スリランカ・スタディ・プログラム - 報告書「第2部 第3章 第2節 第7項 経済金融・第8項 開発」

第7項 経済・金融

  • 訪問日:2015/09/10
  • 訪問機関:世界銀行
  • 訪問目的:スリランカにおける事業内容の説明

訪問先事業概要

世界銀行グループは、スリランカにおいて、1954年に最初の事業を開始し、2015年までに167の数の事業を実施してきた。世界銀行、国際開発協会(International Development Association: IDA)、国際金融公社(International Finance Corporation: IFC)の3つの世界銀行グループがスリランカには存在し、交通、エネルギー、住居など多分野の事業に携わっている 。
World Bank(Sri Lanka), http://www.worldbank.org/en/country/srilanka, accessed on 22 Oct 2015.

スリランカ事務所における主要論点

  • 世界銀行の融資および投資戦略は、常にスリランカ国家が定めた経済政策に沿う形で進められ、政権交代があるとその度に世界銀行の融資および投資戦略も見直される。
  • 国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)やアジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)とは案件が被らないよう、密にコミュニケーションを取りつつ、それぞれの組織が強みとして担っている点を活かすという形で案件の棲み分けを行っている。
  • 世界銀行は融資を行うだけではなく、論文発表を通した専門知識の共有等も行っており、その範囲は開発支援以外の他分野にまで及ぶ。

主な議論内容・質疑応答内容

  • Q. 融資の戦略策定はどのようにしているのか? 
    • A. 国別パートナーシップ戦略(Country Partnership Strategy: CPS)という国家の経済政策と合致した戦略を策定し、政府と合意している。例えば新政府は前政府よりも海外直接投資に重点をおいた政策になったため、訪問時は新しいCPSを作成している段階であった。これまでの5年間の案件を金額別に見ると、都市住居関連事業への貸出が33%と一番高い(添付写真参照)。
  • Q. 他の開発機関(JICAやADBなど)とどのように事業を棲み分けているのか? 
    • A. 相互の強みを活かせる案件を担当できるよう他の機関と調整することで、事業の重複が起こらないよう努力している。例えば、世界銀行はリハビリテーションが得意、JICAはインフラ設備が得意といった違いが存在する。
  • Q. 官僚のプロジェクト管理能力をどのように向上させようとしているか?
    • A. 融資以外にも、論文の共有を通して、世界銀行によって行われた各国での活動から得られた学びを、政府へ共有する活動を実施している。また、実際の融資も政府に主体性をできるだけ持ってもらうため、ある程度の監査体制を保ちつつも、基本的には現地政府の官僚が事業を牽引するという形をとっている。
写真①スリランカにおける直近5年間の、プロジェクト分野別の貸出割合

参加者の所感

多分野にわたって包括的に国の成長のための貸借を行う、いわゆる「世界銀行」の業務内容は、戦略的でかつ、とてもインパクトが大きく魅力的でした。また、発表者の方がとても頭の回転の速い聡明な方で、ビジネスパーソンである私はとても感銘を受けました。最後に「世銀で活躍するための秘訣は何ですか」という質問をしたのですが、その際の答えである「Keep being a student with learning attitude」という言葉が大変記憶に残っています。多くの分野を取り扱う世銀だからこそ、高い知的好奇心と、学ぶ意識を維持し続けることが高いパフォーマンスを出すために大切なのかと思います。

  • 訪問日:2015/09/11
  • 訪問機関:アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)
  • 訪問目的:スリランカにおける事業内容の説明
写真②ADBスリランカ事務所にて

訪問先事業概要

ADBは、1966年の設立以来、アジアの貧困撲滅に貢献している。スリランカでは、2014年末までに197の融資案件(69.1億米ドル)、グラント案件(3億5900万米ドル)、技術協力案件(1億2778万米ドル)を実施。主たる産業分野は、エネルギー、交通インフラ、上下水道、教育・トレーニング、金融などがあり、これらの整備に貢献している。

