バングラデシュ・スタディ・プログラム - 報告書:分野別②
分野ごとの学び②:平和・人権
概要
本ページでは、バングラデシュの渡航で得た学びについて、「労働者」「子ども」「女性」の平和・人権の観点から紹介をする。
労働者の人権については、主に繊維工場への訪問を通じて、外部からの圧力により労働環境が劇的に改善していることを知った一方、依然として課題はあり、国際社会が関心を持ち続ける重要性を学んだ。
子どもの人権については、児童労働の背景には、宗教的・文化的価値観だけでなく、犯罪組織との繋がりという根深い実態があったことを知った。渡航を通じ、支援の中核は親への啓発だけでなく、若者の主体性を育むエンパワメントによる権利保護が有効だと実感した。
女性の人権については、現地渡航を通じ、女性の権利を巡る複雑な現実を実感した。UNFPAやBRAC、グラミン銀行などの取り組みは暴力防止や就学継続を重視し、健康としてのフレーミングや男性ユースへの働きかけなど多様な工夫を行っている。特に「学校」は児童婚や暴力を防ぐ重要な安全装置であり、緊急支援における教育の意義を再認識した。
機関紹介



労働者の人権
(1)渡航前の学びおよび仮説
2013年、首都ダッカにある商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、1,000人以上が犠牲となった。ラナ・プラザには大手アパレルブランド向けの縫製工場が入居しており、犠牲者の多くは工場労働者であった。バングラデシュは世界第2位の衣類輸出国であり、輸出品の約8割を衣類が占めている。遠い国の出来事のように思いがちだが、衣類の多くは、日本を含む先進国で消費されていることから、私たち先進国の消費者にも責任があるといえる。
ラナ・プラザ事故を受け、アパレル企業や労働組合が「Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh」に署名した。本協定は建物の安全性向上や事故防止を目的に設立された。2021年には、労働者の安全と健康の確保も求められるようになった。2023年には新たな協定が発表され、取り組みはパキスタンへと拡張されている。これらの協定は、ILO等により成功事例として評価されている一方で、実際の工場における労働環境がどの程度改善されているのかを検証したいと思い、現地の繊維工場に訪問した。

(2)渡航後の学び
バングラデシュでは丸久株式会社という日本企業の繊維工場を訪問する機会をいただいた。ラナ・プラザ事故を契機に、同社でも労働環境の見直しが行われ、現在ではJETROの人権デューデリジェンス調査においてもグッドプラクティスとして紹介されている。
同社では、交通費および昼食代を支給しており、これらを除いても、周辺の工場と比較して賃金水準は高く設定されている。工場見学では、塗料を使用する作業ではサージカルマスクを着用していたり、暑さ対策としてカーテンによる温度調整や、防虫対策としてのLED照明の使用など、日本企業ならではの細やかな安全配慮を見ることができた。同社では、卸先からの要請もあり徹底した法令遵守や監査体制の構築を整備している。一方で、労働者の権利保障は個々の企業努力だけでは限界があり、取引先や消費者の意識変容に加え、法整備による外部からの圧力が不可欠であると感じた。

今回の訪問を通じて、労働者の方々から直接話を聞けなかったことは心残りだったものの、ラナ・プラザ事故以降、労働環境が大きく改善していることを知った。しかし、私たちの渡航直後である2025年10月に、ダッカにある縫製工場で火災が発生し従業員が死亡するなど、依然として安全基準が守られていない工場も存在する。バングラデシュのインフレ率は2022年以降8-10%と高い水準にあることから、企業には継続的な賃上げとさらなる労働環境改善が求められる。その実現のためには、国際社会が関心を持ち続け、監視と支援を継続していくことが極めて重要であると感じた。
子供の人権
(1)渡航前の学びおよび仮説
バングラデシュでは、5歳から17歳までの子どものうち9.2%が児童労働に従事しており、2019年の6.8%から増加している。これは国際的にも高い水準であり、バングラデシュにおいて子どもの権利保護における喫緊の課題となっている。渡航前は、児童労働がなくならない背景として、イスラム教を含む宗教的・文化的価値観や、それらが世代間で再生産される構造が大きく影響しているのではないかと考えていた。そのため、解決策としては、教育へのアクセス保障や、親世代に対する中長期的な啓発活動が有効であるという仮説を立てた。
(2)渡航後の学び
児童労働がなくならない理由として現地で新たに発見したことの一つは、児童労働と犯罪組織とのつながりである。Save the Childrenのコックスバザール拠点では、Photo Voiceという手法を用いて、児童労働や児童婚に巻き込まれている子どもたちの現状を発信していた。ある写真について、「彼にアプローチはしたが、今もギャングの中にいる」と説明を受けたことが強く印象に残り、問題の根深さを実感した。
同じく子ども分野で活動する国際NGOであるPlan Internationalも訪問したが、両団体に共通していたのは、子どもや若者自身のエンパワメントに力を入れている点であった。Plan Internationalでは、22年間にわたり若者によるアドボカシー活動を推進している。ある地域では、若者の主体的な参画によって児童婚が最大70%減少するという顕著な成果も生まれているそうだ。また、Save the Childrenでは、実際に「チェンジメーカー」として活動する青年たちから話を聞く機会があり、彼らが活動を通じて自信を持って発信できるようになった過程を知ることができた。これらの事例から、子どもの人権に関わる課題においては、当事者である子ども自身をエンパワーすることが、活動を持続・発展させる上で有効であると感じた。


