バングラデシュ・スタディ・プログラム - 報告書:分野別③

分野ごとの学び③:産業振興

概要

バングラデシュは1971年の独立以降、右肩上がりの経済成長を続けている。特に、2010年以降の経済成長率はほぼ毎年6%を超える高水準で推移しており、堅調な経済成長が続いている(日本のGDP成長率は1%(財務省, 2025))。この著しい経済成長を支えている主要産業が縫製業である。縫製業はバングラデシュの輸出額の8割以上を占め、外貨獲得の中核を担っている。さらに、欧州市場に対して世界2位のシェアを誇り、若者や女性に対して多くの雇用機会を創出している。一方で、縫製業への過度な依存が産業の高度化・多角化を阻害しており、縫製業のみならずその他産業においても、劣悪な労働環境と高度人材の不足が課題として残っている。

さらに、バングラデシュは、2026年11月にLDC(後発開発途上国)を卒業する見込みである。順調に見える経済成長の傍ら、現地では国内格差の実態や、優遇制度の終了による打撃が危惧されるほど不安定な産業形態が見えてきた。目前に迫るLDC卒業であるが、経済的不利益は免れないのだろうか。

機関紹介

渡航を通じた学びと産業発展に関する考察

(1)第二産業の比較ーバングラデシュ視点と日本視点ー

バングラデシュ南東部に位置するチッタゴンにて、JICA主導のKAIZENプロジェクトが行われているプラスチック工場を訪問した。現地企業の工場であり、作業着・マスクの無着用、床での作業、非効率な役割分担等、労働環境が日本とはかなり異なる。工場内の男女比にそれほど偏りはなかったが、事務部門や会議での男性比率の高さは顕著だった。産業省からは育成者のうち3割まで女性比率を上げるよう要請があるが、実現には遠そうだ。KAIZENの最終的な目標は企業との連携、また、日本人専門員がいなくとも自力で改善ができる人材の育成である。日本人専門員の現場監査や会議でのフィードバックが現地職員から現地従業員へ継がれることで育成の連鎖が起こるプロジェクトであるいう印象を受けた。

プラスチック容器の印刷ミス

アパレルメーカーである丸久の工場を訪問した。工場では、生地の製造から縫製までを一貫して担っている。現場では、基本従業員は作業着・マスクを着用しており、作業工程によって異なる室温や空調の設定など、日本に近い労働環境である。オフィスワーカーは全員男性であった。昇格制度は無く、意見箱が機能していないなど、従業員に言及する際の表現が気になった。疑問が多く残る訪問であったが、民間企業への訪問を通してNGOや国連機関の訪問と比較ができた。

工場内の様子

JETRO(日本貿易振興機構)では、産業の多角化についてブリーフィングを受けた。LDC卒業後は、特別特恵関税やその他各種の優遇措置の適用が受けられなくなる。これまで、そして今後の継続的な経済成長を見込んでの評価であるが、国内の実態を考えると、今回の節目は現状の格差を助長しかねない。現に、昨年8月には主要な経済団体が暫定政権に対しLDC卒業の延期を要請している。日本はLDC卒業後も両国の輸出品目に関税はかけない見込みだ。低賃金打破のため法制定がなされたが、長期的にはコスト面での魅力が減少し、外国企業の撤退による雇用喪失、そして国内の失業率上昇の可能性を抱える。オフィスワーカーのジェンダー不平等も改善が必要だ。現在産業の8割を繊維が占めている。先端技術産業は技術者不足と就職難という点で発展の兆しは乏しいが、半導体や自動車部品の組み立ては今後発展がありそうだ。現地のプラスチック工場や丸久工場への訪問を通して垣間見えたのは、効率性・安全管理等の価値観の違いである。さらに外国企業にとっての廉価な労働力という市場価値や、高度人材の不足などは、バングラデシュの経済成長が繊維産業に大きく依存している現状を表している。一方で、日本政府のODA支援や日本企業のバングラ市場拡大への動きは、外交的重要性や今後も発展余地のある経済への期待感の表れである。日本とバングラデシュの今後の連携に期待したい。  

