バングラデシュ・スタディ・プログラム - 報告書:分野別④
分野ごとの学び④:難民キャンプ
概要
2017年のミャンマー・ラカイン州の激しい武力弾圧を背景に、多くの難民たちがなだれ込んだ、バングラデシュ・コックスバザールの難民キャンプ。
国内情勢の悪化によりロヒンギャ難民の数は再び増加傾向にある(UNHCR, n.d.)。現在、2025年3月の時点で、33のキャンプで構成されるこの場所には100万人以上の人たちが暮らしていて、半数以上は子どもである(朝日新聞,2025)。
ミャンマーへの帰還の目途が立っていない一方で、バングラデシュ政府は彼らの帰還を前提とする見解を示しており、「生かさず殺さず」の政策の下、国内でのロヒンギャ難民の就業・就学は禁止されている。そんな中、先が見えない状況に立たされたロヒンギャ難民たちのインドネシア等を目指す危険な航海が急増していて、多くの犠牲者がでている(UNHCR, n.d.)。
国連機関やNGOはこの状況下で、彼らの基本的なニーズを満たすべく尽力しているが、トランプの外交政策の影響もあり、厳しい状況におかれているのが現実である。
BSPでは今回、UNHCR、UNICEF、WFP、UN Women、UNFPA、IOMを訪問した。
訪問機関紹介


現地で得た学び
メンタルヘルス
ロヒンギャ難民は就労やキャンプ外への移動の自由が認められておらず、生まれてから一度もキャンプの外へ出たことのない子どもたちも存在する。また、ミャンマーでの紛争の激化にともない先行きが見えないことや、キャンプ内の治安の悪化から、精神的健康を損ない、メンタルヘルスの不調を抱え自殺する難民も少なくない。
バングラデシュは、難民条約に批准していない。現在の同国の政策では、ミャンマーへ帰還することを前提に一時避難先として難民を受け入れており、ホストコミュニティとの統合は目指されていない。法的基盤がなく帰還の目途が立たない中、ロヒンギャ難民はどのように生活しているのか、私たちはロヒンギャ危機の解決のあり方をどのように考えればよいのか、という問いを持って渡航した。
難民キャンプへの訪問では、国際機関を中心とする支援機関が食料や教育といった生きるために必要なサービスの提供だけでなく、生計向上支援などを通じた難民のエンパワメントの向上を目指す活動を数多く実施していることが分かった。特に、UNFPAでは青少年向けに心理社会的支援を行っており、カウンセリングの提供や縫製を通じた生計向上支援、”Chanpion of Change”と呼ばれる青少年リーダーの育成などを行っていた。青少年リーダーは、地域住民への啓発活動の実施だけでなく、メンタルヘルスに不調を抱える人々がいないか定期的に地域をモニタリングする役割も担っていた。同活動に携わる青少年への聞き取りでは、これまで不安を感じて怒りの感情を適切にコントロールできなかったが、活動を通じて自身の感情と上手に向き合うことができたことや、新規流入した難民への活動支援に携わり、地域住民からポジティブな反応がもらえたことなど、活動の成果を目を輝かせて語る姿が印象的であった。地域の青少年リーダーとして今後の活動の展望も語っており、青少年が中長期的な視点を有し、地域社会に主体的に参加する光景に心を打たれた。
移動や就業の自由が制限されるロヒンギャ難民は、国際社会からの支援がなければ生きてはいけない。現時点ではロヒンギャ危機の早急な解決は叶わない。一方で、このような状況下でも、日常の不安やストレスに自ら対処し、長期化した避難生活を希望をもって営む力も養われていることも事実である。支援機関は、生活基盤を支えるサービスの提供だけでなく、地域社会での自身の役割を理解し能力が発揮できるよう、難民への社会・精神的自立支援も取り組むべき活動であると確認できた。今後どのように難民問題が解決されようとも、これらの活動を通じて難民が自身の可能性を認識し、自身の力で物事を選択し生きることこそが重要なのであると身をもって体感した。
女性の権利保護
国際機関は閉鎖された空間の中、社会的・経済的に弱い立場に置かれているロヒンギャ難民の女性たちの権利保護に対して、どのような役割をもっているのだろうか。
筆者自身は、前者の国際機関については女性たちのベーシック・ニーズを支える役割をもっている一方で、「女性の権利」に対する概念が西欧諸国とは異なるロヒンギャ難民たちに対するアプローチが困難とされているのではないかと考えていた。
実際に難民キャンプへの渡航を通して、女性の権利保護のために以下の取り組みが行われていることがわかった。
キャンプ内でラーニングセンターを運営するUNICEFでは女の子たちが教育を受ける権利を守るべく、彼女らの通学に付き添うボランティアを採用している。一方でこのセンターの運営は、トランプ政権の対外援助の削減によって先生の給料を払えなくなるなど大きな打撃を受けている。
UN Womenではロヒンギャ女性・少女のための多目的女性センターを開設し、「基本的な健康相談やGBV(ジェンダーに根差す暴力)の相談窓口の紹介、女性の健康支援サービスを提供している。」(国連ウィメン日本協会,2019)女性たちの性と生殖の権利を守るUNFPAが開設する施設でも女性の健康相談が行われていたほか、女性たちがシャワーを浴びたり、シーリングファンのある部屋で共にお話をしたり、女性の権利について学んだりすることのできるスペースが用意されている。閉鎖的な住居に対して、ここでは女性たちは、精神的・身体的にリラックスできるのである。
渡航を通して、支援の実施内容の周知や、通学補助にボランティアを採用するなど、ロヒンギャ難民の女性たちに寄り添った視点でサポートの手法が模索されていることが分かった。一方、UNFPAを訪問した際の聞き取りで、夫がセンターに通うことを許さないことから、サポートを受け続けることができなくなった女性が一定数いると話されていたように、最もサポートを必要としている女性たちには届かない可能性があることも事実である。以上のことから、国連機関がコミュニティの人たちと共に、包括的なサポートを模索していくことが必要であると感じた。
生活基盤
難民登録
バングラデシュ・コックスバザールにおいて、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、ロヒンギャ難民の登録を通じて保護と支援の基盤を整備している。登録では家族構成や出身地、脆弱性情報を確認し、生体認証を用いた個別登録を行うことで、正確な人口把握と公平な支援配分を可能にしている。この登録情報は、食料、保健医療、教育、シェルターなど各種サービスへアクセスするための重要な基礎データとなり、特に女性や子ども、高齢者、障害者など保護ニーズの高い人々を特定し、専門支援へつなぐ役割も果たしている。
一方、現地での視察を通じて、難民の流入が継続する中で登録業務の重要性が一層高まっていることを実感した。個々の状況やニーズを正確に反映した支援を行うためには丁寧な登録が不可欠であるが、通信環境や施設などのインフラが十分でないこと、登録対象者一人ひとりを確認するために時間を要することが大きな制約となっている。その結果、登録作業が支援提供のスピードに影響し、必要な支援が一部の難民に行き届くまでに遅れや不足が生じ得るという課題も見られた。こうした状況から、登録の質と迅速性を両立させる体制強化が、今後の人道対応における重要な鍵であると考えられる。
食料
難民キャンプ内での食料支援は、難民の生活基盤をどのように支えているのか、という問いを持って渡航した。
ロヒンギャ難民への食料支援は主にWFPが担い、約90万人に月額10ドル前後の電子バウチャーを配布し、キャンプ内の店舗で米・豆・油など11品目を購入できる仕組みとなっている。現地では、WFPスタッフが市場を管理する店舗で、鶏・魚や卵、野菜(かぼちゃ・バナナ)が並び、冷蔵設備不足から鶏や魚などは生きたまま販売されていた。
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しかし、USAIDを含むドナーの支援削減により、バウチャー額が一部減少し、WFPは配給縮小を余儀なくされている。 就労が制限される難民にとって、この食料支援は生活基盤の中核であり、量・質の低下は栄養失調の悪化や将来不安を増大させている。
食料支援は、経済的自立が封じられた難民にとっては、生命を維持するための生活基盤そのものであると言える。持続的な資金確保とインフラ整備がなければ、この基盤はさらに脆弱化し、長期的な難民支援の持続可能性が問われるだろう。
住居支援
難民キャンプ内での住環境はどのような状態であるのか、さらには土地的脆弱性がどのように住まいに影響を与えているのか、という問いを持って渡航した。

