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国連における気候変動対策:UNDPカントリーオフィスの現場から


 

国連開発計画ルワンダ事務所環境ユニット
三戸俊和(みととしかず)さん
mitotoshi@gmail.com

略歴

1996年〜2005年:
環境庁入庁(2001年からは「環境省」)。以後、法律事務官として廃棄物、水質汚染、土壌汚染、環境関連税、生物多様性、動物福祉などに関連した新施策の成立に関与。
2001年〜2003年:
カナダ・ウォータールー大学で応用環境学修士号を取得。修士論文のテーマは日本版GPI (Genuine Progress Indicator(真の進歩指標))。
2005年〜2007年:
内閣官房へ出向。首相官邸事務のサポート役として、気候変動問題、アスベスト問題などの環境問題を担当。
2007年3月〜:
現職。JPO(Junior Professional Officer)としてUNDPルワンダ事務所に勤務。担当は環境とエネルギー全般。




1.はじめに
2.UNDPルワンダでの気候変動対策プロジェクトの現状
3.ルワンダにおける気候変動対策プロジェクトの課題

3−1.プロジェクト形成のスピードと資金繰り
3−2.担当者の継続性
3−3.気候変動対策を進める上での基礎データ

3−4.知見者の欠如

4.課題を解決するために提言できること
4−1.短期的視点から
4−2.長期的視点から
5.参考文献


 

1.はじめに :

2007年3月より、JPO(Junior Professional Officer:国連の正規職員になるための見習いのようなポジションで、通常2年契約)としてUNDPルワンダ事務所に勤務しており、既に1年が過ぎようとしています。私は10年ほど、日本の環境省と内閣官房で環境問題に関わってきたこともあり、環境問題に関する知識は広く浅くは持っているつもりなのですが、国連という全く違った場に臨み、特にアフリカという開発問題の最前線におけるUNDPの活動に関与できることで、この1年だけでも視野を随分と拡げることができたような気がしています。しかしその一方で、対象国の環境政策推進への支援に当たり、日本にいた際には考えたことのないような現場特有の課題に直面しているという認識も持っています。

持続可能な開発の実現の一翼を担う一国連職員として、特に現在関心の高い気候変動問題への取組について、現場でどのような課題を感じ、どういう対策を必要と感じているか述べたいと思います。


2.UNDPルワンダでの気候変動対策プロジェクトの現状 :

UNDPルワンダ事務所は、関係スタッフを全て含めると60人を超える比較的大きな事務所です。管理部門を除き、活動の鍵となるユニットは「環境」(Environment)、「民主的統治」(Democratic Governance)と「公共管理」(Public Management)の3つです。ルワンダは、国連の各機関の活動をより有機的・機能的にできないかという趣旨から試験的に改革を行っている「One UN Pilot Countries」の1つで(世界では8カ国が選ばれています)、本年(2008年)より、ルワンダに関係するほとんどの国連機関が一緒になって作成したUNDAF(「United Nations Development Assistance Framework」。2008年から12年までのUNルワンダ5カ年計画)の枠組みに沿って各種支援活動が進められています。ルワンダにおける環境問題の取組は、UNDPの他、UNEPやUNESCO、FAOやUNHABITATなど、かなりの国連機関が関わっていますが、UNDAFの枠組みにより、ルワンダにおける国連による環境支援活動の全体の連携は、UNDPとUNEPが音頭をとって調整することになっています(UNDAF下の環境テーマ・グループの共同議長がUNDPとUNEPです)。

ルワンダはアフリカ諸国の中では珍しく治安が安定しており、政府の関心も平和構築の段階から、どうやって持続可能な開発を進めていくかの段階にシフトしています。昨年制定された政府の5カ年計画(EDPRS(Economic Development and Poverty Reduction Strategy, 2008-12))においても、環境問題は「横断的課題」としてきちんと取り上げられており、気候変動対策の必要性や、京都議定書に基づくCDM(クリーン開発メカニズム)の活用、さらには環境アセスメント制度の整備の必要性などが明記されています。