さらに、ロヒンギャ難民の子どもたちに関する示唆も得られた。難民キャンプでは、UNICEFが運営するラーニングセンターを通じて、小中学生の難民の子どもたちに教育が提供されている。しかし、小学校高学年になると児童労働や通学路での誘拐などのリスクがあるため、通学のハードルが高いという課題も共有された。一方で、教室内で子どもたちと直接話すことができ、「勉強が好き」「将来は医者になりたい」といった声を直接聞くこともできた。
児童労働の背景には犯罪組織や安全上のリスクといった根深い構造的課題があるものの、子どもたちの主体性を信じ子どもたちが自らの権利を認識し守れるようになるためのエンパワメントを支援の中核に据えていくことの重要性を強く実感した。
女性の人権
(1)渡航前の学びおよび仮説
バングラデシュにおけるジェンダー、特に女性の人権に関する課題は複合的な要因によって規定されている。例えば、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数を見れば、2023年、政治分野が世界7位に位置する一方で、教育分野では122位、健康分野では126位、経済分野では139位であり、社会的な男女の不平等が存在している。さらに、女性に対する差別や性暴力も深刻である。例えば、ロヒンギャ難民キャンプ内では、ジェンダーに基づく暴力(GBV)の70~80%が近親者によるものであるという報告があり、他地域においても、財産権の保障が脆弱であるために、家庭内での女性の立場が弱く、家庭内暴力を引き起こしていることや、強姦に対する有罪判決率が 3%未満であるという報告もある。
このように、バングラデシュの女性の人権は政治分野での著しい進展に対して、社会経済分野での脆弱性という二律背反的な様相が見て取れる。渡航前には「古典的な『ジェンダー観念』と宗教など社会・文化的要因が複雑に影響しているのではないか」という仮説を立てた。
(2)渡航後の学び
現地渡航では、女性に対する権利の複雑さを感じるものとなった。リプロダクティブ・ヘルス/ライツを担当するUNFPAは女性に対する暴力のサーベイ調査を2025年に発表した。女性に対する暴力には、多様な取り組みが行われており、例えば、学校費用や主食配布などを通して、学校からのドロップアウトを防ぐことや、親へのアドボカシー活動を行い行動変容を促すなどである。他方、宗教指導者へのアプローチは芳しくないとのことであった。他の工夫としては、ジェンダーや人権という言葉は警戒心を生むため、健康(health)の課題としてフレーミングを行うことなども指摘されていた。また、難民キャンプで訪問したUNFPAのプロジェクトでは、ユースの男性がリーダーシップの涵養やアンガーマネジメント等を学んでおり、女性への暴力を低下させる間接的な効果もあるように思われた。
さらに、グラミン銀行の責任者には女性が多く、女性へのマイクロクレジットを基礎とした組織の特徴がうかがえるとともに、ユーグレナなどと協力して、学校に栄養食品を配布して女性も含めて学校に「行く」ことを促進していた。バングラデシュ最大のNGOであるBRACのプラスチック工場では、安全対策を行ったうえで女性も多く働いており、近くに託児所を設けるなど、女性が働きやすい環境を整えていた。他方、JICAのカイゼン事業は、工場のトレーナー候補が全て男性であり、事業開始間もないとはいえ、女性も働いている中でやや気になる部分があった。

全体を通して感じたのは、女性を守るための「学校」の重要性である。UNFPAでも「学校からドロップアウトしないのが最大の(児童婚の)予防策」であると示され、難民キャンプ内のUNICEFの事業でも、思春期に入る女性(と男性)が学校に来ることを促すことで、強制結婚や徴兵などを防ぐことが指摘されていた。緊急支援において、教育はやや後回しにされがちであるが、このような「安全」を保障する場所としての学校という側面は新鮮に感じたところであった。
参考文献
労働者
- https://cbsd.ilo.org/cbsd_initiatives/international-accord-for-health-and-safety-in-the-textile-and-garment-industry-formerly-known-as-the-accord-on-fire-and-building-safety-in-bangladesh
- https://cleanclothes.org/fashions-problems/issues-old/faq-safety-accord
- https://bgmea.com.bd/page/Export_Performance
- https://www.wto.org/english/res_e/statis_e/world_trade_statistics_e.htm
- https://jp.tradingeconomics.com/bangladesh/inflation-cpi
- https://www.bbc.com/news/articles/crexjqpw557o
- https://internationalaccord.org/about-us/
子ども
女性
- https://www.thedailystar.net/business/news/womens-participation-labour-force-falling-3985961
- https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2023.pdf
- https://www.plan-international.jp/girlslab/causes-bangladesh_problems/
- https://www.moj.go.jp/isa/content/001368707.pdf
- https://bangladesh.unfpa.org/en/2024-violence-against-women-survey


