カンボジア・スタディ・プログラム - 第3章第2節第5項:カンボジア特別法廷と国際刑事裁判について

第5項:カンボジア特別法廷と国際刑事裁判について(UNAKRT捜査判 事部分析ユニット長:藤原 広人さん、UNAKRT広報官:前田 優子さん)

実施状況

現地プログラム5日目の11月22日(木)13時30分~15時、カンボジア特別法廷(Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia:ECCC)にて裁判所の運営に携わっておられる藤原広人さん、前田優子さんによるブリーフィングが行われました。ECCCは、クメール・ルージュ政権下の重大な人道的違反行為を裁くことで国内の和平を実現することを目的に設置されました。このブリーフィングでは、ECCCの活動や国際刑事裁判の仕組みを学びました。 

ブリーフィング内容:藤原 広人さん、前田 優子さんの発表

  • ECCCについて
    • ECCCは、1997年にカンボジアの首相が国連に助けを求めたのがきっかけで交渉が始まり、2003年に合意があったが、実際に運営が始まったのは2007年である。裁かれる対象は、1975年~1979年のポル・ポト政権下の事件に限定され、また対象者はポル・ポト政権の最高幹部や責任の重い者のみで、外国人は対象外である。カンボジア国内法と国際法の両方が適用。最高刑はカンボジアの法に則り終身刑となる。フランスの民事法を取り入れているので、付帯私訴の制度がある。
    • 刑事裁判で有罪となった場合、民事裁判で補償請求ができるが、補償の範囲は、公共に帰するものに限られる。犠牲者が民事当事者として参加できる点が特徴。第二ケースでは4,000人が参加し、それ以外に4,000人が情報提供者として参加した。一般人の関心も高く、2007年から現在に至るまで、法廷を訪れた人は17万人に上る。ECCCに対する国民の関心を高めるため、近年では、カンボジア人を対象にしたスタディツアーや出張によるプレゼンテーション、ビデオ上映等の広報活動が積極的に展開されている。事件から35年が経ち、ようやく人々が事件について話し始め、高校や大学の授業で取り入れられたことは一つの成果とされている。
  • 国際刑事裁判について
    • 戦争犯罪の証拠の収集には、実際に虐殺の墓地を訪れ、調査用の棒を地面に刺し、そこで収集した土の色や臭いを手掛かりに死体の状況を調べるといった方法がある。国際刑事裁判には多様な専門家が携わっている。ECCCでの例を挙げると、軍事専門家、心理学者、歴史学者、地域学者など。国際犯罪と通常の国内犯罪との違いとしては、被害規模の大きさ、指揮命令系統の存在、犯罪動機、可罰的違法性といった点が挙げられる。加害者と被害者が混在していることが課題として残されている。

CSP参加者の感想:大橋さん

ECCCでは、法廷と傍聴席が分厚いガラスで区切られていたのが印象的だった。傍聴人が被告人に対して、銃撃や投石等の手段により報復することを防ぐための措置ではないかと思われる。内戦下での犯罪を裁くというECCCの特質を物語っているように感じた。

また、ECCCの裁判官や検察官に、日本人が1人もいなかったことは驚きであった。ECCCの財源の41%は、日本の出資金により賄われている。このように、日本はECCCに対し、金銭面では多大な貢献をしているが、人材面では十分な貢献ができているとは言い難い。個人的には、日本には、ECCCの活動に貢献することができるだけの能力を持った法曹が多くいると感じている。それにもかかわらず、日本からECCCに対して十分に人材を送り込むことができていない現状を、非常に歯痒く思った。

(2013/4/30補足)現在ECCCに日本人判事の方は勤務されておられませんが、2006年7月から2012年7月の間にECCC最高裁判部で日本人判事の野口元郎さんがご活躍されておられ、第1ケースの最終判決(有罪確定、無期懲役に延長)では多大な貢献をされました。

写真①
写真②

ECCC内に入る際、セキュリティ・チェックが2度あり、かつ持ち込み可能なものが「身分証明と筆記用具」のみと非常に厳しい警備体制が敷かれておりました。裁判にはパソコンや大型ディスプレイなどテクノロジー機器が多く導入されており、とても近代的な印象を受けました。