ミャンマー・スタディ・プログラム - 参加者紹介「第15回 川橋天地さん」

「輝かしい発展の裏側」

所属:早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科3年 国際公共政策研究ゼミ

MySP担当班:企画・広報班

写真①

大学1年の夏、私はテレビで見る映像に釘付けになりました。

数多くの群集が日本料理店や日本車を破壊し、大使館に向かって様々なものを投げつけながらデモ活動を行っている光景です。

2012年の夏、尖閣諸島を巡る問題で、戦後最悪とまで言われるほど悪化した日中関係をめぐるニュースが日本では相次いで報道され、両国の互いに対するイメージは最悪の状況に陥りました。その後も大気汚染や鳥インフルエンザ、食の安全問題などネガティブなニュースばかり日本では報道され、対中イメージはどんどん悪くなっていきました。

私は、そうしたニュースを見ながらたまたまその夏に訪れた北京や上海での日々を思い出し、日本での報道に対して違和感を覚えていました。現地で交流した人々は親切で、中国生活はとても快適。もちろん私が見てきた中国は、ほんのごく一部分だったと思いますが、変にネガティブなレッテルを貼られてポジティブな面に注目がいかない報道に少し不信感を覚えました。

日本と歴史的なつながりが深く、政治的にも経済的にも大国化していく隣国に世界中が注目しているのに、どうして理解しあえない事態に陥ってしまったのだろう?現地の中国人たちは日本についてどのように考えているのだろう?などの疑問が沸々とわいてきた私は、思い切って中国の北京大学国際関係学院に1年間留学し、国際関係学を中国人やアジアを中心とする他国の留学生と学ぶことにしました。

留学中は中国語に苦労しましたが、中国側から見た国際関係を学べたのは非常に貴重な経験になりました。中国人学生や他国の留学生との交流も、日本人として様々な質問に答えなければならず、自分の知識の浅さを常に痛感させられました。

また、日本人留学生や現地中国人学生の友達と日中友好を訴えるフリーハグや、100人でオリジナルの曲を合唱する企画を実行して、ほんの少しでも互いのイメージ向上につながればと努めてきました。このように政治的には多くの課題があっても、個人単位では話し合えばわかりあえることが多いということを実感してきました。

そんな生活の中、とくに印象深かったのは、北京での経験よりもむしろ地方を旅したことでした。地方では経済成長を背景に開発が相次いでいて、それに伴い様々な環境問題が引き起こされ、多くの人々が苦しんでいる負の側面が顕著に現れていました。大気汚染、地方政府による強制土地搾取、無計画に建設された人のほぼ住んでない高層マンション群、水質汚染事故による強制立ち退き…。外国から見ると輝かしい発展を遂げているように見える中国でも、その負の側面は一般大衆、とくに地方の貧しい所得層に押し付けられるという構造のもとで成り立っている現実は、強烈な印象を僕に残しました。

また、チベットやウイグルなどの少数民族地域では、漢族と全く違う文化圏の仏教徒やイスラム教徒が数多く暮らし、伝統文化を守ろうと努めながらも、近代化や政府からの弾圧で徐々に伝統性が失われつつある姿がありました。政府の弾圧に対しては暴力で反発する動きもどんどん活発になっており、私が少し前に訪れた場所が民族独立派によるテロ事件の現場となって多くの命が失われたニュースを見たときは、本当にぞっとしました。

こうした経験の中、私は、こうした中国の地方開発や公害、少数民族問題は、実はどこの途上国でも経済成長の過程で多かれ少なかれ経験しうることではないかと感じました。

もちろん国や地域によって事情は様々ですが、アジアでもアフリカでも急速な近代化政策が進んだ地域では似たような公害問題が数多く発生しています。さらに、多くの発展途上国が多民族国家で、マイノリティーの抑圧や、民族や部族ごとの内戦が数多く発生していると思います。

私が今回、MySPに参加しようと思ったのも、ミャンマーもそうした国の1つではないかと感じたためです。とくにミャンマーは民主化に近年ようやく動き出し、経済発展を急速に経験しているという点で世界の注目が集まっており、他国のことを研究する際も参考になる部分が多いと思います。今回、国際機関を通じて開発現場の最前線を訪れることでその生の姿を学べるのではないかと期待し参加を決意しました。

今後、私は、日本や先進国が過去成長していく中で培ってきた公害対策や省エネ技術を、中国や他の国が成長していく際に上手く応用していくなど、何らかの形を通じ貢献していきたいと考えています。まだ具体的に何がやりたいかは模索している段階なのですが、ミャンマーや今後の経験を通じて、常に自分に問いかけていきたいと思います。