パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:セトルメント」

セトルメント(8 Miles Mountain、Kone Mountain )

1.訪問プロジェクト概要

ポートモレスビーには200ほど「セトルメント」と呼ばれる主に低所得層が暮らすコミュニティがある。今回訪問したセトルメントは、どちらも元UN-Habitatの職員らが中心となって支援が行われている地域。Kone Mountainは、主にハイランド地域出身の人が集まってきており、ヨガとウォーキングにより居住者を支援するという特徴的なプログラムを持っている。

8 miles Settlement

人口は26,000人ほどで、3つの地域に分かれている。賃金を得る仕事に従事しているのは全体の30%ほど。元小学校教師だった女性がコミュニティリーダーを務めており、地域の運営は彼女およびボランティアのメンバーによって行われる。日本とのかかわりがあるセトルメントであり、日本のボランティア団体の受け入れや、World Cup開催時の日本女子サッカー選手の支援などを行った経緯がある。

Kone Mountain

Yoga & Walk for Life Tribesという理念を掲げており、運動などエネルギーを注ぎ込める活動をすることで、主に若者たちにやりがいをもたせ、ギャングなどの非行を防ぐというコンセプトのプロジェクト。主にハイランド周辺出身の住民が多い。

2.インタビュー

人々の出身地

さまざまな出身地の人が集まって暮らしている。セトルメントによっても違うが、たとえばKone Mountainの人たちは、ハイランド系の人たちが集まっているなど、ある程度出身地域が近辺の人たちがまとまっているところもある。

移住してきた理由

インタビューおよび報告書によれば、セトルメントへの居住理由は主に以下である。

  • 治安の不安(ハイランドなどでの民族闘争)
  • よりよい職を得るため
  • よりよい公共サービス(インフラなど)

居住場所への愛着

治安の悪い地域から来た人々は帰郷に抵抗のある人もいたが、やはり最低限の安全と生活が確保されるならば帰郷したいと考える人もいた。一方、一旦セトルメントにて共同生活を行えば、たとえ異なる地域の人々でも、「wantok(ワントク)」コミュニティのつながりのごとく、家族として接しているようである。

外部からの支援状況

本来であれば政府が資金、物資援助すべきであるが、政府の関心はAPECのためのインフラ整備など他の政策に向いてしまっており、ボランティア団体か国際機関が支援せざるを得ない状況である。都市ではエネルギー代金が高いため、途中で支払いが滞った場合は供給されなくなることもしばしばである。

教育へのアクセス

全般的によくない。以前は 8 miles Settlement 内に小学校があったが、土地所有権問題によって廃校となり、以降は学校はできていない。したがって、セトルメント外にある学校に通うこととなるが、学費は無料でも教材や制服にはお金がかかるため、中退する子供が多い。中流家庭の子息の場合は、高等教育(大学卒)まで進んで公務員として就職し、あくまでセトルメント内に家族のために家を新築する場合もある。

ジェンダー

ポートモレスビーでは、全般としては男系社会かつ女性軽視の傾向があるのではという仮説を立てたが、実際はラバウル周辺では女系社会が継承されていたり地域差がある。セトルメントの場合は女性のエンパワーメントに力を入れており、男女の格差は縮まってきている。

3.参加者所感

多くのメンバー間で共通の学びであったのは、セトルメント=貧困層のスラム、というわけでは必ずしもなく、内部でも格差が存在し、下層でなくてもセトルメントに住居を構え、セトルメント外との交流を持っている場合もあるということである。

渡航前の知識としては、地方では同じ言語を話すコミュニティが生活基盤として機能しているが、近年急速に都市への移住が広まったことで都市には異なる出身の住民が遍在することとなり、結果職にありつけず、セーフティネットから見放された人が増え、ひいては治安の悪化につながっているというものがあった。しかし、ワントクというのは同じ言語や部族のみにとどまらず、パプアニューギニア人の文化として古来から根付いており、都市、セトルメントにおいても効果を発揮していることに感銘を受けた。

一方、今後学びたいこととして、地方から都市へと出てきて、NGO等による支援のあるセトルメントに身を落ち着ける人と、コミュニティに属すことができずラスカルとなる人たちの間の根本的な差は何なのか、ということである。