バングラデシュ・スタディ・プログラム - 報告書:分野別①

分野ごとの学び①:環境

概要

バングラデシュは、急速な都市化や産業の発展に伴い、深刻な環境問題に現在直面している。特に「気候変動」「廃棄物」「大気汚染」に関する問題は深刻である。

気候変動の観点からは、海面上昇や豪雨の激甚化といった脅威が、最も脆弱な立場にある人々の生活を直撃している。適応への課題を浮き彫りにするため、気候変動というサブテーマのもと、国の食料安全保障に関わる『農業』と、日々の安全を守る『住環境』の現状に焦点を当てる。

廃棄物の観点からは、難民キャンプにおける廃棄物管理や、プラスチックを中心としたサーキュラーエコノミーの取組、工場の排水処理について、工場見学を交えつつ、国連機関から課題と支援の実態を伺った内容をまとめる。

大気汚染の観点からは、世界一汚染された都市と言われたバングラデシュで私たちが実際に感じたこと、さらには現地駐在員の方から聞いた、大気汚染が偶然生み出した光景についてまとめる。

これら3つのテーマを通じて、問いに立ち返りながら、現地での活動から得た学びを整理していく。

機関紹介

気候変動 

気候変動による課題

世界最大級のデルタ地帯に位置するバングラデシュは、国土の13%が海抜2メートル未満という地理的特徴から、気候変動の影響を最も受けやすい国の一つである。同国の長期気候リスク指数 (CRI) は世界13位であり、洪水やサイクロンへの構造的な脆弱性が改めて浮き彫りとなった。

緩和策と適応策の立ち位置

気候変動対策には、巨額の資金と長期的な視点が必要だ。筆者が現地で訪問した世界銀行では、沿岸部を高潮から守る「ポルダー(堤防)」建設などの巨大インフラ事業が進められていた。しかし、国際機関がこれらマクロなハード対策を担う一方で、農家の手元にあるミクロな適応策は機能不全に陥っている。

北部のノルシンディで訪問した現地NGO(PAPRI)、シェア・ザ・プラネット(日本のNGO)へのヒアリングで明らかになったのは、種子市場における供給側の構造的問題だった。市場では、高価なハイブリッド種(F1)に安価な普通種が混在する、「品質詐称」が横行している。公的な認証システムが未導入なため、農家は外見で種子の質を判断できず、結果として期待収量を下回り貧困の罠に陥るケースが多発していた。この負の経験が農家に、「本当に良質な気候耐性品種さえも疑ってしまう」というリスク回避の行動をとる悪循環を引き起こしている。適応を阻害しているのは、農家の意識以上に透明性を欠いた市場システムそのものであった。

写真:ノルシンディにて、農村訪問の様子
図:バングラデシュの種子の選択肢とその特徴

住環境における「インフラ格差」の現実

一方、気候変動の影響は都市の住環境にも深刻な問題を起こしている。農村での生計を失った人々が首都ダッカへ流入し「気候難民」化している。現地渡航にて、ダッカ市内で感じたのは、ここはデルタ地帯であり、都市全体として浸水被害が懸念されるが、国際機関が立地するエリアではかさ上げを行い対策がされている。一方スラム街では地盤の水はけの悪さも重なり、雨季には水が中々流れず住宅内に水が入るなどの状況で、経済力による安全性の格差があった。

スラム内の様子

結論

バングラデシュの気候変動適応には、農村における「種子市場の透明化(ソフト)」と、都市における「インフラ格差の是正(ハード)」という、双方向からのアプローチが不可欠である。 また、今回の農村訪問を通して感じたのは、既存の取り組みの多くが定性的な評価に留まり、定量的なインパクト検証が不足している点である。課題の本質は、農家の意識や能力といった個人の資質だけにあるのではない。今後は、種子ディーラーや市場構造といったステークホルダー全体を入れた定量分析を行うことで、より実効性のある解決策が立案できるのではなかろうか。

廃棄物

サーキュラーエコノミー

UNIDOでは主にプラスチックやアパレル製品に関するサーキュラーエコノミーの取り組みについて話を伺った。UNIDOはノルウェー政府の支援のもと、バングラデシュ政府と「Integrated Approach Towards Sustainable Plastics Use and Marine Litter Prevention in Bangladesh」を実施しており、以下の5つに注力して取り組んでいる。

  1. 政策・制度づくり
    1. 拡大生産者責任ガイドラインの策定
    2. プラスチックの実態調査など
  2. 消費者への働きかけ
    1. 清掃イベントの実施
    2. 教育機関においてプラスチック問題について啓発
  3. 資源効率の改善
    1. 原材料・電気・ガス・水の使用量を削減
    2. 環境配慮設計によりプラスチックの量を削減
    3. 有害な着色料の削減
  4. リサイクル産業のフォーマル化
    1. 150人の日雇いで働くウェイストピッカーを組織化し、フォーマルなリサイクラーと結びつけ、労働者が市場や技術、資金にアクセスできるよう支援
  5. イノベーション・中小企業支援
    1. 環境配慮型の製品・技術を持つ中小企業を選定して、表彰や資金支援

