ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第2部 第3章 第11節 国際移住機関(IOM)」
2016年11月25日
執筆担当者:石井大河
概要
IOMは、世界的な人の移動(移住)の問題を専門に扱う唯一の国連機関。現在では世界人口の約7人に一人に当たる約10億人もの人々が、気候変動、自然災害、紛争及び経済的要因など様々な理由で国内及び国外へ移動していると推定される中、「正規のルートを通して、人としての権利と尊厳を保障する形で行われる人の移動は、移民と社会の双方に利益をもたらす」 という基本理念に基づき、移民個人への直接支援から関係国への技術支援、移住問題に関する地域協力の促進、移住に関する調査研究などを通じて、移住にまつわる課題に取り組んでいる。(参考:IOM駐日事務所ホームページ)
主要な論点
- 訪問都市の様子:現場には200人のスタッフが駐在。同都市は3,300年も昔に計画的に作られたと聞く歴史のある都市で7つの村がある。かつてはチベットにつながる道として栄えていた。
- 震災の被害状況:今回の震災の影響でもともと1200戸あった家の内、約800件が完全倒壊(犠牲者は192人、怪我人は600-700人)。人口は震災前の10,000人から5,000人まで減少。今も瓦礫が残ったままであり、瓦礫の回収率は10%程度とのこと。瓦礫回収が進まない理由としては活動可能な季節が限られていること(雨季は活動不可能)、資金不足によるものである。人口減少の原因は家屋の倒壊と埃(砂塵)による空気汚染の影響。
- 震災直後の様子:震災直後は幸いにも近場の農地で収穫された芋があったおかげで飢えを凌いだ。また、数週間後には韓国、日本、中東のメディアが主に米等の食糧物資を調達。更に個人(親戚、友人)などからの食糧支援があった。幸いにも水環境には困らなかったとのこと。
- その他外部からの支援
- UNICEFによる診療所施設の設置
- NGOによる衛生施設の設置
- マレーシア政府Ministry of Healthによる医薬品の提供
- 日本の自衛隊部隊、カナダ、トルコの軍隊によるレスキュー隊、カナダ軍による瓦礫撤去など。
- 建造物の再建に関して
- 現地スタッフは政府に対して家屋の新築補助費用として補助金支援を要請中。住民の多くが今まで同様の建築様式に拘っていることが多く、かつ観光地として外部からの訪問者を呼び込むべく、見た目は歴史的建造、中身は鉄筋コンクリート等の工夫が凝らされている(写真2参照)。
外部は今までの建造物様式を維持しつつも内側が鉄筋コンクリートで建設されている様子が分かる
予想補助金額はおよそ300,000-500,000 ネパール・ルピー(訪問時点のレートで、約30万円から50万円)。但し、これは25平米の間取りで1階分の建物が建築できるほどの費用である(今回視察した家の殆どが2-3階建て)。現在の内閣がここ数年で何度も変わるほど政府が安定しておらず、なかなか補助金の申請が通らないとのこと。また、申請にあたっては戸籍上その土地の所有権を有する者と申請者が異なる場合は家族であろうとも認められないことも一つの問題となっている。一方で、同都市は資金援助を得るためにUNESCOにもアプローチしている。実際に同都市から徒歩圏内にネパールで2番目に歴史の長い寺院がある。観光都市化をすることで資金援助を得るのが狙いとのこと。
- その他:
- お年寄り、障害者でも瓦礫撤去を手伝ってもらい復興支援に貢献してもらっている。
- 政府が道幅を広げるための施策を講じており、これにより元から存在していた建物を小さくする必要がある(実際にはそのような対応が出来ない)問題が生じている。現場と政府の連携の弱さが感じられる。
- IOMはリサイクル方法トレーニングに力を入れている。
- IOM事務所でのブリーフィング
- IOM側出席者: Paul Norton (Chief of mission)他3名
- 要約:
- IOM Nepalスタッフは約400人。震災プロジェクトでは包括的かつ多岐に亘るプロジェクトが動いている。現地職員はそれほど多くないようで現場よりも政府、国際機関、市、NGO等との連携に力を入れている。
- CCCM (Camp Coordination and Camp Management):CCCMはIOMがリードしているクラスターである。CCCMではIOMが216もの各政府機関、国内海外パートナーに対して現地のニーズを的確に把握する能力向上のトレーニングを実施している。
- DTM:災害時には信頼できる正確な情報を集めることが需要となることからも、DTM (Displacement Tracking Matrix)という移動した人口、場所、シェルター、水、衛生状況、健康、教育、安全状況を把握する統計ツールを使用。ただし、震災後は常に住民が移動していたこともあり、正確な移民統計は計算するのは難しい。
- IOM Nepalスタッフは約400人。震災プロジェクトでは包括的かつ多岐に亘るプロジェクトが動いている。現地職員はそれほど多くないようで現場よりも政府、国際機関、市、NGO等との連携に力を入れている。
質疑応答
Q. 震災直後の状況は?
A. 震災後の1週間は倒壊していない家屋に集まり、畑にあった芋で何とか凌いだ。その後、各国の軍隊/NGO等の支援団体が来てくれたおかげで瓦礫撤去や食料を、UNICEFが診療所施設を提供してくれた。
印象的な言葉
”住民の半分は震災後に色んな理由で出て行ってしまったよ。でも私はこの町が好きなので何とか復興したいんだ”
震災後は粉塵が舞いやすくなった、住居が無くなってしまった、仕事が無くなった等の理由で、半分近くの方が街を離れてしまったそう。そんな中、復興作業を続けているリーダーの一言。
所感
- 大震災が生じた際に皆で助け合ったこと、そして今は復興に向けて現地住民がリーダーシップを取って復興に向けた活動を行っていることに感銘を受けた。
- 一方で、本来は街の復興が大論点であるにも関わらず、訪問した都市が資金繰りの目的でUNESCOの登録を申請するなど、施策の方向性が若干ずれている感じもした。それは恐らく、政府からの補助金の目途が立たず、別ルート(国連、世銀、他国政府)からの資金繰りを検討しているからであろう。こうなってしまった原因は現場だけでなく、政府の対応の遅さや、政府が現場をきちんと把握しきれていないことに問題があるのではないかと思う。更に、政府の意思決定の遅さについては、ネパールが多民族国家である為、どの地域/部族に補助金を分配するかが決められない模様であった。