国際機関と保健政策
〜実践、教育と研究の場から〜
「国際仕事人に聞く」第9回では、東京大学大学院医学系研究科、国際保健政策教室の教授でいらっしゃる渋谷健司氏にお話をうかがいました。渋谷教授はこれまで、医師、教授としてご活躍されたほか、昨秋までは世界保健機関(WHO)で保健政策エビデンス、及び保健の統計と評価のコーディネーターとしてお仕事をされていらっしゃいました。今回は、保健政策における国際機関の連携、実践と教育の場から見た保健政策、グローバル・ヘルスの概念などについてお話いただきました。国連フォーラム幹事及びコーディネーターの田瀬和夫(OCHA)が聞きました。(2009年7月23日。於東京)
田瀬:まず、渋谷さんが現在、一番関心を持っているテーマについて教えて下さい。
渋谷:グローバル・ヘルスの概念とその適応というものをあらためて考えています。グローバル・へルスはパブリック・ヘルス(公衆衛生)とインターナショナル・ヘルス(国際保健)から派生しました。公衆衛生は国内の問題が主な課題となっていて、ここでは厚労省や国内政策の研究者が大きな役割を果たしてきました。一方、国際保健は途上国を中心とした国外の問題を対象としています。ここは伝統的に外務省や独立行政法人国際協力機構(JICA)等の政府機関やNGOが取り組んできました。
渋谷健司(しぶや けんじ) 東京大学医学部医学科卒、米国ハーバード大学にて博士号取得、スイスIMD上級エグゼクティブコース終了。東京大学医学部付属病院と帝京大学医学部付属病院に医師として勤務し、米国ハーバード大学人口・開発研究センターでリサーチ・フェローとして在籍の後、帝京大学医学部講師となる。2001年からは世界保健機関(WHO)で保健政策エビデンス、及び保健の統計と評価のコーディネーターとして勤務。2008年より現職。 |
従来はこのように、国内向け、国外向けと、課題もアクターも分かれていました。しかし、今ではインフルエンザ、生活習慣病、高齢化、そして医療制度などの問題は日本だけでなく、途上国も含めた国内外共通の課題です。例えば、発展途上国でも疾病構造の転換が進みすでに40%くらいの人が循環器疾患、がんや糖尿病などの慢性病で死亡していますし、母子保健で言えば、日本でのはしかのワクチンの接種率はアフリカより低い60%という統計もあり、WHOの西太平洋地域の加盟国の中では、はしか対策が最も遅れている国のひとつです。このように、これまで国内外と分けられてきた二つに共通の世界的課題に取り組むのがグローバル・ヘルスという分野です。今までは特に、国内医療研究者や地域の臨床家がしっかりとした公衆衛生の研究を進めていた反面、国際保健政策に直結する部分は政府機関やNGOが担っていながらも学術研究やイニチアチブを出していくことには弱く、なかなかこの二者が結び付いていませんでした。ですから、グローバル・ヘルスという新しい概念のもと、公衆衛生の部分にも国際保健の部分にも共通の課題として取り組み、また、これまでのアクターである学者や政府機関、NGOに加え、各種研究機関や民間セクター、もちろん国内で活躍している臨床家やいろいろな才能を持った方にも参画してもらいたいと思っています。学術機関などが中心になりながら戦略を出し、双方が一緒に働ける枠組みと、考案した戦略を外に発信していく方法を考えつくり上げていきたいと考えています。日本は官民協調でオールジャパンで対応しないとグローバル・ヘルスを含めた国際分野での貢献はとても難しいと痛感しています。ただ、そのためのプラットフォームが今まであまり無かったと思います。
田瀬:やはり、フレームワークを変えようとすることに対する反発は予想されますか。
“自分たちの問題と海外の問題が共通していると考えた方が理解は広がる。” |
渋谷:それはありますね。新しいグローバル・ヘルスのような概念が入ってくると、そして、新しいスキームを入れようとすると自然に今までのやり方に慣れた集団から反発は出てくるものだと思います。ただ、それはどこでもそうではないでしょうか。従来のやり方で国際保健のみを見ると、どれだけ海外でのエイズ、マラリア、結核が大事ですと言っても、やはり日本の納税者の理解は得づらいものです。むしろ、自分たちの切実な問題と海外の問題がある程度共通していると考えた方が理解は広がりますし、保健医療問題こそは政治信条や思想を越えて多くの人に共通にする案件なのではないでしょうか。実際、国内保健医療の再建は我が国の世論の切実な訴えです。政府開発援助(ODA)に関しても、日本の経済悪化に伴いODAを減らすべきだという議論が多く国民の理解が得られていません。しかし、本来はODAほど日本の国益になる道具はないはずです。もちろん効果的かつ効率的に使えばですが。実際に、新型インフルエンザのような世界流行する病気や高齢化、そして効果的な保健介入をスケールアップしいかに末端の人々まで行き渡らせるか、そのための財源や人材の配置などは国内外共通の医療問題です。
田瀬:では、具体的にどのような戦略を考えていますか?