そのうちの気候変動対策は、比較的新しい分野ですが、国連側・ルワンダ政府側とも非常に関心が高く、その対策の充実が求められています。昨年UNDPがグローバルなレベルで発表したHuman Development Report においても、取り上げられたテーマは気候変動であり、ルワンダのような最貧国における気候変動への対応能力の脆弱さが警告されたところです。実際、気候変動との正確な関係は科学的にはまだ証明されていないでしょうが、「雨季の時期が予測できなくなった(遅くなっている)」「集中豪雨時の雨量がひどくなった(昨年もわずか一日程度の集中豪雨で人家が水没し、10名以上の方が亡くなられています)」というような経験に基づいた発言を、多くの人々から聞きます。科学的な統計情報としては、全体として年間総雨量が減少傾向にあるようです。

そのような中、UNDPルワンダでは他の国連機関と連携するなどして、各種の気候変動対策プロジェクトを進めているところです。気候変動対策は、「(気候変動が起こった場合に対応する)適合対策(adaptation)」と「(温室効果ガスの排出を削減させる(=気候変動の発生を抑える))緩和策(mitigation)」に大別されますが、ルワンダではその両政策が進められています。例えば適合対策では、「NAPA」(National Adaptation Programmes of Action)が適合対策の全体計画としてルワンダ政府により定められていますが、その計画に定められている具体策を実行に移すための資金確保などの準備作業を、UNEPとUNDPが現在支援しているところです。具体的には、例えば気候変動が起きた際に発生する自然災害による被害を最小限に食い止めるため、ルワンダ国内の被害状況を監視・警戒するシステムの構築などが、今後制定すべきプロジェクトのメニューとして検討されています。

一方の緩和策については、CDMに基づくcarbon credit(途上国にとっては、温室効果ガス削減に協力することによって得られる新たな収入源)との関係で、関心が高いところです。例えば京都議定書上、温室効果ガスの排出を削減する活動によりcarbon creditを取得するためには、活動の主体それぞれが活動を実施する国の政府から承認を受けていることがまず必要なのですが、ルワンダの場合、その承認を行うべき、政府内の機関であるDNA(designated national authority)がまだ十分機能していません。DNAを機能させるために必要な資金や人材が不足しているためです。そのため、Japan/UNDP Partnership Fundの資金援助を得て、ルワンダ政府内のDNAがきちんと機能するよう、支援プロジェクトを立ち上げる予定です。この他、carbon creditによる新たな資金調達の可能性については、植林を進めているプロジェクトや再生可能エネルギーの導入を検討しているプロジェクトなども関心を示しているところであり、可能であれば、プロジェクトを進める中でcarbon creditも取得したいと考えている場合が大勢です。

 

3.ルワンダにおける気候変動対策プロジェクトの課題 :

3−1.プロジェクト形成のスピードと資金繰り

じつは気候変動対策に限ったことではないのですが、UNDPが支援する環境対策の一番の課題は、具体的な支援プロジェクトを立ち上げるのに非常に時間がかかってしまうという点です。ほとんどの場合、政府とのやり取りで「このようなプロジェクトがあったらいい」という具体的な認識が共有されてから、プロジェクトの内容を規定するプロジェクト・ドキュメントを作成し、資金を確保し、UNDPと政府の間でそのドキュメントに署名をし、プロジェクトが実行に移されるまで、少なくとも1年以上、多くの場合数年かかってしまっているのが現状です。そのため、最初に用意したプロジェクト・ドキュメントの内容が署名時には現状に合わなくなり、プロジェクト実行時にドキュメントを大幅に書き直す必要が出る、といった不都合が生じています。以下、問題の背景にあるいくつかの点を指摘します。