(2)産業の高度化を目指してーJICAー

JICA専門家チームによる、バングラデシュの産業競争力を強化するためのプロジェクトサイトを訪問した。訪問前は、縫製業により一層注力して国の発展を図っていくのではないかと考えていた。しかし専門家チームとの議論から、縫製業依存を脱却し、産業の多角化を目指していることを知ることができた。現状として、中国やパキスタンから原料を輸入し、バングラデシュで製造・加工し、先進国などへ輸出するというサプライチェーンの中間を担っている。その理由として、人口規模が大きく、大量の労働力を縫製業に投入することができているからだと考えられる。しかし、今後バングラデシュの労働賃金が上がっていけば必然的により安い労働力を得られる国へ、縫製業の主体が移っていくことになる。そうした状況に対処するために、ライトエンジニアリング産業やプラスチック産業などの発展に向けて人材育成や設備投資が進められている様子を実感することができた。特に、JICAが支援している金型工場では、図面引きに関心がある有志の若者に対して、定期的に図面の引き方をレクチャーする講座を開講し、高度技術を備えた人材の育成に注力していた。

JICA専門家による図面作成の講義の様子

訪問前は、バングラデシュの産業について、安価な賃金水準、未整備の労働環境の下で多くの人が労働に従事していることが、国の産業発展を阻む要因だと考えていた。しかし、訪問を通して、外国直接投資の低迷、さらにはその背景にある、インフラの未整備、非効率な湾岸物流が産業発展を阻む要因であると学ぶことができた。現在、チッタゴン港が国内コンテナ貨物の約98%、一般貨物の約89%を担っているものの、港は飽和状態を迎えており、多くの船が近くで停泊して順番待ちをしている状態が広がっていた。

停泊する船が並ぶチッタゴン港

こうした状況を打破するために、バングラデシュ唯一の深海港建設に適したマタバリ地区の開発が進められている。また、渡航中に感じた大きな課題は、地方においてインフラ全般が未発達であるということだ。道路が舗装されていない上に、雨期にはぬかるんでしまい、トラックや車、リキシャが思うように通行できない状況が散見された。そのため、産業の発展を進めていくには、同時にインフラも拡充させていくことが必要であることを強く感じた。現在、マタバリ港においては、港の建設とともにアクセス道路の整備も進められており、新たな物流拠点として機能することが期待される。

雨でぬかるむ道

(3)産業の多角化に向けた動きーJICA BSEZー

バングラデシュでは繊維産業は盛んである一方、繊維以外の国内産業の育成、多様化が急務である。渡航前は仮説として他産業を育成する素地が整っていないのではないかと考えていたが、現地渡航を通じいくつかの点が明らかになった。

新たな産業の育成を見据えバングラデシュとしてさらなる企業誘致、産業の多角化をすべく素地を整えようと動いていることがJICAが支援している BSEZを訪問を通じて明らかになった。バングラデシュでは政府と民間が連携して工業化を促進すべく、設備の整った工業団地の提供、工業団地における税制優遇措置などを進めている。BSEZ訪問においても、道路、水、電気など、企業が事業を進めやすい環境が整っていると感じた。BSEZのような工業団地をさらに広げることはバングラデシュにおける国内産業の多角化に大きく貢献するであろう。また産業誘致は産業の多角化を通じた国としての成長にとどまらず、雇用創出などのメリットもある。1億7000万人の人口を抱える中で、雇用創出はバングラデシュとしても喫緊の課題であり、今後も継続して取組が必要な領域である。

経済成長観点では大規模産業向けアプローチおよびそれを通じた雇用創出に加え、「誰も取り残さない」という観点から小規模事業、特に個人起業家への支援も重要であることに気づいた。グラミントラストでは起業家支援として個人に対して資金提供を実施している。渡航中にはグラミントラストの現場を訪問し、現場では家具、干物売買、携帯販売など複数の商店を訪問。グラミントラストの支援は個人単位での生活向上をサポートしており、大規模産業開発の恩恵を受けづらい人々に利益をもたらしており、長期スパンとなる政府民間連携の大規模アプローチに民間主導の草の根アプローチを組み合わせることでバランスのとれた産業育成ができるという点は新たな気づきになった。