渋谷:制度自体を変えるのはなかなか難しいので、官民が集まる非公式の会合(トラック2)をつくって、そこで議論するようなものを考えています。実際、洞爺湖G8のフォローアップ(「国際保健の課題と日本の貢献」研究・対話プロジェクト) (※語句説明1)以降そのような仕組みができつつあるような気がします。しかし、ただ話し合うだけでなく、権威のある医学雑誌、たとえばThe Lancet (※語句説明2)のようなところに戦略や政策をきちんと英文の文章として発表するべきです。私はThe Lancetの編集長とは親しいのですが、実際、2012年ごろに日本特集号を出そうという話もあります。ここに掲載されると非常に幅広い読者に読まれ引用され、グローバル・ヘルスに関わる人のみならず、広範囲の人々に影響を与えることができます。それによって、我が国のグローバル・ヘルスにおけるポジションについての権威付けができるのではないかと考えています。それをある意味外圧的に使い国内変革のテコにすることはできないかと考えています。
この日本特集号を進めるにあたって、三つのポイントを重視しています。まず、一つ目に内容が国内と国外に共通点を見出せるような話にしたい。二つ目に、専門家と政策決定者が一緒に活動できる場にしたい。そして三つ目に、若手の優秀な研究者が自分の名前で発表し、実績を挙げられるような場にしたいということです。すばらしい考えや論文を書いている若い世代の研究者に機会を与え、花開くように後押ししてあげたいですね。そういう若い世代が集まって、将来の日本の保健分野でのビジョンをThe Lancetの特集号で発表し、一般の方も読めるような形で本にまとめ、国内向けにグローバル・ヘルスの考えを広めていきたいと思っています。このような知的貢献もきわめて重要な国際貢献であるということも示したいのです。当然ですが、学者のお遊びで終わってはいけません。
田瀬:最近、「国際保健の課題と日本の貢献」研究会が出した報告書の中で、「保健情報分野での協調に向けて」(※語句説明3)という論文を書かれていますね。渋谷さんはどのような問題意識でこの論文を書かれたのですか?