まずプロジェクト形成に係る関係者が非常に多いです。私のようなCountry Officeの人間が政府と相談をして案を作ると、その案はUNDPのアフリカ地域オフィスに送付され、専門的知見から意見を付されます。その改善作業はメールで通常行われるため、やり取りに数ヶ月かかることも少なくありません。さらに、地域オフィスで精査されたプロジェクト・ドキュメントの案はUNDPのニューヨーク本部に送付され、そこでも更なる精査が行われることが通常です。その上で、ほとんどの環境案件は、環境プロジェクトの最大の資金拠出元であるGlobal Environment Facility(アメリカ・ワシントンDCに本部がある国際支援組織。略称GEF)に送付され、資金提供を行うのに妥当なプロジェクトなのかどうかとの観点から更なる審査を受けるのが通常です。GEFは現在組織改革をしていることもあり手続が混乱しており、GEF内の審査に1年以上かかることも稀ではありません。また、その間にGEFへの申請様式が更新され、同じプロジェクトについて別の様式での再申請を求められる場合があるなど、プロジェクトの中身についての審査と異なる場面で混乱が生じている点も否めません。

支援を受ける政府の側からみて特に混乱することの一つは、GEFから支援を受ける場合に「仲介者」が必要であるという点です。GEFが認定している仲介者はUNDP、UNEP(国連環境計画)と世界銀行の3機関なのですが、問題なのは、それぞれの仲介者が担当する分野について何らの仕切りがないということです。そのため、例えば気候変動適合対策を推進したいと政府が考えた場合、3機関のどこに任せるかは政府の自由であり、逆にUNDP、UNEPと世界銀行の3機関は、同じプロジェクトの実現について政府に働きかけをすることになります。3機関とも国連の一機関であり、それらが競争してプロジェクトの仲介者としての立場を得ようとするのは、競争原理の活用という点ではよいのかもしれませんが、支援を受ける政府の側としては混乱するでしょう。例えば、ルワンダでのNAPA実施プロジェクトについては、UNEPとUNDPが仲介者として政府に接触し、結局はUNEP・UNDP共同で仲介者となることになりました。これはこれで現実的な解決策だと思うのですが、政府側が混乱するような仕組みは極力避けるべきだと考えます。

また、関連した課題として、気候変動対策を含めたUNDPが支援する環境プロジェクトの資金源がGEFに依存しすぎている、という問題もあります。上述のとおり、GEFの手続に時間がかかってしまうと、ほとんどの環境プロジェクトの進行が停滞してしまうというのが現状です。

また、プロジェクト・ドキュメントの作成に当たり、予算の細目やプロジェクトの運営体制などについて、細かく詰めすぎる傾向にあるという点も私は問題視しています。もちろん、プロジェクトの実施に拠出されたお金が無駄に使われていれば拠出元が黙っていないでしょうから、プロジェクトに充てられた費用がどのように使われるのかを事前にきっちり詰めておくべきだ、という主張も分からなくはありません。また、どのような体制でプロジェクトを推進していくのかをはっきりさせることは、特にその実施を相手方政府などUNDP以外に任せる際には重要でしょう。しかし、先述のとおりプロジェクト・ドキュメントがサインされるまでには長い時間がかかるため、プロジェクト実施時には当初想定した予算の細目やプロジェクトの運営体制が適当ではなくなっていることがよくあります。さらに、仮にプロジェクト・ドキュメント作成後に直ちにプロジェクトが実施されたとしても、プロジェクト実施後に判明して対応が必要になる事項は当然のように出てきます。ですから、プロジェクト・ドキュメント作成時に要求される「詰め」があまりに細かくなってしまうと、その作成に時間がかかり過ぎるばかりか、プロジェクト実施の際にプロジェクト・ドキュメントと現状の齟齬が目立つ、あるいはプロジェクト・ドキュメントの縛りのためにプロジェクトが柔軟に進められないということになりがちです。

