パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:Rabaul Volcano Observatory(ラバウル火山観測所:RVO)」
1. 組織概要(事業目的、ゴール等)
1937年のラバウルのタブルブル火山の噴火を受け1940年に設立された、政府の鉱山省に属する火山観測所。1951年のラミントン火山の噴火後、パプアニューギニア内の他の火山も観測するようになった。(1)噴火の予測ならびに早期発見によって関係機関に迅速に情報提供するためにパプアニューギニアの火山を観察・研究すること(2)関係機関と協力しコミュニティの火山に対する危機意識を高めることを目的としている。
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
<ブリーフィング内容>
ラバウルだけでなくパプアニューギニア全土の火山が調査対象である。現在16の活火山が存在する。中でも非常に活動的な火山が6つあり、噴火すると周辺地域のインフラや農業に大きな影響をもたらす恐れがある。また、日本の観測技術がRVOにおいても利用されている。
<質疑応答>
1)他国からの支援について
――1人のイギリス人を除いて職員のほとんどはパプアニューギニア出身であるが、海外で学んだ経験がある職員が多い。独立行政法人国際協力機構(JICA)による訓練プログラムを通じて日本の大学で学んだ職員もいる。
2)火山の異常を観測した場合、どのように関係者に情報伝達するのか。
――RVOが属している政府の鉱山省に情報提供する。政府の災害庁から火山噴火の非常事態宣言を発表するが、政府機関同士の連携に時間を要する。また災害時に救出作業をする軍や警察の人員が不足しており、オーストラリアやニュージーランドからの援助に頼っている状態。
3)災害時に高齢者や障がい者はどう避難しているのか。
――高齢者や障がい者への政府による災害対策は充実していないが、家族やワントクといったコミュニティの結束が安全網として機能する。コミュニティの助け合いによって、1994年のラバウル火山の大規模な噴火による死者も5名、そのうち2名が障がい者だったが、多くの高齢者や障がい者は避難することができた。
3.参加者所感
パプアニューギニアの特徴の一つである家族やワントク等の地域社会の結束の強さが安全網として働き、災害時に取り残される人が少ないという点が、一人世帯の割合が多く他人との繋がりが希薄になりがちな日本と比べて興味深い。国際移住機関(IOM)も政府の災害庁と共に地域社会の伝統的な知見を利用した減災について調査しており(注1)、土着の文化や地域社会の結束を生かすことがパプアニューギニアの災害対策において重要だと感じた。
その一方でRVOや鉱山省、災害庁といった政府機関レベルの連携を強化し、地域社会に素早く情報提供できる仕組みづくりも重要であるとも感じた。また、RVOは2015年に国連国際防災戦略事務所(UNISDR)によって、地域社会の減災や減災への意識を高めるために活動的な機関に贈られる国連笹川防災賞の最終候補に挙げられたこともある(注2)。
(注1)IOM, Indigenous Knowledge For Disaster Risk Reduction: Documenting Community Practices in Papua New Guinea. https://environmentalmigration.iom.int/sites/default/files/PNG%20indigenous%20knowledge%20report%20print.pdf
(注2)UNISDR, https://www.wcdrr.org/sasakawa/nominees/3907, accessed on 27 October 2018.