スリランカ事務所における主要論点

  • ADBの融資は、ADBのCorporate Strategy(Strategy2020)および、スリランカ国の経済政策に沿う形で進められている(Sri Lanka Country Partnership Strategy (CPS) 2012-2016)。
  • スリランカにおけるADBのOperational Strategyは、以下3つの柱に基づいている。
    • (1) 包括的かつ持続的な経済成長(Inclusive and Sustainable Economic Growth)
    • (2) 民間投資の呼び込みと公的投資の効率性の向上(Catalyzing Private Investment and Enhancing the Effectiveness of Public Investment) 
    • (3) 人的資源および知識の開発(Human Resource and Knowledge Development)

主な議論内容・質疑応答内容

  • Q. 世界銀行や国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)など、他機関とのすみわけはどのように行っているのか?
    • A. ADBはスリランカにおいて、大型インフラ案件を幅広くサポートしている。政府が大型インフラ案件を組成する際は、各機関とも声がかかることが多いが、最終的には政府がどの機関の融資などを受け入れるかを決めている。
  • Q. エコノミストの活動内容について
    • A. スリランカの経済分析を行なっている。ADBでは、各地方に拠点を置く方針を採っているため、エコノミストも、本社マニラではなくスリランカに駐在している。政府関係者と日々顔を突き合わせて打合せができ、活動を行ないやすい。
  • Q. ADBのプロジェクトにおける、日本企業の契約率について
    • A. 日本企業の契約率は非常に低い。日本企業は高い技術力がある一方で、他国と比較して価格が高い傾向にあり、この点が要因の一つと考えられる。日本企業の入札への積極的な参加を期待している。

参加者の所感

訪問時間が90分と非常に短い時間であったにもかかわらず、ADBのスリランカにおける活動を知ることができ、非常に有意義な訪問であった。加えて、担当いただいた林様/宮尾様ともにプロフェッショナルとして豊富な知識と多様な経験をつまれており、民間企業の観点から開発実務に携わる者として、刺激を受けた。

第8項 開発

  • 訪問日:2015/09/11
  • 訪問機関:国連開発計画 (United Nations Development Programme : UNDP)
  • 訪問目的:スリランカにおける事業内容の説明

訪問先事業概要

UNDPは、170以上の国および地域に現地事務所を置いて活動しており、貧困削減、不平等および社会的排除を削減するために活動している。スリランカ事務所では、政府や市民社会、民間セクターと協力しながら、貧困削減、民主的な統治の確立、危機の予防と回復、環境持続可能性などについて取り組んでいる 。(UNDP, http://www.lk.undp.org/content/srilanka/en/home.html, accessed on 30 October 2015)

スリランカ事務所における主要論点

  • UNDPはスリランカに存在する国連7機関に加え、その他の国連機関とも連携・協力を行っている。
  • 国連全体の方針に基づいて、UNDPは活動計画(Country Program)を策定している。
  • UNDPスリランカは、特にエンパワーメントと社会的包摂のためのガバナンス(Governance for Empowerment and Social Inclusion)および環境持続可能性と防災(Environmental Sustainability and Disaster Resilience)に注力している。
写真③UNDPスリランカ事務所にて

主な議論内容・質疑応答内容

  1. 調整機能に関して、国連機関が様々な事業地にて様々な関与をしているが、調整が難しい点はあるか、という質問に対し、UNDPは、同機関が国連常駐調整官(Residential Coordinator)の役割を請け負っているものの、各機関間の調整を執り行うというよりは、共に働く(co-work)という要素が強いという点を強調していた。
  2. 国連開発援助枠組み (United Nations Development Assistance Framework: UNDAF) の4つの柱に基づいて、UNDPは活動計画(Country Program)を策定している。UNDPスリランカは、特に3つ目の柱である「ガバナンス、人権、ジェンダー平等、包括的で保護された社会」と、4つ目の柱である「持続可能な環境、気候変動と災害リスク軽減」に焦点を当てている。
  3. エンパワーメントと社会的包摂のためのガバナンスにおいては、地域経済開発のためのガバナンス強化、正義と社会的包摂のための司法アクセスの強化や政策形成に対する支援が行われている。環境持続可能性と防災においては、主に生態系維持と保護、気候変動に対する低炭素社会への改善や災害リスク軽減の3つの目的のため、関連省庁と協力した事業が行われている。