3−2.プロジェクト形成のスピードと資金繰り

少なくともUNDPルワンダでの経験から感じることは、担当者の異動のペースが早すぎるということです。「異動」というよりは、「いなくなる」と言った方が正確かもしれません。実際、私の所属するユニットだけでも、昨年だけで2人が去り、(自分も含めた)3人が追加されました(現在、ユニットの核となる人材は5名)。去った人々も定期異動ではなく、「よりよいポストが別に見つかったので」といった事情での急な異動で、他のユニットでも同じような状況をよく見かけます。さらに、ルワンダ人以外のinternational staffについては、ほとんどの契約期間が1年以内のようで、特定の案件だけに関してごく短期間で雇われている人も少なくありません。そのため、先ほど述べたプロジェクト・ドキュメントの作成期間のことなどを考えると、体系だった、かつ、長期的視点をしっかり踏まえた環境プロジェクトの推進はなかなか難しい状況となっています。例えば、前記の政府DNA養成プロジェクトについても、ルワンダ事務所で私がJapan/UNDP Partnership Fundと唯一つながっており、仮に今私がルワンダを去ってしまったら、案件形成がきちんとできるのかどうかまったく自信がありません。幸い私は最低2年の間は安定した処遇を受けられることになっていますが、他の多くのinternational staffは、チャンスがあればもっと安定したポジションを見つけたいという気持ちであり、長期的視点に立った案件形成に支障が生じているといっても過言ではないと思います。

 

3−3.気候変動対策を進める上での基礎データ

気候変動対策を進める上での3番目の大きな課題は、ルワンダのような途上国では対策をきちんと進めるに当たって参考にできるようなデータがほとんどないという点です。Human Development Reportが指摘するような、「世界全体の傾向」や「アフリカ(あるいはアフリカ東部)で心配されていること」といったレベルであればそれなりのデータはあるのですが、ルワンダで実際どのような異常気象がどのように局所的に増えており、また、それに伴った住宅被害・農業被害がどういう状況にあるのか、あるいは今後どうなっていくと予測されるのかといった点になると、参考にできるデータは皆無の状況です。NAPAにおいても、先ほど指摘したとおり雨量が減少傾向にあることは指摘されていますが、それがルワンダの国民にどのような被害をもたらすおそれがあるのか、あるいは短期的・局所的な異常気象の発生にどう影響すると考えられるのかという点については具体的な裏付けのとれた記述がありません。少なくとも、日本などの先進国で日々私たちが接している、地域ごとのきめ細かな天気予報の情報さえ提供されれば、農家が今後数ヶ月にわたって起こるであろう旱魃に備えたり、水没しやすい地域にある人家がこれから起こるであろう豪雨に備えて避難したりと、常識的な範囲での判断・行動を通じて最低限の災害は防げると思われます。また、日々のルワンダ国内の地域ごとの天気情報の蓄積があれば、NAPAを通じたプロジェクトの実施においても、データに基づきより的を絞った有効な対策を打つことが可能でしょう。残念ながら、現在のルワンダでは首都のキガリ市においてさえ天気予報のサービスは提供されていません。このような情報の欠如は、特に適切な適合対策を進めることを困難にさせます。

 

3−4.知見者の欠如

気候変動に係る緩和策を進める上での課題は、carbon creditを得ようとする場合に特に顕著になります。ルワンダのような途上国では、京都議定書上CDMがどのように制度化されており、どのような手続を経てどのようなプロジェクトを実施することで、いつ・いくらのcarbon creditを得ることができるのか、きちんと説明できる人材が圧倒的に不足しています。これは、CDMプロジェクトの実現を促すDNA等の政府側の人材不足だけでなく、CDMプロジェクトの企画・実現を目指すべき民間側の人材不足についても言えます。例えば「竹の植林をしたいのだがその活動でcarbon creditを取得できないか」という意欲を示す個人や団体はルワンダでもいるのですが、そのプロジェクトがcarbon creditの観点で採算が合うのかどうかをきちんと判断し、採算の合う形にどう改善すべきかをアドバイスできる人材が政府側にも民間側にもいません。また、京都議定書上のCDMだけでなく、直ちにcreditを金銭に転換することが期待できる温室効果ガス削減に関するvoluntary market(京都議定書枠組外の任意市場)についても情報が不足しており、どのような自発的市場でどのような活動が有効に評価されるのか、必要な情報がなかなか得られない現状があります。UNDPでは、そのような事態を少しでも解消し、アフリカでのCDM開発の機会を増やすべく、MDG(Millennium Development Goals)Carbon FacilityというCDMプロジェクト開発支援システムを昨年からスタートさせていますが、基本的には専門家はUNDP本部のニューヨークにおり、途上国の現場できめ細かなアドバイスを受けるのはなかなか難しい状況です。

