パプアニューギニア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:教育省」
教育省(Department of Education)
1.組織概要(事業目的、ゴール等)
パプアニューギニア(PNG)の政府組織の一つ。主に、政策&総合サービス、教授&教育スタンダード、技術教育・職業訓練教育/ユネスコという3つの組織(図1参照)により成り立っており、就学率と教育の質の改善を目標に問題の対策に取り組んでいる。
今回は教授&教育スタンダード副次官配下のカリキュラム開発局についての説明を受けた。 カリキュラム開発局では、JICA協力のもと、理数科教育を中心として教育の質の改善に取り組んでおり、テレビ授業の導入、新教育制度への移行に伴うカリキュラムの策定等を行っている。
図:教育省組織図(概要)
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
PNGの教育と課題
1)教育制度の移行について
旧教育制度から新教育制度に移行。それに伴い、学校数の増加、基礎教育期間の変更(6年→9年)、Elementary schoolの無償化等を実施した。アクセス向上による生徒数の増加には寄与したものの、教員の負担の増加や教材の不足、教員研修の不足によって教育の質が低下した。
2)教育の質改善の取り組みと更なる課題
オーストラリア支援のもとカリキュラム変更を実施。自給自足生活を送る国民に向け、学習内容をアカデミックなものから実生活で必要なものへと変更。新たに、成果主義教育(Outcome Based Education: OBE)が導入された。しかし、カリキュラム改定により教師の負担が更に増加した上、親や教師の反対によりOBEは廃止される。
3)新カリキュラム導入(2014年~)
OBE廃止に伴い、基準達成カリキュラム(Standard Based Curriculum: SBC)を導入。教育省が学習達成基準を設定し、その達成を目標として学習を行う。カリキュラム開発局のリソース不足や研修体制の不備などの課題はあるものの、シラバスや教員ガイド策定等は既に完了しており、本格的な実施に向けて動いている。
PNGの教育に対する日本の支援
1)遠隔教育PJ ※PJ=プロジェクト
アクセス向上、教員研修機会の提供のために遠隔教育PJを発足。2001年に国立教育メディアセンターを設立し、以来15年間遠隔教育を支援。2015年には日本政府による遠隔教育支援の技術移転が完了し、理数科教科書開発支援へと移行。(QUIS-ME PJ, 2016年~)
2)EQUITV Phase1 PJ(2005~2008年)
テレビ内教師と現地の教師の2人体制での授業。モデル学校を設立し、モデル教員にJICAから教育方法を伝授。その後、モデル学校での授業をテレビ放映する。地方教員にはガイドブックを渡し、事前準備を行ってから授業に臨める体制を確立。併せて、使用する教科書の改善も行っている。テレビ放映の為の各種設備は学校側用意となるものの、上記施策により数々の成果が生まれている。
※成果例:教師の教科知識向上・成績向上・出席率向上、生徒のモチベーション向上・ジェンダーに対する価値観の変化・成績向上、学校環境の向上、各コミュニティでの学校への支援増加など
質疑応答
<教育制度・内容について>
1)政府として画一化して教育を行うのか、それとも部族(ワントク)を維持するのか。
――学校で文化祭を開催し、伝統の踊りを皆で覚える機会がある一方、教育における使用言語は英語に統一しようという動きもある。文化を守ろうという意識はあるが、言語などを保持し続けるのは難しい。
2)障がい者教育・道徳教育はどうしているのか。
――障がい者への教育はあまり浸透していないが、一部教会が提供している。道徳教育も、クリスチャン教育が代わりを担っている。
3)環境教育は実施しているのか。また、環境教育によって住民が過剰な開発に対して声を上げるような動きはみられるのか。
――以前、3~5年生向けに環境教育を実施していた。現在は高学年から環境教育を取り入れようと検討している。また、環境教育によって、住民から森林伐採などの活動に対して反対の声が上がることはある。
4)公用語が英語だが教師・生徒の英語能力はどの程度か。
――PNGにおける教師の英語能力は低い。生徒も英語が読めないのでテスト時に教師が音読することもある。言語については現場の教師とやりとりしながら決めている。
<EQUITV PJについて>
1)各学校はテレビ教育による月々の費用をどう補っているか。
――機材は教育省と州が出しており、ジェネレーターは学校側が購入する。学校は現在無償化されている為、学校が購入、維持するための予算についてはSLIP(School Learning Improvement Plan: 学校学習改善計画)に基づき配分される。しかし、予算が支払われないことも多く、学校側はファンドレイジング等を行い自分たちで予算を捻出する事が多い。
2)電気がないところへのリーチはどうするのか。
――ほとんどの学校に電気がないので、学校や州が電気を通すよう啓発している。テレビ教育は電気があることが前提で進むが、電気の整備は各学校、各州に任せる。
3)コンテンツ作成にあたって考慮していることはあるか。
――コンテンツ制作の際には、日本の専門家が入って作成し、実際に現場の教師たちと改善していくのでPNGに適した内容を作成している。
<その他>
1)教育へのモチベーションを高めるには、社会に出たあとの進路があることもモチベーションの一つになると思う。そこをどのように作っているのか
――大学を出ても仕事に就けない人がおり、若者に閉塞感があるのは事実。だが、液化天然ガス(LNG)により新しい雇用も生まれている。また、留学制度等を活用し海外で学習することも多く、高学歴も多くいる。
2)PNGの人口は30%しかフォーマルセクターに属しておらず、その他の人々は税金を払っていない。教育というサービスが用意されているにも関わらず、税金支払いの義務がないのはどう考えているのか。
――買い物の税金が10パーセントなので、それで少し補っている。ナショナルアイデンティティカード(マイナンバー)の準備をしているので、将来税金をきちんと捕捉するためのシステム確立に向けた準備があるのではないかと思う。
3.参加者所感
多数の島で構成されているPNGにとって、 ある一定の質を担保した教育をすべての地域で行うには、言語の壁や一定の教員数の確保等、多くの課題がある事を改めて認識した。多様性の維持と画一的な教育の提供を両立しなければならない状況の中で、遠隔教育を用いた教育省の取り組みは、今後のPNG国民の更なる就学率改善、教育の質改善に大きく寄与すると実感した。説明の中で特に印象的だったのは、遠隔教育を通して地方の生徒の価値観に対してもアプローチをしている点だ。モデル校の生徒たちが男女一緒に授業を受けている様子をテレビで放映することで、男尊女卑の価値観が残る地域の生徒たちのジェンダー観を変えることができているとのお話があった。地元コミュニティ以外の繋がりが少ない遠隔地の生徒にとって、テレビ教育は単に彼らに学術的知識を提供するだけでなく、モチベーションや価値観など内面へもアプローチができる素晴らしい手法なのだと感銘を受けた。
一方で、就職口が少なく、勉強をしてもその後のキャリアを描けない生徒が多いことは、モチベーションの維持に対する大きな課題だと思った。今後は国内外の企業と連携しつつ、教育を受けた後のキャリア形成についても長期的視点で改革に取り組む必要があるのではと感じた。
説明を受けた後、私たちは実際に学校へ訪問し、教師間での教育方法のレクチャー現場を視察することができた。そこでは、教師が自分たちで理科の実験を行い、指導内容の理解、指導方法の確認を行っていた。指導ガイドブックにびっしりと書かれた教師のメモを見ると、この国の教育改善は決して教育省やJICAだけが取り組んでいるものではなく、国民全体として熱意をもっているものだと実感することができる貴重な体験となった。