そのほか、EUやフィンランド政府が支援する「Switch to Circular Economy Value Chains(SWITCH2CE)」では、繊維産業の循環型転換が進められている。UNIDOはH&Mなどの大手アパレル企業と連携し、リサイクルが困難とされてきた混紡繊維を化学的に分解・再生する技術を導入し、回収した繊維を再び市場で活用する仕組みを構築している。

バングラデシュの街中を見ると、駐車場くらいの面積にごみが無造作に積まれていたり、道路脇のいたる所にごみが散乱している光景を何度も目にした。分別や回収の仕組みに産業が関わることや、消費者が問題を知ることに対して国際機関や多国籍企業が支援することは非常に意義深いと思う。

工場見学

UNIDOとSWITCH2CEプログラムで連携している繊維工場を訪問した。EUのアパレル企業向けに繊維製品を作っていることもあり、染色プロセスの技術開発など、省エネ・節水・水の循環に関する取り組みが非常に先進的だと感じた。

特に印象的だったのは排水処理だ。繊維業界は環境汚染が非常に高い業界であり、汚染水問題を認識していたが、繊維工場から排出される汚染水を初めて見て、その色と臭いにとても衝撃を受けた。これらを丁寧に処理をして、透明な水にする技術を見て、これらの設備には多額の資金が必要であり、零細工場では導入が困難だと感じた。グローバル市場にアクセスを持たない工場にとっては、これらの取り組みを進めるインセンティブも資金力もないため、それらの企業をどう支援していくかという点も大事だと感じた。

繊維工場の排水

大気汚染

バングラデシュでは大気汚染が大きな社会問題になっている。IQAirの「World Air Quality Report(2023年データ)」では、同国の国別PM2.5年平均濃度が79.9 µg/m³とされ、世界でも特に汚染が深刻な国として示されている。 こうした状況は統計上の話にとどまらず、健康への不安として現地で語られる場面も多い。

今回、私たちは首都ダッカを拠点に活動し、北部のノルシンディ県、南東部のコックスバザールも訪れた。ダッカに滞在していると、日を追うごとに砂埃や排気ガスの影響を受け、喉の調子が少しずつ悪くなっていく感覚があった。地区によって印象は違い、高級住宅街とされるグルシャンではそれほど強く意識しなかった一方、オールドダッカでは砂埃が増し、空気がいっそう重たく感じられた。反対に、ノルシンディ県の農村ではダッカのような空気の濁りはあまり感じず、比較的すっきりした空気だった。都市の交通量や工事の集中度が、体感にもそのまま表れているように思えた。

JICAの報告では、主な発生源として煉瓦窯、建設工事に伴う粉じん、自動車排気ガス、産業活動、固形廃棄物やバイオマスの燃焼などが挙げられている。また乾季は雨が少なく、条件が重なって汚染が深刻化しやすいとも整理されている。 特に印象的だったのは、建築資材として煉瓦が広く使われ、その生産過程で燃料を燃やし煙が出る構造が日常に組み込まれている点だ。加えて車移動が中心で、渋滞が常態化している場所も多く、排気が街の空気を押し上げているように見えた。

最後に、駐在員から聞いた話が記憶に残っている。「晴れた日の夕日がとてもきれいに見える」と。ただ、その美しさは大気中の粉じんが光を散乱させることで強調される面もあるという。問題が別のかたちで都市の“景色”をつくってしまう。そのねじれを含めて、大気汚染は生活と環境の両方に深く入り込んでいると感じた。

青く澄んだ空
少し空気がかすんでいるダッカ

参考文献

  • 朝日新聞. (2024). バングラデシュの農家を襲う塩害 気候変動で「適応」模索. 朝日新聞デジタル. https://www.asahi.com/withplanet/article/15302820. 最終閲覧日:2026年1月31日
  • 朝日新聞. (2024). 気候変動、紛争、そして格差 世界で家を追われた人、過去最多の1.2億人に. 朝日新聞SDGs ACTION!. https://www.asahi.com/withplanet/article/15302820. 最終閲覧日:3月2日
  • AQI.in. (n.d.). バングラデシュの大気質指標 (AQI) と大気汚染. https://www.aqi.in/ja/dashboard/bangladesh. 最終閲覧日: 2026年1月31日
  • 国際協力機構.  (2022). バングラデシュ国大気汚染にかかる情報収集・確認調査・報告書. JICA. https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12364493.pdf.
  • World Bank Group(2022). Bangladesh - Country Climate and Development Report (English). Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/099510110202254063
  • Bangladesh 13th in long-term climate risk index. (2025). The Daily Star. https://www.thedailystar.net/news/bangladesh/news/bangladesh-13th-long-term-climate-risk-index-4032801. Accessed in 31.01.2026
  • Subedi, A., Cucchi, C., Faruque, A., Muhammad, M., Mosiur Morshed, M., Folkers, M., & Hossain Aurin, R. B. (2023). Bangladesh seed sector assessment. (Report / Wageningen Centre for Development Innovation; No. WCDI-24-318). Wageningen Centre for Development Innovation. https://doi.org/10.18174/656479
  • Dasgupta, Susmita; Zaman, Asif Mohammed; Roy, Subhendu; Huq, Mainul; Jahan, Sarwar; Nishat, Ainun(2015). Urban flooding of Greater Dhaka in a changing climate : building local resilience to disaster risk (English). Directions in development|environment and sustainable developmentWashington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/683381468001782892