ネパール・スタディ・プログラム ー 報告書「第3部 第2章 第1節 第4項 危機管理」
執筆者:中原隆伸
班名:危機管理班
構成人数:4名
実施体制
紛争地で活動経験のあるメンバーが、その経験を生かしてリードをしながら、各自の時間と興味に基づいて他のメンバーが可能な限りで貢献を行った。なお、タスク量の兼ね合いの関係から、現地渡航が迫った10月1日に班として活動を始めた。
活動概要
実施月 | 活動概要 | 主要成果物 |
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9月以前 | 班としては活動せず (第四回勉強会の一環として、危機管理に関するプレゼンを行った) | プレゼンテーションpptファイル |
10月 | まずはチームリーダーより、危機管理の考えとして「Probability」と「Impact」の二つの側面からリスク事象を捉えることを説明。その後、ネパール渡航に際してどのようなリスクが存在するかをチーム全員で洗い出し、その予防策と対応策について話し合った。 | リスク事象マトリックス |
11月渡航含む | チーム全員で合意した予防策と対応策について、渡航メンバーにメール及び全員参加必須のハングアウトで説明を行った。渡航直前には在ネパール日本国大使館を副委員長と訪問し、最新の治安情報を入手するとともに緊急時の避難先について確認。また、現地の情勢に詳しいレンタカー会社職員から、地方での病院事情などについて聞いた。全体プログラム初日には全員に対してのブリーフィングを再度行った。 |
参考事案: 参加者の体調不良に対する対応
2チームに分かれての地方訪問中、参加者が一人体調不良になり、訪問地方先(Chautara郡)の病院に入院する事態となった。チームに同行していた危機管理班メンバー(国連フォーラム共同代表)が、レンタカー会社のネパール人職員と協働する形で、Chautara及び首都カトマンズでの入院の手配、その後の経過観察、首都カトマンズへの移動、保険会社との連絡等を行った。また、Chautaraチームのチームリーダー(副委員長)及び別の地方に訪問していた実行委員長他に状況を適宜共有した。
初期症状は嘔吐と下痢に伴う脱水症状、のちに腹痛。移動などによる疲れにより、一時的な疲労があった中、油っこい食べ物(マトン・ブリヤニやカレーなど)を食べたことで胃が拒否反応を起こした恐れがある。診断はウイルス性胃腸炎であった。
11月23日(地方滞在2日目)午前9時の時点では話すことも難しかった参加者だが、水分を補充することで徐々に回復し、同日午前11時には体を起こせるところまで回復した。24日には予定を繰り上げ、体調不良の参加者、危機管理班メンバー、レンタカー会社スタッフの3人でカトマンズ市内の病院に移動。診療の結果一晩入院となった。点滴などの効果もあり、25日朝には体調は完全に快復し、参加者は同日午前からプログラムに復帰した。
次年度への申し送り事項
良かった点 | ・ネパール大使館へ訪問したことで、最新情報の入手だけでなく、万が一何か連絡する必要が生じた際でもスムーズに連絡ができるような状態になったのではないか(先方がこちらの顔を知っているとそうでないとは、やはり違いがあると思う)。 ・ロジと危機管理は密接な関係にある。現地レンタカー会社の担当者に事前に情報収集をできたのは良かったし、今回は同社の現地スタッフ(日本語に堪能なネパール人)が地方にもついてきてくれたので、危機管理上も万全を期すことができた。 ・この分野は、やはり経験がものをいう部分が大きい。その点、危機管理面の経験が豊富な人材が二人現地渡航に参加し、地方滞在時に分かれたのは非常に重要だった。 ・リスク事象の洗い出しのみに2週間ほどかけ、予防策・対応策についても事前にしっかりとリサーチしたので、訪問時に想定していないリスクはほぼ存在せず、落ち着いてプログラムを楽しむことができたと思う。 ・現地について詳しいネパール人(現地人)のスタッフが実際に地方まで付いてきてくれたこと。病院の手配や、本来であればChautaraからカトマンズに引き返すはずの車をそのままChautaraに引き留めるなど、現地で柔軟な対応ができたのは、彼の助けが非常に大きかった。 ・また、本来当然すべきことではあるが、きちんと事前にカトマンズの病院を調べていたことで、カトマンズ市内でも信頼のおける病院で診療をしてもらうことができた。 |
改善点 | ・地方の病院に関するリサーチは結局あやふやになったと感じる。最終的にはレンタカー会社の職員がついてきてくれた上、危機管理にも大変経験豊富なメンバーがついていたので今回は問題がなかったが、大きな問題になり得たと思う。 ・食べ物に関する注意喚起が足りなかった。危機管理・保健班合同で作成したリスク管理マトリックスには「集団食中毒」が関連項目として含まれていたが、そこでの予防方針は「水道水を飲まない。信頼できる銘柄のペットボトル水を飲料する。生ものを口にしない。街角の屋台での飲食を控える。衛生的に信頼できるレストランにて食事をする。」となっており、調理用油、及び調理された食べ物に関しては言及されていない。今後の記述として、いわゆる「パキ腹」(調理油が合わないことに起因する体調悪化)に関する注意喚起も含めるべき。 ・胃腸炎においては、脱水が最も危惧される。また、食中毒は高頻度で起こるトラブルである。そのため、適切な水分摂取量と危険な脱水での身体所見について保険班でない人でもわかるように簡単にまとめ、有事の際にはすぐ使えるように準備しておくとよい。 ・病人が発生した場合の判断、また病院への付き添い等は一般的に大きな労力を要する。特にその責に当たるものは、病人本人と同様に、渡航中訪問するはずだったプロジェクト等を見ることができなくなる可能性が高く、それを厭わない人材を予め配置しておく必要がある。単に医療関係者や医学生だからといってその者をこの責に当たらせることは不公平になる可能性がある点に留意すべきである。一方で過去のスタディ・プログラム経験者、人道支援経験者等にとっては、病人発生時の危機管理そのものが「学び」となるのであり、プロジェクトを訪問する以上の価値が見いだせる可能性さえある。) |