参加者の所感

UNDPを訪問し、政策面から環境、国連ボランティアと幅広い分野で事業を行っていることに改めて驚いた。他の国連機関との連携・協力を行う調整役としてのイメージのあったUNDPであったが、調整役としてではなく、共に働くということを強調していたのが印象的であった。また、事務所を訪れた際には、トップである国事務所長をはじめ、多くのUNDP関係者に温かくもてなしていただき、大変嬉しかった。

  • 訪問日:2015/09/11
  • 訪問機関:国際協力機構 (Japan International Cooperation Agency : JICA)
  • 訪問目的:スリランカにおける事業内容の説明

訪問先事業概要

JICAは、日本の政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を実施している。特にスリランカ事務所では、下記3点に重点を置いている。

  • (1)成長のための経済基盤整備(インフラ整備)
  • (2)農村地域の社会経済環境改善(農業地域の生産性向上)
  • (3)脆弱性軽減のための社会基盤整備(洪水、津波、台風などに対する対策を含む)

スリランカ事務所における主要論点

  • JICAが今後の活動方針を決めるにあたって、スリランカ政府との連携(政策会議)が、重要であることを認識した。
  • JICAの強みである技術支援を、特に今後発生するであろう様々な課題に対し、広げていくということへの期待を感じた 。
  • プロジェクト検討に向けて、スリランカの特性を理解することが重要であることを認識した。(例:インド洋の地理的要素、スリランカ人の器用さ など)
写真④JICAスリランカ事務所にて

主な議論内容・質疑応答内容

  1. スリランカへの投資の現状
    • 東南アジア諸国連合(Association of South‐East Asian Nations: ASEAN)諸国と比較し、日本企業の海外直接投資の対GDP比は低い(1.36%)
    • 政権が安定しないことが投資の妨げとなっている
  2. スリランカ投資の魅力と課題・リスク
    • スリランカに進出している日系企業は120社
    • スリランカ投資の魅力は、英語を話せる人材が多く、教育水準が高い点、手先が器用である点、および人件費を安く抑えることができる点にある
    • 一方で、課題は政府の政策運営が不透明である点(例:突然の計画停電)および、政府が製造業よりもサービス業を重視しているという点にある
  3. 主な質疑応答内容
    • Q. 旧政権において製造業よりもサービス業を成長させたいということだったが、JICAも今後はサービス業に特化した支援を実施するのか
      • A. 製造業を活性化させたいと考えているため、今後は専門性をもった人材を育成していきたい。そのため、教育を重視し、それに関連する支援を実施する予定である。
    • Q. スリランカ政府が進める平和構築とJICAの紛争予防について、どのように整合をとっているのか
      • A. 昔からJICAの強みは「人づくり」を大切にした技術支援であった。今後、平和構築を含め、様々な観点で課題に対して対策を考えたい。
    • Q. スリランカとJICAは、今後どのように関わっていくのか
      • A. 新政権が現在検討している政策にもよるところがあるが、インド洋の地理的要素を生かすことで、スリランカ市場をより魅力的にできるのではと想定している。スリランカの課題については、スリランカ政府・外務省と政策会議を実施して解決策を検討している。また、他ドナーと連携し、日本が優先的に対応できる内容についても検討している。

参加者の所感

JICAのプロジェクト進行にあたり、国の政策との摺り合せをもとに進めることから、被受益国の政策の重要性を認識した。また、政府関係者や他国際機関との密な連携によって、各国への援助がより円滑に進むことを再認識した。特に、他国際機関とのすみ分けは、援助を重複なく効率的に進めるにあたり、肝要であるといえる。 スリランカにおいては、アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)に日本人がいるため、比較的、他機関の情報連携が円滑という点から、日本人の国際機関への従事を促進することで、より多くの日本人が国際機関で活躍できるようになるのでは、と感じた。