4.課題を解決するために提言できること :

4−1.短期的視点から

上記の課題を解決するために短期的にできることは多くありません。が一つ出来るのは、「気候変動対策に係るプロジェクトを立ち上げる際、その資金源の多様化を図る」ということでしょう。例えば政府DNAの能力開発を推進するために現在私が調整しているプロジェクトは、昨年9月にJapan/UNDP Partnership Fundの存在を聞き、10月にプロジェクトの素案を作り、1か月程度で素案の了解をUNDP本部と資金拠出元の日本政府から受けています。現在はまだプロジェクト・ドキュメントの内容をルワンダ政府が最終的に詰めている段階ですが、それでも素案を作成してから1年以内にはプロジェクト・ドキュメントの署名+プロジェクトの実施にたどり着きそうです。規模は約300,000米ドルとなる見込みでそれほど大きくはないのですが、GEFのみに頼らない状況を作った点は大きな成果と考えています。またOne UNの動きの中で、今年からはUNDP自体がもっている資金も、少額ではありますがある程度環境施策に使えそうです。これで、気候変動対策を始めとした環境対策の推進が多少なりともスムーズになるものと期待されます。

もう一つできることは専門家の確保です。特にCDMに関する専門家をルワンダの現地にある程度の期間確保することは、CDM案件をきちんと実現させるためには必須です。現在はまだ企画中の段階ですが、carbon creditに関する専門家を招聘して東アフリカ地域でのCDM案件開発に関する会議を開き、関係者の知識・意識を高めたり、その専門家をルワンダ政府のコンサルタントとしてある程度の期間雇い、その間に必要な知識をルワンダ政府職員に敷衍させたり、といったことが実現できないかと考えています。

4−2.長期的視点から

とは言いつつも、短期的な視点から問題解決を図ろうとするとどうしても限界があります。また、環境プロジェクト支援の観点から国際的に設立されたGEFを、現状のままで良いと考えるのは決して健全ではありません。長期的には、次のような改善が必要と考えます。

(1)組織の改変
まず、環境政策に係る国連内の仕組みを改めるべきです。現状では複数の組織が似たような内容に取り組んでおり、また、それぞれの組織も重層的で非効率な状況です。そのため、環境政策を実施する機関を一つに統合するか、それぞれの機関の役割をきちっと区分することが必要と考えます。また、プロジェクトの立ち上げに力を入れるよりは、プロジェクトが始まった後のモニタリングをきちっと行う方が有効かつ現実的であり、組織もそのように改められるべきだと考えます。個人的な考えとしては、環境プロジェクトを支援する組織はGEFもUNDPも他の関連機関もすべて含めて一元化し、一つの機関が、組織内も極力フラットな組織とした上で環境政策支援を行うべきと考えます。そして、各貧困国から申請があった気候変動プロジェクトには、どのようなアウトプットを目指しているのかが明確であれば分野ごとに上限を定めてお金を付け、支援申請国に出来るだけ自由に取組をさせるべきだと思います。その上で、プロジェクト実施中・後の現地モニタリングは全プロジェクト又は無作為抽出したプロジェクトについて一定期間ごとに徹底して行い、設定したアウトプットが不適当だった場合や、アウトプットに貢献しない形でプロジェクトの進行管理がなされている場合は、次の年からの同カテゴリーの支援申請の上限をカットする、あるいはその分野での申請そのものを認めない、といった対応をすべきだと思います。一方、きちんと取組が進められている国については上限を引き上げてもいいでしょう。環境を担当する国連機関が一つに統合されたとしても提供できる資金には限度がありますから、第一回目は申請に応じて均等に資金配分をし、その後はプロジェクト実施国の相対評価で、成果の挙がっているプロジェクトに優先的に資金配分をすればいい、と考えます。