田瀬和夫(たせ かずお) |
渋谷:この論文を執筆するにあたっては、三つの動機がありました。まず、第一に私が世界保健機関(WHO)にいたとき担当していたモニタリングや評価(※語句説明4)の仕事の結果を文章として残したいという思いでした。二つ目に、WHOではいろいろなモニタリングや評価を行っていますが、他の機関と重複するところや改善すべきところがあったので、それぞれの業務をどのように将来改革していくべきかというのを示したいとも思っていました。また、今は説明責任と成果主義の時代なので、途上国に効率的に支援を行うにはどのようにモニタリングや評価を行うのか、またどのようにそれぞれの機関の特色を活かしながら、活動していくべきなのかということを伝えたかったのもあります。それから三つ目は、日本はかなりグローバル・ヘルスの潮流に遅れているので、昨年北海道の洞爺湖で開催されたG8サミットの冠を使って国内に問題提起をしたかったということです。日本の政策やビジョンを海外に向けて、きちんとした文章で示したかったという意向もありました。日本ではお金がないと援助は困難だと思われていますが、今の時代は、色々なアイディアを出し、多くの人々を巻き込んで影響を与え、大きな潮流をつくることは経済援助と同じくらい大事だと思います。そういう意味では、この論文の発表によって、ほんの少しだけその流れをつくれたのでは、と感じています。
田瀬:その北海道洞爺湖サミットの後の国内での反応はどうでしたか?
渋谷:国内でのマインドセットはすぐに変わるわけではないのですが、日本は独自の道を進んでいるというか、残念ながらグローバル・ヘルスの潮流から遅れているので、モニタリングや評価への意識が高くありません。例えば、日本は途上国の現場で顔の見える援助というのを大事にしていて、それはそれで大切ですが、実際にはどういう効果があり、どういう教訓が得られたのか、何が本当に有効であったのか、というある程度定量的な話がないと、やはり国際社会を説得する材料には乏しいと思います。私たちが現地の人と汗をかくことは良いことなのですが、多国間のパートナーシップの時代にはそれだけでは人は説得できません。その結果をしっかり文章にして発表し、人を納得させ説明していく必要があると思います。日本が保健分野に経済援助をし、国際貢献を果たしているのなら、それをはっきりとみんなが分かるような形で見せていくべきだと思います。
田瀬:今回の新型インフルエンザの世界的な流行や感染症の分野などで、しばしば国際機関の間でうまく連携がとれていないといった批判(※語句説明5)が聞かれますが、この点についてどのように思われますか?
“人々に影響を与え、大きな潮流をつくることは経済援助と同じくらい大事。” |
渋谷:80年代には、保健分野の国際機関はWHO、国連児童基金(UNICEF)、それに 国連人口基金(UNFPA) の3つが主流で、疫病対策などを中心に行っていました。しかし、今では高齢化の問題や、ワクチンに関する知的所有権(※語句説明6)といった問題もあります。そういう意味では、健康問題は外交問題でもあり、経済・貿易問題でもあります。非常に複合的な領域なので、これら3つの機関だけでは解消できません。また、ゲイツ財団、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)、GAVIアライアンス(旧称「ワクチンと予防接種のための世界同盟」)のように機動力と資金もある新興勢力も出てきて、保健分野はH8(※語句説明7)がしのぎを削っています。例えばIHP+(※語句説明8)のように一つの枠組みをつくって、囲い込みをして協調していくのは大切かも知れませんが、一つの枠組みが支配し独占的になってしまう危険性もはらんでいます。そうなると、競争がなくなり、汚職や非効率性のもとにもなりかねません。また、こういった枠組みをつくると、総論だけが出てきて、実際にモニタリングや評価、人材育成など細部を誰がどうすればいいかという話になかなかなりません。そこで重要なのは、やはり取捨選択し、焦点を定めるということで、それぞれの機関が本来の責任を果たすということだと思います。WHOはある程度技術的なことで、UNICEFはオペレーション的なところに強みがあると思います。しかし、実際には同じ世帯調査を別々の機関がそれぞれやっていたり、評価についても同じものをいくつも重複して作っていたりなど、それぞれの機関が重複して仕事をしていることが多くあります。それなら、その国で一つしっかりとしたシステム設計をして戦略を立てた方がいいと思います。
田瀬:私もモニタリングと評価は最も重要だと思います。日本は特にそこにお金が使われていない気がしますが、どのように思われますか?