(4)自立的発展を促す取り組みーUNIDO/UNIDO工場、グラミン銀行ー

国際連合工業開発機関(UNIDO)は、開発途上国における包摂的かつ持続可能な産業発展を目的とする国連専門機関であり、バングラデシュでは1980年代以降、長期的に産業支援を展開してきた。近年のUNIDOの活動は、単なる工業化の推進にとどまらず、気候変動対策、循環経済、資源効率向上といった地球規模課題への対応を産業政策の中核に据えている点に特徴がある。UNIDOのプロジェクトは、プラスチック汚染対策、繊維産業における脱炭素化、エコ・インダストリアル・パーク形成など多岐にわたる。これらに共通するのは、「UNIDO工場」と象徴的に表現される支援モデルであり、生産設備の整備に加え、再生可能エネルギー導入、省エネルギー技術、資源効率的かつクリーンな生産(RECP)を同時に実装する点にある。特に繊維分野では、水使用量・エネルギー消費・温室効果ガス排出の削減を図る技術実証が進められ、国際的ブランドと連携したサプライチェーン全体の構造転換が試みられている。

UNIDOが実際に支援するH&Mの繊維工場にも見学させていただきバングラデシュの人々が実際に労働している姿を確認する事ができた。アイロン等複雑な機械を使用する仕事は男性中心であったが(画像左)、ミシンの作業など女性が活躍している姿も多く見られた(画像右)。バングラデシュの主要産業である繊維産業において劣悪な労働環境が問題になっていたがUNIDOの支援もあってか、物理的環境や労働時間含め適切に管理されている様子も伺う事ができた。また、排水処理や再生可能エネルギーの設置など、工場全体として持続可能かつ環境や人に配慮した取り組みを行っており、UNIDOの包括的支援を確認することができた。

アイロンで作業をする男性の様子
ミシンを使って作業をする女性の様子

グラミン銀行は、金融アクセスの欠如が貧困を固定化するとの問題意識に基づき、無担保・少額融資を通じて小規模起業家を支援する金融機関である。現地ヒアリングによれば、融資先の多くは農業、畜産、漁業、零細商業といった実体経済に根差した事業であり、借り手の大半を女性が占めている。融資は単なる資金供給にとどまらず、起業家教育や継続的なフォローアップを通じて、生計向上と地域経済の安定に寄与している。

UNIDOとグラミン銀行は、産業開発と金融包摂という異なるアプローチを採りながらも、人々の自立的発展を促す点で共通している。UNIDOが中長期的な産業構造の高度化と雇用創出を担う一方、グラミン銀行は草の根レベルでの経済活動を支えており、両者は開発政策において相互補完的な役割を果たしていると評価できる。

(5)持続可能な皮革産業

ムスリムが国民の大多数を占めるバングラデシュにおいて、宗教上、ウシは重要な役割を果たしており、特に犠牲祭の日には多くのウシが捧げられる。そうした文脈において、以前は捨てられてた皮革に価値を見出し、皮革産業をより持続可能な産業として発展させようと事業に取り組む、若手起業家Wild Wovenのもとを訪問した。そこでは、実際に製品を手に取って質感を感じ取ることができ、上質で滑らかな良い革製品がたくさんあった。また、若手起業家たちと会話の中で、ブランド価値を高めるために、ターゲッティングをどうするか、他のブランドとの差別化をどこで図るかなどが熱心に議論されており、自身の製品の品質を信頼し、その価値を搾取されることなく、生産者にきちんと還元される形で世界に広げていきたいという熱意を感じ取ることができた。

Wild Wovenの製品①
Wild Wovenの製品②

引用文献