(2)人事体制の改善
通常のプロジェクトは短くても実施期間が1年以上なのが通常であり、プロジェクトの立ち上げ、進行管理、その後のモニタリングの重要性を考えると、担当者は少なくとも2〜3年の任期であるべきです。そして、任期最後の1年間、次のポスト探しに奔走するということが無いよう、できるだけ安定したポジションを職員に提供することが、きちんとしたプロジェクトを途上国に提供するための重要な要素と考えます。少なくともUNDPルワンダの現状を鑑みると、その必要性を痛感します。

(3)専門家の現場での整備
例えばCDMプロジェクトをどう実現させていくかという課題があった場合、現地の専門スタッフの充実は必須です。これは、政府側にそのようなスタッフを提供するのがよいのか、UNDPの現地事務所のような場所にそのような専門家を常駐させればいいのか、両者考えられるところでしょう。しかしいずれにしても、できるだけ現場に近いところに専門家がきちんといることは、途上国で気候変動対策を始めとした環境対策を進める上でとても重要です。特に近年の案件は専門性が増してきているので、この点がプロジェクト成功の大きな鍵になり得ます。ただ、その一方で、すべての分野の専門家を対象政府や現地事務所に派遣するのには限界があり、また、専門家だけの集団が形成されると、どうしても国の施策全体の方向性が見失われがちです。その意味で、専門家は、先ほど提言したような国連の統合された環境政策支援機関に常駐し、必要な場合に相手国の政府や現地事務所に派遣されるという形が現実的かもしれません。実際、UNDPの専門家の支援体制は現在でもそのようにはなっているのですが、派遣要請があってから実際に派遣されるまでの期間がもっと短くなるべきですし、必要な場合、数か月や1年など専門家が長期間にわたって対象国で活動できるよう、システムの整備が必要と考えます。

(4)気象衛星整備の必要性
先ほど書いたとおり、気候変動に伴う異常気象によって発生する被害のかなりの部分については、天気予報レベルの情報事前にあれば防げると思われます。しかし残念ながら、NAPAで予定されている監視・警戒システムも、災害を事前にキャッチすることまでは期待できそうにありません。また、きめ細かな気象情報の蓄積があれば、的確な気候変動適合対策を打つことも可能です。この点を克服するには、現在圧倒的に整備が手薄な、アフリカ上空に気象衛星を配備することが有効と考えます。この点、ヨーロッパがかなり力を入れて整備支援を行っているようなのですが、残念ながら現時点で十分な体制が整っているとは言えません。もしアフリカの一定地域をカバーする気象衛星が整備されれば、例えばルワンダ周辺であれば、東アフリカ共同体(East African Community: EAC)地域全体の気候変動対策に大いに貢献することは間違いありません。その主体がEUであれUNDPであれ日本であれ、気候変動を通じた貧困国での犠牲者が少しでも少なくなるよう、気象衛星整備の支援が急がれるべきと考えます。


気候変動対策は比較的新しい分野であり、プロジェクトもこれから立ち上げなければならない事項が多いところです。しかし、その一方で上記のような問題点はかなり明確になっており、記述したような解決策などの必要な対策を実施することで、アフリカを中心とした貧困国での気候変動対策、また幅広く環境対策が迅速に進むことを願います。

 

5.参考文献 :

(1) One UN (accessed: March 11, 2008)
(2) Rwanda UNDAF (United Nations Development Assistance Framework) (accessed: March 11, 2008)
(3) EDPRS(Economic Development and Poverty Reduction Strategy) (accessed: March 11, 2008)
(4) CDM(クリーン開発メカニズム) (accessed: March 11, 2008)
(5) 昨年のHuman Development Report (accessed: March 11, 2008)
(6) ルワンダのNAPA(National Adaptation Programmes of Action) (accessed: March 11, 2008)
(7) MDG (Millennium Carbon Facility) Carbon Facility (accessed: March 11, 2008)
(8) East African Community(EAC) (accessed: March 11, 2008)


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2008年4月1日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田、奥村

 



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