渋谷:日本はこれまで保健ODAの評価において、定性的な議論やプロセスについてのレポートがほとんどで、アウトカムを重視した評価基準にもとづいて数値を用いて評価する定量的な議論はほとんどありませんでした。日本ではどうしても、定量的な議論は欧米的だと否定的に見られることも多くありましたが、民間部門では昔からやっていることです。国民の税金を使っている限り、それが何に使われているかしっかり評価し、無駄な部分を減らしていく必要があります。ODAを減らすべきという議論よりは、しっかり無駄を減らして援助の説明責任を果たしていくべきではないでしょうか。これまでの日本の援助は高評価を得ているものも多くあると思いますが、しっかりとした評価の基準に基づいて、効果の思わしくないものは見直すという勇気も必要で、それがモニタリングと評価の重要な基本原則だと思います。また、今までのようにプロジェクトベースの細かな案件を多数やることとも大切ですが、スケールアップの時代には選択と集中を行い効果的に少数のイニチアチブに投入できるようにしていくことも必要かと思います。
田瀬:国際機関から大学に移られて、実践と教育・研究の場から見て、保健政策の違いは感じますか?また、ご自身の視点に変化はありましたか?
“海外でルール作りに参画できるような人材を毎年育成していきたい。” |
渋谷:私自身は学者と官僚は両立しうると思っているので、あまり違いは感じませんでした。課題を定め、仮説を立て実証し、実施に下ろしていくという方法はどこでも必要なスキルではないでしょうか。私の場合、ある程度政策に直結する研究を行っているので、実証的にものごとを解決していくという視点を大切にしています。もちろん、このような視点は官僚にも欠かせないものですし、研究者も政策に役立つ研究をしたいのなら、こうした視点は不可欠です。良い研究者は良い役人や政策決定者になれる可能性は比較的高いと思います。我が国の大学はもともと政治と関わるのに否定的ですが、政策を分析して政策提言をするには、政治は避けて通れないものだと思います。また、学生にも、自分の行った研究結果を実際に政策として当てはめるなら、どのようなことができるか常に考えなさいと言っています。研究者として政策を考える場合でも、この施策が正しいとしたらどのように実証すればいいか、その施策の効果を最大限活かすにはどうすればいいか、といった実践的な視点が大切です。私自身も博士課程の時にこうした視点を徹底的に仕込まれましたが、必ずこうした視点は将来役に立つと思います。
田瀬:今後、国際社会で活躍できる人材に育成していくために、どういったことが必要になるでしょうか?
渋谷:日本の若手の研究者や学生にも良い人材はいるのですが、そうした若い人に場数を踏ませたり積極的に 登用したりする良いシステムがないので、機会を見つけては応援してあげたいです。国際会議での発言やファシリテートの仕方などは外科医が手術の数をこなして成長していくように、若いうちから修羅場をくぐらせることも大切だと思いますし、コアスキルを習得させたら後は自分の市場価値を高める努力をさせるしかないでしょう。 また、いまだに公衆衛生学修士(MPH)をとれば国際保健機関で働けると思っている若い方が多いようですが、MPHは実際は応募してくるほとんどの人が持っているので、やはり良いポストを狙うにはさらに即戦力になる職歴あるいは博士号が必要になってくると思います。国連にはこのような人材を育てたりキャリアアップをするシステムがあまり存在しないので、例えばJPOやAPOで頑張った方がその次のポストに行く時に、 私の教室に来ていただき働きながら博士号を取得していただいたりすることも可能です。また、学部卒業後の若い人や一線を退いた人を 登用するシステムはありますが、 学歴も知識も経験もあって即戦力になれる30代前半から半ばくらいの中堅を国際機関に送り込むシステムがわが国にはあまりありません。日本の雇用体系ではこうした人材を国際機関などに引っ張ってくるのは難しいかもしれませんが、30代半ばでも積極的に動ける人はいると思うので、特に民間部門で即戦力になる人材向けの教育コースを提供できればいいと考えています。これからはエグゼクティブ教育はビジネスのみならずいろいろな分野で大事になると思います。
田瀬:日本人が国際機関の場で活躍するにあたって、必要な素養や足りないと思う部分はありますか?