難民キャンプ内での住まいに関する支援はIOMが主に行っている。IOMは難民の方の居住支援を行うだけでなく、ロヒンギャの伝統的文化を守り、継承していく場所として「Rohingya Cultural Memory Center」を設置している。
センターでは民族楽器や伝統的構法で作られた竹の住宅の模型を見学することができる。キャンプ内で生まれた子供にとってロヒンギャ独自の文化は身近な存在ではない。このセンターはそういった子供たちに文化を伝えていく場所として重要な役割を担っている。

住宅についてはIOMから材料が供給されている。山岳地帯に位置する難民キャンプでは雨季になると地盤がさらに緩くなり、土砂崩れが発生することもある。そのたびに家が流されてしまう危険を常に抱えている。
難民の方のお宅を実際に訪問し話を聞かせていただくと、「今の家で変えたい場所は竹の柱を丈夫にしたい」「今の状況に大きな不満があるわけではない。住宅の丈夫さよりも泥棒などのソフト面の心配が大きい。」という声を聞くことができた。

実際に難民にとってこの場所が最終的なゴールではなく、祖国ないしは第三国への帰還や移住を希望している人が多い。そのような状況の中で十二分な住環境を完璧に提供することは、この場所に長期的に滞在することを予兆させてしまう。
参考文献
- 松山晶. 唐語思 (2025年3月17日).ロヒンギャ難民キャンプで問う「教育の意味」日本の教員が訪問https://www.asahi.com/withplanet/article/15667873?msockid=3ce8ec7533a2661d35bcfd0f32156763(2026年2月1日閲覧)
- 国連UNHCR協会.(n.d.).活動地域 バングラデシュ(ロヒンギャ)https://www.japanforunhcr.org/activity-areas/rohingya(2026年2月1日閲覧)
- 認定NPO法人国連ウィメン日本協会.(2019年3月3日).「ロヒンギャ難民女性支援』実施報告https://www.unwomen-nc.jp/%e3%80%8c%e3%83%ad%e3%83%92%e3%83%b3%e3%82%ae%e3%83%a3%e9%9b%a3%e6%b0%91%e5%a5%b3%e6%80%a7%e6%94%af%e6%8f%b4%e3%80%8d%e5%ae%9f%e6%96%bd%e5%a0%b1%e5%91%8a/(2026年1月31日閲覧)


