パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:赤十字国際委員会」
赤十字国際委員会 ICRC:The International Committee of the Red Cross
集合写真
1.組織概要(事業目的、ゴール等)
1863年に、スイスの事業家であったアンリ・デュナンによって設立された。戦争や武力紛争およびその他暴力の伴う事態によって犠牲を強いられた人々に対して人道的保護と支援を行う、公平にして中立、かつ独立した機関。本部はスイスのジュネーブにあり、約80カ国以上で15,000人以上の職員が活動している。
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
2-1.ICRCの活動概要
<赤十字運動の3つの組織>
- National RC(各国の赤十字):主に自然災害の際の被災者の救済
- Federation(赤十字連盟):一国の赤十字で対応しきれない事態への対応
- ICRC(赤十字国際委員会):主に戦争や紛争、暴力に対する人道支援/紛争の際の各国赤十字社、国際赤十字連盟との連絡調整/各国赤十字社の支援
<ICRCの活動の3本柱>
Protection(保護)/ Assistance(支援)/ Prevention(防止)
Protection(保護)
- Q. 誰を?
- 紛争下における一般市民、傷病兵、捕虜など、弱い立場にある人々
- Q. どのように?
- 一般市民:全ての紛争当事者と対話し、市民を生命の危険から遠ざける。
- 捕虜:人としての尊厳や心身の健康が保たれ、少しでも良い状態に置かれるよう、訪問によって監視する。
- 行方不明者や離散家族:専門のチームが追跡、発見のための活動を行う。
Assistance(支援):経済的支援、緊急医療援助、安全な水の供給などにより、犠牲者の支援を行う。
Prevention(防止):紛争や暴力などの事態が起こるのを未然に防ぐため、各国における法整備状態の監視や、警察や更生施設における国際人道法などに関する啓蒙活動を行う。
<質疑応答>
1)同じ赤十字のファミリーにありながら、なぜICRCが各国の赤十字を「支援」するのか。各国のRCそのものを強化すればよいのではないか。
――各国のRC単体では、資金不足により、キャパシティ・ビルディングのための活動や災害時の対応が十分に行えない場合があり、FederationやICRCによる支援が必要となる。また、紛争時の人道支援などはICRCが対応に当たる。ただし、各国での活動における責任の所在はその国のRCにある。
2)紛争地域の住民が避難をしたがらない場合は、どのように対応するのか。
――避難を強制することは難しい。
3)公平性や、政治的中立性をどのように担保するのか。
――ICRCのスタッフは、国籍、人種、性別、宗教などで犠牲者を区別しない。そのため、スタッフはどのような相手でも人として助けるというプロ意識と信念をもって活動することが求められる。相手の情報は、メディアなど外部には漏らさない。
4)ICRCの予算は?
――財源は各国政府からの拠出金がほとんどで、決まった予算はない。その時に起きている紛争の状況などで金額は変動し、ここ数年は増加し続けているものの、資金は常に不足している。
2-2.PNGにおける活動と状況
<活動拠点>
Bougenville、Mt. Hagen、Port Moresbyの3つの拠点において活動を行っている。
<PNGにおける活動>
- 捕虜の訪問
- 離散家族の再会支援
- 安全な水や衛生・医療用品の供給
- 部族紛争地帯における、弱い立場にある人々の支援
- 法による支配の推進:警察、軍隊、更生施設、大学などに対する、国際人道法に関する啓蒙活動の実施
<地震に関して>
2月にハイランドで起きた地震により、地割れ、地滑り、建物やインフラの倒壊など、甚大な物的被害が発生し、PNGのRCと協力して被災者の救援にもあたっている。
<質疑応答>
5)犠牲者に対する心理的なケアはどのように行っているのか。
――トラウマに対するケアも重要だと考えており、ICRCの専門家が医療関係者に対する研修なども実施している。ただ、精神的な病が黒魔術によるものと信じられるような文化的背景や、DV、紛争による精神的被害の犠牲者はBougenvilleやMt. Hagenなどの遠隔地にいることが多く、PNGにおいてはPort Moresbyにしか施設がないことから、ケアは容易ではない。
6)ICRCのスタッフ自身の安全をどのように確保するのか。
――事前に紛争の当事者双方の代表者と交渉をし、ICRCの活動に対する理解を得て、安全性を確保した上で活動を開始する。
7)活動する地域をどのように選択するのか。選択基準は存在するのか。
――資金やスタッフの数に限りがあるため、活動地域を絞らざるを得ない。PNGにおいては、2007年より調査団が各地を訪問し、犠牲者の数、病院への距離などの観点から、最も必要性が高いと考えられる地域において活動を行なっている。
3.参加者所感
「赤十字」と聞けば誰もが知っている有名な機関だが、具体的にどのような活動をしているのか、また、その中に3つの組織があることや、そのうちの一つである今回訪問したICRCが行っているような活動については、”犠牲者の詳細を語らない”という方針がその理由の一つだと思われるが、これまで知ることがなかったため、大変勉強になった。
人道支援に焦点を当て、危険地域も含めて、現場に入り込んで弱い立場にある人々のために活動をしていることや、また、紛争に際しての人道支援のみならず、そのような事態を起こさないための啓蒙活動なども行なっているという説明に感銘を受けたと共に、活動の内容や、どのように紛争当事者との対話を行なっているのかなどについて、より詳しく知りたいと思った。
説明の中で、PNGで2月に発生した地震についての映像を見せていただいたが、人的被害は比較的少なかったものの、地割れ、インフラや建物の倒壊など、甚大な物的被害が発生した様子が映し出されていた。先進国でこの規模の地震が発生すれば、国際メディアにも大きく取り上げられそうだが、これほど大きな被害が発生していることは、海外にはあまり知られてないのではないだろうか(日本だけかもしれないが)。そのこと自体が、今の世界における格差を断片的に表しているようにも思われた。