渋谷:国際社会の場でルール決定をできるような人が日本には少ないと思います。ルールをつくりだすようなトレーニングもあまりなされていませんし、深い専門性を持ちながら、複合的なことができるジェネラリストがまだ少ないと思います。それから、ある一か所で通用するスキームに長けて外部で全く通用しない人材が育ちやすいシステムがあります。しかしこれはそう遠くないうちに変わるのではないかと思います。公衆衛生でも、それ以外の専門分野でも、例えば、疫学はできるけれども医療政策はやりません・できません、というのではなくて、数量的分析も政策分析もできる人材が必要とされています。これにはかなり教育やトレーニングの問題が大きく関わってきます。今後は日本でも、国際社会でのルールづくりに関われるような専門性を持ったジェネラリストを育てていく必要があると考えています。特に大学院での高等教育の役割が極めて重要ですし、そのような経験を積んだ人材が教える立場にいないとなかなか従来の教育の壁を打ち破ることはできません。
田瀬:国際機関、研究・教育など様々な分野で活躍されてきた渋谷先生ですが、これからご自身がやりたい仕事はどういったことですか?
渋谷:まずは、将来海外に行って英語で発言ができてルール作りに参画できるような人材を毎年1人か2人は育成していきたいと思っています。これを5年続ければ、H8の各機関に一人はそのような人材がいることになります。そして、このような人材も増え研究業績も安定すれば、私の役割も一段落付くと思います。そうしたら、次のステップとして、いま大学で考えていることを実践の場でもう一度試してみたいと考えています。国連にこだわらず、国際機関やそのパートナーシップでもいいのですが、一度大学を出て、自分の研究してきたことを実践してみたいのです。もちろん、それからまた大学に戻ってもいいですし、アメリカのように研究と実践の場を行ったり来たりできる、そうしたキャリアパスもあるということを示すことができればいいですね。そういう意味では若い人の模範になるような存在になり、大局的なビジョンを示しつつ、それを政策として実践していきたいです。
【語句説明】
1. 洞爺湖G8のフォローアップ(「国際保健の課題と日本の貢献」研究・対話プロジェクト)
洞爺湖サミット開催を受け、「国際保健の課題と日本の貢献」研究・対話プロジェクトが行った議論・提案など一連の取り組み。同プロジェクトは財団法人 日本国際交流センター(JCIE)の事業の一貫として、2008年の洞爺湖サミットを機に国際保健の分野で日本が貢献すべき道を探るべく組織された。この実施主体である武見敬三主査を中心とした研究会(通称:武見研究会)では、国際保健分野の課題について議論・提案を行い、国際社会における関心を高めた。2008年11月には「G8北海道洞爺湖サミット・フォローアップ」と題した国際会議を東京にて開催。世界保健機関等の国際機関幹部を始め、国内外より計150名の国際保健分野の研究者・実務家が参加し、本プロジェクトの目的でもある「人間の安全保障」の理念に根ざした貢献を中心として、様々な提案がなされた。この会議で発表された論文等は提言としてまとめられ、日本政府、そして2009年のサミット開催国であるイタリア政府に提出された。
参考:The Lancetに掲載された同提言書(Michael R. Reich, Keizo Takemi. "G8 and Strengthening of Health Systems: Follow-Up to the Toyako Summit." The Lancet 2008; published online January 15. DOI:10.1016/S0140-6736(08)61899-1) http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2808%2961899-1/fulltext (英語)
2. The Lancet
ロンドンとニューヨークに拠点を置く英語の医学雑誌、「ザ・ランセット」。1823年から発行が続いており、最も名高く、権威ある医学雑誌の一つ。医学全般に取り組むThe Lancet以外に、The Lancet Infectious Diseases (感染病学)、 The Lancet Neurology (神経学)、The Lancet Oncology (癌・腫瘍学)がある。エルセヴィエ社発行。
参考:http://www.thelancet.com/ (英語)
