動地域とした。各国それぞれ特定の支援ユニット(ERU、Emergency Response Unit) を持ちこみ支援を開始した。UNICEFと調整して衛生、母子キット、子供キットなどの配布や緊急対応ユニットの設置などを緊急期(症状・徴候の発現が急激で、生命の危機状態にある時期)に行なった。日本赤十字社は緊急時、基礎保健(心理社会的支援を含む)を担当し、現在も復興支援として住宅再建や保健施設再建にかかる支援を継続中である。

赤十字社と他の国際機関の役割分担は国際機関間クラスターシステムを用いて行われた(注:国連のクラスターシステムに類似するが同一のものではない)。赤十字社はシェルターの設置や病院での医療提供を担当し、世界保健機関(WHO)は外国医療チームのコーディネートを担当した。国連人道問題調整事務所(OCHA)はコーディネート全体統括を、ネパール保健省は地域のアクターとクラスターの調整を担当した。

所感

赤十字が持っている強大なネットワークに圧倒された。ERUなど国際的な連携を活かした支援も行える一方で、各国赤十字社の持つボランティアの組織力や普段の活動で築いた信頼など地域に根ざしたネットワークを持つことで迅速かつ機動力に優れた支援を行っているという印象を受けた。