3. 「保健分野での協調にむけて」(渋谷健司著)
「国際保健の課題と日本の貢献」研究会が2009年に発行した報告書、「G8 北海道洞爺湖サミット・フォローアップ 保健システム強化に向けたグローバル・アクション G8への提言」中の論文。本稿では、昨今のグローバル・ヘルスに対する注目の高まりを背景として、今後の拠出資金増額と参画者の拡大が期待されるため、学習と説明責任の遂行に必要な、量・質共に優れた情報の収集システム構築に向けた提言がなされている。特にモニタリングと評価は今後の保健分野の発展にとって必須事項だが、それに関係するデータが量・質共に貧弱であることが指摘される。このような情報に関する現状と課題を概観した上で、確固とした証拠を示すために必要なデータの収集システム構築に向け、G8が担う役割について述べられている。
参考:http://www.jcie.org/japan/j/pdf/gt/cgh-jc/20090116teigen_j.pdf (日本語)
4. WHOによるモニタリングや評価
WHOは、その事業の一部として、医療・保健に関する統計を常に収集し、グローバル・ヘルスの査定と評価を行っている。特定の病や健康に関する問題に焦点をあてて各国の進捗を測った上で、毎年World Health Reportとして発行している。国際機関や各国政府の今後の政策、また、ドナーの拠出資金などの参考となることを目的としている。
参考:http://www.who.int/whr/en/index.html (英語)
5. 国際機関の連携が取れていないという批判
国際機関、特に国連は、その16の専門機関の間で様々な分野における重複があるにもかかわらず、互いに協力できておらず、非効率的である、という批判。2006年には、コフィ・アナン前国連事務総長の指揮のもと、特に開発、人道支援と環境における国連機関の連携の強化のため、High-level Panel on System-Wide Coherenceと呼ばれるパネル・ディスカッションを開催された。結果として、翌年より、Delivering as One (One UN) と呼ばれる国連全体の改革が始まった。
参考:http://www.un.org/events/panel/ (英語)
6. ワクチンの知的所有権
研究開発の特許により、アメリカやヨーロッパなどの先進国でつくられたワクチンの値段が上昇し、開発国での使用が困難になるという問題。ワクチンの普及が大きな課題である一方で、製薬生産過程が今後複雑になるにつれ、知的所有権保護は更に重要になると考えられている。
参考:http://www.who.int/intellectualproperty/events/vaccines_meeting/en/ (英語)
7. H8
“Health 8”の略で、保健に取り組む8つの国際機関による、2年に1度の非公式な会議。2007年発足。WHO、UNICEF、UNFPA、世界銀行、国連エイズ合同計画(UNAIDS)、GAVIアライアンス、ゲイツ財団、そして世界基金が参加。世界の保健の改善、保健に関するミレニアム開発目標達成などの課題に取り組む。
参考:http://www.internationalhealthpartnership.net/ihp_plus_about_agencies.html (英語)
8. IHP+
国際保健イニシアティブ(International Health Partnership and Related Initiatives)と題される、36の国や国際機関による協定。2015年のミレニアム開発目標達成に向けて、特に母子保健を中心とした世界の保健を改善するために、2007年に発足された。援助国、開発途上国、国際機関が協力し、知識の共有、相互のモニタリング、援助の円滑化などに取り組む。
参考:http://www.internationalhealthpartnership.net/en/about (英語)
(2009年7月23日、東京にて収録。聞き手:田瀬和夫、国連事務局人間の安全保障ユニット課長、幹事会コーディネーター。立ち会い:桐谷純子、東京大学大学院国際保健政策教室 特別研究学生、中山莉彩、東京大学大学院国際保健政策教室 博士課程。写真:上田晃司、写真家。ウェブ掲載:岡崎詩織)
担当:池田、岡崎、桐谷、植村
2009年10月1日掲載
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